グリフォンの狩り
雪原の雪が薄くなり始め、ベードの足ならば、そろそろ通り抜けられそうな頃。
まだ白狐の縄張り内だというのに、すでに別の魔物との戦いが繰り広げられていた。
相手は優雅に宙を舞う四足歩行の大きな獣。
上半身はハクトウワシのような鷲で、頭部は真っ白。
黒に近い焦げ茶色の巨大な翼をはためかせ、黄色く鋭い嘴とかぎ爪を有する。
下半身は獅子で、明るい茶色の毛で覆われ、非常に筋肉が発達している。
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対象:スカイアサルトグリフォン
空より強襲する鷲獅子
群れで行動し、統率の取れた動きを見せる
魔法の類は使えないが、かぎ爪や翼撃で獲物を狩り取る
強靭な獅子の下半身により地上を走るにも長ける
肉質は鳥に似て美味とされる
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識別通り、グリフォンたちは空という優位に立ちながらも、魔法を使うことなく攻めあぐねていた。
グリフォンの数は十数匹、それに比べ白狐の数は無数で数えきれないほど。
白狐たちの白い炎が、宙を舞うグリフォンたちに向かって無数に放たれる。
統率の取れていない炎は互いに相殺してしまうものもあるが、数が数なので充分脅威といえよう。
グリフォンたちは統率の取れた動きで華麗に避けて見せるが、すぐに白い炎の次弾が放たれる。
群れ全員でよけ切れないとみるや、グリフォンが三体前に出て翼を使い白い炎を受け止める。
だが、炎を受けたはずのグリフォンの翼は霜焼けるように凍り付き、飛行能力を失って落下していく。
それに合わせ、残るグリフォンは落下する三体を盾に空より白狐たちを強襲。
鋭利なかぎ爪の一撃や、翼をつかった滑空攻撃で白狐たちを蹴散らし、再び空へと戻る。
空に戻ったグリフォンたちが嘴に白狐をくわえる中、攻撃を受けた三体は雪に沈み、さらなる白い炎を受け沈黙した。
それを悲しげに見つめながら、残るグリフォンたちはさらに高度を上げ、縄張りであろう南へと飛んでいく。
遠くから見ていたリュクスたちだったが、ベードはそれを追うというわけではないが、同じ方向へと走っていく。
空を優雅に飛ぶ姿は雄々しく美しいが、魔物としてはそれほど強いわけでもないようだ。
「ウェンディゴとの戦いとは、また違った戦いだったね。しかもグリフォンは引いていくし。」
『獲物を得るための戦いだったようだからな。』
「そうみたいだね。それにしても、あの白い炎で凍るとは思わなかったよ。」
雪原から白狐たちが高高度を飛ぶグリフォンに白い炎を放つ。
しかし狙いは雑で、距離自体は届いているが、すでに通り過ぎた後に炎が飛んでいく。
白狐たちは魔法を使う力はあれど、圧倒的に知能が低いことがうかがえた。
『識別には出なかったのか?』
「うん。狐自体を識別したときには何も。今、白い炎についてさらに識別したら出てきたよ。」
改めて白狐を識別し、そこからさらに白い炎を識別すると、凍らせる力を宿した炎だと薄青い画面に表示される。
そして、狐たちの白い炎を強く見つめる二匹の従魔の姿もあった。
『…あの炎、もしかして俺にも作り出せるんじゃ?』
二つの声が重なった。
一つは走り進むベード。そしてもう一つは、普段の移動中は眠りこけるフレウだった。
「…え?フレウが起きてる!?」
『コッ、わりぃかよ。なんか変な炎の気配が多くて起きちまったんだ。』
『おいおい、寝ていろよ。あの炎をお前が使いたいのか?俺のほうがあんな技が欲しい!』
『なんだと!俺だって炎と風でグラドと被ってんだよ!』
『言い争うのは勝手だが、お前らどちらにも合わない。あれを習得するなど、努力の無駄だ。』
二匹の言い争いをすっぱり切り捨てたのはレイト。
ベードは走りながら、フレウはその頭上で、振り向く。
少しの沈黙が流れ、リュクスが思わず問いをかけた。
「えっと、努力の無駄なの?面白い魔法だと思うけど。」
『そうだな。生まれ持って使う魔法であったなら伸ばすのも悪くないだろう。だが、あれは凍らせるとしても燃やすとしても中途半端。こいつらの能力向上にはならん。』
「あー…確かにね。」
リュクスはウェンディゴが白い炎を容易に引き裂きかき消していたことを思い出す。
やせ細ったような姿だったが、雪山に住む彼らは凍結耐性があったのだろう。
白い炎の燃やす力が強ければできない芸当だ。
『お前らが他を意識する気持ちはわかる。だが、それぞれに伸ばすべき力もあるのを忘れるな。』
『…はい。』
しょぼくれた二匹の声が重なる。
そんな中、いつの間にか飛び去る群れとは別のグリフォンたちと白狐の戦闘が始まっていた。
先ほど凍り付いた姿を見るに、おそらくグリフォンは寒さや凍結への耐性は高くない。
温かそうな羽毛と毛皮を有しているが、本格的に雪原を突破するのは厳しいのだろう。
それでも獲物を求め白狐と戦う姿は、この先にあまり獲物がいないことを意味する。
夜になるとグリフォンが雪山まで出張ってくることはなくなり、月明りに照らされ雪景色が終わるのが見える。
広がる草原はやはり黒ずんでいるようだ。
だが、点々と生える太くたくましい三角形に葉が広がった木々が見えた。
「す、すごい。ここまでまともな木は大樹くらいしか見たことなかったのに。」
『濁った魔素は広がっているようだが、土地の生命力は衰えてはいないというわけか。』
雪山付近は今だ寒いが、木々の下に集まって眠るグリフォンたちを見つける。
体を寄せ合い暖を取りあうくらいならば、雪山から離れればいいだろう。
そう思ったリュクスは、先ほど獲物が少ないのではと考えたことを思い出す。
この地に住むデモナだけでなく、魔物も濁り淀んだ魔素の影響を受けているのだろう。
この地の先に待つ最後の大樹を目指すため、休めていないベードをねぎらいながら、さらに先へと走らせた。




