小休止の報告
麻痺毒を受けた長い眠りから目覚めたグラドは、食事を終えてすっかり回復していたのだが、リュクスは一日休みを決定した。
「病み上がりなんだから、一応ね。」
『吾はもう絶好調だから、戦いたいのだが…』
「まぁ、他にも回収した魔物の解体とかあるし。今日はゆっくりするよ。」
『諦めろグラド。こいつはこうなったら聞かん。』
『ぐぅ…』
「それじゃあ、ギルドに行こうか。さすがに向こうの素材を解体所に直接持ってくわけにはいかないし。」
そうしてリュクスは従魔たちを連れて冒険者ギルドに向かう。
朝の早い時間だからか、ギルド内は受付に並ぶ冒険者たちで賑わいを見せている。
南端の街にしては、以前より人が増えていると感じながら、リュクスは列に並ぶ。
すると、受付業務をしていたはずのドーンが、他のギルド員と交代し、リュクスへと近づいてきた。
「えっと、並びますよ?」
「いや、どうせお前はすぐに上だ。来い。」
有無を言わせないドーンの様子に、他の冒険者たちの痛い視線を浴びながら、リュクスは少し縮こまってついていく。
そしてギルド長室で、大量の書類に埋もれたアーバーギルド長は、満面の笑みで書類を横にずらした。
「おぉ!リュクス君か!崖壁の先についての報告であろう?ぜひ聞こうではないか。」
「えっと、仕事のほうはいいのですか?」
「対して問題はない。それよりも、崖壁の先に行けると知った冒険者が集まっておるのじゃ。情報は多いに越したことはない。」
「な、なるほど。それじゃあ僕の通った道だけの話ですが…」
ドーナッツ渓谷のワイバーンの件は省き、その先で出会った様々な魔物について話し始める。
地面から飛び出す幽霊鳥、泥地のサハギン、石化の力を持つカトブレパス、生態のわからなかったペリュトン、巨大なタラスク、岩盤をも進むアンフィスバエナ、大量にいた黄金スカラベ、それを食うアスプ。
そして茨の地で出会った魔物、低木に寄生するヤドリギ、茨より咲くバロメッツ、それを襲うダイアウルフ、そして茨を焼いたことで襲われたマンイーターと、それらの母である薔薇。
「もっとも、マザーローズを倒したので、もう出会うことのない魔物たちかもしれませんが…」
「ふむ、なるほどのぉ。その可能性は高いじゃろうなぁ。」
「ならなおさら回収して来いよ。激レアなら高く売れるぜ?」
「バロメッツはなんていうか、不気味で近寄りがたかったんですよね。マンイーターは燃やしてしまいました。あるのは、氷漬けのマザーローズだけです。」
凍って真っ二つになってはいるが、マザーローズの本体は回収していた。
「ドーンよ、どちらにせよ、ここでは扱いきれぬ。アスプの量も多いのじゃろう?すまぬが、王都の冒険者ギルドに頼むとよい。」
「んま、そうだよなぁ。それが一番処理も早いだろうな。」
「向こうでも魔物のことを聞かれるじゃろうが、頑張るのじゃぞ。」
「はい。では、早めに渡しちゃいたいので、失礼しますね。」
リュクスは南端の冒険者ギルドを後にし、王都へ向かう。
転移を使えば時間はかからず、すぐに王都のギルドへ到着した。
こちらは南端とは比にならぬほどの人混みだが、受付は多く流れもスムーズ。
すぐに並んだリュクスの番になるが、顔を見ただけでギルド長室に直接向かうように伝えられた。
「おぉ!リュクス君!久しぶりだね!」
「お久しぶりです。ギルシュさん。」
「僕も久しぶりではあるんだけどね。」
「はい、テルミクさんも、お久しぶりです。」
二人は笑顔でリュクスを迎えたが、テルミクはギルシュを軽く睨む。
「それにしても、マスターは忙しいはずですよね?」
「崖壁奥に住む魔物の話と聞いたら、仕事など即効で済ませる!」
「…いつもそうしてください。では、リュクス君、アーバーから少しは聞いてるけど、改めて話してくれるかな?」
「はい。では太陽の大樹から…」
アーバーとドーンに説明した内容を、同じように話していく。
だが、ペリュトンの説明で、ギルシュが質問を投げかける。
「そのペリュトンという魔物、魔素への反応が薄かったというが、なぜかはわからなかったのか?」
「残念ながら、全くわかりませんでした。倒したやつも肉体ごと消滅してしまったので…」
「ふむ。だが幽霊鳥のようなアンデッドではないのだな?」
「おそらくは違いますが、何とも言えません…」
「マスター、そのくらいで。」
「おっとすまん!続きを頼む。」
「了解です。」
そして残る魔物の説明を終えると、マザーローズをすぐに見たいということで、倉庫へ移動する。
ポーチから取り出すのはワイバーン三体、カトブレパス一体、アスプは大量、そして氷付けで真っ二つのマザーローズ。
「おぉ!これが魔物と化した薔薇か!」
「薔薇自体は華花の街でたくさん見たことがあるが、ここまで巨大になるとは…」
「月の大樹の魔力と、濁った魔素の影響が原因のはずなので、普通の薔薇がこうなることはないですよ。」
「わかっている!だからこそ、貴重な資料だ。薔薇の素材は本当に要らないのか?」
「特に用途はないので…」
残したままでもクリーナースライムが処理しただろうが、リュクスはなんとなく回収したのである。
素材を何かに使うつもりはなく、検分後に相応の額を受け取るということで話は決まっていた。
「アスプのほうは、肉は八割、皮は数量希望でしたね?」
「はい。ちょっと蛇肉に挑戦しようかなと。」
アスプは巨体のコブラではあるが、可食部は少ないようで、肉は多めに確保。
皮はモイザが希望し、少量確保することに。
「このカトブレパスの肉はすべてか。検分は入れるが、確実に渡そう。」
「お願いします。」
カトブレパスも肉を確保することを再確認すると、ギルシュは珍しく真剣な表情で検分を始める。
「終わり次第連絡を入れるよ。明日まではかかりそうだけど。」
「え?アスプは大量にいますけど…」
「一匹分は検分に回せるし、解体は任せて。」
テルミクは解体ナイフを取り出し、早速アスプに刃を入れ始める。
二人が集中し始めたのを感じ、リュクスはそっと倉庫を後にしたのだった。




