狩られる破壊衝動
足を止めたリュクスたちの耳に、タラスクの姿すら見えていないのに、熊の咆哮かと思うような鳴き声が響き渡る。
咆哮を上げたタラスクの前には、宙に浮く三人のデモナ。
遥かな巨体よりもさらに高い位置を飛ぶ彼らに向かい、タラスクはただ破壊衝動という本能のまま、突っ込んでいく。
それを嘲るように見下ろしつつ、二人のデモナが両腕を掲げる。
その瞬間、地面の一部が激しく盛り上がり、杭のように突き出てタラスクの体を持ち上げた。
勢いそのままにひっくり返ったタラスクはじたばたと足を動かすが、自慢の防御力を誇る甲羅の影響で、仰向けから元に戻れない。
全体的に黒ずんだ色をしたタラスクだが、小さなへそ部分だけは真っ白で、そこへ残る一人のデモナが大剣を突き刺す。
たったそれだけでタラスクは断末魔を上げ、あっけなく絶命した。
巨大な魔物を狩ったというのに、三人のデモナは談笑しながら、緩やかに地表へと降りてくる。
タラスクの下に土魔法で大きな荷車を作り出し、魔法を使って背後を進ませる。
デモナたちの向かう先は、先ほどレイトが感知した集落方面だった。
「…よくそんなことまでわかるね。」
『足を止めたうえで、その相手だけを集中して感知すればな。』
デモナによるタラスク狩りの光景を見たわけではないが、レイトの感知によって、リュクスもどのようなことが行われたかが一部始終理解できた。
何より、デモナたちが積極的に集落を出て、タラスクを狩っていることを知れたのが大きい。
彼らに気配を察知されないよう、さらに大回りしつつ進んでいく。
「それにしても、あんなふうにひっくり返さなくても、あの白いところが弱点なら、初めから魔法で貫いちゃえばいいのにね。」
『お前は感知であのタラスクのへそがわかるのか?己もわからなかったが。』
「え?そうなの?さっき識別で近づいた時は、大まかにだけど分かったけど…」
『ほう?確かに場所さえわかれば、鈍重な相手だ。貫けるだろうな。』
「デモナたちは正確なへその位置がわかってるわけじゃないってことだね。」
わざわざひっくり返し確認するということは、個体ごとにへその位置は違うのだろうとリュクスは勝手に納得する。
とはいえ、リュクスは気になったので、次にベードがタラスクの背後を通り抜ける際に、改めてへその位置を感知してみる。
確かに、識別した個体よりも体の前方にあるようだと確認できた。
「うーん、やっぱりへその位置は個体ごとに違うんだ。」
『何だ。わざわざ確認したのか。』
「まぁね。それより、なんで僕だけへその位置がわかるんだろ?」
『お前の感知には空間術を使っている影響だろう。己は風魔法、デモナの感知は知らぬが、お前は魔物の空間構造を把握することで、へその位置もわかるのではないか?』
「…僕より僕の技がわかるレイトがちょっと怖いよ。」
『ふん。』
知識量による部分も大きいのだろうが、リュクスの反応にレイトは軽く鼻息を鳴らした。
それからも三度ほど、タラスク狩りをするデモナの気配をレイトが捕らえるが、大きく避けることで、デモナの感知に範囲に入ることもなく、デモナの集落付近を抜け切る。
さらにそこから三日が過ぎた夜に、レイトは再びベードの足を止めさせた。
『この先にタラスクの気配はない。他の魔物の気配もしないが、おそらく、そろそろ縄張りを抜けるだろう。』
「それはよかったけど、わざわざ止めるなんて珍しいね。」
リュクスののんきな発言に、頭上のレイトが呆れたように目を細めた。
『何を言っている。タラスクは鈍重なうえ、夜は湖に戻り眠ることを確認してる。帰宅するならこのあたりでするしかないぞ。』
「あー…でもベードの足で三日前とはいえ、デモナの集落があったけど?」
『さすがにこれだけの距離を感知はできまい。もし感知されているならば、ペリュトンの地で転移したときに感づかれているだろう。』
「それもそっか。じゃあ帰宅しよう。」
『了解です!』
いつも通り転移地点を設置し、転移で帰宅する。
重苦しい濁った魔素の空気から解放され、リュクスも従魔たちも背を伸ばした。
「うーん!やっぱ戻ってくると落ち着くね。それにしても、デモナとぶつからずに済んでよかった。ありがとうね、レイト。」
『感謝するなら、酒と春巻きだ。』
「はいはい。わかってるよ。夕飯は軽く食べただけだし、今日くらい夜食しちゃおっか。」
夜食という言葉に食いつくように、従魔たちは一斉にリュクスへ視線を向けた。
『わーい!ニはカレー!』
『吾は唐揚げが食いたい!』
『お、俺も肉が食べたいです!』
『私は夜食は遠慮します。』
「おっと、モイザはいらないんだ。まぁ、寝てるフレウもだろうけど。」
ベードの頭上からソファーに移されたフレウは、皆が夜食モードで騒いでも、ぐっすりと眠り起きる気配がない。
「それにしても、みんな結構がっつり食べたいんだね。」
『だってー!主の料理は作りたてが一番だもん!』
『それはネティスに同意する。お疲れでしょうが、お願いします!』
「ベードまでそういうなら、たまにはいいか。」
月夜だというのに、リュクスも少し意気込み、袖をまくって厨房へと向かった。




