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四話 村長に直談判

読んでいただきありがとうございます!

「マイヤ、考えてみろ。確かに俺は治療やら宿泊やらでこの村の世話になった。相応の仕事だ」

「じゃあ考えるまでも無いじゃないですか! 嫌ですよ! 私まだ死にたくないのに」


 駄々をこねる子供みたいにマイヤはそう言う。アリスも、終始居心地が悪そうに座り方を直しては俺たちを交互に見つめる。原因は俺にあるが、仕方が無かったのだ。


「状況が違えば、お前だって俺と同じか、今より悲惨になってたと思うぞ。

最初に目覚めて森の中で魔物に遭う。俺は走り出したが、お前ならどうしてた?」

「そ、それって今関係あります?」

「俺にも状況があったんだ。加えて、俺は力を持っていない」


 宥めるように穏やかな声を意識して、俺はマイヤに言う。神経を逆撫でするような挑発的な言葉は使わない。


「たぶん……その場で、うずくまってたと思います」

「そうなればお前はもう死んでた。アリスやノブチカがはじめに目を覚ましてたら、たぶん魔物を殺してた。

ヒナだったら、おそらくお前と同じ事になってたと思う。加護が何かわからないからな」


 冷静さを取り戻したマイヤは、俺の話を一応は聞いてくれる気になったらしい。

諭す様な口調はしなかった。俺も彼女も知らないことだらけなのだから。


「俺だったから、なんて言うつもりは無い。

でも死にたくなんてないんだよ。魔物を退治しないといけないのは俺の責任に他ならない。

だから頼む、力を貸してくれ」


 マイヤに向かって俺は深く頭を下げた。今込められる誠意は詰め込んだつもりだった。マイヤも散々悩んだ挙句、俺に手を差し出してくれた。そっぽは向かず俺の瞳を凝視して、言ってくれた。


「手伝います。死んでほしいなんて思ってませんし、ここまでされたら手伝うしかありません」


 差し出された手を掴んで握手をする。


「ありがとう。これから頼む」


 こうして協力してくれると約束を取り付けた。さて、マイヤをこちらに引き込むことには成功したが、俺はこれからどうすればいいだろう。アリスに何か聞こうと思っても、これ以上何を知っているだろう。そもそも情報を隠し持っているのだろうか。とそこまで考えると、重要な事に思い至った。


