↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/41

六話 五人揃ってヒーローチーム

読んでいただきありがとうございます!

「……汚すなって言うけど、これ以上どうすれば汚れるんだよ」

「文句かぁ? それ以上言ったら金を要求するぞ」

「ま、まあ、きちんとした容器もない中では良い保存状態だ! た、助かるよ」


 店主の言葉に俺は一瞬で言葉を修正した。

これ以上のいざこざを起こすべきではないからと、素直に目の届く範囲へ座った。


 硬い木製の椅子に尻を付けると何かが刺さった感覚があった。おそらく木のささくれ。だが、そんなものは気にしない。

魔法についての何か普遍的な情報を得ないといけないからだ。


 頁を捲り文字を追い、俺は情報を拾い集める。物語は理解出来なかった。魔法に関する事柄だけを、高速で取捨選択して拾う。

 するとあっという間だった。店主が近づいてくると右手を差し出して、何か言いたげな顔をした。


 俺は理解していた。本の返却時間だという事を。約束をしたのだから、一方的に破棄なんて出来ない。

すぐに頁を閉じると返却しお辞儀をした。

満足気な店主はカウンター後ろに。

見つけた知識を咀嚼中な俺は二階の部屋に。それぞれは戻っていく。


 扉の閉まる音が、一層大きく俺の耳に届いて現実へと引き戻した。すると、窓から差し込む光がオレンジ色になっている事に気が付く。


「魔力は俺の中にある。水流と水量の関係、川のイメージ。源泉……は心臓にある。心臓から全身に、血液が流れるイメージも加えて」


 異世界まほう現世かがくの融合。この世界に転生した者のみが出来る二面的なアプローチ。


 指先が熱くなる。胸から流れる血液に、何かが混ざる感覚。滞りなく循環する体の中、魔力が俺を掴んだ。


 魔法のイメージで、俺は風を思っていた。所謂、風属性である。

目には見えない。涼し気の欠片もない。でも確かに、ソレはあった。小さな大気の流れは、誰かの呼吸にしか匹敵しなかっただろう。

 だがここに、俺以外の誰が居るというのだ。


 一瞬で消滅した小さな魔法。でも手の中にあった確かな手応えは、魔法そのものであった。


 それだけで、目の前が眩んだ。一瞬だけ暗転した後、俺の両脚からは力が抜けた。気がつくと目の前に広がるのは、ベッドを支える四本の脚。


 起き上がろうと床に手をついた。そこで動きが止まってしまう。猛烈な倦怠感が俺の頭を重くする。

 瞳を閉じて、開けて、また閉じる。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し。今はそれしか出来なかった。


