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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
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狡猾なマンティコア

いつも以上に休憩できない長旅となったため、リュクスたちは二日の自宅休養を取った。

転移でねじれた木の元へ戻った際、グリフォンが寄ってこないか警戒を強めた。

だが、濁った魔素の影響がいまだ強く残る木々の周囲は草一本生えず、魔物が近づいてくることもなかった。


『問題ないと言っただろう。まだ魔物が寄ってこれるような状況ではない。』


「そのくらいにはとどめたつもりだったけど、また汚染がひどくなってる可能性もあったじゃん?」


『それもないはずだと言っただろう。お前があれだけの癒しをしたのだからな。』


枯れ果てねじれ黒ずんだ陽だまりの木は、 静かに佇むだけで、以前感じたほどのおどろおどろしさは無くなった。

だが、こんな様相になっても生命力だけは高いのか、枯れた枝が落ちる気配はない。


「まぁ、何もなかったならいいや。ベード、またよろしくね。」


『はい!しっかり休んだので、また数日は走れます!』


その宣言通り、ベードはグリフォンの縄張りを颯爽と駆けていく。

やはり空を飛ぶ魔物だからだろうか、その縄張りはかなり広大で、しばらく走り抜けるだけの旅が続いた。

そんな中、まだグリフォンの縄張り内だろうというのに、新たな魔物の気配を捉える。

その魔物もまた空を舞うが、整ったようなグリフォンの飛行とは全く異なる何とも歪な飛び方で、それほど速くはない。

だが、そんな飛行手段でグリフォンたちの突進をおちょくるようにかわし、九体の群れをたった一体で捌いている。


にやけた顔は、人間のおっさんとライオンが混ざったようなものだった。

目元は人間そのものなのに、瞳だけが魔物特有の赤黒さを帯びて光る。

口元には牙が覗き、ライオンらしい茶色の鬣が生えていた。


胴はライオンそのものだが、その背に生える翼はコウモリの羽。

グリフォンも下半身が獅子で、筋肉質な体つきは似ている。

しかし翼は全く異なり、黒い蝙蝠のようなそれは、血管が浮き出るほど薄い。


そして尾は紫色をしたサソリの形状で、非常に太い。

不規則に揺れているように見えたが、その先端は常に高高度で群れを指示するグリフォンを狙っていた。


「マンティコアだ、あれ…」


『識別した、というわけではないようだな。』


「うん。僕が見たのとは少し違う形状だけど、たぶん合ってる。識別してみるね。」


空の戦いの影響で識別範囲になかなか入らなかったが、少し下降してきたところで識別をかけた。


----------

対象:スライウィケッドマンティコア

狡猾であくどいマンティコア

蝙蝠の翼を使い不規則な飛行を見せる

人間のような顔はよく表情を映し出すが、それすら敵を欺く罠

尾に含む強力な毒を食わせ、弱らせたところを生きたまま捕食する

----------


「やっぱり、マンティコアだ。尾には毒があるみたい。しかも、毒を食わせて捕食するって出たんだけど…」


『強力な毒耐性を持つのか、はたまた自身の毒は効かないのか。』


「どっちだろうね。って、攻撃受けたよ!」


避けるだけとはいえ、激しい空中戦を見せていたマンティコア。

しかし、多勢無勢だったのか、軽い一撃を受け、苦い表情を浮かべながら一気に高度を落とす。

即座にグリフォンの群れの中から小ぶりな一匹飛び出し、追撃のために急降下で迫る。

だが、最も高高度で指示役をしていたグリフォンが大きくひと鳴きした。


飛び出した一匹は下降を止めたが、時すでに遅い。

落下していたかのように見えたマンティコアが羽を広げ、鋭い動きで飛び出したグリフォンに急接近する。

そして、腹部をサソリの尾が貫く。


先ほどまで防戦一方だったのが嘘のような逆転劇である。

たとえ指示役のほうに意識をとられていなかったとしても、一対一ではマンティコアの攻撃をよけられなかっただろう。


苦しみもがくグリフォンだが、まだ息はある。

残るグリフォンたちはその様子を見て、一斉に降下していく。

だが、マンティコアはあくどいにやけ顔で弱ったグリフォンを盾にした。

グリフォンたちは思わず降下を止め、動きが鈍る。

その隙を突き、一体のグリフォンを抱えたまま、マンティコアはあっという間に反転しどこかへと飛び去る。

唖然としていたグリフォンたちだったが、すぐに追いかけていった。


「…グリフォン一匹抱えてるとは思えない速さだったね。」


『そうだな。持ち慣れているのだろう。』


『それより、なんだあの戦い方は。あんなのが許されるのか?』


「それはグリフォンに対して?それともマンティコア?」


『マンティコアだ!あんな戦い方は気に食わん!』


どうやら狡猾であくどい戦い方がグラドの琴線に触れたようだ。

だが、レイトは呆れたように鼻息を鳴らす。


『立派な戦術の一つだ。どこかの誰かのように、飛び出す若い個体を誘い込む。』


『…わかっている。われでも飛び出していただろう。』


「だから怒ってたんだね。まぁ、僕たちには気づいてる様子はなかったから…」


『そうだな。ベードも思わず足を止めていたようだが、こちらを見る様子はなかった。』


『はっ!す、すいません!進みます!』


リュクスたちは別にベードに指示して観戦していたわけではない。

思わず見入るほどの空中戦だったということだ。


だが、それが二度目、三度目となるとさすがに興味も薄れていく。

十体以上の群れにはマンティコアは挑まず、他のグリフォンの群れをおちょくる。

グリフォンたちも縄張りに無断で入ってきた敵対者に仕掛けるが、マンティコアは狡猾に若い一体を狙い刈り取る。


そんな光景にも慣れてきたころ、夜になるとグリフォンたちは眠り、マンティコアの気配も見えなくなる。

夜が明けるころにはグリフォンの気配は完全に遠のき、マンティコアの気配を察知する。

周囲の景色は変わらないが、縄張りが切り替わったのだろう。


マンティコアの気配はかなりまばらで、どの個体も群れることなく、孤高に生きているようだ。

そんな中、昼頃にマンティコアの食事風景に出くわしてしまう。

羽を破られ、肩口に傷口が開いた小柄なグリフォンは、まだ息がある。

だが、全身に毒が回っているのか、動けるような状態ではないようだ。


マンティコアは悪魔のような笑みを浮かべると、大きく口を開く。

人間のようにも見える顔だが、牙は獰猛な肉食獣そのもの。

そして食らいついたのは、グリフォンの後ろ脚。

グリフォンの激しい悲鳴が響くと、より一層に笑みを浮かべながら、足を引き裂く。

獲物をいたぶり食らう、まさに悪趣味なマンティコアの習性。


『リュクス。手を出すなよ。』


「…わかってる。無視するよ。」


たとえ今手を出したところで、倒れたグリフォンを助けられるかはわからない。

いや、たとえ助けられたとしても。ベードたちのように仲良くなれるかはわからない。

そもそも、これは南端の果てにおける食物連鎖の一つ。

崖壁向こうから来た自分が気軽に手を出せる領域ではないとリュクスも理解しつつ、目を背けるように進む先へと顔を向けた。

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