黒ずんだ低木の地
砂漠の集落跡からすでに三日が経っていた。
二日ほどはアスプの縄張りで、スカラベの数も少なく、ほぼまっすぐ進めていたが、三日目はアスプの気配がなくなり、砂地一帯を埋め尽くすスカラベを避けながら進む場面が増える。
いつこの砂漠が終わるのだろうかと、スカラベを避けつつ進み続けていたリュクスたちだったが、さらに二日後、ようやく黒ずんだ砂漠の切れ目に到達した。
砂地から急に土の地面へと変わり、くっきりと地質の境界が引かれたような光景になっている。
今まで見てきた境とは明らかに異なり、自然に形成されたとは思えないほど不自然な地質変化だった。
特に岩盤地帯から砂漠地帯は徐々に変化していたので、そのあまりに明確な差に、リュクスは思わずベードの足を止めるほど違和感を覚えていた。
「なんか、今までの土地の境とは全然違うね。それに、奥は雑草まみれだし。」
奥には黒ずんだ雑草が生い茂る様子すら伺える。
ここまでの砂漠と比べると、同じ不毛の地とは思えないほどの変わりようだった。
『そんなことよりも、このあたりは魔物の気配がない。帰宅するならここがいいだろう。』
「そうだね。じゃあしっかり休もうか。」
地質の境に転移地点を作り、一日しっかり自宅で休息をとる。
そして翌日戻ってきたのだが、転移という大きな力を使ったにもかかわらず、魔物が寄ってくる気配は感じられなかった。
『まったく魔物が寄ってこないな。なぜだ?』
「寄ってこないに越したことはないけど、レイトは魔物の気配は感じてるの?」
『遠くにはまだスカラベの気配がするが、こちらに近づく気配はない。奥の土地にも魔物の気配をうっすらと感じるが、そちらも動く気配がないな。』
「…不穏な感じだね。ベード、気を付けていくよ。」
『了解です!』
ベードが走り出し、あっという間に雑草地帯へ入る。
今までも黒ずんだ雑草地帯はあったが、これほど密集し、地面を覆い尽くすような光景は初めてだった。
さらに進むと、低木すら生えていた。
今まで見た不毛の地の木々とは違い、しっかり枝葉が伸びている。
大きさはリュクスの身長の半分ほどしかない小さなもの。
人の手が入っていないはずなのに、不自然なほど整った球体状をしている。
そして、雑草と同じく、全体が黒ずんでいた。
「…黒ずんでるってことは、濁った魔素の影響を受けてるんだよね?」
『それこそ識別すればわかるだろ。』
「いや、それはそうなんだけど、不毛の地なのに変だなって思ったの。」
とはいえ、リュクスもすぐに低木に識別をかける。
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対象:ブラッケンドボックスウッド
黒ずんだツゲ
濁った魔素の影響を受け、樹木全体が黒ずんだ
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「…識別したけど、特に情報は得られなかったよ。」
『そうか。だがそれよりも、魔物の気配が近いぞ。』
「うん、僕も捉えた。なんか、この低木に似た姿をしてるね。」
魔物の気配を追って近づいたが、そこにあったのは、先ほど識別したものと同じ、黒ずんだ低木が一本立っているだけ。
だが、確実に魔物の気配はその低木から発せられていた。
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対象:ブラッケンドミスルトゥ
黒ずんだツゲに寄生し、乗っ取ったヤドリギ
ヤドリギは木を媒体とし成長する魔物
生物が近づくと突如蔦を伸ばし絡めとる
絡めとられると急激に魔素を奪われ、そのまま命を落とす
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「こ、こわ…目がないからこっちに気づいてるかどうかもわからないし。」
識別結果に少し身を引くリュクス。
その様子にレイトが目を細めた。
『どんな識別結果だったのだ?』
「あ。えっと、生物が近づくと蔦を伸ばして絡めとるんだって。そして、蔦に絡まれると、魔素を急激に奪われて死ぬみたい。」
『なるほど。だが、ベードは大丈夫だ。向こうがこちらに気が付いている気配はない。』
「え?そんなことまでわかるの?僕は全くわからないんだけど…」
『…お前は識別しても、こういう植物そのものの魔物は苦手か。』
なぜかにやりと笑みを浮かべるレイトに、リュクスは首を傾げた。
『俺の気配が見つかっていないのなら、このまま進みます!』
「うん、お願いね。」
気配を悟られなければ、ただ木が生えているだけ。
ベードがぶつかるようなミスをこともなく、どんどん進み続ける。
やがて点々と生えていた低木の密度が増え始め、ヤドリギの気配も増える。
とはいえ、リュクスの指示でヤドリギをしっかり避けて進むベード。
その走りは軽快で順調に西に進みつつ、夜を迎えた。
「なんか、いつもより月が暗い?」
本来、夜もそれなりに明るく、視界が効くのだが、この場所では月明かりすら弱々しく感じられた。
夜目が効くベードにはそれほど影響はないとはいえ、いつも以上に濁った魔素の気配が重苦しくなる。
『雲はない。土地の影響だろう。』
「土地の影響で暗くなるんだ…」
『詳しく言えば、濁った魔素の影響だ。ここは他よりも濃く蔓延している。』
「なるほどね。」
雲一つない月夜が淀むほど、濁った魔素の影響が濃いというのに、地上はむしろ植物が繁栄している。
風は一切なく、木々が揺れる音もない。
改めて、この土地が抱える異様さを、リュクスは肌で思い知らされていた。
とはいえ、ソナーエリアによってヤドリギを感知し、指示をベードに飛ばしつつ、夜も順調に進んでいった。




