十六話 転移者捜索のため
「ひとまず危機は去った。ってことで、これからどうするかだが……何か案のある人いる?」
宿屋の一室、ギュウギュウ詰めになった部屋の中で俺が聞いた。
「これから……ねぇ。何も考えていないよ」
アリスは困ったようにそう言う。今までは、一つの明確な目標に向かって足並みを揃えていた。
だが、いざ終わってしまうと、これからどうすればいいのか漠然としていた。
だからこそ、俺なりの答えを示した。本音は、みんなと離れるのが嫌だからだが。この本音は隠し通したい所だ。
「じゃあ俺からいいか?」
「なんだ考えがあるのか。一応聞いてみるか」
「あ、ありがとう。てかその堅物みたいな言い方やめてくんない? こわいんだけど」
「まあ元々の俺の性格だからどうにもならんな」
ノブチカは言い放つ。久しぶりに、年相応の男子の会話ができた気がする。こうやって、少しずつでも日常を演じられたら。もしかしたら、俺たちはこの世界で日常を取り戻せるかもしれない。
そんな小さな幸せを感じながら俺は考えを伝える。
「ひとまず考えたのは、他に転移したクラスメイトの捜索だ。元の世界に戻るにしても、人手は欲しいだろ? それに、生きてるかどうかも分からないんだから」
「皆が死んだみたいに言わないでよ」
ヒナが珍しく語調を強めて言う。俺だって”死んだ”なんて思っていない。そんなこと、考えたくもない。
「そうは言ってない。ただ、他に転移した奴らはきっと、俺たちより情報を持ってるかもしれない」
「他にもある? そう言えば神様の言葉が気になるけど」
「ああ、アリスの言う通りだ。もう一つは、神様の言葉の真意だ。
正直、きな臭い。ただの高校生だった俺たちに世界を救えって。無理があり過ぎだ」
「言われてみればそうだな。俺たちは子供なのに世界を救えなんて。可笑しな話だ」
アリスの疑問を皮切りに頭を悩ませる。
うーんと頭を捻っても新しい考えは降りてこない。俺が手を叩くと、全員の視線を集めた。
「まとめよう。
一つ目の目標は『他の転移者を探す』こと。
二つ目の目標は『神様の言葉の真意を探る』こと。でも正直、二つ目は神様に会わないとどうにもならないから、俺たちは転移者探しをしつつ、元の世界への手掛かりを探していかないか?」
俺の心臓が鼓動を速めた。断られたらどうしようかと、そんな心配からだった。ずっと思っているのだ。俺は1人で生きていくのに向いていないと。
だがそんな心配は空振りだった。ヒナもアリスもノブチカも、頷いて「そうだな」と言ってくれている。
驚いた俺は、悪手を取ってしまった。
「ほ、本当にいいのか? い、いっしょに来てくれるのか?」
この質問は絶対駄目だっただろう。俺が寂しがり屋だってバレるし、気持ちが重たい。
そしてなにより、仲間ならば信じて然るべきなのに。俺は確認してしまう。
「えっ、ユウって意外と寂しがりんぼ?」
「君、私が居ないと死んだたかもでしょ? ついて行くよ」
「俺も賛成だ。この世界は、1人で生きるのに明らかに向いていないからな。
それにお前の指示は的確だったしな。冒険者になれるかもしれない」
目頭が熱くなる。が、なんとか上を向いて涙を回避する。3人の言葉を聞いた俺は、もう1人に、改めて聞いてみる。
「マイヤ、それでいいか? 他に何かあれば教えて欲しいんだが」
「また、あんな事をするんですか? 魔物と戦って死ぬような目にあって。それでも、動き続けるって、言うんですか……!」
服の端を掴んでマイヤは訴えた。その声は震えていた。答えに迷っていると、鼻を啜る音まで聞こえてくる。
俯いている。だから、その表情も涙も見えない。でも今の彼女に必要なのは、きっと言葉だと思う。
ベッドから降りて、俺はマイヤの元へ向かった。
マイヤは以前のような椅子を作ってはいない。床に、足を揃えて座っている。
俺はそんな彼女の前にしゃがんだ。体は痛むし、動くたびに連動するみたいな激痛が現れる。
でもせめて目線は、同じにして話をしたいのだ。
「次は……うまくいかないかもしれません。ズタズタに、生きたまま……食べられるかも。
私、嫌です。死にたくない…………怖い」
手の甲に涙が落ちている。ポツポツと絶え間なく、氷柱から水滴が落ちるみたいに一定的に。声は小さかったし、絞り出した苦しい言葉だと分かる。
「分かった。なら、この村で暮らすって手もある。勿論、俺たちが得た情報は逐一伝える。
元の世界に戻る方法とか、こんな奴に会ったとか。だから、ここで安全な暮らしをしてもいいんだ」
その言葉に誰も意義は唱えない。それどころか、ヒナやノブチカは推奨すらしていた。
アリスは名残惜しそうに口を動かすけど、結局は優しい言葉を選ぶ。
振り向くと気がつく、背中に向けられた優しさ。それは最後に俺の元を通り抜け、マイヤへと宿っていく暖かい想いの集積体。
彼女の肩に手を置いた。顔を上げてほしいと思った。伝わったのか、彼女は涙で歪んだ顔で俺を見上げる。
「選べなんて言わない。だから、心の整理が出来るまで休んでいいんだ。
辛いことは自分のせいじゃない。他の何かのせいにしたっていいんだ。だから、ゆっくりと生きていこう」
それを聞いて、マイヤは口を動かす。けれど声は聞こえない。ひどく小さいのか、それとも言葉はまだ形を持っていないのか。
「ぁあっ。でも……私は、やっぱり。こ……わい。だから、だから! ここで安全に、暮らしたい……ごめん。なさい。
ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい、
でも! 私は、怖いの」
吐露した胸の内はぐちゃぐちゃで、纏まった言葉は紡げないのだろう。だから待った。マイヤがまた話してくれるまで、俺たちは待ち続けた。
「失いたくない。でも、死にたくもない。少なくとも、私の目の前で死んでほしくない。
最低だって分かってるけど、でも、私の目の前でだけは……傷ついてほしくないの」
「それでいいじゃないか。最低なんかじゃないよ、その心は。むしろ、優さだよ。
傷付く誰かを見たくないのは、マイヤが優しいからだよ」
それ以上は誰も、何も言わない。そんな必要は無いからと、皆理解しているのだ。
それは俺もそうだし、もちろんマイヤも同じだった。涙を飲み込んで、最後に見せたのは歪な笑顔。
彼女が今出来る、精一杯の”かわいい笑顔”なのだ。
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