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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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おまけ小話:カレーの行方

リュクスとの朝食後、魔王は部屋を去ると、そのままの足で魔王城の厨房へ向かった。


ここは大樹が癒えた今も、ある意味で戦場である。


デモナは魔族人種であるがゆえに、保有魔素が多い者ばかり。

それ自体は魔法をより自在に扱えるという面では素晴らしいのだが、肉体が魔素を求めるため、聖族以上に腹がすく。


魔物であれば、食事などしなくとも、大気中の魔素のみで生きられるものばかり。

しかし人であるデモナは、自身の魔素を混ぜて大気魔素を操ることはできても、大気魔素を保有魔素に変換するすべは持たない。

崖壁の向こうで流通する魔素補填薬のようなものも存在しないため、食事によって回復するのが最も効率がいいのだ。


魔王城勤めの純血デモナとなれば、保有魔素の量も城下町のデモナより多く、その分食欲も旺盛 だ。

厨房は食事時になるとごった返し、料理に追われる毎日である。


ただ、料理といっても、ここは不毛の地であるうえ、大量に食べる彼らを支えるため、とにかく量を重視したものばかりである。

城下町から上納された葉野菜も使われるが、主役はほとんどがバジリスクの肉。

食材が少ないので、毎日似たような味付けではあるが、そこは料理人が趣向を凝らし、焼き加減や火の入れ方を工夫することでカバーしてきた。


現在の厨房は、朝食時の混雑が過ぎ去っていた。

しかし料理人たちに休む暇も無く、夕食に出す蒸し焼きの仕込みにいそしんでいた。

そんな最中、魔王の来訪に応じたのは、やたら長いコック帽をかぶった猫系のデモナだった。


「ま、魔王様直々に厨房へいらっしゃるとは!なにか不手際があったでしょうか!」


「そんなものはない。今回、料理長に相談したかったのはこれだ。」


魔王はどこからともなくハンカチを取り出す。

料理長は興味津々に覗くが、開いた箇所が茶色く汚れていただけだった。


「…あの、失礼ですが、この汚れを見せたかったのですか?」


「そうだ。これは先ほど癒し手が振舞ってくれた、カレーなる料理の跡なのだ。」


「カレー、ですか。聞いたことがないですね。」


料理長はバジリスク料理にばかり関わってきたわけだが、他の料理を全く知らないわけではない。

代々大食漢である魔王の舌を満足させるため、魔王城が立て替えられるより遥か過去から、料理人たちの手で継がれてきた秘伝書にて、料理の何たるかを学んだのだ。

ありとあらゆる調理法や料理名が記されてきたが、その中にもカレーという料理は存在しなかった。


「やはりそうか。では、崖壁以降に生み出された聖族の料理か、はたまた癒し手のみが知る特別な料理ということだな。」


「っ!ぜひ、分析させてください!」


「そういうと思った。好きにせよ。」


魔王がカウンターにハンカチを置くと、料理長はなぜか自身の目を両手でふさぐ。


「グルメアナリシス。」


頬をなぞるように手をずらすと、料理長の両目に魔法陣が浮かぶ。

料理専門ではあるが、あらゆる分析ができる特殊スキルで、彼はこの力のおかげで現料理長の座に就いたのである。


「これは、絡みによる刺激を感じさせながらも、複雑な味わいを奏でる料理!様々な調味料が使われている…スパイスというのか。組み合わせ次第で風味が変わるのか。」


料理長は魔王がすぐ横にいることなどかまわず、カレーの分析結果をつぶやいていく。

その内容は、いつの間にか横にいたメモ役が、魔法で木簡を削ることで書き留めていく。


「こんな料理があるとは!やはり聖族の発展は私たちの遥か先!あぁ、しかし…この料理は今の私たちでは到達できないでしょう。」


「再現は難しいか?」


「いえ、材料さえあれば可能だと思います。ただ、その材料となる種も、育てられる土壌もここにはありませんから。」


落ち込む料理長だったが、魔王はしたり顔で笑みを浮かべた。


「ほう。材料があれば作れるのだな?」


「それはお任せください!まったく同じ味、というわけにはいきませんでしょうが…必ずカレーを再現して見せます!」


「よく言った。ならば、癒し手から少し材料を分けてもらうとしよう。」


「…それは、可能なのですか?」


魔王の案に料理長は唖然とした様子で疑問を投げかける。

彼は不毛の地しか知らないがゆえに、食材の貴重さを理解しているのだ。

だが、魔王は柔らかな笑みで頷く。


「あぁ。問題ない。彼とは友となったのだ。…それに、北はここと違い不毛の地ではないそうだ。」


「それは…少し羨ましいですね。」


料理長が羨ましいと言ったのは、北の大地は食材が豊富そうだという意味か、魔王が癒し手を友と認めたからか、どちらだったのかはわからない。

ただ、魔王は前者にとらえたようだ。


「安心するといい。大樹は癒え、破滅の地は引き下がっていっている。ここは力の大樹の恩恵がある場所なのだ。かつての恵み多き土地に戻っていくだろう。」


この不毛の地で、城下町のデモナやビスタたちが、種類こそ少ないが小さな葉野菜を育てられたのは、力の大樹の恩恵ゆえである。

展望を思い描いたのか、料理長があまりの笑顔で破顔した。


「それは、それはとても素晴らしいことですね!」


「うむ。そのころに癒し手より種を買い取ろうと考えている。だが今は、材料をそのまま買えないか交渉しよう。」


魔王は指を鳴らしてハンカチを消すと、先ほど後にしたばかりのリュクスの部屋へと向かっていった。

今回は閑話というよりおまけのお話です!

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