【6-3】闇を裂く咆哮
首都高速、湾岸線。
等間隔に並ぶナトリウム灯の明かりが、車内を規則正しく照らしては過ぎ去っていく。
後部座席では、あやめが動物園で買ったパンダのぬいぐるみを抱きしめ、小さな寝息を立てていた。
その平穏を切り裂いたのは、鼓膜を震わせるような高回転の排気音だった。
(……なんだ、あいつは)
和樹の背筋に、冷たい電流が走る。
バックミラーの中で、一台の黒い大型バイクが、車群を縫うようにして急速に接近してくる。
ライトを消したまま、獲物を追う猛禽類のような気味の悪い動き。
和樹はアクセルを慎重に踏み込み、走行車線から追い越し車線へとラインを変えた。
だが、バイクは吸い付くような正確さで、その背後に張り付く。
「……あやめ、起きるなよ」
和樹は自分に言い聞かせるように呟き、ステアリングを握る手に力を込めた。
次の瞬間、バイクが加速した。
並走する位置まで一気に詰め寄ると、ライダーが右手を懐に入れるのが見えた。
「伏せろッ!!」
和樹は叫ぶと同時に、後部座席を庇うように身を乗り出した。
直後、パァンという乾いた音が二度、車内に響く。
フロントガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、冷たい風と共に火薬の匂いが流れ込んできた。
「……っ、ふざけやがって!」
和樹はブレーキを蹴り、急減速でバイクの鼻先を叩こうとした。
だが、ライダーは重力を無視したような挙動で車体を寝かせ、衝突を回避する。
ヘルメットのシールド越しに、一瞬だけ見えた「瞳」。
それは人間らしい感情を一切宿していない、ただ標的だけを見据える無機質な光だった。
バイクは再び加速し、今度はSUVの鼻先を抑え込むように蛇行を始めた。
時速百キロを超える死のダンス。
和樹は、この数日間自分を突き動かしてきた感情を、拳に込めた。
あやめは俺が守る。
それだけが、今の和樹を支える唯一の理由だった。
和樹は一気にシフトダウンし、エンジンを咆哮させた。
バイクがさらに接近してきた瞬間、あえてガードレール側にハンドルを切り、サイドを接触させる。
金属が擦れ合う激しい火花が夜の闇を焦がした。
バランスを崩したバイクが火花を散らして転倒し、ライダーの体がアスファルトの上を滑っていく。
和樹はタイヤを悲鳴させながら、なんとか車を路肩に停めた。
お読みいただきありがとうございます!
もし「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 ページ下の【☆】マークから評価や、ブックマーク登録をしていただけると、作者のモチベーションがマッハで上がります! (感想もお待ちしています!)
★隔週で更新いたします!