「そうだ、魔物退治までの期限ってあるの?」

「あっ。そういえば何も聞いてない。二つ返事しちゃった……」


 いつの間にか椅子に座り込んでいたアリスは、俺の質問に答えるが、それは期待した答えではなかった。まさか期限を聞いていないとは。でも、無理もないのかもしれない。

大変だったのは俺だけではない。むしろ俺は、恵まれていたと感謝するべきだろう。


 魔物に襲われて助けられ、あまつさえ傷の手当て。それだけでなく上等な宿まで用意してもらっているのだから。全てはこの世界基準だが。


 助けてもらってばかりでは示しが付かない。だが、焦るべきでもない。自分に出来ることを見定め今を最大限に活用する。それが最善策だろうと思う。


 加えて、思い立ったが吉日ともいう。頼まれた魔物退治の期限を、最大限延ばしてもらえよう村長に言葉を尽くさなければ。


「なあ、村長ってのはどこに住んでるんだ。案内してもらえないか?」

「いいけど、急にどうしたの? やっぱり無理ですは通用しないと思うけど」

「やっぱりも何も俺は事後報告を受けただけじゃないか……。そうじゃなく、依頼の期限を聞いてあわよくば延ばしてもらう」


 ふざける様子も無く言い切る。そんな俺に向けられた視線は、どこかぎこちない。アリスもマイヤも口には出さないが思うところがあるようだ。

深くは詮索しない。嫌なことを聞きたくないからだ。


「こっちこっち。そっちは商人さんのお家だよ」


 平家だが他と違って一際大きな家だったためにこちらかと思ったが、ここではないのか。

村の中心だし、村長の家だと思ったのに。


 それから歩いてまた間違えて、その度にアリスが軌道を修正してくれる。ナビゲーターとは良いものだ。それが務まる人物もまた、優秀ということだろう。


「ここ。村長のお家はここだよ」


 たどり着いたのは、村の柵門近くにあって古ぼけたボロ小屋だった。

 何かの間違いだろと言いたくなるが、アリスは頑としてここだと言い張る。

「いやいやこんなボロボロなわけないだろ」という俺の言葉をアリスは受け取らない。


 数回あるいは十数回、同じ問答を繰り返してようやく根負けしたのは俺だった。


 意を決した俺は扉をノックした。天使が息を吹いただけで倒れてしまいそうな程ボロっちい為、ノックは三回だけに留める。

すると家の中からドタドタと歩く音が聞こえてくる。無防備かつ直立のまま、俺は扉が開くのを待った。


「なんだあんたら。何か用か?」

「ええ、洞窟の魔物の件です。少しお話がしたくて」


 そう言うと村長は一瞬だけ部屋の中を振り向いてから言葉を発する。


「それはいいが、私の家は見ての通りボロ小屋でな。悪いがここで立ち話になるぞ」

「ええ、構いません」


 白髪混じりの頭はやや白毛が優勢で、髭も同じような感じだった。村長と言うからにはもっとこう、威厳あるかもしくは貫禄のある人物を期待していたのだが、出てきたのはくたびれた老人。


 まじまじと見つめるまでもない。村長の瞳を覗きながら俺は真摯に向き合う。


「魔物退治の件ですが、具体的な期限はありますか? あるのなら教えてほしいのです。目安がわからなければ、作戦の立てようだってありませんから」

「そうだな。特にいつまでとは決めてないな。ただ、できるだけ早く解決してもらえると嬉しい」

「そもそも、洞窟はここから遠い場所なんですか? 魔物の種類とかは」

「そこのお嬢さんに伝えといたはずだ。詳細まではわからん。村の狩り人達も、帰って来なかったからな」


 アリスを指差した村長は、そんな事を言いながら疲れたように瞬きをする。

ふむ、アリスは上手く報連相をしてくれなかったらしい。


「なるほど……出来るだけ早く。ですか」

「ああ。だが無理をして死んでもらっても困る。君たちのその”作戦”が上手くいくと理解できてからでも、遅くはないだろう」


 期待していないというのが、ひしひしと伝わってくるようだ。村長が向ける視線は終始、罠に掛かった哀れな動物を見るような悲しい目をしていた。


 だがそんな、暗に「期待していない」なんて言われてしまったら、こちらもムキになる。証明したいやりたいと思ってしまう。


「ご安心してください。洞窟に巣食う魔物は俺たちが退治してみましょう」


 コホンと咳払いを一つ。その後、俺は三本指を立てる。人差し指、中指、薬指だ。そして高らかに宣言してみせた。


「三日後に退治してみましょう。これは約束です。

ですから、そのための物資を分けてもらいたい。丸腰では何も出来ませんから」

「三日とはこれまた随分と……。だが、まあ分かった。眉唾だが信じておこう。

物資の事だが、出来るだけの援助はしよう。村にも余裕は無いが、あの魔物たちがここを襲うよりはいくらかマシだろう」


 そう言って、俺は村長との約束を取り付けた。「もう用は無いな」と聞かれたため、俺もこれ以上なにも無いと答える。

答えを聞いてボロ小屋へと戻っていく村長。


 村長の家の前で俺は、マイヤとアリスに背を向けて立っていた。立ち尽くしていた。


「それにしても三日だなんて大きくでたね、ユウキ。自信でもあるの?」

「アリスちゃん、作戦があるって言ってたでしょ? たぶんその事だよ。

そうだよね、ユウキ君」


 期待の眼差しが、俺へ向けられているのが分かった。それは避けようのない視線だったのだろう。あんなに公然と宣言したのだ。何か奇策があると思われても仕方がない。


 が、策はない。戦う力もない。戦力の把握だって出来ていない。極め付けは、洞窟の位置関係に魔物の種類。何もかもが未知数である。

 そんな中でもあんな約束をしてしまったのは、村長の痛々しく風化した姿を見て、

いたたまれなくなったからだ。


 それでも啖呵を切った以上、期待に応えるのは必須だろう。

俺は今、自分に出来る事に最善を尽くさないといけない。

けれど考えた末、俺が聞いたのはたった一つのシンプルな質問。


「マイヤ、魔法ってどうすれば使えるんだ?」

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