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ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
最後の大樹へ

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穢れ尽きた木

グリフォンの縄張りに広がるのは、黒ずんだ草原。

そして時折生えているのは、少し黒ずんでいるが、太くたくましく生える三角形に葉を広げる木。

夜もそうだったが、日が昇ってもグリフォンたちが木に寄り添う光景を目にする。


----------

対象:陽だまりの木

落葉針葉樹の一種で、木々の葉は頂点から三角形に広がる

太い幹は温暖効果を有し、近寄るとほのかに温かい

----------


「なるほど。それでグリフォンたちはあの木を気に入ってるのか。」


『何だ?今更識別したのか。』


「特に触れることもないと思ったけど、ちょっと気になってね。」


グリフォンたちが悠々と羽を広げ休む光景は、どこかほのぼのとした雰囲気だ。

しかし、ひとたびリュクスたちの気配が見つかれば、彼らは一斉に襲い掛かってくるだろう。

とはいえ、ベードも雪山からずっと走り通しで、体力的にそろそろ休みを入れたい。


「グリフォンたちのように、僕たちも休みたいところだけど…」


『主!だいぶ走り続けましたが、まだあと三日は走れますよ!』


『走るだけならば、確かに問題ないだろう。だが、戦闘になったとき、今のお前は使い物にならん。』


『それは、確かにそうですね…』


ベード自身、走る体力はあれど、戦うためのエネルギーはだいぶ不足していることを理解していた。


『戦いならわれがすべてこなしてもいいぞ!』


「数が多かったらそういうわけにもいかないでしょ。」


『ぬぅ…』


グラドは戦闘意欲が強いようだが、リュクスに窘められ、おとなしくなる。

結局、そこらじゅうからグリフォンの気配を感じ続け、休めるような場所も見つからず、再び夜を迎える。

静かな月明りの中、レイトが何か察知し耳を持ち上げた。


『…魔物の気配がない場所がある。』


「え?ほんと?」


『だが、これは…近づいていいものか。』


「え?魔物はいないんだよね?」


『…見ればわかるだろう。ベード、あちらに向かえ。』


『了解です!』


レイトの指示に従い、ベードが大きく東へ進路をずらす。

進んでいくうちに、あれほど感じていたグリフォンの気配は少なくなっていく。

そして、そこが見えるほど近づくと、完全に周囲から気配が消える。


ベードも、さすがにまっすぐ侵入せず、離れた位置で足を止める。

周囲は黒ずんでいるとはいえ、雑草が鬱蒼と生い茂る草原。

だが、目の前は草一つなく枯れ落ち、円形に広がる剥き出しの大地だ。


その土の色は黒というよりももはや闇。

半径は十数メートルほどで、それほど広くはないが、とても正常な大地の色ではない。


そして、中央には一本だけ木が生える。

一見した全景は周囲の木と似た三角形に広がる形だが、全ての葉が落葉し、闇のように黒ずんだ枝が剥き出しで並ぶ。

さらに、中央の幹はぐるぐるにねじれ、よく目を凝らせば伸びた枝もすべてがねじれている。


そしてねじれまくったその木から、暖気の代わりにうっすらと黒い靄のようなものが噴き出ている。

地に落ちると、大地の黒はさらに深く沈んでいく。

識別しなくても、それが濁った魔素だと、誰の目にも理解できた。


もはや魔木か悪魔の宿る木とでも言ったほうがしっくりくるだろう。

だが、リュクスが識別しても陽だまりの木と表示される。


「何、あの木…識別しても周りの木と同じ内容なんだけど。」


『そうか。ならば、これは濁った魔素による汚染の影響なのだろう。うぬでも、ここにいるだけで不快感が強い。』


「そうなの?みんなは大丈夫?」


『な、何とかこの距離なら耐えられますが、俺は鼻が利くので、結構きついです。』


