凍竜
リュクスたちは凍竜を前に、各々戦闘態勢をとる。
そして、凍竜の胸元が少し膨らんだ。
『ブレスが来るぞ!』
『己が防ごう。ライトニングウォール。』
叫んだのはグラドだった。
レイトが宙に雷の壁を魔法で作り出すと同時に、凍竜の凍てつくブレスが吐き出された。
氷と雷が弾かれあい、バチバチと激しい音を立て、相殺し合う。
たった二秒ほどのブレスだったというのに、果てしなく長く感じた。
「や、やば…よく防げたね。」
『さすがに雪女の吐息とは比べ物にならないな。それより、さっさと攻撃しろ。』
「おっと、了解!フレイムスラッシュウェーブ!」
『加勢します!ストーンランス!』
炎の斬撃波と石の槍先が凍竜を襲う。
しかし、薄い翼で軽くいなされてしまった。
だが、凍竜の怒りは買ったようで、目を細めリュクスたちを睨みつけた。
「グルォオオオオオオオオオオ!」
耳をつんざくような咆哮に周囲の雪が震えた。
「うっ!す、すごい咆哮。ってか、あっけなく防がれちゃったけど。」
『そうだな。それに、隙を作らねば、転移で直接打ち込むのも厳しいだろうな。グラド、飛び出すなよ?』
『わかっている。あれは父様ほどではないが、今の吾がタイマンできる相手ではない。先ほどのブレスも、強力だったしな…』
グラドは悔しげに凍竜を見上げる。
空を舞う相手と空で戦えるのは、フレウとグラドだけ。
こんな戦闘の最中でもベードの頭上で安眠するフレウに視線が向く。
「フレウのこと、起こす?やっぱ氷には炎だと思うんだけど。」
『やめておけ。先ほどの炎があっけなく防がれたのだ。フレウでも結果はあまり変わらん。』
「そ、そうかな?」
『それに、万が一にも撤退するなら、空で戦わせるべきではない。』
「それもそうだね…」
凍竜が片翼を振りかざすと、氷柱が雨のように降り注ぐ。
だが、レイトが雷の壁を作り、防いで見せた。
『防御は己に任せろ。お前らは、どうにかしてあれを落とせ。』
「簡単に言うね…」
ブレスも氷柱も簡単に防がれたことで、怒りが増したのか、凍竜は飛び回り、様々な角度から氷の技を放ってくる。
しかし、そのどれもレイトが雷で完璧に防ぎ切って見せる。
そして、凍竜が再びブレスを放とうと、動きを止め、大きく息を吸った瞬間を狙う。
「ここ!ディメンションバインド!」
空間術で作り出した紐が凍竜の全身を拘束する。
しかし、激しい咆哮とパリンという音と共に拘束がほどかれた。
一瞬も動きを止められず、ブレスが放たれ、レイトの雷の壁が防ぐ。
その時、リュクスは自分の手をさすっていた。
『主!大丈夫ですか!』
「いや、ちょっと手が冷たくなっただけ…」
モイザの焦りも無理ない。
リュクスの手が少し霜焼けしていたのだ。
空間拘束はリュクスの手にも負荷がかかるが、手を軽くさする程度で済んでいた。
『おいおい、主こそ無理するな。』
「うん、でも今ので少し思いついた。ネティス、ベード、氷魔法を打ち込んで!」
『りょーかーい!メニーフロストランス!』
『え?あ、主、相手は氷のドラゴンですが…』
『ベード、黙って従え。』
『は、はい!フロストネイルショット!』
ネティスは素直に従い、すぐに氷の槍先を打ち出した。
だが、ベードは凍竜相手に氷魔法を使うことをためらった。
その懸念は的中し、宙を舞う凍竜にたどり着く前に、氷の槍先も氷爪弾もさらに凍り付き、砕けて消失してしまう。
「その調子!どんどん打って!」
『りょ、了解です! フロストネイルショット!』
