↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/80

五十七話 教会への招待状

読んでいただきありがとうございます!

「なんだそれは。あ、分かったぞ手掛かりだろう!」

「まあそうだな。とりあえず話を聞け」


 そう言って部屋にあった椅子を持ち寄って座る。ヒラヒラと紙を振って、その黒さを見せつけた。


「招待状らしい。これまでの事件には、すべてこいつが関わってるかもしらん。つまりだ、こいつを持って所定の場所に行けば、計画の全容が分かる」

「おお! それはどこで手に入れたんだ?

騎士団にも話しておいた方がよかっただろうに。そうしたら手助けも……」

「騎士団はこんな手段を認めないだろ? お前はまだ頭が柔らかいけど、騎士は美徳を重んじてる。この手の話には乗らないさ」


 フルブラントはなるほどと納得した。適当を言えば勝手に納得してくれる彼の姿が妙に面白くて、とてつもなく楽だ。


 少しばかりでも疑う事を知っている人間は、あれやこれやと面倒だからな。


「今から向かうのは悪手に思う。実行は明日だ」

「して、一枚の招待状では二人が赴くのは不可能ではないか?」

「フルブラント、お前は近くで待機していろ。俺が潜入してお前に合図する。作戦は突き詰めよう。今日はもう寝て、力を蓄えるぞ」


 そうしてじゃんけんをした。俺は床で寝ることになった。硬い木の感触で睡眠どころではなかった。


 身に纏うローブを敷いて幾分かマシにして、ようやく眠りに付く事ができた。翌朝、フルブラントは稽古をしようとかなんとか言っていたが、そんな事より下見だ。


 一番大きな教会。そこには街を象徴する鐘楼があるらしい。


 坂を上って中心を目指すとだんだんとその尖塔が見える。尖った先端に、どこまでも響きそうな鐘。このような神聖な場所で、後ろ暗い計画が進められているとは。罰当たりな人間である。


 中には長椅子が等間隔で設置されていて一番奥には一つの台。俺の思い描く教会のイメージそのものだ。


 先客に見倣い、俺とフルブラントは席に着く。台の一歩前に立つのは、修道女だった。ここは神父ではないのかと疑問に思う。大体、こういう場所では神父が聖書を片手に話すものだ。


 待てよ。そういえばこの世界に宗教はあるのか。


「なあ、この教会では一体何を信仰してるんだ。分かるか?」

「白星教ではないか。中央大陸では、大概は白星教であろう?」

「他には無いのか。たった一つだけなんて考えづらいだろ」

「あるのだろうが知らぬのだ。私は白星教だけでいいと思うが」


 その後もしつこく聞こうと思った矢先、隣に座った老婦人がこちらを見たために辞めた。これ以上話すと、なんだか殴られてしまいそうだ。


 辺りを見回す。両サイドにはガラスが連なっている。天井はアーチ型。他の部屋は全て、あの修道女がいる方向から繋がっている。逃げ道と言ったら、正面から入った入り口だけ。


