舞踏猿
リュクスたちはダンシングエイプのいる誘踊の森にと来ていた。風もないのに木々が揺れ動き、ガサガサと葉の音が鳴り響く。この音を気にしすぎて集中力を欠く冒険者が絶えないのだ。
リュクスも少し音を意識してしまっていたが、目的のダンシングエイプを発見し、葉の音を意識の外にと追いやった。木々のない開けた場所に10匹で固まり、コサックダンスのような不可思議な踊りを踊っていた。
リュクスは自身とベードとフレウにクイックアップとファストアップをかけて、識別できる位置にまでベードに近づいてもらった。
「キ?キキ!!」「キ?キー!」
ベードはしっかりと隠密していたはずなのだが、開けた場所に入った瞬間、猿たちはリュクスたちの存在に気づいたようだ。リュクスは仕方なしに向かって来るダンシングエイプを識別した
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対象:ダンシングエイプ
踊りを愛する猿。様々な踊りがあるため、すべての踊りを見ることは難しいだろう。
二匹以上で行う複合舞踏は様々な力を生みだし、敵を翻弄する。
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バレリーナのように回り踊りながら、リュクス達に近寄って来ている猿たち。ヘンテコな動きにもかかわらずかなりの速さで、これ以上は近づかれるとまずいとリュクスも反撃を考える。
早い相手にはスロウダウンと考えたのだが、遠くの相手にかけようとしたのだが、リュクスの中で届かないことが感覚で理解できた。ついでに言えば複数相手にスロウダウンを使えるのか確認していなかった。少しでも動きを鈍らせるしかないと、リュクスは火を波の形で広げるイメージを思い浮かべ魔法を放った。
「ファイアウェーブ!」
「キィ!」
ベードの目前から火の波が発生し始めたが、猿達はすぐに華麗なバク転で後方へとよけ、ウェーブが届かないまでに遠ざかった。距離は取れたが冷静な判断をする相手だと、リュクスは改めて猿たちの危険度を認識する。
猿たちのうちの2匹ががっちり手をつかみあい、片方が回り始め、もう片方が力のままに振り回され始める。これはダンスなのかと疑問に思ってしまったリュクスだったが、遠心力のまま勢いよくリュクス達に向かって飛ばしてきた。飛んでいく猿も回転し、トルネードアタックをかます。
「スロウダウン!」
一匹しか飛んでこないならと、リュクスは確実にスロウダウンをかけたのだが、ゆっくり回りながら空を飛ぶ猿を見てシュールだと、リュクスは軽く苦笑いしてしまった。
苦笑いしつつもリュクスはすぐさまファイアランスを5発連打でぶつける。合間にフレウもフレイムボールを3発当て、猿が燃え上がっていたが、ランスがとどめになったのか、炎がやみ燃え尽きることなく死体が残った。
飛んできた一匹の猿に集中しているうちに、リュクスたちの視界から他9匹の姿が見えなくなっていた。どこに行ったのかとリュクスが見渡しているうちに、ベードがその場から大きく退避した。猿の一匹が地面から殴り上げるように片腕を突き上げ、もう片手は鼻をつまんだ状態で飛び出してきた。
他8匹もベードを狙い、リズミカルに飛び出してきたのだが、ベードは素早い動きで回避しきってしまう。一匹を仕留め油断していたリュクスは、ベードに乗ってなかったらもろに食らってたと反省する。
今の猿たちの動きはさながらシンクロナイズドスイミング。地面を潜れる魔物だという情報を知らなかったリュクスとしては、完全に不意を突かれたわけだ。いつでも潜れるわけではないようで、猿たちは今は地面の上にしっかりと立っている。
「地面に潜ってない今のうちかな。フレウ、そろそろ予定通りおねがい。」
「コ。コケッ、コッコッコ!」
リュクスがフレウに指示したのは油弾だが、ダンシングエイプに当てるのは難しいだろうと、地面に向かって油弾を打たせたのだ。あからさまに外れた魔法を見た猿たちが、心なしか馬鹿にしたように笑っていた。
猿達の内4匹はバレリーナのように回りつつ、リュクス達に突っ込み、油弾まみれになった地面にと足を踏み入れ、そしてリュクスの予定通りすっころんで横転したのだ。
「猿知恵じゃ知らなかったんじゃない?油は滑るんだよ、土の地面でもね!ファイアランス!」
横転した猿達の地面に向かって、リュクスがファイアランスを投げ射ると、一気に猿達は燃えあがる。慌てふためく猿たちだが、足元の油で滑りまた横転。隙だらけの猿たちに向かい、今度は直接ファイアランスを打ち込もうと構えたリュクスだったが、他五匹の姿がまた見えないことに気が付く。
その瞬間、ベードを囲むように5匹の猿達が同時に地面から飛び出した。先ほどと違いシンクロポージングすら決めてない姿に、リュクスも即座に指示を出す。
「ベードは前三匹の拘束頼んだ!フレウは牽制!僕はこれ!スロウダウン!」
リュクスは後ろに振り向き二匹相手にスロウダウンをかける。ぶっつけ本番の複数がけだったが、今にも飛びつかんとする猿二匹の動きはゆっくりになった。追撃を考えたリュクスだったが、背後からフレウとベードの叫ぶ声が聞こえてきた。
