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五十六話 交渉

読んでいただきありがとうございます!

「ユウキ、この街っておかしくないか?」

「何がだ」

「人攫いに対して誰も反応しないなんて、絶対におかしい。それにそもそも事件が起こる事自体、変じゃないか!」


 宿屋の一室で、フルブラントはそう叫んだ。

何故、同室になっているかと言うと、他には空き部屋が無いからだ。

小さな宿屋はいつも難儀だな。そしてそんな場所を選んでしまう俺も。


 ベッドの前を彷徨いながら話しかけてくるフルブラントに、俺は耳を塞いでしまった。

衝動的な行動だった。が、彼の言葉は途切れる事を知らずに続く。


「騎士を志す者として、これは放ってはおけない! ユウキ、手を貸そう! 街の人々は怯えているに違いない」


 ベッドの上から起き上がり、フルブラントに釘を刺す。


「確かに事件数を聞いたらおかしいと思う。だがな、人攫いに関わる奴なんて少ないんだよ。考えてもみろ。武器も技術もない人間が、どうやって対抗するんだ。

助けられないどころか死ぬのが目に見える」

「それもそうだ。なら、やはり私たちが手を貸すしかなかろう!」

「何度も言うけどな、俺はただ休息にこの街を選んだだけで、すぐに出ていくつもりだ。

お前はどうするか知らないが、巻き込まないでくれ」


 フルブラントの目的は騎士になる事。この街で武勲を立てれば容易いだろう。対して俺の目的は、そんな騎士に関係するものではない。


 アリスの行方と、あの男の正体。盗賊なら知っているはずだ。それも、一大勢力である茫狼猟団なら。


 だが生憎繋がる手掛かりはない。目の前の考え無さそうなお気楽な青年には、口が滑っても相談できない。


 いや、待てよ。盗賊か。人攫いに近しいのではないか。それに、この事件を解決したら報奨金も貰えるだろう。

街を救ったとなれば、情報だって貰える。信用を得るのは一番難しい。


 なんだ、簡単じゃないか。この人攫い事件の真相を暴けばアリスに繋がる手掛かりを手に入れられるかもしれない。


 少なくとも、危険な盗賊だらけの集落へ赴くよりも安全だ。情報の質や速さよりも、安全である事の方が大事だ。


 彷徨う魂のように頭を抱え、唸り続けるフルブラント。彼は俺の一言に感激するだろうな。


「フルブラント、やっぱり人攫いを解決しよう。この街の人攫い問題は、お前が言った通り異常かもしれん」

「ユウキ! やはりお前はいい奴であるな!

そうと決まれば、我々で犯人を捕まえて罰を与えようではないか!」


 とは言ったものの、どこから手を付けるべきか。騎士団に赴いたところで、帰されるのがオチだ。かといって他に誰か適任がいるだろうか。


 冒険者ギルドか。いや違う。人攫いの問題が起きているというのに冒険者が動いている気配はない。街を散策したわけではないが、同業者なら分かる。

同じ匂いを醸し出す者とはすれ違っていない。


 地道に住民への聞き込みをするしかないだろうか。


「フルブラント、何か手掛かりを手に入れる方法はあるか? 何も思い浮かばん」

「何を言う。騎士団の者に聞けばよかろう。彼らなら、知っているはずだ」

「突然『手伝うから情報を教えてくれ』なんて言って信用されると思っているのか? そのまま帰されるのが目に見えてるぞ」

「やってみないと分からんだろう。何事も、挑戦から始まるのだぞ!」

「……ならお前は騎士団に向かってくれ。俺は住民から情報を得る。街の人間なら、狙われやすい人間が分かっているかもしれない」


 そうして俺とフルブラントは別行動になった。宿屋を出て、別々の方向を歩いていく。


 さて、まずは今回の事件について整理しよう。狙われたのは少女。歳は十かそれ以上だろう。薬草売りの店を狙った。白昼堂々、真っ黒な衣装で犯行を行った。


 計画的とは言えない。それに、騎士の連中は金で雇われていると言っていた。わざわざ金を支払っていると考えるか。成功の可能性も低いのに、先払いはしないだろう。裏切りに遭えば足も付く。たぶん、成果報酬。

