三十話 フクスイラの街
「ほあぁ……ここがフクスイラですか。大きな建物がたくさんありますね」
ジャミアが眉の上に手を置いて、建物を見上げる。平屋しか馴染みの無い少女にとって、平然とある二階三階建ての施設は夢のようであっただろう。
それに準じて、街行く人々も様々だ。
如何にも冒険者だと言った装いのグループに、小綺麗に着繕った物売り。
壁掛け看板には、文字の他にデカデカと絵が描かれる。剣や盾などの装備品から酒に馬小屋。
一目で分かるというのは、それだけで販促になるのだろう。
「んで、冒険者ギルドってのは何処にあるんだろうな。街の中心とかかな」
進む度に人々の賑わいが増す。喧騒がより一層高まる事で、街の中心部に向かっていると分かった。
そしてついに見つけたのは、冒険者ギルドの看板。公共施設なのか、一般の店や家屋なんかよりずっと立派だった。
苔や蔦の一つも無い綺麗さっぱりな扉を開けて、中へと入っていった。
熱気と熱狂が、ギルドの中から溢れてくる。酒やら肉やら薬草やら。数多が混じり合った匂いが俺たちを追い越して、外へと逃げていく。
扉を開いただけで注目されるとか、そういった事はないようだ。
入り口から正面に見えるカウンター。そこには誰かがいる。剣も槍も弓矢も持っていない。丸腰である。
おそらく、ギルド運営側の人間である。
俺たちはゾロゾロと歩いてカウンターに向かうが、その際には微妙に視線を引いた。なんだか、居心地の悪い視線だった。
「冒険者の認定証って、ここで貰えるんですか?」
「ええ。あなた方は冒険者志望の方々ですか? 冒険者になるにはまず知識技能の試験があるのをご存知ですか?」
カウンター台の裏に座る受付のお姉さんは、俺の質問に答えるとそう言った。知識の試験か。何も聞いていないゆえに、準備もできていない。
振り向いてノブチカやジャミアの顔を見るが、なんの事だか全員分かっていない。
すると受付嬢は、優しい声で定型分のような事を口にした。
「試験と言っても、私たちギルドが用意してした授業を講習してもらうだけですのでご心配なく。過去に試験形式で行ってたんですけど、あまりにも勉強してくる人が少なかったので、ギルドでは試験を辞めたんです」
「そうなんですか。なら、その講習ってのは今から受けることはできますか?」
「ええ、可能ですよ。それではすぐに実施しますか?」
「お願いします」
そう言うと、受付嬢は広げていた書類を簡単にまとめて、机の上に放置した。
椅子から立ち上がるとき、花のような香りが漂ってきた。香水でも付けているのだろうか。
「空いている席は……ちょうど良さそうなテーブルがありますね。あそこにしましょうか」
街を案内するガイドみたいに、先頭を歩いてはその空きテーブルへと歩いていく。
「まずは冒険者の種類や魔物の分類についてお話しします。冒険者は下からE級、D級、C級、B級、A級と徐々に上がっていきます」
アルファベット順に並んでいる。一番下がEなのは、俺たちにとってもありがたい並びだ。
なにせ現代でも”A”は一番を表すことが多いからだ。
「次に魔物の等級です。魔物は基本、下位と上位に分けられます。その二つの分類の中でさらに、低等と高等に分けられます」
「魔物の等級は四つに分けられてるってことですか?」
「基本はそうなります。ですが、上位:高等の魔物に分類するには危険性の高すぎるものがあるのも事実です。ですので、そういった危険種、あるいは未確認性の高い魔物は、上位:頂等と分類されます」
分かりやすいというか、ここまでの話で理解が難しいところは無かった。
論理的な思考を組み立てる訓練は、前世では小学校からやらされる。その経験がしっかりと生きているのだ。
「冒険者のランクですが、E級•D級は駆け出しであり依頼も簡単な物をこなす事が多いです。
C級•B級は中堅であり、最も数が多いです。A級は最高位な事もあって数が少ないです。その数に対して一番、死亡確率も高いです」
