九話 最後の準備確認
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「ノブチカって狩りに出かけてたんだろ。魔物の狩りって一体どんな事するんだ」
「痕跡を探して罠を仕掛けて待つ。これが狩りの基本だな。まあ俺流のやり方だが」
「へー。じゃあこの村で行った狩りも、そんな感じで進めたのか?」
「いや村の狩人達がすでに痕跡を見つけてくれていてな。仕事をしろって視線が強かったから仕方がなく付いていった感じだな。
それにしても、この村の狩人達は少し危機感がなかった。あれじゃあその内良くない事が起きるかもしれん」
腕を組んだノブチカはそう言う。
村を守護する立場でないとは言え、危機感の無い狩人とは少し信じがたい。もっと用心深い人種だと思っていたのだが。
するとノブチカは、思い出したかのように顔を上げる。今度は彼が俺に質問する番だった。
「なあユウキ。お前は何か覚えているのか? この世界の常識というか、自分の『生きて来た』道のりを」
「残念だけど俺には何もないみたいなんだ。ただまあ、ふとした拍子に思い出せるのかもしれないけど」
「そうか。何だかおかしいよな。身体が変わってるのに記憶に混濁が無いなんて」
そこまで聞いた俺はノブチカに聞き返す。もしこの質問に答えられなかったら、相当マズい事になっている可能性がある。
「なあ、栽原倫也を覚えてるか? 御手洗一郎はどうだ」
「うっすらと覚えているような覚えてないような……でも、どうして急にそんな」
「…………両親の事は、覚えてるよな?」
恐る恐る質問する。冷や汗が垂れる。両親と聞いたノブチカは、面食らってきょとんとしていた。彼の答え次第では俺の仮説が成立してしまう。悪い意味での仮説だ。
「何言ってんだ忘れるわけがないだろ」
「父親は何をしてた? 母親は? 家族構成は? 教えてくれ」
「気でも狂ったのか? 親父は工場で金属部品作ってるし母さんは、嶋田の肉屋でレジ打ってるよ。兄貴は大学行ってるし。この世界に来たからってそう易々忘れるわけがないだろう。
家族だからな」
熱でもあるのか? と俺を揶揄う。まあノブチカの事だ、本気でそう思っているのだろう。
危なかった。俺の仮説が完全に否定されたわけでは無いが、最悪の事態は避けられたようだ。緊張の解けた俺に怪訝な瞳を向けるが、質問の真意と仮説を伝えるのは全てが終わってからだ。
それまではお預けにしておこう。俺にも、考えを咀嚼する時間が必要だから。気分を変えるためにも最初の質問に戻ろう。
「狩りの事教えてくれよ。何をしたかとか、どんな魔物が出たかとか」
「サベージウルフがメインだ。ここらの近く村の周辺に現れるのはそのほとんどがサベージウルフだからな。他には、鶏がいたな」
「へぇー。やっぱり鶏冠あった? あいつらって首切っても動くらしいじゃん」
「鶏冠? 無かったな。その代わりに鉤爪があった。かなりデカい個体だったな」
「鶏なのに鶏冠が無いなんて……騙された気分だな」
「全くだ。サベージウルフだけかと思っていたら、あんな魔物に遭遇するなんて。
やはり油断は禁物だ」
「魔物? 動物じゃないのか? ほら鳥類の」
「鳥類だし動物だろ、アレは。まあ今度現れたら教えてやる」
うんうんと頷きながら瞳を閉じるノブチカと、何だか会話が噛み合わない。鶏でもこの世界では魔物扱いなのか。
それならば、魔物の定義とは何なのだろうか。
得なければならない答えは無数にある。
だが一度に考えても頭がパンクするだけだ。少しずつ解明していこう。俺たちの使命もこの世界も。だが今は、話の続きだ。
森での短い冒険の話を聞こうとするも、タイミングよく扉が開いた。
ズカズカと我がもの顔で入って来るのは、3人の少女。
「じゃあ昨日の続きだね。会議スタート」
アリスはそう言って最早、定位置と化している椅子へと一直線に向かう。司会進行はもちろん俺。不満は無いが、もっと話を聞く態度を見せてほしい。
「昨日は俺がダウンしちゃって色々と伝え損ねた事もある。
だから昨日の続きって事でいいか」
予め決めていた予定では無いが、中々うまく司会できているのではないだろうか。
