飲み込まれた集落
時折ダイアウルフがバロメッツを襲う気配を感知していたが、西に進むにつれダイアウルフの数は減り、代わりに茨の密度が増していく。
時にはベードが茨を飛び越えることもあったが、バロメッツにはできる限り接近せず進んできていた。
数日もするとダイアウルフの気配は完全に消え、代わりに西の先から大量のバロメッツの気配を捉えた。
その気配は、今までと違い等間隔に並ぶような気配も混じり、リュクスは違和感を覚えながら口を開く。
「なんか、今までよりバロメッツが集まってる気配がするね。大きく避けて進もうか。」
『お前の感知範囲にも入ったか。普段なら、己もそう提案するが、バロメッツの気配に交じり建物の気配がある。』
「え?建物の気配?僕は感じないけど…」
『茨に巻き込まれている影響か。お前は興味あるかと思ったが、確かめるか?』
レイトの提案にリュクスは少し悩み顔を下げる。
それを感じ取り、ベードは少しだけ走る速度を落としたが、リュクスはすぐに顔を上げた。
「ちょっと思ったけど、こんな場所にある建物って、デモナの集落位だよね?」
『そうだろうな。』
「でも、デモナの気配はしないよ?」
『すでにいないということだ。だが、ボルコナが言っていた集落なのだろう。』
「ボルコナの出身地…三日月の山が見える集落か。わかった、行ってみよう。」
まともに会話を交わせたコボルトデモナを思い出し、リュクスは向かうことに決めた。
『了解です!方向を指示してください!』
「少し南側だけど、ほぼこのまま進めば見えてくるはずだよ。」
『では、このまま進みます!』
ベードが速度を戻すと、一刻ほどで集落跡が見えてくる。
周囲は魔物避け用に大きな木の柵があったようだが、原形も判別できないほど茨に侵食され、わずかに残った部分は蔓を伸ばす支柱として利用されていた。
集落へと続いていただろう砂利の道だけは雑草に飲まれつつも少し残り、茨の侵食は受けていなかった。
その道を通り、リュクスたちは集落内へと入る。
中も木製の建物ばかりだったようで、どれも茨に覆われ、天井は崩れ落ち、原形すらとどめていない。
そして、等間隔に並ぶ建物の中からは、ひと際大きなバロメッツが生え、見事なまでに肥大した巨大羊が据えられていた。
さらに進み、中央広場だったであろう場所にたどり着く。
地面の様子から、本来は砂利が続いているはずの場所だが、そこだけは茨に侵され、一回り小さなバロメッツが密集して咲いていた。
「…気配の原因は分かったね。」
『そうだな。デモナの集落が壊滅し、茨の栄養となったのだろう。』
建物跡は二十もあるが、すでにデモナの気配は完全に感知できない。
亡骸らしき反応もなく、崩壊の進み具合から、壊滅してかなりの時間が経っていることは明らかだった。
『どうする?気に障ったら吾が燃やしてもいいぞ!』
「…やめておこう。」
リュクスはグラドを抑えると、少しうつむき黙祷をささげる。
だが、ボルコナの故郷であるだろうこの集落が存命ならば、リュクス自身が襲われていた可能性すらあっただろう。
それがわかっているからか、すぐに顔を上げて疑問を口にする。
「そういえば、この集落から三日月型の山が見えるんだよね?まだ昼時なのにまったく見えないけど…」
『おそらくそれも濁った魔素の影響だろう。』
西の先を見渡しても、山らしき影は見えない。
今も昼過ぎのまだ明るい時間であるはずなのに、濁った魔素の影響で淀んだように暗くなっている。
太陽の光だけでなく、視界そのものを歪ませているのだと悟り、リュクスは肩を落とした。
「…気分悪くなってくるよね。そうだ。さっきの砂利道、少し開けてるし、転移地点を置いてもいいと思う?」
『転移か。魔物に気配がばれるかもしれんが、バロメッツどもは気配を消してないダイアウルフにすら、自ら何かすることはなかったな。』
「うん。そのダイアウルフの気配はすでにないわけだし、戻ってきても襲われる心配はないかなって。」
ダイアウルフがヤドリギ付きのバロメッツを襲い、返り討ちに遭うことはあっても、バロメッツ単体に攻撃性能はなく、ダイアウルフの餌になっていたのだ。
そして、この集落跡のバロメッツたちからは、ヤドリギの気配を一切感じない。
「僕の感知では、ヤドリギの気配はないけど、レイトはどう?」
『かなり遠い。ヤドリギがいたとしても、向こうから襲ってくるようなことはないだろう。日数的にも、休憩時ではある。』
集落周りにはヤドリギの気配はなく、レイトの広範囲感知でも、遥か遠くのバロメッツについている程度。
集落を後にして砂利道へ戻ると、転移地点を設置する。
それだけで大きな魔素を使うので、動物型の魔物ならばリュクスたちに襲い掛かってくるだろうが、バロメッツたちは植物なのもあり動くことはない。
リュクスが転移を使い、この地から去っても、バロメッツたちは集落跡に咲き渡る。
羊部分は生物のように見えはするが、その体は手足も首もまっすぐ伸びているだけ。
その中でも目立つ、デモナから奪ったであろう魔素を糧に異様に肥大した羊。
それはまるで、侵略を誇示する標のように。