 もう一度試したいと思う心に体が危険信号を出している。そんな気がした。

裏付けるように鼻血がぽたりと一滴垂れると、続けて二滴三滴と。


 不味い状況だと理解出来たのは、その鼻血が目に見えてからだった。

ベッドに向かう事もせず、俺は床に倒れる。荒い呼吸を落ち着かせてから瞳を閉じる。すると瞬く間に眠り落ちてしまった。


 目が覚めると真っ暗闇が広がっていた。だが一点だけ、明かりがあった。小さな光だった。後ろ姿に阻まれたその光は、俺を照らしはしない。


 まだ頭痛のするが、体は動かせる。このくらい、なんて事は無いはずだ。さっきは諦めたが今なら起き上がれるはずだ。

深呼吸をして体を持ち上げた。よし、何とか立ち上がる。そして俺の前に居る背中へ声をかけた。


「アリスか?」

「あっ、起きた。蝋燭を付けてからベッドに寝かせようと思ったんだけど、

その必要は無さそうだね」

「ああ、大丈夫だ。頭痛がするだけで、特に何かあるわけでも無いから。

それで、ノブチカたちっているの?」

「本当に大丈夫ならいいんだけど、ダメそうなら横になりな。寝ながらでも、会話は出来るでしょ?」

「心配ご無用。自分の体の事だ、ヤバくなったらすぐ分かるから」


 頭を左右に振って、俺は平気なフリをした。でもたぶん、アリスは気が付いているだろう。この世界に来てから彼女は洞察力に優れていると思う。

それ以前に俺たちは幼馴染だ。小さい事にも意外と気が付いてしまう。


 虚勢を張るのもしんどくなってきた。俺は平気なフリをしながら倒れる様に座る。


「3人は外にいるのか? こんなに暗いと、部屋の場所とかわからないんじゃないか」

「廊下の燭台には火が灯ってるよ。まあ暗くなったら基本寝てるみたいだけど」

「そうなんだ。やっぱり宿屋は、色んな客を想定してるから明るくしてるのかな」

「外の蝋燭に火を付けたの私だけどね」


 アリスはそう言った。

なんでも、許可も無しに無断で行ったという。そんな事をして本当に良かったのだろうかと疑問が湧くが、店主が怒鳴り込んで来ないのを見るに、心配の必要はなさそうである。


 机の上で小さく燃える蝋燭。その炎を目掛けて集まってくる小動物のように、ノブチカたちが部屋へと入ってくる。


「眠りかけているかと思ったが違うみたいだ。傷の具合はどうだ」

「良くはないけど我儘も言ってられない。とりあえず、5人揃ったから魔物退治の作戦を話そうと思う」

「作戦? なに、あんたそんなもん考えてたの。

ちゃちゃっと行って解決するだけでしょう? 洞窟の中なんて、どうせ狼しかいないんだから」


 腕を組んで足を組み座る。黙りこくっていたアリスが、ヒナの言葉にピクリと肩を動かした。


「サベージウルフだよ、ヒナ。君も見たでしょ? 私たちの知ってる狼より二回りも大きい体をさ。油断はできないよ」

「そうかな? 戦ってみた感じ、ノブチカは楽々やってる様に見えたけど」


 アリスの忠告を聞いたところで、ヒナの意見は簡単には変わらない。

だから俺は、その戦ったというノブチカ本人に視線を向けるが、彼は首を縦には振らなかった。


「ともかく、作戦や認識の擦り合わせはした方がいい。と言っても、俺とマイヤは魔物を見てすらいない。

まずは、わかってる事を共有しよう」


 そうして始まったのは、昼間から続いた魔物狩りでの出来事だった。

ノブチカは体全体を用いて、サベージウルフの体長を伝えようとしていた。


「四足歩行で、体はこのくらいだったな。縦にすれば頭が天井に付くかもしれん。それに伴って爪も牙も巨大だった。

瞬発力に優れてる印象もあった。俺の放った矢が避けられる事もあったのでな」

「聞いた通り、狼そのものが順当に大きく強くなった感覚だな……臓器や骨の構造とかは分かるか」

「お前なぁ俺は解体師じゃないんだぞ。

だが、まあ、捌いているのを横から見ただけだがイヌ科とそれほど変わらないんじゃないか?

