四十一話 ギルドの占い師
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宿に戻ると依頼で儲けた金を見て、資金繰りを組み立てる。
鍛冶屋で手頃な武器を買うか。
重い腰を上げ硬貨をバッグに入れて、鍛冶士の店へと出向いた。
店としての建物はあるが、わざわざ天幕を使って通りから見えるように営業している。
職人業が目の前で見れるというのは、販売促進に繋がるのだろうか。
仏頂面のその職人に、俺は声をかける。金槌を振りながら瞳だけをこちらに向けるがすぐに元通りの姿勢に戻ってしまう。
「使いやすい武器はないか。冒険者なんだが」
「……好みはあるか」
「大きくないものがいい。枝を割ったり、草むらを切り開いたりできるといいかもな。あとは、丈夫なものがいい」
そうしてリクエストをするが気難しい表情を崩さないままでいる。
金槌を振るう腕の力が少し弱まる。
おもむろに立ち上がると、一本の短剣を手に取る。
鞘から引き抜いて刃を見ている職人。光に照らして鈍りがないか確認した後、俺に手渡す。それは先端が尖ってはおらず、鉈に近しい見た目をしていた。
これなら、薪割りにも使えそうだった。
問題は、金額。
恐る恐るいくらするのか尋ねてみるも、職人が提示したのは銀貨二枚。
ここは鍛冶をする場所だが、基本的には街の兵隊や冒険者向けのものを作るだけで、戦闘用の武具を製作することが多いのだと。
鉈はリクエストがあったから試作で作ったが、思うようには売れなかったらしい。
日用使いするには大きすぎるし、かといって戦闘では不安。冒険と言っても、役に立つ武器は他に幾らでもある。
端的に、中途半端な性能だったのだろう。鍛冶職人である事に疑いはない。ただ、今まで作っていたのが戦いのための道具なのだから、作り方が分からなくても仕方がない。
それに俺はこの武器が気に入っていた。金額も手ごろに見えるし使い道も多い。
銀貨を二枚取り出して支払う。
そうして短刀を腰に括り付けて、俺は歩き出す。
「……刃を研ぐ事もしてる。金は取るがな」
「鈍らになったら来るよ」
最後に「ありがとう」と言ったが金槌の音で消えてしまったのか、職人は無言で自身の仕事を続けた。
鍛冶屋の店から道を歩いて、ギルド内へ入る。俺はいつもより自信を持って依頼ボードに向かった。が今から受ける依頼はすでに決めていた。
街の困りごとを解決して小さな報酬金をもらう。それから休息を取る。
休みを設けないと頭も体も働かない。買ったばかりの短刀も、日の目を見るのは数日後だ。
俺は階級の身の丈にあった依頼書を見つけ出すと手を掛けた。破り取ってカウンターまで持っていく。とその時、誰かとぶつかる。
「すいません。ちょっとよそ見をしていました」
不愉快だったのか無言のまま、被ったフードすら脱ぐ事はなかった。無愛想だなとその場を離れる。
「ああ待ってくれ。君に用がある」
俺の謝罪には無反応の割に話題を持ち出すのか。手招きされて空きテーブルに座る。
「俺に依頼でもあるのか? 残念だけど、力になれないと思うな」
「まあまあコレを見てくれないか? 一度だけでいいから」
そう言うとテーブルの上に丸い物体を置いた。透き通るようでいて半透明。水晶玉というやつだ。
片肘ついて気怠げに、目の前の占い師は水晶玉を覗く。
それに釣られて、俺も同じように見入ってしまう。だがその半透明に俺の運命が映り込む事はなかった。
辛抱強く待っても変わらない。空白の運命という事だろうか。転移者は皆こうなのだろうか。
「おや? 何も見えない。おかしいな…………以前君を見かけた時はピンと来たんだけど」
「そろそろいいか? 俺も、依頼を受けようと思っているだ」
騙された。ため息が心の中で木霊した。
手に持った一枚の依頼書を見せると立ち上がり、俺は詐欺師兼占い師の元を去ろうとする。
「もっといい依頼を受けたくないの? そんな物、やりがいはないと思うけどね」
「生憎、俺は身の丈を理解してるつもりでいるんだ。能力以上の依頼は受けないし金も受け取らない」