 ガラスの大きさは問題ないが、ジャンプだけでは到底届かない。逃走用の導線だけでも確保しておこう。と言っても、穏便に済むのならそれに越したこともないが。


「フルブラント、帰るぞ。見たいものは見れた。あとはどうにでもなるだろう。

運任せだ」

「それでいいのかユウキ。ただ、私はもう少しあの少女の言葉を聞いていたくてな。悪いが先に帰っていてくれ!」

「何を言ってるのかさっぱりなあの女の子か?」


 うんと頷くフルブラント。身長が、ちょうど重なった。


 少しだったけれど、俺はトリナの事を分かっていたと思う。すべてではない。それでも、大切だと思えるほどに。トリナもそう、思っていただろうか。

そうではなかったとしても、俺はあの男を殺そう。でないと心に宿る靄は晴れない。


 教会を出ると俺は鍛冶師の元へ向かった。扉を開いた店内には見事な鎧が並ぶ。確かな職人の腕前を感じさせる逸品だらけだった。


「このローブを加工してくれないか。旅に着ていこうと思ってるんだ」

「おわっ! なんだこりゃボロボロじゃないか。どうやったらこうなる?」

「実は死霊王者の討伐報酬で貰い受けたんだ。まあ、俺たちがボロボロにしたようなもんだな」

「死霊王者って言ったら上位の魔物に分類さえるほど危険な存在だろ? あんたもしや、相当な冒険者だな」

「俺はそんなんじゃない。実際、討伐隊の木っ端だったしな。それで、うまい具合に加工できるか」

「任せろ! こんな貴重なもん、頼んだって触る機会ねえんだからよ。まあ多少値は張るが、絶対にいい出来にしてやる。鍛冶師として、プライドがあるんでな!」

「前払いだ。受け取ってくれ」


 そう言って、俺は銀貨を二枚差し出した。この街で銀貨がどの程度のレートを有しているか分からないが、銀は銀だ。銅よりも高価なのは間違いない。


 鍛冶師である店主は、二枚の銀貨と俺を交互に見ては驚く。そしてその口のまま、俺に尋ねる。


「あ、あんた太っ腹だなあ! 前金ってのはもっと安いもんだろ? やっぱ高位の冒険者さまは潤ってるんだねえ」


 にやにやと銀貨を眺める様子を見ると、この、街でも銀貨は貴重なものらしい。

三日後には出来るというので店を出て宿屋に戻った。

夜の作戦に向けてひと眠りしておこう。


「ユウキ! 起きるんだ夜が来たぞ!」


 柔らかいベッドの上でもう少しだけでいいから眠っていたかった。叩き起こされた俺はフルブラントと共に例の教会へと向かった。


 なるほど、これなら人攫いが流行するわけだ。暗いし人はいないし。犯罪者からしたら楽園になるわけだ。


 教会は当然、その門が固く閉ざされていた。だがその前に座り込む不審者を一名捉えた。


「フルブラント、やっぱ一緒に来てくれるか? 一人だとダメかもしれない」

「招待状は一枚だけだろう?」

「あそこに丁度いい奴がいるじゃないか。大丈夫、殺さず眠らせるだけだ。心配するな」


 門の前に座る男に声をかける。招待状を見せて、中に入れてくれと。男は訝しむ視線で俺を見続けた。渋々と言った様子で、門を叩く。


 おや? これではフルブラントの招待状を手に入れる計画が頓挫してしまう。不味い。が、どうする事も出来ないで、俺は門が開くのを待っていた。


 連れの仲間へと振り向く事も許されず、俺は教会の中へ入るよう強要された。


 中は昼間見た景色と何ら変わらない。差し込む月明かりだけが頼りで、それ以外が闇に隠されていること以外は。


 軽く薄く。俺は知覚強化を施す。これなら、少しは安心だ。


「招待状はある?」


 透き通るような高い声。薄暗い場所には断じて似つかわしくないその声。少女の物だろう。


 闇に溶け込むかと思われたその手紙を、俺は右手に掲げてみせる。


「これだろ。勿論、持っている。満足か? 

なら早く儲け話をしようぜ」

「うん。でも、その前にあなたについて教えて欲しいの。あなた、歳はいくつ?」

「さあ。十八か十九か二十か。それ以上かだな。ああ仕事をするのに問題は無いぞ」

「うん、分かった。じゃあ後いくつか、聞くね。君は何者?」

「冒険者だ、駆け出しのな。その日暮らしにも、そろそろお別れをってね」

「うん。分かったよ。大体ね」


 そう言うと少女は手を叩く。教会ってのは、音がよく響く。少女の声だって俺の耳に届くのだから。


「彼を捕まえるか……もしくは殺した人には、これまで約束していた三倍の報酬を支払うよ」


 一身に殺意を感じた。矢印が全て、俺に向けられたかのようだった。何だろう。答えを間違えたのか。それとも調査しているのがバレたのか。


 どちらにせよ、この場の全てが敵になった。その方がやりやすかと聞かれたら、勿論イエスだ。


 トリナの死を悼んでいた。その間も旅は続けた。冒険者として、依頼もそれなりこなした。


 自信過剰。

そう言われたら終わりかもしれない。だが、自信という物は常に、寄り掛かる物が無いほど溢れ出すもの。


 今の俺には寄り掛かれる何かが無い。腰の短刀を引き抜いたが最後、教会内は滅茶苦茶になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。