店舗と接続倉庫
フレウの様子見も兼ねて、リュクスはその日は宿で過ごしたのだが、夕食後にトレビス商長から店舗ができ上った連絡を受けていた。翌日は宿を出る前に先払いで延長金を払い、リュクスは帰宅のために教会へと向かう。
教会に入ったリュクスは神官に一礼しつつ、リターンロケーションを発動して転移する。帰還の魔法なのでたどり着くのは家の簡易神殿だったわけだが、部屋が狭くベードの大きさだとぎりぎりな様子だ。リュクスはさっさとリビングにと出て従魔たちに声をかけた。
「それじゃあ僕は出来上がったらしい店を見に行くから、みんな自由行動してていいよ。」
「きゅ。」「コ!?」
「ちょレイト!?」
自由行動と聞いた途端に、珍しくレイトがリュクスの上から降りたかと思えば、唐突にフレウをベードの頭上から突き落とした。驚くリュクスに振り向いたレイトの目は真剣そのものだった。
「えーっと、なにするかわからないけど、昨日治ったばっかりなんだから無理はさせないようにね?」
「きゅ。」「コ…」
そこは止めてほしかったと言わんばかりな様子のフレウは、レイトに鼻先で転がされていった。リビングの引き戸をどう開けるのかとリュクスは見守っていたが、レイトがドアノブに飛びついたかと思えば、そのまま体重操作だけで引き戸を開けていた。
ドアの重さで引き戸が締まったのを見て、あの様子なら玄関扉も問題ないだろうと見送ったリュクスだったが、自分もどうせ外に行くのだから一緒に出れば良かったじゃないかと、慌てて追いかけたが、すでに二匹の姿はなく玄関扉が閉まり始めていた。
玄関扉を開けたリュクスはベードとモイザと家を出る。すでにレイトとフレウの姿は見えず、どこに行ったのかと思ったが、レイトがいるならばこの辺の相手で何か起こることもないだろうと、リュクスは家の横に出来ていた小さな建造物に目を向ける。
倉庫のような形からしても、おそらくコネクションストレージだろうと思ったリュクスだったが、詳しい使い方も知らないうちに触る必要はないかと見るだけで終えた。
「――――。」
「モイザは料理したいの?制限かけてるのもしかして良くなかった?」
「――――!」
「そんなことはない?ならよかった。じゃあ今日は自由に作っちゃっていいよ。」
モイザは料理セットが置かれた場所を足で指していた。料理制限なく自由に作りたいのかとリュクスも自由に作ることを許可しつつ、錬金セットと染色セットを準備しておく。
「――――?」
「あぁこれ?フレウが返ってきたら鉢巻の染色してほしいから、染色の準備もしておくだけだよ。」
「――――!」
「いやいや、やりたいことやってていいよ?どうせ今はフレウいないんだし。」
料理セットに向かいすでに脚立に足をかけていたモイザだったが、降りてきて染色セットを準備した場所にと向かってくる。リュクスが好きにしていいというと、モイザは料理セットのほう向いたり錬金セットのほう向いたり、染色桶に向きなおったりして、足をわちゃわちゃさせていた。
モイザの可愛いらしい様子に微笑んでいたリュクスだったが、モイザは結局自分の糸を布状に編み始め、染色セットにと向き合っていた。
手伝いとしてなのか、レササと2匹の蜘蛛が近寄って来ると、モイザがレササに気が付いて、足を絡め合い始める。レササが2匹の付き添いに何かいうと、2匹はモイザの隣に付き、糸玉をポーチからだしてモイザのように布にとし始めた。
そこでリュクスは気が付く。アイテムポーチはハウレッジ個体にしか渡していなかったはずだが、目の前の蜘蛛は普通のレッサースパイダーだ。見回せば付き添いの2匹だけでなく、他の蜘蛛達も軒並みポーチをしている。
これもトレビス商長が渡したのかとリュクスは考え、出来上がった店のほうにと向かう。モイザが見送り代わりにレササがリュクスにと付きそう。ベードもリュクスに付き添うのだが、リュクスとしては自由行動が付き添いでいいのかと少し思うところがあった。
無人露店のあったところには、小さかった露店とは比べ物にならない大きさの、1階建ての店舗ができ上っていた。もっとこぢんまりとしたのを想像してたリュクスとしては少し驚いた様子だ。そんなリュクスに横からトレビス商長が近づいてきていた。
「お帰りなさいませ。リュクス様。ご注文通り店舗設営が終わりました。コネクションストレージのほうも設置済みでしたが、見られましたか?」
「はい、確認しました。けどこの店舗は、いささか大きいんじゃないかと思うんですけど。それに今は僕の出せる商品も少ないですし。」