だから必死にやるわけだ。


 ケースが少ない。たった一件では、ただ感想を並べただけに過ぎない。道行く人を捕まえては、話を聞く。

数時間は走り回っただろうか。


 物乞いから鍛冶屋、貴族のような身なりの青年に、小路地を走りまわる少年。様々な意見があった。


 一通り組み立てよう。

まず、狙われている人間に共通点らしき物は見当たらない。誰でもかんでもお構いなしだ。それこそ貴族も、その対象となったらしい。まあ、犯人は護衛に惨殺されたそうだが。


 時間帯は昼ではなく、夜。月すら隠れた明け方か、誰も彼もが寝入っている深夜が多い。恰好は決まって、黒いフードだと。


 だがやはり犯行は素人のもので、深夜だろうが早朝だろうが悲鳴が木霊するらしい。大概はそれでバレては騎士団に捕まえられるのだと。


 この人攫いの裏にいる黒幕は、数打ちゃ当たるを体現するような人物であることは間違いないだろう。同じ手口で協力者を仰いでは手駒にしている。

偶発的な事件数とは言い難い。


「フルブラントと合流しよう」


 俺は呟いて、宿屋に戻る。階段を上がった先の扉を開くと、見知らぬ男が二人いた。フルブラントは俺を見るなり手を振って、二人の騎士を紹介してくれた。


「戻ってきたかユウキ! この二人はな、私が調査すると言ったら喜んで手を貸してくれると言ってくれたのだ!」

「レヴです。こちらはアトリア、よろしくお願いします。それからご協力の方、感謝します」

「どうぞよろしくお願いします。それで、共有できる事を教えてほしいんですが」

「ええ。まずは犯人たちの事です。彼らは金で雇われており、報酬は歩合制。つまりは”やってから”でないと報酬を貰えません」

「だから必死になって住民を攫うの。まったく、困ったものだよ」


 騎士の話は俺の推理と合致していた。なんだか、読みが当たってうれしい。


「そうですか。俺の方でも独自に調査してみましたが、被害者にこれといった共通点は見当たりませんが、これは騎士団も同じ結論ですか?」

「はい。我々が解決した事案では、そうです。ですが行方不明の被害者たちには共通の特徴がありました。確証はありませんが、誘拐事件の被害者たちだと考えています」


 行方不明の被害者がいる。予想はできた。


「年齢は二十から二十五歳。性別に関係はありませんが、決まって活発な人物が行方不明となっています。性質上、男性の被害者が多いようです」

「どのような状況だったかは、分からないんですか。例えば仕事帰りだったり、外に出た隙を狙われたりとかです」

「まさにその通りですね。外に出て、そのまま行方知れずになる場合がほとんどです。これは私の予想ですが、酒場に入ったところを狙っているのかと。

酔っていれば、犯行は容易になりますから」


 青年が狙われやすく、フラっと外に出た隙を見逃さない。目撃情報の少なさは、計画性の高さを物語っているようにも思えた。


 筋力や体力に自信のある若い男を狙う人攫い。深夜……犯行時刻は、分かるはずがないな。それが分かれば犯人像を特定しすくなるのだが。


「捕まえた犯人たちに話を聞く事はできますか」

「いや、無理だ。すでに全員、公開処刑されてしまった」

「……調査もせずにですか?」

「ええ。騎士として、下賤な輩から情報を引き抜くのは言語道断だ……。少なくとも、騎士団としての方針はそうです」

「冒険者には依頼を出さないのですか。彼らは動きやすい身分だと思うが」

「依頼を出しても、受けてくれる人間がいないのですよ。確実に報酬が入る仕事でもありませんからね」


 犯人像も何もつかめなかった。レヴと名乗った騎士との情報交換は、大した収穫にならなかった。

部屋の中にいるもう一人の騎士。彼女は、フルブラントの羨望の眼差しを受けながら、騎士道について説いていた。


「それでは私たちは戻ります。もうすぐ、夜警の者と交代になりますので。それからユウキさん、少しお話を」


 そう言われて、俺は宿屋の外に連れ出された。口封じでもされるのだろうか。


「実はですね、人攫いの犯人たちに接触できる可能性があるんです」

「どういう意味だ? あんた、もしや……」

「違いますよ! 私は正真正銘、騎士団の一員です。ただ、このままでは埒が明かない。騎士団は、頭が固すぎます。かと言っても冒険者は手を貸してくれない。

そこで、あなたにお願いしたい」


 そう言ってマントの内側から取り出したのは一枚の紙。わざわざ染料で黒く染め上げた一枚だった。


「これを持って鐘楼に向かってください。一番大きな教会です」

「なんで持っている? 答えによっちゃ、あんたを尋問してもよさそうだ」

「いやいや! はあ。正直に言いましょう。処刑される前、独断で犯人と取引をしたんです。家族を逃がす代わりに、手掛かりを寄越せと。それでもらったものです」

「犯人に家族がいるってよく分かったな。調査しないんじゃなかったのか?」

「あのですね、私を疑う気持ちもわかりますが信じてください。捕まえた犯人は八人以上いるんですよ? 単独犯ではないのですから。その内、一人か二人には大切な家族だっている。それだけの話です」

「釈然としないが、まあ分かったよ。信じる」

「ありがとうございます。いいですか、くれぐれもお一人で向かってくださいね。招待状は一人につき一枚が基本ですから」

「了解した。いい知らせを期待していてくれ」


 そう言って、今度は本当に別れた。後ろ姿が完全に見せなくなってから、俺は一人呟いた。


「フルブラントを囮にするか。あいつと相談してみよう」

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