ep3 オールウェイズ休日
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「ふっ、今日は休日だ」
主人公は呟いた。
「そして、明日も休日だ」
頷く。
「来年まで休日だ!」
両手を広げる。
「びば!休日!」
感極まる。
「オールウェイズ・休日!」
歓喜。
「俺は……やるぞ!!」
拳を握る。
「満喫するんだ!!休日を!!」
なお。
仕事はしていない。
冒険者でもない。
商人でもない。
騎士でもない。
無職である。
「完璧だ……」
主人公は椅子に座った。
机の上にはパン。
水。
以上。
「今日は何もしない」
宣言。
「誰とも会わない」
重要。
「誰とも話さない」
最重要。
「最高だ……」
休日が始まった。
◇
一時間後。
コンコン。
主人公硬直。
心拍数上昇。
侵入者だ。
敵襲。
なぜ?
どうして?
休日なのに?
コンコン。
「いるんだろう!」
勇者だった。
帰れ。
主人公は気配を消した。
石になる。
壁になる。
自然の一部になる。
「いないか……」
勇者が去る。
勝った。
主人公ガッツポーズ。
「ふっ」
完璧な休日である。
◇
三十分後。
ドンドンドン!!
扉が揺れた。
誰だ。
剣聖だった。
「いるな」
なぜ分かる。
「気配がある」
怖い。
主人公。
ベッドの下へ。
「出てこい!」
無理。
「お前しかできん依頼がある!」
無理。
「頼む!」
無理。
三十分後。
剣聖帰宅。
勝った。
主人公は今日二勝していた。
◇
そして夜。
「平和だったな……」
満足げに呟く。
その時。
窓の外から声。
「見つけましたよ」
賢者屋根の上。
主人公絶句。
「転移魔法で全部の家を確認しました」
やめろ。
国家予算をそんなことに使うな。
「世界の危機です」
知らん。
「邪神復活です」
知らん。
「大陸滅亡です」
知らん。
「お願いします」
知らん。
主人公は布団を被った。
「帰れ」
「嫌です」
「帰れ」
「嫌です」
「休日だ」
「昨日も休日でした」
「明日も休日だ」
「一昨年からずっとですね」
ぐうの音も出なかった。
◇
翌朝ギルド。
勇者。
剣聖。
賢者。
聖女。
王国騎士団。
総勢百名。
主人公包囲網。
「今日こそ確保する」
「逃がすな」
「世界の命運がかかっている」
全員本気。
そして。
主人公。
「あ」
消えた。
「どこだ!?」
「見失った!」
「馬鹿な!」
「転移か!?」
違う。
普通に歩いて帰っただけである。
主人公は誰よりも強かった。
世界最強だった。
魔王を倒した。
邪神を倒した。
伝説の竜を倒した。
神すら倒した。
しかし。
働きたくない。
その気持ちだけは。
何者にも勝てなかった。
◇
「うーん、さすがに疲れたな」
主人公は伸びをした。
今日は休日。
明日も休日。
来週も休日。
来年も休日。
人生ほぼ休日。
素晴らしい。
「休日疲れだな」
休日で疲れる。
意味はわからない。
本人にもわからない。
「こんな時は散歩でもするか」
立ち上がる。
そして。
消えた。
瞬間移動ではない。
ただ歩いただけである。
速すぎて誰も見えないだけだ。
数秒後。
大陸中央山脈。
人類未踏破区域。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
深呼吸。
「大自然!!」
「なんて気持ちがいいんだ!!」
「誰もいない!!」
「最高だぁぁぁぁぁ!!」
なお。
古龍がいる。
災厄級魔獣がいる。
神獣がいる。
一般人が来たら即死エリアである。
主人公は気付かない。
「空気うめー!!」
満面の笑み。
その頃。
山脈の奥にて修行中の僧がいた。
「ふむ」
「本日の鍛錬はここまでか」
達人である。
山籠もり十年。
竜を倒し。
鬼を倒し。
ついには気配すら読む境地へ至った。
そんな彼の顔色が変わる。
「……なんだ?」
魔物達が動き始めた。
ワイバーン。
オーガ。
キマイラ。
マンティコア。
次々と集まってくる。
「馬鹿な」
僧は息を飲んだ。
「スタンピードか!?」
違う。
ただ主人公が来ただけである。
魔物達は本能で理解していた。
やべぇやつが来た。
だが。
逃げるではなく。
なぜか集まる。
強者に引き寄せられているのだ。
主人公は気付かない。
