六十四話 事件の真相と黒幕
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黒幕を追い詰めるとは言っても、当のレヴはどこに居るのやら。フルブラントの姿は完全に見失った。騎士団の兵舎にでも行くか? だがそれは、わざわざ捕まりに行くようなものだ。
根無し草である俺と、騎士団を追放されたセイ。そんな二人が訪ねて「あなた方の仲間が人攫いをしています」とそんなことを言って、取り合ってもらえるわけがない。
どうするべきか。向かった方向から予測して、手当たり次第に走り回る。一日で回りきれるとは思えない。人を探しながらとなると、尚更だ。
「お前、あの子が向かう先に心当たりはないのか? お互い位置が分かるようにしているとかそういうのは」
「ないな。だが、レヴのいそうな場所なら心当たりがある。ついてこい」
そう言うと彼は、屋根からジャンプして隣の家屋に飛び移った。身体強化魔法は便利だなと思いつつ、俺は俺なりの方法で飛んでみせる。
確認したのち、セイは走り出す。俺は行き先もわからずただついていく事しかできない。
「その心当たりがある場所ってのは、どこなんだ」
「北西の共同墓地だ。騎士団からは遠いし、住民もあまり寄り付かない。あそこに埋められてるのは身寄りのない者ばかりだからな」
少し寂し気な声で話す。騎士団の本拠から遠く、また人気が少ない。うってつけだ。盗賊やら奴隷商人やらとの密会に、これ以上最適な場所は、この町にはないだろう。
大きな足音と甲冑の金属音を響かせながら、俺たちは白昼の下、堂々と走っていた。他人の家の上を、迷惑など考えずにだ。
そんな事をしていれば、もちろん注目を集める。だが構っている暇はない。出来るなら、誰よりも早くその共同墓地とやらに、到達しなくてはならない。
現実的に不可能でも、ここで折れてしまっては駄目だ。そんな事をしてしまったら全てが水の泡になる。
それどころか、何も得る事すら出来なくなってしまう。
そんな事を許すはずがない。俺はそれを、絶対に許さないし認めない。だからこうして、走るのだ。目的地などわからなくてもいずれ着く。
前を走る男を信じるしかないが、それでもいつかはたどり着くのである。
様々な形の屋根を走り回る。パラパラと破片が落ちる時も多々あったが、構うな。そう自分に言い聞かせた。
共同墓地が近づいてくると段々家屋も姿を消していき、石の地面を走る事になった。
ついにたどり着いた。だがフルブラントはおろか、レヴの姿すらない。騙されたか?
そう思ってセイの方を見ると、彼は迷わず墓地の中に入っていく。黒い柵を越えて、墓石の大量にあるそこを歩く。
騎士の嗅覚か、それとも元同僚として通じ合う何かがあるのか。迷わず歩を進める。
近づくにつれて大きくなるのは、衝突音。響くような、けれど吸収されて限りなく小さくなった音。
大量にある墓石が音を遮っている。
見つけたのは磨き上げた鎧にマントを羽織った一人の騎士。それに立ち向かう三人だった。
一人は小さな女の子で武器を持っていない。もう一人は青年で、拙い剣裁きを見せる。
最後の一人は小さな体躯を活かして、小回りの効いたサポートをしている。
三人が力を合わせて戦う姿は、決して優勢には見えなかった。皆が仲間を心配し、守る姿勢。そこに付け込まれては、防戦するしかない。
実際、彼らは負けるだろう。このまま戦えば確実に、負ける。
まずは少女が殺されるだろう。守りきれずに一突きされて。動揺している最中、青年は首を切られる。もしくは足を切断されて、行動不能になる。
最後に残る女騎士は、その体格差から繰り出される攻撃に対処出来ず、負ける。俺はそんな筋書きを想像した。
早急に、彼らを助けねば。そう思った。だがここで考えなしに突進できなかった。
俺は冷静に状況を見ていた。
その間は十秒程度の時間。戦闘中の十秒だ。きっと、永遠にも思えるほどの時間。
「『火:炎矢』。狙いは……胴体しかないな」