「魔物の等級的に、冒険者が受ける依頼は決まるんですか?」
「そうですね。下位:低等の魔物はEとC級の冒険者が対応する事が多いです。
高等の場合、C級相当の一団かB級の冒険者。
上位の場合、低等はA級冒険者。高等はA級相当の一団が数個必要となります」
「それなら、頂等の場合はどうなるんですか? まさか、放置とかですか」
それを聞くと、受付嬢はクスリと笑って俺を見た。そんなわけが無いと前振りをしてから、その秘密を話す。
「頂等の魔物や迷宮の場合、国や騎士団や傭兵団などが対応します。冒険者ギルドとしては、あまり手を出しません。
唯一、冒険者ギルドから派遣されるとしたら
”花持”の冒険者でしょうか」
「その、”花持”とは何ですか?」
「A級以上の実力を持った冒険者の事です。
一騎当千の武力。あらゆるを従える導き手。全てを見通す頭脳。
形は様々ですけど冒険者ギルドが、適合するクラスを用意できなかった人間へ贈られる称号です。
まあ『祝者』のようなものです」
分かってはいたが、冒険者は旅人のようなものなのか。各地を転々として依頼をこなして金を得る。
職業というより、生き方の一つなのかもしれない。
「それと冒険者というのは、基本的には盗賊などの無頼漢と変わりません。ギルドの証を持つか否かです。ですので、規律はしっかりと守るよう、肝に銘じておいてください。
でないと、冒険者もギルドも形を維持できませんから。冒険者は、信頼が命ですよ」
最後に人差し指を立てて注意を促す受付嬢。俺たちの質問への受け付けもせずに、知識技能の試験とやらは終了した。
「これで知識技能は終了です。次は冒険技能の試験になります。明日にしましょう。
一日、体を休めてからの方が皆さんのためにもなるでしょうし」
屈託のない笑みでそう言う。
「ありがとうございます。じゃあ、そうさせてもらいます」
「あっ、それと。このギルドには長居しない方がいいですよ。冒険者の方って、何でだか初心者を見ると絡んできますから」
去り際、受付嬢は耳打ちをしてきた。受付嬢が去った後、俺たちは少し話し込んでいた。
「宿はどうする? ギルドの二階に、一応あるみたいだけど」
「俺は他の場所にしたい。さっき受付け嬢も言ってたがここは周りの視線が鋭すぎる」
「だね。値は張るだろうけど、普通の宿を取るのが一番じゃないかな。ねー、ジャミちゃん」
ヒナが隣に座るジャミアへと寄り掛かる。
「私は皆さんの意見に従います。どこに行っても、私は精霊さんに頼み込んでみますけど」
「分かった。ならそうしよう。とりあえず今日は各々、
街を自由に回って、暗くなったらギルドに集合しよう」
俺はそう言う。初めにノブチカが。次はマイヤにヒナが。最後にジャミアが、席を立った。
最後に残ったアリスと俺は、まだ立ち上がらずにギルドに留まっていた。
「ユウキ、この前話してたこと、本気なの。嘘だよね?」
「……決めかねてる。俺は未熟だ。今までの旅が物語ってる。でも、俺は……このままでいても良い方向に向かうとは思えないんだ」
「だからそれがなんで一人旅に結び付くの? 力を合わせればいいでしょ。
そのための仲間なんだから」
「……結論は、出す。少なくとも、アリスや他の皆が納得する形の結論を」
夢の話はしなかった。俺自身、アレが何なのか理解していない。
俺の頭が作り出した幻影の一種か、それとも交信した何かの意思なのか。後者の可能性は、低いだろう。
けれど、俺には無視できない警告に思えてならない。どんな道を選ぶかは既に決めている。
「重たい話はもう止めよう。私、信じてるから」
「ああ。じゃあ、どこか行くか?」
その言葉に面食らったように、アリスは固まる。だが次の瞬間には、頬を掻きながらも承諾した。
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