黄金を喰らうアスプ
黒ずんだ砂漠の中、黄金スカラベを避けて進むリュクスたち。
一体一体は小さいが、群れの数が多く、西への進行はいつもより遅くなっていた。
スカラベの縄張りを抜けるのに日数がかかるだろうと考えていたが、三日目の朝にレイトが耳をあげた。
『ぬ?他の魔物の気配を捉えた。』
「もう?結構遠回りしたにしては、早くない?」
『そうだな。どうやら別の魔物がスカラベを食っているようだ。』
「え?どういうこと?あのスカラベ、倒したら崩れるんじゃないの?」
『知らん。さすがに見て確かめるしかあるまい。』
自分の識別結果が間違っているのかとリュクスは不安を抱きつつ、ベードが進んでいき、リュクスもスカラベとは違う魔物の気配を察知する。
レイトの言う通り、スカラベを食べているようだ。
やがて、砂上に新たな魔物を視界で捉える。
人の拳ほどの大きさがある黄金スカラベを、一口で捕食するその姿は、まさにコブラを思わせるものだった。
鱗の色味は淡いクリーム色で、普通の砂場ならば擬態性も高かっただろうが、黒ずんだ砂の地では迷彩として役割を果たせていない。
元の世界から考えれば、巨体の蛇ではあるが、先日出会ったアンフィスバエナに比べると小さく思えてしまう。
とはいえ、広がった襟の背にはドクロ模様が浮かび、ベードに気づいていないというのに、リュクスにすら威圧感を感じさせる。
なにより、本来は相手を黄金にするはずのスカラベたちが、ただ逃げるだけで無抵抗に捕食されているのだから。
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対象:ディセーブルコブラアスプ
あらゆる毒が効かない蛇
捕食の際は獲物の魔素だけを抜き取り、抜け殻を吐き出す
蛇自体は牙に非常に強力な毒を有する
この毒に犯された部位は砂のように崩れ落ちてしまう
肉体に毒素はなく、淡白だが美味
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「…識別したけど、牙に毒があるんだって。身は食べれるみたいだよ。」
『そんなことはどうでもいい。なぜスカラベが食えるのかわからなかったのか?』
「うーん…憶測だけど、あらゆる毒が効かないって出てるから、もしかしたらスカラベの金化も毒なのかもしれないね。」
黄金化の識別上には毒だという内容はなかったが、アスプの識別結果で黄金化を防げそうな内容が毒無効の内容のみ。
リュクスの憶測であったが、レイトは逃げるスカラベをにらみつつ頷いた。
『なるほど。治癒手段のない毒でも、効果がなければ意味はないか。』
「ついでに、アスプは相手の魔素だけ抜き取るらしいよ。ほら、今も砂を吐き出してる。」
アスプが首を垂らし、金色の砂を吐き出していた。
おそらく、元は黄金スカラベだったものだろう。
『…今俺が踏んでるこの砂も、どっかにスカラベの残骸が?』
「ど、どうだろう?黒ずんでる中には金らしき粒は見えないけど…」
ベードが不安そうな声を上げたので、リュクスが持ち直せるような言葉をかけた。
そんな折、アスプは満足したのか西側へ砂地を滑るように去っていく。
先ほど金の砂を吐き出していたはずの場所は、なぜか金の破片も見えず、ただ黒ずんだ砂地が広がっていた。
『…き、気にしないように進みます。』
『むしろそんなこと気にしてどうする。』
『そ、その、主が嫌がっていた魔物なので、つい。』
「…帰ったらお風呂でしっかり肉球の間まで洗うからね。」
『りょ、了解です。』
ベードとしては別に肉球まで洗われるのも心地いい物なのだが、リュクスの有無を言わせないような声色に、少し返事の声が震えた。
この先は完全にアスプだけの縄張りになるだろうとリュクスは思っていたが、想定と違い、黄金スカラベの気配もそこかしこに感じ取れる。
とはいえ、アスプたちがスカラベを狙っているため、群れる総数もここまでより圧倒的に少なく、はぐれ個体は一切見当たらなくなっていた。
生態系だけで言えば、完全にアスプがスカラベの上に立っている地。
だが、夜になると少し話が変わる。
砂中に潜るように眠るアスプとは違い、スカラベたちは夜も動き続ける。
餌となる砂を厳選しているのか、もっと何か別の目的があるのか、識別ではわからないスカラベの生態だが、リュクスはそれを調べようと思うほどの興味が持てなかった。
むしろ、群れを見るとやはり多少気持ち悪さを感じるため、ベードに指示して、できる限り避けて進んでいく。
アスプの縄張りに入って二日。
いつもならそろそろ休憩を入れたい頃合いだが、休めそうな場所などなく、どこもかしこも魔物の気配だらけ。
いっそのこと掃討して転移地点を作ることもリュクスが考えていたさなか、再びレイトの耳が持ち上がった。
『…またこの気配か。』
「どうしたの?」
『デモナの気配だ。数は少ないが、おそらく集落がある。』
「え…タイミング悪いね。」
『休息日を考えていたのか。ならばむしろよかっただろう。魔素を使えば感づかれていたはずだ。』
「あー、それもそうだね…」
デモナの魔素感知能力は高い。
おそらく、アスプの縄張りに入った時点で、リュクスたちが魔素を使おうものなら感づかれていただろう。
今使っているソナーエリアはそういう感知にも感づかれない技だが、転移など使えば一発でばれることは間違いない。
『どうする?』
「どうするって、近づいたら襲ってくるでしょ?とにかく離れて進むしかないよね。」
『また己の感知次第ということだな。』
「まぁ、そうなるけど、頼んじゃっていいかな?」
『帰宅した際の春巻きと酒増量で手を打とう。』
「もちろん、増量させてもらいます。」
恭々しい態度で手もみするリュクスに、レイトが軽く鼻息を鳴らしつつも、砂漠の遥か地平線をにらみつけた。
『かなり広範囲に散らばっているようだな。相当遠回りになるぞ。』
「まぁ、しょうがないよ。どう行けばいいか、ベードに教えてあげて。」
『レイトさん!お願いします!』
『わかっている。とりあえず、直角に右に曲がれ。』
『了解です!』
これまで多少の遠回りはしてきたが、進路そのものを大きく外れる選択はほとんどなかった。
だが、今回はデモナとの衝突を避けるため、大きく右へそれることを選択したのだった。