「そうでしょうか?もし今後商品が増えた場合、この大きさではもの足りなくなると思いますよ。」
「そ、そうですか。あんまり増えるかどうかわからないですけどね。」
「ところで、今はアレを付けてらっしゃらないのですね。てっきりつけてくるかと思ったのですが。」
あれとは何かと一瞬思ったリュクスだったが、仮面のことかとすぐに理解する。せっかくもらった物だが旅商の時以来付けてないのである。
「今日はトレビス商長だけかなと思って付けてきませんでした。でも旅商やる時なんかには使わせてもらいますよ。」
「すばらしい!他の街で旅商をする予定があるのですね!ぜひその際は私に商業結果をお教えくださいね。」
「は、はい。」
「では店舗とコネクションストレージについて説明させていただきますね。まずは店舗内にどうぞ。こちらが裏口になっております。」
裏口用のドアはベードも楽々通れる大きさに作られていた。おそらくベードが通ることを考えての設計だろうとリュクスは考える。店の中は入口と清算用水晶の置き場、そして壁沿いにはずらっと展示ケースが並び、中央には3列の展示ケースが配置されていた。
「この店舗の形で50種類の商品を並べることができますが、無理にすべてのケースを埋める必要はありません。初めのうちは水晶に近い位置に商品を3,4個並べるという店舗も珍しくありませんよ。」
「そうですか。それなら少し安心です。僕たちの商品は種類はそんなにはないですから。」
「今はそうかもしれませんが、今後どうなるかはわからないですよ?とりあえずすぐに始められるように、私たちのほうで露店で売り出していた商品を同じ値段で並べさせていただきました。よろしかったでしょうか?」
「全然!むしろありがたいです。」
「判断が正しくて安心しました。今後商品を追加する場合はこの店舗に来て、直接展示ボックスの設定をする方法と、もう一つコネクションストレージから設定する方法があります。説明のためにコネクションストレージのほうに向かいますが、よろしいですか?」
「大丈夫ですよ。お願いします。」
リュクスはトレビス商長を追うように店の裏口から出る。そのまま来た道を戻り自宅横のコネクションストレージに到着する。
「本来ならこちらでお待ちしたかったのですが、先に店舗の紹介をしないと、こちらでの説明に結び付きづらいと思いましたので、店舗でお待ちしていました。ちなみにですが、このコネクションストレージはすでにリュクス様のものです。」
「え?もう僕の物なんですか?」
「はい。所有権はリュクス様になっています。」
コネクションストレージは真っ白な真四角の倉庫。リュクスが倉庫を見回すが、どこにもドアはなく、倉庫横にポツンと1つ箱が付けてあるだけである。
「えっと、どう入るのでしょうか?」
「ふふ、初めて見るとさすがにそう思いますかね。入口の外に箱が備え付けられていたのを見たと思いますが、あれがストレージへの接続部分です。中はアイテムポーチと同じ保存用空間になっていますので、入るのはとても危険なのです。」
「なるほど、それで箱があの位置にあったんですね。」
つまりこの倉庫は大きなアイテムポーチのようだ。自宅の入り口すぐ横に箱があるので、中身の出し入れはしやすいだろうとリュクスは考える。
「ではご説明させていただきます。この箱の上蓋を開き、中に製作物や素材を好きに入れていただいて大丈夫です。そうすればコネクションストレージ内にと保存されます。またリュクス様の蜘蛛達に接続ポーチをお配りしました。接続ポーチからも自由に出し入れすることが可能です。後はこちらはリュクス様用の接続ポーチになります。どうぞお受け取りください。」
普通のポーチと違いが分かるようにか、ポーチの色は青色になっている。ポーチを閉じる紐の結び目部分に、小さな水晶玉が付いている。
「接続ポーチの水晶からコネクションストレージ内の一覧を見ることができます。そこから取り出したいものを選択して取り出すことが可能なのです。収納する場合はしまうものをポーチに入れていただくだけで大丈夫です。ただし魔物の死体は入れることは、倉庫を大きく圧迫してしまう上、普通のアイテムポーチと違い、取り出す際に死体を傷つけてしまう可能性があるのでお勧めしません。一度解体して素材にしてからがいいでしょう。」
「なるほど。入れないように気を付けます。」
「その点はリュクス様なら大丈夫でしょう。続いて店舗との接続設定です。こちらの箱の天板についている水晶板をご覧ください。」
箱の上蓋の水晶板に触れながらトレビス商長は話しを続ける。