『私ですらここからでもあの中の空気が悪いことがわかります。』


『ニもあそこは行きたくなぁい…』


『吾も同感だ。この状況で寝ているフレウが羨ましいくらいだ。』


ベードの頭上で眠るフレウも、よく見ると顔を歪めていて、寝心地悪そうにしている。


「なるほど、これが本来の、濁った魔素の影響…」


『お前、何も感じないのか?』


「うん。特には問題ないよ。多分だけど、孤立樹こりつぎと似てる感じがする。」


孤立樹は四魔帝が統べる狂邪の地に生えていた樹で、魔物を寄せない性質があった。

識別したときは表記されなかったが、世界を崩壊させる白の大地が近いゆえ、濁った魔素の影響を強く受けて変異しながら生えたのだろう。

そしてあの木が未だ陽だまりの木なのは、生えてから変異した影響ではないかと、リュクスはそう結論づけた。


『何にせよ、さすがにここで転移は危険だ。ここまで濃い濁った魔素だと、転移に影響が及ぶやもしれん。』


「確かにね…それでレイト、ここで僕が下りても、グリフォンたちは来ないと思う?」


『来ぬだろうが、何をする気だ?』


「まぁ、うまくいくかはわからないけど、見てて。」


ベードから降りたリュクスは、闇に染まる大地にそっと手を付ける。


『あ、危ないですよ、主!』


「大丈夫。僕に影響はないみたい。…行くよ、ヒーリングハンド!」


リュクスの腕全体が緑の光を放ち、光は闇に染まる大地に吸われていく。

一見しただけでは全く変化がないように思えたが、従魔たちは嫌悪感が薄れていくのを感じ取る。


『リュクス!濁った魔素は確かに薄れている!だが、あまり無茶するな!』


「大、丈夫!僕も癒せてるのは何となくわかるよ!」


どんどん緑の光が大地へ吸われていく。

光は一筋にねじれた木に続き、黒ずんだ木が緑色の光を帯び始める。

だが、リュクスの負担はかなり大きいようで、大地についた右腕を庇うように、左手で自身の右肩を抑える。

そして、ねじれた木へと一筋に続いていた緑の光が、徐々に周囲の大地へ広がっていった。


一刻にも満たない時間だったが、静かに、しかし果てしなく長く感じた癒しは終わった。

大きく息を吐きながらリュクスはゆっくりと立ち上がり、ひとまず満足した様子で目の前の光景を見つめる。


闇に沈んだかのような大地の色は、黒ずんだ色くらいに緩和した。

ねじれた木も黒い靄を吹き出さなくなり、静かに佇む。

落葉した葉が戻ったわけでも、ねじれが治ったわけでもない。

だが、あれだけひどかった濁った魔素の嫌悪感はかなり薄まり、従魔たちも喜びの声を上げる。


『おぉ!すごいです主!ちょっと嫌だな、くらいになりました!』


『主でも治しきるのは難しかったのー?』


『いや、ある程度治ったので終えたのだろう。違うか?』


ネティスの疑問にグラドが自身の考えを返し、リュクスを見つめる。

リュクスも軽くうなずいて返した。


「そうだね。これ以上治すには魔素がきつかったし、何より治しすぎるとグリフォンが寄ってくるかもしれないでしょ?」


『そうだな。この影響を完治させれば魔物も寄ってくるようになってしまうだろう。』


『私たちは従魔となっているので、多少の影響は耐えられます。さすが主です。』


「モイザは褒めすぎ。これならあの木の近くで転移できそうじゃない?」


『…そうだな。あれだけ魔素を使ったのに、己の感知範囲にも群れの気配は感じない。転移も問題ないだろう。』


従魔たちは聖族であるリュクスの影響を受けている。

だが、グリフォンたちは純粋な魔物で、濁った魔素が淀み切ったこの地に近寄ろうともしないようだ。


リュクスは従魔たちと共に、ねじれた木に近づく。

先ほどよりはましになったが、やはり歪な様相は変わらない。

それでも、リュクスは軽く木に触れた。


「…ここを使わせてもらうね。ポイントインストレーション。」


小さなつぶやきは誰の耳にも届かず、転移地点を用意したリュクスは、従魔たちに触れて自宅へと転移した。

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