表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランダムに選ばれたのはテイマーでした  作者: レクセル
デモナの地

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

377/418

月の大樹

ベードが三日月山の山頂へ向かう中、リュクスはいまだ眠り続けるグラドに触れる。

毒気こそ抜け切ったが、棘を受けて落ちた時に焦ったことを思い出す。


「棘を受けて、あんなにすぐにグラドが落ちるとは思わなかったよ。」


『己もだ。グラドは子とはいえブラックドラゴン。並大抵の麻痺毒は耐えられるはずだからな。』


「つまり、それだけ強力だったってこと?」


『そういうことだ。しかし、すでに毒気は消えている。前も言ったが、あとは寝ていれば治るだろう。』


「それならいいんだけど。」


『そろそろ山頂につきます!』


ベードの声にリュクスは正面に向き直る。

三日月の先端、細くなった崖が山頂だ。

しかし、そこにあるはずの月の大樹の姿はなく、気配すら感じられない。


「…なんもないんだけど、本当にここなの?」


『知らん。だが、先ほど戦った花の魔物の識別内容に、月の大樹の項目があったのだろ?』


「そうだね。だから山頂にあると思ったんだけど…」


何度見渡しても木の影すらなく、黒ずんだ雑草が生い茂るだけ。

だが、そこで気が付く。

このあたりの雑草はしっかり縦に伸び、茨の影響を受けていないことに。

そして、一部だけ雑草がなく茶色の地面がむき出しになっていることに。


「あそこだけ雑草が剥げてる。もしかしてだけど、あそこに大樹があるんじゃないかな?結構範囲も広いし。」


『なるほど、可能性はあるな。近づいてみるか。』


『了解です!』


ベードがむき出しの地面の目前まで近づくが、やはり何もないようにしか見えない。

リュクスがベードから降り、試しに手を伸ばすと、突如、周囲がさらに暗くなる。

何事かとあたりを見渡すが、魔物が現れたわけではなく、周辺の空が分厚い雲に覆われ、太陽が隠れていた。

唖然と見上げていると、突如、目の前に薄青い大樹の幹が現れ、空は青い葉に覆われた。


「うわっ!た、大樹が出てきた!?」


『気を付けろ!この大樹、魔物の気配がする!地面から何か来るぞ!』


「え?…でもそれって、前にも出会ったドリアードのことじゃない?」


『…そうだったな。』


強大な魔物の気配に臨戦態勢だったレイトだが、リュクスの言葉で力を抜く。

そしてベードたちの背後の地面から大樹の根が突き出してくる。

その背は幹よりも明らかに黒ずみ、濁った魔素の影響を受けているように見えた。


樹皮が扉のように開き、現れたのは薄い青色で淡く光る女性らしき存在。

以前見たドリアードに似ているが、背丈はリュクスの半分ほどしかなく、光も明らかに弱々しい。


『おう、やってきてくれたか。助かったぜ。』


「え?えっと、はい。失礼ですが、識別してもいいですか?」


『構わねぇが、それが終わったら早めに癒してくれるとありがてぇ。』


「りょ、了解です。」


美しい見た目にたがわない麗しい声なのだが、似つかわしくない荒い言葉遣いにリュクスは困惑しつつ、識別をかける。


----------

対象:ウェストムーンドリアード

西を守る月の大樹の精霊

----------


以前と同じく、識別でわかるのは種族名だけだったが、リュクスは軽く頷く。


「識別終わりました。癒しますね。」


『まじで早めに頼む。』


急かしてくるので、リュクスもすぐに根に触れ、ヒーリングハンドを発動する。

剥き出しの根全体を緑の光が包み込み、黒ずんだ青から薄い青色に変わっていく。

ドリアードもほっと一息つき、ゆっくりとだが、徐々に背丈が延びる。


だが、リュクスは少し顔を歪めていた。

ヒーリングハンドで抜き出される魔素が明らかに多い。

それだけ月の大樹が弱っていたのだとわかり、気合を入れて回復を続ける。


やがて、ドリアードの背丈がリュクスの胸元を超えるほどに成長し、軽く手を叩いた。

リュクスは根から手を離すと、肩で息をし始める。


『大丈夫ですか、主!』


「だ、大丈夫だよベード。ちょっと疲れただけ。」


『あれだけの魔素を使ったのだ。疲れたで済むほうが異様だぞ。』


