避けられぬ遭遇
レイトの感知範囲から、完全に集落とデモナの気配が遠ざかるほど、進路を大きく外れ、ようやく再び西側に進み始める。
「それにしても、レイトの広範囲探知はすごいよね。」
『そうでもない。以前も話したかもしれぬが、己の感知は風を広げるものだ。確かに広範囲を感知できるが、感知できるまでに少し時間がかかる。』
「そうなの?確かに、集落を見つけた時より、明らかに離れたけど。」
『ものにもよるが、一度風がぶつかり、再び己のもとへ戻ってきた時、確実に感知できるのだ。仕方あるまい。』
「なるほど。それで感知までラグがあるんだね。」
レイトの感知も万能ではないことに納得したリュクスだったが、一瞬考え込む。
「そうだ!雷を感知に使うのはどう?」
『雷を使った感知は何度か試したことがあるが、魔素が混ざりすぎてしまって、感知を使っていることがばれたから諦めた。』
「あー…なるほどね。」
せっかく気配を消し、こちらだけ相手を感知するという戦法で進んできたのに、それでは意味がないとリュクスも諦めた。
しばらくして、日が暮れ始める。
ここまでもデモナたちから離れ、うまく抜け切れるだろうとリュクスは考えていたが、レイトがしかめ面で耳を持ち上げた。
『…まずいな。ベード、一度止まれ。』
『は、はい。』
「どうしたの?またデモナの気配?」
『そうだ。北側から集落方面へ向かっているのだろう。様々な方向から来るぞ。』
「…もしかして、避けれそうにない?」
『残念ながら無理だ。南に逃げてもいずれ集落のデモナに感づかれる。』
「そう、だよね。」
大きくため息を吐いたリュクスの中に渦巻くのは、これから間違いなく起きるであろう対人戦への憂鬱感。
それを感じ取ったのか、レイトが珍しく頭を下げた。
『すまない。己がもっと早く気づけていれば…』
「いや、レイトが悪いんじゃないよ。僕の感知がもっと広ければ気づけたかもだし。それにしても、なんでこんな遠くにいるのかね…」
『どうやら蛇を狩猟していたようだ。それよりも、こちらに気づいたようだぞ。』
「…了解。」
デモナたちが気配を消したベードを察知したらしく、まっすぐ飛んで向かってくる。
やがてリュクスの感知範囲でもその気配を捕らえ、軽く臨戦態勢を取った。
まずリュクスたちの元へ到着したデモナ二人組は、どちらも青い髪だが、片方は英国紳士風、片方はロシアの衛兵を思わせる姿。
どちらも赤黒い翼を羽ばたかせ、大量の蛇を紐に括りぶら下げていた。
「何の気配かと思えば、聖族とその従魔だったか。」
「これはこれは。狩りの余興にふさわしい獲物だ。」
「あの、僕は戦いたくないんですが。」
「戯言を。」
どさりと蛇を落すと、英国紳士風デモナは何も背負っていないはずの背中から、まるで背骨を抜き出すように大剣を抜き出す。
細長い刀身から左右にいくつもの棘が生えた大剣は、本当に背骨から作り出されたかのように見える。
対してロシア衛兵風デモナは、軽く右手を振り払うだけで武器を出現させて見せる。
斧の刃を槍先に取り付けたような、いわゆるハルバートと呼ばれる斧槍だ。
切るにも突くにも使えそうな長柄武器を、片手で軽々と振り回す。
「そちらも構えてください。無抵抗を狩りとっても、手ごたえがないですからね。」
「…はぁ、しょうがない。」
リュクスはベードから降りて、下がっているように軽く手払いする。
悟ったベードが離れると同時に、二人のデモナが急降下し、リュクスを狙う。
「ディメンジョンスラッシュウェーブ。」
その二人めがけ両手を向け、空間斬撃波を放つ。
デモナたちも即座に反応し、自らの武器で防ごうとする。
しかし、棘の付いた大剣も、軽々と振り回していた斧槍も、あっけなく真っ二つに切られた。
さらには、デモナ二人の胴体まで斬撃波は届き、鮮血を噴き出しながら地面へと落ちてくる。
「バカ、な。威力が、高すぎる…」
「私の斧槍が…」
黒ずんでるとはいえ、砂地のおかげか、二人はわずかに息がある。
だが、そんな中、さらに二人組のデモナが合流してきた。
「おうおう、お前らがあっけなくやられたのかよ?その聖族、なかなかやるようだな。」
「聖族に負けたあなたたちが、無駄に生き足掻かないでね。」
焼けた肌を見せる背の高いデモナと、フランス人形のような見た目の背の低いデモナの凸凹ペアが、蔑むように砂漠に這うデモナを見つめる。
息絶え絶えな二人のデモナは軽くうなずき、折れた自身の武器の刃を、躊躇なく自らの喉へ突き立てた。
リュクスは不快そうに顔をしかめつつも、目の前に浮かぶデモナから目を離さない。
『おい、主!四人はさすがにきついだろ?吾にも戦わせろ!』
「…グラド、着ちゃったんだね。じゃああの二人をお願い。」
『おう!そう来なくっちゃな!』
ベードの背に乗せたまま下がらせたはずのグラドだったが、いつの間にかリュクスの横にいた。
「俺らの相手は、ちっこいドラゴンかよ!まぁいいぜ!」
「そうね。小さいとはいえ、やはりドラゴン。かなりの魔素を持っているわよ。」
『吾を舐めるなよ?おっと、言葉はわからないんだったな。』
グラドと凸凹デモナペアが戦い始めるのと同時に、次のデモナ二人組が到着する。
すでに二人とも臨戦態勢で、それぞれハンマーを槍先に取り付けたような、ルッツエルンと呼ばれる武器と、大きく湾曲した刃をもつ、ショーテルと呼ばれる武器を二刀持っていた。
どちらもバチバチと音を立て、軽く帯電している。
『…どちらも雷を使う相手か。ならば、己が出よう。』
「え?レイトが?」
『お前はベードたちと共に、南からの増援を対処しろ。すでに七つの気配がこちらへ飛んできている。』
「な、なるほど。了解。」
帯電武器を持つデモナペアの前に、リュクスの頭上からレイトが降りて立ちふさがった。
二人からすれば姿は普通の兎の魔物に見えるが、デモナであるからこそ、むしろ武器を握る手はギシリと音を立てた。




