六十三話 人さらいの犯人
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前回や前々回とは違って今回は俺の勝利で終わった。屋根の上で動かないでいる甲冑野郎は無視して、フルブラントと合流しよう。
端まで歩いて下を覗き見ると、フルブラントの姿を見つけた。急いで教会を出て行った。それに少女の腕を引いている。何かから逃げるような後ろ姿。
にしてもあの少女。状況から見て、確実に事件の犯人であった少女であろう。
熟考してみても答えは出ない。何故、彼が少女を連れて教会から逃げる必要があるのか。
騎士が勘付いてしまったか。それとも他の理由か。怒り狂った民衆? いやない。事件のあらましは知っていても犯人なんて知らないはずだ。
それに彼らを追う人間の姿は見えない。ちょうどいい。このまま追跡して、何をするつもりなのか確かめよう。
フルブラントは誠実な人間だ。愚直なほどに。シンプルに、彼は正義や礼儀を重んじるタイプだ。
だから心配はいらないだろうが、騙されてしまっていては、その通りでもない。
「よそ見など……していていいのか。背中に目は付いていないだろう?」
それを言ってしまっては意味がない。奇襲をするつもりなど毛頭無いのか何なのか。
振り向いて、向き合う。セイとか言う甲冑野郎は立ち上がっていた。肩で息をして切先は下を向いている。
立っているだけ。それが今の奴には限界に見える。勝負などと、そんな次元じゃあない。
脚を引きずってまで俺に近づくその姿があまりに痛々しく見えてしまう。
「そんな体で何をしようと…………そういう事か。元々、そういう魂胆か。まあいい、首謀者の一人だもんな。お前は」
奴の目的は足止め。その間に、あの少女を逃がすつもりか。あの少女は魔法使いの類で、フルブラントをたぶらかして逃げたと考えるべきかどうか。分からないな。仮にそんな事ができたとしても、賭けみたいな計画だ。
が、事実は目の前の男が未だ闘志を燃やしているということ。逃げることは出来るが、事態を好転させるにはいつだって自分自身が動く他にあるまい。
「なあ、あんたと一緒にいるあの女の子。一体何なんだ。仲間なのか」
「答えるわけがないだろう。それより、勝負はまだついていないだろ。武器を握れ……!」
「ずっと持っているんだがな。話そうじゃないかどちらにせよ、俺もお前も暇だ。違うか?」
「暇だと? お前といっしょにするな。俺はお前を倒すのだからな」
「いやいや、時間は有効に活用しようじゃないか。俺は単純に、お前らみたいに簡単に稼ごうと思っているだけだ。お前らの”事業”に興味があるんだよ。わかるだろ?」
ここまで来て、人攫いに加担するつもりは毛頭ない。はったりだ。とりあえずの口上。
「事業だと? お前、何の話をしてる。そうか俺を惑わすつもりだな」
「人攫いして、それを盗賊かなんかに売っ払う。いい稼ぎ方だ。なあ、俺にも教えてくれよ」
「貴様……どこまで愚弄する気だ。俺はこれでも元は騎士だ! 無辜の人間を攫うなど、言語道断だ……!」
激しい怒りの感情を見せている。こいつは人攫いの犯人ではないのか。くそ、混乱してきた。
「お前が犯人じゃないのか?
だとしたら、何故俺たちを追いかけて、何故殺そうとする。答えろ。今追い詰められてるのが自分だって事くらい、分かるだろ?」
「はっ、そんな脅しで」
脅しか。ならもう一度、痛い目を見るしかないようだ。俺は一息で距離を詰めると、メイスで打ち付ける。防御の態勢すら取れずにもろに入った。
体をくの字に折る。顔面が下に来ると蹴りやすい。自分の足が傷つく事すら厭わず蹴りつけた。
「で、お前たちは何者なんだ。答えろ。死ぬよかマシだろ?」
声を出さない。さっきまでの威勢は何処にいったのだろうか。
「質問を変えるよ。お前、町の人攫いについて知ってるか? この数か月、巷を騒がせてるやつだ。聞いた事くらいあるだろ」
「…………俺とウィンデルは、その人攫いの犯人グループを退治しようとしてるんだ。それをお前たちが、邪魔したのだろう……!」
「そうか。ちなみに、それをお前たちに持ち掛けたのは誰だ?
それとも、自分らだけで計画したのか? どっちだ」
「レヴだ。ある騎士仲間に、頼まれたのだ。騎士団では、対処できないと。だから俺たちが……」
「レヴの計画に乗って、犯人は特定できたか? 何人、捕まえられた?」
少し考えると、セイは口を開いた。
「三人だ。三人捕まえて、レヴに引き渡した。それなのに、いつまで経っても事件は解決しない……なぜだ…………。なぜなのだ!」
悔しがるように、セイは屋根を叩く。大の字のまま、拳を叩きつける。目を覆うのは涙を見せまいとしてか。
「レヴが……そうか、あいつが……。だから招待状だのを持っていたのか」
気が付くべきだったか。奴が黒幕だったと。言われてみれば、あれ以来奴からの接触はない。俺から接触するのは、ほぼ不可能だ。騎士と冒険者とじゃあ、立場が違う。それに俺は部外者。
騎士団からしたら、不穏因子。
レヴからしたら好都合だな。
「おい、セイ。ついてこい」
「誰が貴様と……」
「ウィンデルだったか、あの子。心配じゃないのか? たぶん、レヴの所に向かってるぞ」
「好都合だ。お前のような輩から、守ってくれるのだからな」
「ああそうだな。自分の手で守るか、終わった後に全てを後悔するか、選んだ方がいい。大切なら、失う前に気が付いた方が良いぞ。
アドバイスだ」
俺の真剣さが伝わっただろうか。逡巡した後、奴は体が言うことを聞かないと言った。嫌味のように。だがな、冒険者ってのはどんな時でも動かなくてはいけない。
たとえ骨が折れて内臓がボロボロになり、脚が欠損しようとも、動かなくてはいけない。そのための麻薬の類は、いつでも備えがある。
強力な麻酔と薬草と混ぜ込んだ、この上なく不味い液体。瓶に入ったそれを、セイに飲ませる。
「こ、こんな物が存在しているのか……世界は広いな」
「気分が高揚して、体温が上がるだろ? 傷は治っていない。お前はウィンデルを守る事だけを考えろ。いいな」
「言われなくとも。それとお前、これが終わったら全て話してもらうぞ。俺はお前を信用できない」
「そうだな。でも今は、ウィンデルの事だけ考えてな」
そうして俺とセイは、本当の黒幕の元へと向かう。