「そ、そうなの?」


どうなのかとリュクスが目を向けると、ドリアードは肩をすくめた。


『わりぃな。ちょっと無理させたか。でも、おかげでほぼ元通りになったぜ?』


「まだ背は低いような気がしますが…」


『それは元々だ!』


「あ、すいません…でも、何があったんですか?」


『見なかったのか?あの薔薇に力を奪われちまってたんだよ。おかげでこのあたりは濁った魔素の影響が強くなっちまった。すぐに整えねぇとな。』


肩慣らしをするドリアードを見て、リュクスは確かに元気になったのだと一安心する。

だが、少し疑問もわいてくる。

先ほどの薔薇からここまで、ベードの足があったとはいえ、一刻も立たずにたどり着いた。

なぜ、そこまで肉薄されるほど魔物の接近を許してしまったのかと。


「あの、他の大樹はここまで近くに魔物が居なかったんですが、弱ってて接近されたんですか?」


『あー、それはすこしちがうな。なんだ、興味あるのか?』


「はい、少しだけ。」


『んじゃ、癒してもらった礼に聞かせてやるか。』


ドリアードはその場に座り込み、語り出す。

かつて月の山は、月の大樹により魔物を避ける力を有していた。

そんな安息の地だからか、どこかから迷い込んだ小さな薔薇が、大樹から見える場所に咲いた。

しかし、当時よりすでに少なからず濁った魔素の汚染があり、何の変哲もない薔薇など、すぐに枯れ落ちる運命であった。

哀れに思った月の大樹は、その薔薇に一握りの魔素を分け与えた。


だがそれがすべての元凶となる。


濁った魔素の影響は徐々に強くなり、緑生い茂る月の山も黒ずんだ雑草に覆われていく。

やがて、小さな薔薇も濁った魔素に汚染されたが、月の大樹から魔素を得た影響で、枯れることはなく、代わりに魔物へとなりはてた。


ただの薔薇にあったのは、強大な生存本能。

それゆえに月の山全体に通していた月の大樹の魔素を奪い取り、月の大樹の力は衰え、薔薇はより力を得ていく。

自らの子となる魔物まで生み出し、ついには麓のデモナたちまでも滅ぼした。

さらに力を得た薔薇に、いつか完全に乗っ取られるのではないかと、月の大樹は深い後悔を抱いていた。


『お前らが来てくれたってわけだ。』


『自業自得ではないか。』


「ちょ、レイト!?」


『その通りだな。あの薔薇には、悪いことをしちまったぜ…』


落ち込むドリアードに何と声をかけるべきか悩んだリュクスだったが、当のドリアードはすぐに立ち直り、体を大きく伸ばした。


『何にせよ、これでわざわざ姿を隠さずに済むぜ。』


「そういえば、なぜ姿を隠していたんですか? 」


『余計な魔物に襲われねぇようにだよ。暗くして悪かったな。 光があるうちは、気配も見つからないようにしてたんだ。』


ドリアードが指を鳴らすと、雲が引き、太陽の光が山頂へと差し込んだ。

まだ重苦しい濁った魔素は漂っているが、薄暗かった周囲は一気に明るさを取り戻す。

皆が空を見上げれば、大樹の青い葉が光を帯びていた。


『おっと、そうだった!このあたりの魔素を整える前に、南にある力の大樹を示す葉を渡しておく。 太陽の大樹から受け取ったのと同じようなもんだ。』


ドリアードが上を指さすと、空から青い葉が一枚、静かに舞い落ちてくる。

リュクスが手に取ると、それは三日月の形をしており、尖った先は南側を指していた。


「ありがとうございます。」


『いいってことよ。太陽の大樹から伝えられてたからな。』


太陽の大樹と月の大樹は、相当な距離を隔てて存在している。

どうやって伝えたのかは気になったが、リュクスはベードの背で眠るグラドにちらりと視線を向けた。


「これで向かえますが、その前に、一度家へ戻って休みたいんです。ここに転移地点を敷いてもいいですか?」


『かまわねぇぜ。ゆっくり休んでからまた進め。ここから南は雪山だからな。』


「雪山…なるほど。」


リュクスはスノーダイアウルフがバロメッツを襲っていた光景を思い出し、納得した。


『んじゃ、そろそろ本体に戻るわ。もう会うこともねぇだろうが、よろしく頼むぜ。』


「はい。僕もいったん帰宅します。」


ドリアードは大樹の根へと戻り、やがてその根も地面へと沈んでいった。

リュクスも転移地点を設置し、自宅へと帰還するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