二十四話 誤解からの和解
「ユウキ? じゃあ、あっちは?」
「剣を持ってるのがアリス。弓を持ってるのがノブチカ。女の子を持ってるのがヒナ。
これで分かったか」
先ほどまで殺し合いをしていた俺たちは、何故だか地面に腰を下ろして輪になっていた。
「まさか他の転移者に会えるなんて。とっても嬉しい日だよ! それとマイヤちゃん、久しぶりだねっ!」
「あ、ああどうも……お久しぶりで」
「そんなに他人行儀ならならないでよ。私たち、仲良かったでしょ? ねっ!」
「そ、そうでしたか? 私、クラスでいつも一人だった気がするんですけど」
寄代縋。この世界では『スガル•ヨリシロ』と名乗っているらしい。苗字と名前の位置を入れ替えただけだが、慣れ親しんだ形からの逸脱は、俺たちに多少の困惑を与える。
それ以上に、目の前の光景が一層の困惑を生み出している。
マイヤの腕にくっ付いて、二の腕に頬擦りするスガル。マイヤも大概だが、スガルの肌は真っ白だった。普段、外には出ないのかもしれない。
「なあ、スガルってこんな奴だったのか?」
「まあマイヤの事が大好きなのは隠してなかったね。しっかし、ここまでだとは知らなかった」
流石に、これにはヒナも引きがちだった。
マイヤは、スガルと俺たちを交互に見るが、問題児を引き受けようとする者は誰もいない。
口をつぐんで、スガルの過剰なスキンシップを見守るしかない。
「あっ、なあスガル。この辺りに街はないか? 俺たち、フクスイラを目指してるんだが、補給しなきゃいけない物資も多くて」
「ん? ならエンザじゃない。ここから二、三時間で着くよ。私も今はそこに住んでるし」
「案内してくれないか。どこにあるのか分からないんだ」
「いいよ。でもその前に、本当に密猟者じゃないんだよね?」
「言ってるだろ、違うって。故意に魔物に近づくかってんだよ」
「それなら良いんだけど。じゃあ、出発するよ。こんな事してると、日が暮れちゃうからね!」
そう言ってもマイヤの腕を離すつもりは無いようで、歩いている途中は、ずっと腕を組んでいた。
終始うなされたような顔で体を引っ張られていたマイヤは、気の毒だと思う。
「ここか。なんだか……普通だな」
「どんな場所を期待してたの?」
「もっとこう、罠とかあるものだと。デカい柵も無いし」
「無くてもいいのさ。森の中ならともかく、ここはヒト族の領域だからね」
そんなことを言ったスガルは、マイヤから離れる。俺たちの前に立ち、その威厳を見せる。
「知りたい事も多いだろう。とりあえず、私の家に来てくれ。それまでしっかり、案内するからさ」
この世界の家は、基本平屋らしい。二階建て以上の家がどこにも見当たらないのだ。
それに比べて、農地は広い。無駄なくらい。数も多いし、これは重労働だろう。
この街では宿屋にすら二階は無く、全てが素朴で華奢だった。
別にどうこう思うでも無いのだが、この世界は、俺たちの元いた世界に似ている。
だが生活様式には全くの違いがある。どうしても適応出来ない事だってあるのかもしれない。
十数分歩くと一本の塔が見えた。監視塔のような見た目である。
「着いたよ。ここが、私の家だ」
「何コレ。監視塔?」
「ああ。監視塔兼、私の家だ。ここら一帯を治めてる領主は、上役をあまり好んでないみたいでさ。役割りがあるとか何とか言って、私をここに押し込んでいるんだ」
案内されたその中は比較的物が多い。円形の室内であり、本棚をはじめとした調度品が数多配置されている。
好奇心をそそられる物ばかりで、自然と惹きつけられていた。
が、そんな空気も、スガルの一言で終わりを告げた。
「頼み事があるんだ。もちろん、お金は払うよ。というか君たち一文なしだろ?
ここはクラスメイトのよしみで、協力しようよ」
「俺たちに何をしてほしいんだ? というか、そもそも俺たちにできる事があるのか?」
至極真っ当な疑問だったと思う。俺たちよりこの世界に詳しくて、かつ強い。それなら、手を借りる必要がなさそうにも思えるのだが。
「あー、まあ。肩がこれじゃあ、ね。頼みたいのは、これを配達する事さ。何枚もあるけど、一家に一枚渡してほしい」
穀物の収穫量や、それに伴う上納量。全て同じ事が記載されている。
「今日中にか」
「明日からでもいいよ。ぶっちゃけそれが無くとも領主が勝手に持っていくからね」
「じゃあ渡さなくてもよくない?」
「最悪無くてもいいってだけで、基本はあった方が楽だからね。まあ、貴重な紙をこんな事に使ってるのは、大陸中を探してもあの領主だけだと思うけどね」
椅子に腰掛けたスガルは、心底面倒くさいといった様子で話していた。
「今日出来る分やれば、明日は少なくなるよね。じゃあ出来るとこまでやらない?
どうせ暇だし、私」
「そうだな。早く終わらせた方がいいかも。紙持って、ぼちぼち出発しますか」
あまりにも短い滞在時間だったが、日が暮れるのを待って明日から始めるのは時間の無駄だ。
明るい内に出来ることはやっておく。
6人という大所帯で練り歩くのも、いささか大袈裟に見えるだろうが、まあいいだろう。
次々と、スガルに背中を向けていく。そんな中、俺が回れ右をしたときスガルが、俺を引き止めた。
「ユウキはここに残って。必要な物資とか援助とか、そういうのを聞いておかないといけないから」
「なら俺も残るか? 物資関連はヒナといっしょに管理してるから詳しいぞ」
「ユウキだけでいいよ。正直なところ、話し合うのはそれだけじゃないから」
ノブチカは「そうか」と低く呟くと、そのまま外に出てしまう。一人また一人と、その背中を追っていく。
数秒と経たずに、監視塔の中には俺とスガルの二人だけになっていた。
「さて、本題に入ろうか。聞きたい事は山ほどあるだろうけど、私も同じだよ」
「お互い知らない事だらけってことか」
「そういう事。多少は私の方が知ってるけどね」
スガルは机の上にある水瓶へと手を伸ばす。
コップを引き寄せるとそれに液体を注いでいく。流れる液体の色は、紫色。いや赤だろうか。とにかく、ワインの色をしている。
「飲む?」
「いや、いい。それで、何が聞きたいんだ」
「転移の事もそうだし、魔法の事もだ。一つずついこう」
そうして空気が変わった。張り詰めるとまではいかないが、言葉を選ばなければいけない。そんな重たい感覚だ。
「転移してから、私たちは姿が変わった。ユウキ達以外にも、転移者に会った事があるから、確定。だが法則性はない。完全なランダム、無秩序だ」
最初から理解し難い話だ。
元の姿形より、大きく変化してるのは知っている。他の皆がそうだとも分かっていた。それを改めて聞かされても。
一体なにを話せばいいのやら。
「は、はぁ。それに関してなにか言えることはない。だって俺も知らない事ばっかりだもん」
「不思議に思わない?」
「そりゃあ不思議だし不可解だけども、誰も気にしてないからな。俺が一人で躍起になっても、良い事はないだろ」
それを聞いたスガルは、ニヤリと笑っている。なんだか不気味に思える笑み。閃いたと言うか思いついたと言うか。とにかくそんな笑みだった。
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