怪力のイエティ
雪山を進んでいくリュクス一行。
すでにダイアウルフの気配は遠のき、震える雪兎と稀に洞窟ミミックの気配を感じる程度。
足場は悪いが、ベードの足取りは変わらず、順調な旅を続けていた。
夜になると黒ずんだ雪が闇と混ざり、寒さも悪化する。
だが、フレウが眠りながらも熱気を放っているため、凍えることはない。
朝になると日の光を浴び、雪景色が鈍く光る。
雪が黒ずんでいなければ、もっと美しい景色だっただろう。
昼頃になり、進みながらサンドイッチを皆でほおばる中、レイトが耳を立たせた。
『新たな魔物の気配だ。だが、人型のようだな。』
「人型の魔物?またオークとかオーガとかってことかな…」
『わからんが、孤立した個体のようだ。確認するか?』
「そうだね。どんな奴なのかは見ておこう。」
『了解です!レイトさん、指示をお願いします!』
レイトの示す方向に、ベードが進んでいくと、リュクスも魔物の気配を感じ取る。
確かに二足歩行型のようだが、かなり大きいようだ。
やがてその魔物の姿を視界に捉える。
ダイアウルフや雪兎と同じ、全身を覆う真っ白な毛並み。
二足で立ち上がるゴリラのような姿に、人の倍以上はある巨体。
それはリュクスが元の世界のゲームやアニメで見たイエティそのものだった。
「あれって、イエティかも…」
『イエティ?やはり聞かぬ名だ。』
「まぁ、識別しないとわからないけどね。もうちょっと近づいてくれる?」
『了解です!』
あたりを見回しているが、ベードに気づいている様子はなく、さらに近づき、識別をかける。
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対象:スノーマウンテンイエティ
雪山に住む雪男
巨体に見合う怪力を有する
雪玉を操る魔法を使いこなす器用さを見せる
死を前にすると巨大な咆哮を上げ、雪崩を起こす
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「やっぱりイエティだ。雪の魔法も使えるみたい。」
『ほう?面白そうな相手だな!』
「あ、グラド、ダメだよ。倒れる前に咆哮で雪崩を起こすらしいから。」
『己らならば防げなくもないが、それは巻き込まれたらことだな。』
『ぐぬぅ…』
グラドはイエティを横目に、残念そうに見つめていた。
それが戦いたいが故のものとは、知らぬものではわからないだろう。
「なんか、イエティにも気づかれなかったし、この調子で雪山超えれちゃうんじゃない?」
『それはない。ドラゴンがいるのならば山頂だ。その付近に近づけば、気配は感づかれるだろう。』
「え?そうなの?」
『うむ。吾らドラゴンは縄張り意識が強いからな。』
グラドが頷き、リュクスもドラゴンとの衝突は避けられないことを悟る。
「…この調子でも、山頂までは何日もかかるよね。どこかで休めるといいけど…できるだけ、温存して進もう。」
『そうだな。特にベード、張り切りすぎるなよ。』
『うっ、わかっています。』
皆がいつかぶつかるドラゴンにばかり意識を寄せていた。
だが、通り過ぎたはずの背後のイエティが突如、リュクスたちに向かって走り出した。
「え?イエティが走ってきてる!」
『お!戦いか!』
『待て、焦るな。狙いはこちらではないようだ。』
ベードの走りは本気ではない。それでもイエティはドスドスと雪を踏み鳴らし、巨狼を上回る速さで迫った。
その気迫にベードは思わず足を止め、皆は念のために臨戦態勢をとる。
そして、巨大な腕を振りかざしたかと思えば、雪に向かって振りかぶった。
そこにいたのは雪兎、リュクスも気配には気が付いていたからこそ、攻撃せずにすんだ。
「兎狙いね…ちょっとあせったよ。」
『こちらに来てくれれば、戦えたものを…』
『やめておけ。雪崩を起こされたら進みが遅くなる。』
『わかっている。手は出さない。』
レイトがグラドをなだめる中、イエティはというと、じたばたと動く雪兎を両手で鷲掴む。
そして、自慢の怪力で捻り切ってしまった。
リュクスはわしづかみにした瞬間、目を反らしていたが、静かな雪山に無残な音だけが聞こえてきた。
「ベード、もう行こう。」
『おっと、足を止めてすいません!進みます!』
ベードが再び山頂を目指し走り始める。
イエティは音もなく去ったベードに気づくこともなく、仕留めた獲物に食らいつき、腹を満たした。
そこからも、時折イエティの気配を捕らえるが、どの個体も群れることなく一匹で過ごしている。
日が暮れると、ほとんどのイエティたちは雪の上で雑魚寝を始めるが、道中気配を捕らえた一匹は、洞窟へ向かっていた。
イエティが向かう洞窟は魔物気配を発する。つまり洞窟ミミックである。
だが、イエティは気が付く様子もなく、洞窟に足を踏み込む。
その瞬間、洞窟の入り口が勢いよく閉じようとした。
しかし、イエティはあろうことか岩肌に見える口蓋に手を突き、閉じ切るのを防ぐ。
それどころか、怪力によって押し戻し、洞窟に見えていたミミックの口は、イエティが入る時よりも大きく開き、つららに見せかけた牙も落ちる。
次の瞬間、洞窟ミミックの魔物の気配が途絶える。顎を押し広げられ、絶命したのだ。
イエティは満足げにそのままミミックの口内で眠りについた。
「うわぁ、ひどいものを見ちゃったよ。」
『あのイエティ、よく口の中で寝れますね。』
『私も同感です。臭くないのでしょうか?』
『洞窟に化けているからな。口臭はしないのではないか?』
ベードとモイザの疑問に、レイトも疑問を含んだ答えを返す。
「まぁ、たとえ臭くなくても、あの中で寝たいとは思えないけどね。」
『そうだな。しかし、こちらに気づかぬとはいえ、すごい怪力だ。ベード、改めて巻き込まれないように注意しろ。』
『もちろんです!』
レイトが認めるのも無理はない。
洞窟ミミックは洞窟に化けているが、口を閉じる力は、岩盤の崩落と同等以上の力を持つ。
それを押し返すほどの怪力。先ほどの激しい走りに巻き込まれでもしたら、無事では済まないだろう。
改めて、リュクスたちはドラゴン以外の魔物への警戒を強めた。