翻るマントに向かって、俺は炎の矢を放った。それは速度を出して進んで、見事にマントへ直撃する。だが、炎の矢はマントを燃え上がらせる事をしなかった。
一部が焦げて穴が空いただけで依然、それはマントとして機能していた。
「魔法の阻害か。厄介な。まあいい、俺が戦う。お前はあいつらを守ってやってくれ。
今のお前じゃあ足手まといだ。」
「黙れ。言われずとも守護は騎士の務め。ならば俺は、守るべきものを守る」
そう言って、俺とセイは各々の使命を全うする。
まずはセイが、フルブラントとレヴの間に割って入った。呆気に取られたフルブラント。
一撃を止めたと言っても、セイは満身創痍だ。いつまでもは止められはしない。
体の重心を逸らして剣を躱し、手薄になったところで鍔迫り合った剣を持ち上げる。
レヴは反射的に身を引いた。その隙に、腹を蹴って背後に吹き飛ばされるフルブラント。苦肉の策だったのだろうきっと。
「セイ……せっかくアレをやったのに、使い方も分からなかったのか? まったく。持て余していたから渡したが、処分しておくべきだったのかもね。そう思うだろ、ウィンデル?」
「黙れ……と、言いたい所だが生憎、今はお前の相手をするほどの体力が残っていないのでな」
そう言って、下がるセイ。彼の行動は要領を得ない。レヴには理解できなかったはずだ。そしてそこに隙が生まれる。俺は、風属性の魔法を現象させる。だがやはり、マントに阻まれて霧散してしまった。多少の効果はあるが。
「クソっ。厄介だな。招待状を挙げたんだから、少しは信用してくれてもいいんじゃないかい?」
「よく動く口だな。そんなに、余裕か?」
「当たり前だろ。僕の脅威になるのはそこの騎士崩れだけだ。満身創痍で現れてくれたのは、好都合だね。烏合はいくら集まっても、その能力は優れないものだよ」
「そうか」
短くそれだけ言った。瞬間、レヴは目の前に現れる。瞬間移動でもしたのか。そう思うほどの速度。鎧を着ているのだから、相応に動きを重くしろと思う。
直剣が俺を切る。短刀で防いだ。火花が散る。オレンジ色の破片はそこらに溶けて消えていく。短刀から重量が無くなる。剣が離れた。次はどこだ。集中しろ、見極めろ。
風を突き刺すような音。炸裂音だ。空気を切り裂くその一撃は、俺の短刀を削る。刃毀れ……今は気にするな。頭を右にずらす。耳のすぐ横、いや少し切られた。血が滴る。
剣に集中。それと同時に、今どこが手薄か想像を巡らせる。
義足を持ち上げるとそれを前に出す。脛を目がけて、足の裏で蹴りつける。鎧と義足だ。それも魔術師に貰った特別製の義足。どちらの硬度が上かは比べるまでもない。
刀剣での裂傷は防げても、衝撃まで受け止めてくれるわけではない。鎧は攻撃の全てを包めず衝撃を波及させてしまう。
そして痛みに瞬間的に反応してしまうのが人間だ。幾ら訓練を積もうとも、痛みに対する感度が鈍る事はあり得ない。
レヴは片足を引いて体のバランスを崩す。ここが俺の詰めるべきタイミングだ。
懐に入り込む。一歩の距離、いや半歩。マントの切れ端すら掛かっていない無防備な腹部に手を近づけ、一言発する。
『風:とっぷう』
手のひらに大気が集まり流れを収束。勢いを伴った小型の竜巻にも似たその魔法は、目の前の障害物を突破しようと死力を尽くす。
「グッ! くそ……安物のマントはやはりだめだな」
いくつかの墓石を破壊しながら吹き飛んだレヴ。三つか四つ目の墓石を破壊したあたりで体は止まり、よろめき立ち上がる。
どこからか取り出したペンダントを掴んで精霊へと嘆願すると、彼の体は緑色の光に包まれた。
「回復魔法か。そんなものまで、騎士は使うのか?」
「使えるものは何でも使う。戦いにおいて重要なのは、最後まで立っている事。そしてより重要なのは、利益を得る事だ。君なら、分かってくれるんじゃないのかい?」
「理解を得ようとする前にするべき事が沢山あるだろう。まあもう、どうでもいいが」




