六十七話 事件解決と祝賀
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「お前らはこれからどうするんだ?」
酒場の一角。店の奥まった席を確保していた。事件に関係した者と解決に尽力した者。俺は両陣に聞いた。
フルブラントらと合流できたのは、かなりの時間、路地を走り回ってからだった。入り組んだあの路地で力尽きたのだと。
セイには無理をさせたようだ。
「私は旅を続けるさ! でなければ、騎士にはなれぬからな!」
「先に断っておくが、俺はお前と共に行動するつもりはない。目指す先が違うからな」
「無論、それは分かっている。ユウキにはユウキの、果たすべき約束があるのだろう?
それを尊重しようぞ、私は!」
酒が入った事もあり、フルブラントの声が一層高くなったか。
正面に座る少女と元騎士は、気まずそうな表情で座っている。自身の行動がどのような結果に繋がったか。それを噛み締めていたのだろう。
「お前らはこの町に居ない方がいいな。早急に出て行った方がいい」
「それでは……被害者の方々に申し訳がありません……」
ウィンデルはそう言って、自身の犯した罪を見つめる。無知は理由にならない。利用されたなど、言い訳にできるはずがない。
それは隣のセイも同様だ。
二人の正義は両者とも、悪意ある誰かの思想だった。あまりにも滑稽で純粋で。だから少女は、罪を見つめ続けなければいけない。
「この町にいても、火炙りにされるだけだろう。それこそ、異端者みたいにな。いや、それより酷い事をされるかもしれない。いいのか? それで」
「…………それが、総意であるのなら。私は、受け入れる他ありません」
覚悟が決まっている。人々はそう評するだろうが、俺からすればそんなのは欺瞞だ。極限で命を手放す人間なんていない。
誰もが皆、自らの細っこい命の手綱を手放さんとし、醜く踠くものだ。
「セイ、お前はいいのか? こんな小さな女の子をみすみす殺して、お前は満足なのか?」
「俺は……いや、俺もまた、罪を犯した者だ。発言の機会など、与えられるべきでもないはずだ」
どこまでも頭が硬い奴らだ。まさか、本当に死のうとしているのか?
だとしたら、俺が認めない。認めてなるものか。自らの死を羨望し、あまつさえそれを他人に委ねるなど。傲慢だ。罪人なら尚更、傲慢である。
「素直に生きたいと、認めてみてはどうだろうか? 私は、君たちには生きていてほしいと思うのだ」
飲み干した木の杯をテーブルに叩き付ける。前にも彼には言ったが、俺はこういった大きな音が苦手だ。
「俺もフルブラントの意見に賛成だ。正直、対岸の火事だからな」
「あなたは……! なぜそのような事を」
「事件解決に奔走したが、そもそもは正義感でも何でもない。利害が合って、利が多いと判断しただけだ」
道中の犠牲、起こり得なかったはずの事件。そんなものに俺は興味がない。損失から得られる対価もあるのだ。それに俺は……
「俺は正義の味方でも無ければ、正義に従事する者でもない。ただの通りすがりだ。冒険者だ。だから言っておくが、世の中にはお前らが想像している以上に生きる価値の無い人間は多いと思う」
罪の有無に関係なく、死ぬべきというより、死んだ方がいい人間もやはり、居る。
旅ではそんな人間を見てきた。
誰かから見たら俺も、そんな者の一人だろう。
「なぜ、そこまでして生きていてほしいと、思えるのですか? 私たちは、知らないとは言え人々に危害を加えたのですよ? 罪人……なのです」
「単純に、知り合いが死んだら良い気持ちにはならない。結局のところ、俺は俺に被害が無かったらそれで良いような人間なんだ。
だから知り合いであり誠実と言えるあんたらには、生きていてほしい。セイには、その通りだと言い難いが」
「…………そう、だな。俺は、死にたいと言えば嘘になる。俺は、俺の罪を抱えたまま、生きていくべきなのか?」
「死ぬことは償いにならない。そしてこの世に命の補填としての償いなんてあるはずがない。
罪を犯したのなら、できるだけ多くを助けて幸せを広げるべきだとも思うな」
前世の記憶で、強烈に残っているものがある。父か兄。どっちかに言われた言葉だ。曰く「償いは言い訳で本質じゃない」と。何の事だかさっぱりだ。
だが、償いが言い訳だと言う主張は二人を見ていれば何となく分かる。
ああなるほど。償いとは、彼らにとって解放のための道具なのだと。
罪人ならそれを背負って生きて、少しでも世界を良くしろ。ということだ。
「私と共に行かぬか? 二人共。私は騎士を目指している。水の精霊に受け入れられるため、誠実で実直な騎士を。そのためには、出来るだけ多くの者を助けなくてはならない」
そういえば、フルブラントは少女を一目見た時から気に入っていたのを思い出した。
「一人で出来ぬ事も、二人なら。二人で駄目なら三人。助けを必要としている者は必ず、いるものだ」
出会ってから長いなんて事はなく。それでも濃い時間的密度の中で、理解しているつもりだ。
フルブラントはいつだって、真っ直ぐだと。
芯の通った彼の言葉で二人を説き伏せた。俺も、そろそろこの町からお暇しようと思う。
腰の鞄から、布に包まれた硬貨を取り出す。テーブルの上に置いて、俺は包みを広げた。銅貨に銀貨。金貨も一枚、入れておいた。
「使え。旅には必要だ。ああ、理由とか『良いのか?』なんて聞くな。説明するのは苦手でな。ただまあ、旅人の先輩としてのアドバイスってとこだ」
金なんて、後からまた稼げば良い。なんたって俺は、冒険者だ。