その証拠といいのか、4人は俺の言葉に耳を傾けている。
「まずは人員配置から。
マイヤとヒナは二人並んで中、ノブチカは一番後ろ。前にはアリスと俺がつくけど、アリスが若干俺より前に出る形だ。洞窟が狭かったら一列で、前後は変わらずって感じだ。質問はあるか?」
隊列に関して質問や異議は無かった。それを確認してから次の段階に進む。
俺は頷いきつつ続ける。
「次は出来る事だ。神様からの『贈り物』だな。分かってる範囲でいいから皆と共有しよう。それじゃあ、まずはマイヤから」
「うん。私はね『精霊さんと話せる』の。魔法も使えるけど、上手くできません。まだ。
でもでも、精霊さんが色々と魔法を使ってくれるよ! 傷の治療はみんな出来ないでしょ?」
なるほど、マイヤは治療が出来るのか。他にもあるだろうが、彼女はやはり戦闘に参加させたくないな。
皆の援護がある所に配置を意識して、常に動くとしよう。
「じゃあ次は私ね。私は『刻印魔法』が使える。
まあ普通に魔法も使えるしって感じかな。魔法を込める事が出来るって理解で合ってるからね」
「俺は『弓術』があるな。百撃って百当たるとは言えないがそれなりに腕はある。そんな気がする。
それとおそらくだが、視力と知覚力に優れてるな。なんだか感覚が鋭くなってるんだよ」
判然としない答えだが、まあ良しとしよう。ヒナの場合は所謂『エンチャント』の類と考えていいだろう。
残った最後は聞くまでもないが、一応耳を傾けるか。
「私? 私は『剣術と身体機能』だろうね。思い通りに体が動くし頭も冴えてる。おまけに剣は手足みたいに扱える。
たぶん、ここでなら一番、武芸に秀でてるんだと思う。神様って、どんな基準で選んだんだろうね?」
「これで全員だな。それと言っておくが、俺はこれといって分かってない。言葉が分かることなのか? って思ったけど、皆も理解してるからこれは違う」
我ながら情けない。自分に力が無いことも、それを淡々と説明するしか無いこともだ。
だがアリスは俺に一つ教えてくれた。それが神様からのプレゼントかどうかは定かではないが、確かに《《俺へ備わった》》技能だ。
「人付き合いとか? ほら、村長に直談判した時もすんなり事が進んだじゃん」
「言われてみればそうですね。もっとごねられるかと思いましたけど、案外すぐに終わりましたもんね」
「なんだ? 俺の加護はまさか『交渉』なのか? 今使えないじゃないか……」
「でも仮にそうだったらこれから先、絶対役に立つよ」
まあそんな日が来ればいいが。
っといかんいかん。がっくりと項垂れている時間など無いのだ。
皆の技能を照らし合わせ、俺は思い付いた作戦を共有した。
「ノブチカは背後から援護しつつ奇襲のケア。ヒナは辺りを見ながら精霊で環境を整える。マイヤは魔法で俺たちの補助。アリスは全力で前を張る。こんな形だな」
「おいお前は何をするんだ」
「逐一状況判断しながら指示を出す。俺は器用貧乏だ。今日分かったが剣は上手く使えない。
盾になりつつ魔法で妨害や支援をする。
あくまで前衛だが、アリスの半分の働きが出来れば上々だと思っていてくれ」
まっすぐな瞳で俺はそう言った。側から見れば、役立たずがリーダーの真似事をしているように映るだろう。
だが、今の俺に出来るのはこれだけだ。
状況を判断し最適な一手を導き出す。何よりも、迷わず決断する事。それはたぶん、俺にしか出来ない。
俺は、4人の命を背負っているのだから。
神妙な雰囲気だった。話し込んで気が付かなかったが、すでに夕飯時である。気がついたのは、マイヤが腹の虫を鳴らしたからでもある。
頬を真っ赤に染めたマイヤは恥ずかしそうに、人差し指を合わせながら言った。
「あの、お腹空いてません? わ、私お腹なっちゃって……」
「あー、飯食って寝るか?」
ヒナが「さんせーい」と間の抜けた声で賛同した。それからまだ外の景色が視認出来るうちに、市場の残り物を抑えに行こうとする。
立ち上がった俺の背中にアリスが声を掛けた。足元にあった包みの中には、野菜や果物が詰まっており、あらかじめ仕入れていたのだと言う。何とも準備の良い事だ。
俺たちはその新鮮とは言えない野菜類を夕食とした。腹も満たされ満足し、そのまま眠りについた。