「こんな時はあれだな!」
腕を回す。
「ラジオ体操!!」
僧。
「は?」
主人公。
「そい!!!」
一回目。
腕を振る。
その瞬間。
数百メートル先のキマイラ。
両断。
「ぎゃああああ!!」
二回目。
肩を回す。
風圧。
ワイバーン消滅。
三回目。
身体をひねる。
オーガ軍団圧縮。
ぺちゃんこ。
僧。
硬直。
「な……」
「な……」
「なんなんだあいつは!?」
しかし。
森は無傷。
草も無傷。
花も無傷。
蝶も飛んでいる。
超繊細。
魔物だけ死ぬ。
意味がわからない。
主人公は続ける。
「いっち!」
古龍絶命。
「に!」
魔獣消滅。
「さん!」
地平線の彼方で邪神の眷属蒸発。
本人は知らない。
気持ち良く体操しているだけだ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「きもてぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
全力で叫ぶ。
山が震える。
雲が割れる。
しかし。
花は揺れない。
職人技である。
修行僧は震えていた。
「ば、馬鹿な……」
「この距離で魔物だけを……」
「いや違う」
「そもそも見えていない」
「戦いですらない」
そこが恐ろしい。
彼は敵を見ていない。
ただ。
体操しているだけだ。
恐怖だった。
◇
「いくらでもわいてくる!!」
主人公は叫んだ。
山脈中に響き渡る。
「何なんだこいつらは!!」
魔物。
魔物。
魔物。
魔物。
災厄級。
伝説級。
神話級。
普通なら一匹で国が滅ぶ。
しかし主人公から見れば。
「休日の邪魔をする虫」
程度。
「ふぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
ラジオ体操第二。
腕をぶん回す。
魔物消滅。
古龍蒸発。
邪神眷属粉砕。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁ!!」
全部吹き飛ぶ。
修行僧。
震える。
「こ、これが……」
「神の業……」
違う。
休日でテンションが上がってるだけである。
◇
三十分後。
魔物全滅。
主人公満足。
「ふぅ」
汗を拭く。
「良い運動だった」
良くない。
世界から見たら天変地異である。
しかし主人公は帰宅した。
そして。
冷蔵庫を開ける。
「おっ」
目が輝く。
そこには。
コーラ。
異世界転移後。
数年かけて開発した。
前世の知識を総動員して作った。
唯一の執着。
「へへ」
注ぐ。
シュワァァァァァァァ
黄金の泡。
立ち上る炭酸。
主人公は震えた。
「これだ……」
感動。
「人類の英知……」
魔王討伐より感動している。
ぐびっ。
「!!!」
その瞬間。
主人公の目が見開かれた。
「コーラぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
机を叩く。
「うんめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
感極まる。
「これだよ!」
「これなんだよ!!」
「休日ってのは!!」
魔王討伐より幸せそう。
王になるより幸せそう。
勇者一行が聞いたら泣く。
「神酒ですら敵わねぇ……」
ごくごく。
「最高だぁぁぁぁぁ!!」
◇
その頃。
勇者。
剣聖。
賢者。
聖女。
修行僧。
会議中。
「伝説の存在が確認された」
真剣。
「山脈の魔物が一夜で消えた」
深刻。
「邪神眷属も壊滅」
重苦しい空気。
「世界の均衡が崩れるかもしれん」
全員青ざめる。
そして修行僧が呟く。
「彼は笑っていた」
「なに?」
「魔物を滅ぼしながら」
「……」
「笑っていた」
沈黙。
勇者だけが頭を抱える。
「それはたぶん……」
「たぶん?」
「休日だったんだと思う」
全員。
「……?」
理解できなかった。
当然である。
◇
その頃主人公。
二本目のコーラを開けながら。
「明日も休日なんだよなぁ」
にやにや。
世界最強の男が考えていることは。
大陸の平和でも。
邪神の脅威でも。
勇者パーティーでもない。
**「明日の休日の過ごし方」**
だった。
お読み頂き、ありがとうございます。