「ゴゲッ!」「ばぅがぁ!」
「フレウ!?ベード!?」
ベードの前方へと振り向いたリュクスだったが、姿勢保ててるからベードは何ともないと判断したが、フレウがベードの頭上からいなくなっていた
囲まれたベードとしては避ける方向を見失い、リュクスの指示で魔法に集中。ちょうどクイックアップの効果が切れてたのもあり、猿の攻撃をよけきれず、フレウは素早い動きに牽制もできず、ベードの頭上を一匹のサルの足が通り過ぎていた。
「フレウ!」
リュクスはスロウダウンの効果時間も忘れ、ベードから慌てて降りて吹っ飛ばされたフレウにと駆け寄る。
「コ…」
「一発だけど結構致命傷じゃんか!ごめんね悪かったよ。攻撃を受けなければいいとか、僕が甘かったと思う。ヒーリングハンド。」
ぐったりしてるフレウは蹴り飛ばされただけだが、地面との激突もあってかなりの重症の様子。応急処置としてリュクスはヒーリングハンドを使ってフレウを癒す。
「キキキ!」「ばぅわぅ!」
ベードは影術によってなんとか目の前の3匹を拘束しているが、スロウダウンをかけた二匹が効果が解けて着地し鳴き声を荒げる。リュクスはこれ以上ここで回復は無理だと、フレウを宿に待機中のモイザにと託す。
「トランスポート。」
光に包まれてフレウが転送された。モイザが応急処置してくれると信じ、リュクスは眼前の猿をにらみつける。今までの気配と違うリュクスの様子に頭上のレイトが思わず声をかけた。
「きゅ?」
「レイト…わかってるよ。僕の起こしたことだからね。今回はレイトの手は借りないよ。」
「きゅ。」
諭すように声をかけてきたレイトだったが、リュクスは内にこみあげてくる物があった。自分への怒りか猿への怒りか、怒りで燃えるままにリュクスは力を使う。
「火を愛でる手、いや違うみたいだ。炎を愛でる手、フレイムハンド。そしてヘイスト。」
リュクスの手がゴゥッと燃え上がるが、リュクスが燃えているわけではなく手に火を纏っているだけである。後方からベードを今にも襲おうとしていた一匹の猿に、リュクスは一瞬で近寄り、どてっぱらをぶん殴った。殴られた猿の腹は焼け落ちて風穴があいていた。そしてもう一匹にも一瞬で近づき同じように腹に風穴を開ける。
「ばぅわ!」
「キキー!」
「大丈夫だよベード。すぐ対処する。少し後ろに引いてて。」
影で拘束されていた3匹の猿が力任せに拘束を破ったようで、ベードが慌ててリュクスに声をかけたが、効果時間の短いヘイストが切れてしまう。しかし今のリュクスは気持ち悪さを感じないようで、ヘイスト追加して一瞬で近寄り、あっけなく3匹の腹に風穴を開けていた。
「うぐっ、気持ち悪い…」
戦いが終わりリュクスの両手から火が消える 。ヘイストも切れ副作用からリュクスは地面に四つ這いになってしまう。苦しみながらもリュクスは今の戦いを思い出す。自分の中で急に浮かんできた戦い方通りにできてしまったのだ。
フレウの怪我を見て頭に血が上ったとはいえ、リュクスもしっかりと考えていて、レイトやベードにも普通に返事したはずなのだが、どうしてこんな戦い方が浮かんだのかと、リュクスは自分の手を見つめた。
「はぁ、今はいいや。ベードは大丈夫?」
「ばぅ。」
「よし、死体回収したら急いで宿戻ろう。森の中は全速力ね。フレウが心配だし。」
「バゥ!」
リュクスはすぐさま起き上がって死体を回収し、ベードに全力で森を駆け抜けてもらい街にと戻る。門からは速足で宿にとたどり着き、急いで中の様子を見たリュクスだったが、ソファーの上で包帯代わりに糸をまかれたフレウが片翼を上げて迎えた。モイザもフレウの横で看病していたようだ。
「大丈夫そうでよかった…モイザもありがとう。」
「コ。」「――――。」
一安心したリュクスはどっと疲れが押し寄せ、その場に座り込んでしまう。一休憩入れるのも合わせ、先ほどの戦いで無意識に火ではなく炎を使ったことを思い出し、自身のスキルを識別で確認する。
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対象:リュクス・アルイン
種族:ヒュマ 歴:18
職業:テイマー
スキル:〈料理〉〈集中〉〈炎術〉〈テイム〉〈従魔待機〉〈識別〉〈六感分析〉〈時空術〉〈個別指示〉〈分担指示〉〈統制指示〉〈魔獣言語〉〈愛でる手〉〈暴力的幸運〉〈合成〉〈騎乗戦〉〈棒術〉
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火術が炎術にと変化しているのを改めてリュクスは確認する。威力アップは期待できるが炭づくりができなくなりそうだと一瞬思ったが、しばらく炭づくりに手を出していなかったので別にいいかと思い直した。
「これでフレウと同じ炎術になったけど、フレイムボールでも食べてみる?」
「コ!」
元気よく返事したフレウに、リュクスは初フレイムボールを作り出して食べさせる。怪我をしているとは思えないほどフレウは勢いよく吸い尽くした。ファイアボールよりもおいしいかったようで、軽く跳ね喜ぶフレウを見てリュクスも一安心した。