『メニーフロストランス!』
まったく通用しない二匹の氷魔法をあざ笑うように、凍竜は再び氷柱を降り注がせる。
『己の雷は問題ないか?』
「それ以上に雪も氷魔法もあるから大丈夫!」
『ならばよし。」
氷柱をレイトの雷が防ぐ。
続いて凍竜が翼を繰りかざし、氷の斬撃波を放つが、それも雷が防ぐ。
凍竜の怒りが再び膨れ上がり始める。
「よし、これだけ氷の気配がたまればいける!二人とも、氷魔法中断!」
『なるほど!了解です!』
『はーい!』
ベードは何をするのか理解したようだ。
リュクスが右手を開いたまま掲げ、強く握りしめた。
「スペースエリアコントロール、フロストクローズ!」
瞬間、空間掌握した範囲で、氷の力が閉ざされる。
すると、苦々しい顔をした凍竜が力を無くしたようにゆっくりと落ちてくる。
「ぐっ!閉じ続けるので結構精いっぱいかも。」
『ならば吾に任せろ!この状態なら反撃もないだろ?』
『ない。今のうちに仕留めろ。』
『よし!やっと出番だな!ブラックブレス!』
勢いよくベードの背から飛び出し、黒炎を凍竜へと放つ。
凍竜の全身を激しく包み込み、落下してくる。
だが、周囲に纏う冷気によって完全には仕留めきれない。
『ぐっ、火力不足か。ならば…』
『俺に任せろ!インフェルノランス!』
黒炎で弱り切った凍竜を、業炎の槍先が額を貫く。
ばたりと倒れ込み、炎が収まると、凍竜から気配が消えた。
『…お前、いつの間に起きていたのだ?』
『ついさっき起こされたんだよ!手伝って来いってな!』
『むぅ、吾が仕留めたかったのだが。』
『おっと、そりゃわりぃ。』
『まぁいい。父様には遠く及ばないドラゴンだったな。』
あれだけの炎を受けたというのに、体表にはほとんど焼け跡が残っていない。
額に受けた業炎の傷跡だけが焦げて跡となっていた。
「た、倒せてよかったよ。」
『己らが力を合わせれば造作もない。』
『俺たちの氷も使った、主の機転勝ちですよ!』
『ニもそう思うー!』
『私はあまり出番がありませんでした。』
「みんなありがとう。…さて、このドラゴン、ポーチに入るかな?」
リュクスは一番容量の大きいポーチを取り出す。
つい先日、王都で購入したもので、今だ何も入れていない。
ポーチの口を開くと、倒れたドラゴンが吸い込まれていく。
何とか収納しきれたようだ。
「よ、よかった。これでだめなら置いていくところだったよ。」
『今回は回収するのだな。』
「うん、みんなで倒した成果だし、やっぱドラゴンの素材はちょっと魅力的だから。…あ、グラドが気にするなら置いていくけど。」
『近縁種というだけだ。吾は気にもせん。』
「そ、そっか。ならよかった。」
同じドラゴン種だが、グラドは本当に気にも留めていないようだ。
『グラド、他のドラゴンの気配はあるか?』
『あるといえばあるが、縄張りは遥か彼方だな。多分今倒したのと同じ氷のドラゴンだ。』
東の果てを見つめるグラド。
その先に、フロストドラゴンがまだいるのだろう。
『ならばいい。リュクス、ここに転移地点を敷き、一度帰るぞ。』
「だ、大丈夫なの?」
『問題あるまい。同種のドラゴンがいたとして、縄張り範囲はかなり広いはずだ。これだけ戦っても近づいて来ていないだろう?』
「言われてみればそうだね。じゃあ一度帰ろうか。」
リュクスも納得し、転移地点を設置し、転移で帰宅する。
雪が少し混じってしまったが、暖かな自宅の空気に触れ、ひりついた空気は完全に落ち着いたのであった。