心臓は前脚の中心辺りにあったと思う」


 彼の明かしてくれた情報で、俺は少し想像を膨らませる。放たれた弓矢の速度は知らないが、人の首を容易に貫通する程だというのは知っている。

それならば速度も本来、避けられるものではないはずだ。


 だが、サベージウルフはそれを避けたという。それも一度ではなく、何度も。その話を聞いて、付け焼き刃な遠方からの魔法など、意味を成さないと理解する。

 それならば、俺は魔法を補助として使う方向でいこう。


「ノブチカ的に、脅威か?」

「一匹二匹なら問題なく対処できる。が、三匹以上となると無理だ。そして森に出た群れは余裕で三匹を超えていた。

こんな短刀じゃあ何の役にも立てないだろうな」


 不意に取り出したのは刀だった。

背中側の腰から抜き放ったそれは、ナイフと言うには長い刀身。だが、短剣と言うには持ち手が中途半端に短い。

盗賊が使うような取り回しの良い、正に短刀と呼ぶのが相応しい物だった。


 それを見たら、俺だって分かる。

人間より圧倒的に筋力のある魔物に、短い刀身で戦う危険性。

相手は体皮の上に強靭な体毛を備えているのだ。あのような短刀に、肉薄するほどの価値はない。


「そうだな。それより直剣の方がいいだろうな。アリス、村で剣を売ってる人は居る?」

「”売ってる”人はいないけど、持ってる人ならいる。たぶん、二本以上あると思う。

でもユウキ、君が剣を持つのは止めた方がいいよ。素人が扱いきれる物じゃないよ」

「わかってるけど、持たなきゃいけないだろ。使えないとしても、俺もいっしょに前衛で魔物を抑えるんだから」

「いや、前衛は私だけでいい。代わりに、君は魔法を使えばいいだろ。ヒナに教えてもらって。

そうしたら、私は援護を貰いながら安心して剣を振れる」


 アリスは毅然として言い切った。慢心からではない。俺やマイヤ、仲間達が居るなら出来ると、そう信じているのだ。


 だからこそ、俺は言わなければいけない事がある。


「魔法はダメだ。ロクに使えないまま気絶したから。不確定すぎる。それよりだったら、三日間で剣を教えて貰う、もしくは魔物サベージウルフの特性を頭に叩き込む方がいい」


 直後、全員の視線が俺に注がれた。間違った事を言っただろうか。心配になる。だが、否定意見は出るだけ嬉しい。

それは作戦決行時の不安の解消となり得るからだ。


「待ってください、1人でやったんですか? 誰からも教えられず」

「教本なんてこの村に無いよね。村に魔法使いも居ないし……じゃえ、たった1人で…………」


 魔法使いである2人の少女は、同様を隠せず俺に言葉を投げかける。明らかに冷静さを欠いている。


「ねえ、どんな魔法を使ったの?」

「風。だと思う。こう、腕を前に突き出して……」


 バンッ! と大きな音が鳴る。その正体は、ヒナが机を叩いた音だった。俺の答えを待つ前に確認したい、いや、しなければいけない事があるらしい。


「それ、やってみせて。いま、ここで」


 鋭い視線に俺は思わず尻込む。よく研いだ剃刀のようだった。気押されながらも、昼過ぎ辺りにやったよう、魔法を現象させる。


 全身に流れる血液を意識する。今度はスムーズにかつ、滞りなく。他の思考の介在を許さない集中力を発揮する。

 来た。感じるのだ。広げた手のひらの周りに、空気が集まり流れを形成している事に。今回のは、しっかりと風を感じられた。


 だがそれと同時、額から汗がタラリと滑り落ちてくる。初めてより上手く出来たと言っても、この程度が限界だった。


 へたり込むようにベッドに腰を下ろす。座っているから良いものの、脚がガクガクに震えている。腕もそうだが頭の先から足の端まで、全身が小刻みに震えているのが分かる。


 それなのに、ヒナはまだ要求をしてくる。荒くなる俺の呼吸音が聞こえないのか、もう一度やってと、絶望的な一言を発する。

さすがにこれ以上やれば、頭がおかしくなりそうだ。


「これ以上は、無理だ」

「いーや出来るね。最初の内は気絶してからが本番だよ」


 本気のヒナの瞳は、とても怖かった。断ったら何か、恐ろしい事が待っているのでは無いかという気持ちと、負けたくないという頑固な心がせめぎ合い、俺は再度魔法を使う。


 風が手のひらに集まっているのが皆にも伝わった。疲労感で1人1人の顔を上手く認識出来なかった。が、驚いていてくれたら幸いだ。


「も、もう無理! 限界だ。少し、横になりたい」


 枕に頭を乗せると、包み込まれるような柔らかさに沈んでいく。

分かってはいたが、俺の意識は徐々に弱くなっていき蝋燭の炎すら認識出来なくなってくる。当然、その後の話し合いなんて参加できるはずもなく、俺が目を開けた時にはすでに、朝日が昇っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。