「こちらに触れていただきますと、接続店舗として先ほどの店舗が設定されていることが確認できます。もし旅商鞄と接続したい場合は、接続したい旅商鞄を触れさせて登録してください。今は店舗のお話をさせていただきます。店舗の欄を選びますと、このように先ほどの店舗の見取り図が出てきます。今どの展示ケースで何をいくつまで売りだしているのか、売ってる商品は倉庫にどれだけ残っているのかが表示されています。すでに入れてある展示ケース部分に触れていただき、値段や補充量などの変更もできますし、販売個数制限や販売停止をかけることも可能です。続いて空いている展示ケースを選びますと、コネクションストレージ内のアイテムで何かを売りに出すか選択することができます。あとはすでに売っている商品と流れは同じですね。何かご質問はありますでしょうか?」
「いえ、ないです。大丈夫です。」
一気に詰め込まれた感が否めないリュクスだったが、トレビス商長が動きで見せてくれたので覚えられたようだ。
「よろしいでしょうか。ではここまでが通常の方と同じ説明ですね。ここからはリュクス様に教える少し違った使い方です。接続ポーチは使わず、コネクションストレージと声に出してみてください。」
「えっと、コネクションストレージ?うわっ!」
急にリュクスの目の前に急に歪みができあがる。あまりに近づぎたので歪みの場所を遠ざけるイメージを浮かべると、歪みがリュクスの見やすい位置にと移動する。歪みに浮かぶ文字で、リュクスはストレージ内のアイテム一覧だと理解する。劣蜘蛛の糸玉に指を触れるとトレビス商長が説明を追加する。
「手の動き的に、何か選択されましたか?選択しましたら写りだした空間に手を伸ばして入れてみてください。」
「えっとこうかな?おぉ?つかんだ。出てきた!」
リュクスは手元にコネクションストレージにあったはずの劣蜘蛛の糸玉を取り出すことができたのだ。もし今のがどこでもできるなら便利だと、リュクスも軽くテンションが上がる。
「これはアーバーギルド長に依頼してできた使い方です。接続ポーチが使えない時でもコネクションストレージにつなぐ技ですが、個人で術式なしに空間術を使える方でないとできない芸当ですので、むやみに人前で使わないようご注意ください。」
「はい、その辺は大丈夫です。ありがとうございます。」
「では証明をお出しください。私の証明と重ねることで契約が完全に完了します。」
支払いもこみになるかだろうと思いながらリュクスは証明を重ねる。500万リラ行くかというくらいにはあった所持金が、1万リラほどに減ってしまい、支払いきれてよかったとリュクスは内心ほっとする。
「おっと、申し訳ありません。もしかして所持金ギリギリでしたか?」
「大丈夫です!心配ありません!」
「そうですか。ではこれで私どもからスタッフを派遣して店舗を開始させますね。」
「スタッフ派遣もしてくれるんですか?」
「はい。派遣費用も込みでお支払いいただいたので、しばらくは問題ありません。もしかするといずれは派遣費用をいただく可能性もありますが。」
「派遣費用は全然払いますよ。でももしよければ考えがあるんです。レササ、店舗内にも蜘蛛達を巡回させてくれる?」
「―――。」
レササが問題ないといわんばかりに足をあげると、どこからともなく3匹のレッサースパイダーが来てレササからの指示を受ける。3匹はびしっと敬礼風に前足を掲げると、すぐに店舗方面にと向かっていった。
「というわけで、店舗内にあの3匹がいます。客対応までできるのかわからないですが、彼らにも客対応を教えていただけるとありがたいです。」
「なるほど!蜘蛛の方達にも商業を学ばせるのですね!では私が請け負います。そのまま始めさせていただきますので、ではこれで失礼。」
「え、あのちょっと?」
「おっと忘れてました。看板は兎と狼と蜘蛛と鶏の4匹の看板ですが、よろしかったでしょうか?」
「え、あ、はい、大丈夫です。」
「ぜひ後程ご確認ください。看板の変更でしたらいつでも伺いますよ。では失礼します。」
トレビス商長は蜘蛛たち3匹を連れて店舗にと向かって行ってしまった。一人で蜘蛛達への客対応教育をするつもりなのだろうかとリュクスは首をかしげたが、もう好きにしてもらえばいいと首を振る。
リュクスとしてはこれではトレビス商長の店のようだと思ってしまう。蜘蛛達も一緒なので周りの目からするとそうではないのだろうかとリュクスは悩み、店長としてそのうち仮面を付けて店の中を見学しに行けばいいかと結論付けた。




