六十九話 看守の依頼
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感謝はは俺の拘束を解いた。と言って片腕の鎖を取り外した後、別の拘束をされたが。
つまり状況にそれほど変わりはない。
手首が鬱血しそうだ。
「私たちってどこに連れて行かれるんです?」
「黙って歩け。おしゃべりしてると、他の者にバレてしまう」
いくつもある鉄格子の奥には囚人がいる。いくつかの部屋は空いているが、珍しいものだ。
足音に敏感なのかそれとも夜に活動する習性なのか。囚人は目を開けている者が多い。引きつったような笑い声が、細やかに響いていた。
看守はそんなのは聞こえないものと認識しているようで、足を止める気配も注意を促す様子もない。
あまり気分の良いものではなかった。早く離れたいというのが、正直な気持ち。
看守の手前、文句を口にする勇気は無かったが。
重厚な木製の扉を開いた先には清潔感があり、テーブルに乗った蝋燭の明かりが優しい。
薄暗い監獄では、決して味わう事の出来ない灯火である。
依然、両の手首を拘束されたままの俺たち。看守は気にする素振りなど微塵も無い。椅子に座ろうと背もたれ持った。
この地面を引っ掻くような音が、苦手だ。
「残念だがお前たちの分の椅子はないのでね。話は立って聞く事になる」
まさかこの看守に囚人を思いやる慈悲の心が存在していたとは。驚いた。
「お前たちはベロー地区領主の屋敷に侵入し、そして盗みを働いた。という認識で合っているか?」
看守はそう言った。
「隣の女はそうだが、俺は騙されたんだ。冒険者ギルドで領主の依頼を受けたんだ。
そしたらその依頼、こいつらが改竄した物だったみたいで。俺は被害者だ。
冒険者ギルドに確認してくれ。俺が依頼を受けたという記録が残っているはずだ」
反論というか、事実を口にした。同じ牢の中で一夜を共にしたとは言え、自分を騙した人間に、同情心はない。この説明で理解してくれると助かるのだが。
経験上、この手の人間は頭が固く疑り深い。
ある意味で適職。
必須技能であるとも言えよう。
「その点の報告は受けている。実際、ベロー地区にある唯一の冒険者ギルドにも確認済みだ」
「なら俺は被害者だと分かるだろ? なあ、俺は騙されたんだよ」
「まず第一、お前の罪を立証するには十分な証拠がある」
あっけらかんと言い切った。この看守は間違いなく、ギルドに確認を取ったと言ったはずだ。それなのに平然と俺には罪があると言い切るのだ。
なんとも腹立たしい。つまりここでの俺は、この女と同じ盗人扱いか。
「なっ……あんたなあ、ギルドに確認を取ったんだろ? なんで俺を信じないんだ」
「ギルドには、領主を依頼主とした物は一件も無かった。受付嬢は、お前の存在は認識していたようだが依頼を受けたなんて事実は確認できなかったと言っていた。
加えて余所者だともな」
「依頼を受けた痕跡が無かっただと? 待て待て、俺は確かに受けたぞ?
そうだ鞄。俺の鞄に依頼書が入っていたはずだ。ギルドからの印が押されているはずだ。偽造なんて、できない代物だぞ」
「所持物を検めていないとでも? 確かに印は疑いようのないものであった。だが、印を盗み出しての自作自演の可能性だってある。現にお前たちは領主の屋敷に侵入し、そして盗みを働いたのだからな」
俺を犯行グループの一員だと思っていやがる。だが今の俺には、看守の考えを覆す決定的な決め手を欠いている。
ギルドの受付嬢も依頼書も信用ならないと言われたら、俺は無実を証明する術のあらゆるを失う。そしてそれをより強固なものにしているの事実。
ユウキという一人の冒険者が領主の家に侵入していたという事実。それは覆す事の出来ない確定的な出来事だ。俺自身、この過去が足を引っ張っていると実感している。
「……まあ落ち着け、初めに言ったが私は提案をしに来たんだ。他でもないお前たちにな」
「その提案ってのは、なんだ」
「ベロー地区に冠蛇の群れが出没した。領民にも作物にも被害が出ている。
一番は、家畜への被害だ。お前たち無法者は知らんかもしれないが、家畜というのは金が掛かる」
「その冠蛇とやらを討伐すればいいのか。それで、成功したら解放か?」
すると看守は初めて俺の目を見据えた。この瞬間、一瞬だが対等になれた。
「約束できないが恩赦は下るそうだ。どの程度かなんて、知らないがな」
「協力しないと言った場合はどうなる? 俺の予想通りならいい結果にはならないはずなんだが」
「極刑に処されるだろう。私はそれに賛成だが、当の領主本人がそれに前向きではなくてな。『機会は与えて然るべき』なのだと」
領主の言葉を話した。看守の記憶の中の領主と、隣の女が想像している領主の姿には大幅な差異が生じているようだ。
言葉を聞いた途端に体をピクリと動かし、訝しむ瞳を向けた。この女が行動を示したのは部屋に入ってから初めてか。
拒否するなんて選択肢はない。もし仮に、俺がそうしたのなら明日には絞首刑だ。俺には俺の、旅の目的がある。
極めて個人的な俺だけの理由が。
達成する前に命を落とすなど、考えたくも無い。迷う暇など、あろうものか。
「その依頼、俺は受ける。だから情報を教えてくれ」
その言葉に看守は不服そうな表情を浮かべる。いくつかの約束事を聞かされると、両の手首は自由になった。