「いやいや君の能力は本物だろう。なんたって『狼茫猟団』から逃げたんだろ?」
「なんの話をしてる?」
「君だろ? 女の子と馬に乗って逃げたっていうのは。私たちの間で色々と、噂がされているんだけれど」
占い師の言葉を受けて、俺は再度席についた。
「あんた、何者だ?」
「占い師だよ。この街では結構人気なんだ。おかげさまで」
「話を逸らすなよ。盗賊の一員なんだろ。でなけりゃ、さっきの話を知ってるわけないもんな」
城塞都市であるアグリカにたどり着く前。
馬車が襲われた話だ。生存者は俺とトリナだけである。
そしてその話を知るのも必然的、俺とトリナだけ。どこかから漏れた話だったとしても、盗賊でないと仕入れる事のできない情報。
「脅しには見えないんだが、何が目的だ?」
「落ち着いてよ。今襲われたら、死ぬのは私の方だ。それにここは、君の味方の方が多いからね。だからその殺す気満々って感じ、やめてくれない?」
占い師に恐れを抱く様子はない。それどころかまだ余裕そうだ。予防策があるのだろう。
「で目的はなんだって聞いてるんだが。
わざわざ俺を焚き付けるような事を口にしたんだ。それなりに、理由はあるだろ?」
「ある依頼を受けて欲しいんだ。報酬金は……そうだね。金貨でどうたい?」
言葉に詰まった。驚きのせいで、うまく言葉をまとめられなかったのだ。そんな俺には構わず占い師は言葉を続ける。
「金貨に追加して盗賊団についても話そう。
それから私の正体は、この街における盗賊団のまとめ役だ。盗賊たちのためのギルド、”盗賊ギルド”ってとこかな」
「へ、へぇ。それで俺にか。他にも候補がいるんだろ? 例えば彼とか」
俺が親指で差したのは、マントを首に巻いた青年。旅装束のようなひらりと軽い衣類。対して背中に背負う武器は、大型のブレード。
最近A級になったばかりらしい。このギルドを挙げての祝宴を開いているのは、記憶に新しい。俺も一度だけ、彼と同じ依頼を受けたからわかる。彼は本物だ。
「もちろん候補にすらいないね。冒険者ってのは誇りを持ってるだろ? A級ともなれば尚更さ。その点、君は違う」
「……だとしても、金貨なんて報酬をチラつかせたら誰でもついてくるだろ」
「誰でもいいわけでもないんだ。正直な話をしよう。君は扱いやすい。現に茫狼猟団の話を出したらまた席についた。それが答えだ」
「…………少し、情報を整理したい」
目の前の占い師は敵か味方か。おそらくは、味方側。でなければ俺に接触しようとはしない。仮に敵だったとしたら回りくどいことはしないはずだ。
こいつは頭が回る。少なくとも俺以上に。
「ふあー、人が多いと暑苦しいな。それで、決めたかい?」
フードを脱いだ占い師は俺に聞く。肩にかかる髪の毛がサラリと揺れる。薄い赤色の瞳が見えた。
相手が人間だと理解できても警戒は解けなかった。
「その依頼の内容は?」
「いくら切っても無くならない森があってね。木材やら鉱物やら煌石やら……。とにかく色んな物が取れるんだ。鬱蒼としてるけどね」
「珍しいもんでも取ってこいってか? 宝探しか?」
「違う。ある物を持ち帰ってきてほしいんだ。『黄金の秘文字』と呼ばれている。
ただの棒に見えるけど、実際は魔法行使用の増幅触媒だ」
「手掛かりはないのか?」
「冒険者の一団が数日前に入り込んでね。その一団が運送していたんだが、中で魔物にやられたそうだ。生きて帰ってきた者はいない。
そこで君の出番って事だよ」
「なんで全滅したって分かるだよ」
「はぁ……日が経っても私のところに来ないのなら、そりゃあ予想付くよね」
占い師は、額を押さえて言葉を紡ぐ。
「受けてやろうじゃないか」
「そうこなくっちゃね! それじゃあ、馬車の手配とか諸々は、私が請け負う。心配しなくていいよ」
すると占い師は一枚の紙に何かを書いた。それを、俺に手渡す。
「夜だ。夜の……まあ暗い時間帯に馬車が来る。だからそれに乗るんだ。この紙を出して『アンナリナの使いだ』と言えばいい。頼んだよ」




