タラスクの巨体
ペリュトンの縄張りを完全に抜け切ると、あれだけ長く生えた雑草はなくなり、地質も土から岩に変わる。
夜を走る少しの間は順調に進んでいたが、リュクスもレイトが捕らえていた魔物の気配を感じ取る。
まだ月夜なこともあって、相手の気配は寝ていることを察知し、ベードに指示して接近する。
リュクスたちの目にまず入ったのは、月に照らされる綺麗な円形をした湖。
それだけ聞けば幻想的だが、水は黒ずんだように濁りきり、美しさはみじんも感じさせない。
そんな湖の中心に、苔むした小島が浮かんでいるように見える。
しかし、その小島から魔物の気配は発せられていた。
「…あれが魔物なんだよね?感知したときから大きいとは思ってたけど、まさか小島に見えるほどとはね。」
『全身は見えないが、父様ほど大きいのか?』
「…グランは多分、この大陸で一番大きいよ。」
グラドの父、グランの塔のような巨体を越えるような大きさは、水中の魔物からはさすがに感じ取れない。
とはいえ、大狼のベードが余裕で乗れそうな巨体なことは、ソナーエリアで理解している。
それなのに、距離が離れている影響か、識別が届かない。
「うーん、識別しておきたかったんだけど、難しそうだね。」
『どうして?ニが大きくなって泳げばいいよー!』
『そんなことをしたら気配がばれるだろう。』
『あ、そっかー…』
「そういうこと。他で見かけたらまた識別できるか試そう。まぁ、他のやつは僕はまだ見つけられてないけど。」
『こちらの感知では同じ魔物を捕らえているが、相当離れているうえ、進路上ではない。』
リュクスのソナーエリアには他に魔物の気配はないが、レイトは小島のような魔物の気配をすでにとらえているようだ。
「それなら、無理に見に行くこともないね。」
『了解です!ではこのまま進みます!』
湖を回り込みはしたが、大樹の葉が差す西を目指してさらに進んでいく。
夜が明けてしばらくすると、前方にのそのそと歩く巨大な魔物の気配を見つけ、視界を遮るものが無いため、その影もすでに見え始める。
この距離でわかるほどの魔物の巨体に、警戒しつつ背後へ接近した。
魔物の第一印象はリュクスが元の世界の旅行中に見た小さな城。
そのくらい巨体で、亀のような甲羅を持っているのに、ドラゴンと何かの獣を混ぜたような、毛深い肉体をしていた。
頭には鋭い二本角が先端へ突き出し、引きずるほど太く長い尻尾は、先端部分にいくつも棘が生え、異形の姿を凝縮していた。
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対象:レイクメイクタラスク
刺々しい巨大な甲羅をもつ魔物
亀とドラゴンと熊を混ぜたような姿をもつ
非常に高い耐久力を持ち、あらゆる攻撃を防ぐが、へそ部分のみ柔らかい
動きは鈍重だが、自ら作り出した湖以外、あらゆるものを破壊して進んでいく
見た目によらず、雑味のない肉質をしている
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カトブレパス、ペリュトンに続き、リュクスの知識にはないタラスクという魔物。
ここまで近づくと、その巨体が進むたびに地鳴りを感じる。
ただ、濁った魔素の影響なのか、タラスクが生息している影響なのか、やたらと硬い地面の岩肌は、足跡すら残さず、まったくへこんでいない。
「えっと、あらゆるものを壊して進むんだって。動きも鈍重だけど、おへそ以外とにかく硬いみたい。」
『識別で弱点まで見れたのか。見た目に比べて、大した魔物ではないのかもしれんな。』
「少なくても、ペリュトンよりは戦いやすいと思うけど、こっちの気配には気が付いてないし、気にせず進もう。」
『了解です!万が一にも巻き込まれないよう、少し回り込みます。』
「うん、お願いね。」
カトブレパス、ペリュトンと看破させる魔物が続いたが、ここではその心配はなく、移動に巻き込まれないように、ベードは巨大なタラスクを大きく避けて先へと進んでいく。
その先で、再びの濁り切った湖。
ここには魔物の気配はなかったが、先ほどと同じように湖を回り込んでいく。
『ここにはあの大きいやつ居ないんでしょー?』
「そうだけど、この湖はタラスクが作った湖らしいんだ。遅い相手だけど、いつ帰ってくるかわからないからね。」
『そっかー…』
『ネティス、移動は俺に任せろ!』
『たまにはニも主たちを乗せたかっただけ!』
少しいじけたようにネティスがそっぽを向いた。
そんな場面もあったが、旅自体は順調に進んでいく。
突如、レイトから指示が飛ぶまでは。
『ぬっ…止まれベード。』
『え?りょ、了解です!』
「ちょ、何があったの?」
『デモナの気配を捕らえた。おそらく、集落があるぞ。』
「え?こんなところに!?」
ここはタラスクの縄張りど真ん中である。
巨体ゆえか生息域はかなりまばらのようだが、何もかもを破壊して進む魔物がいる地で、集落など無事なのかとリュクスは困惑する。
『お前が先ほど弱点を識別しただろう。おそらく、デモナたちもタラスクの狩り方を知っているのだ。』
「なるほど。それならむしろ安定した食料になるのか…」
ボルコナのいた集落も、カトブレパスの縄張りの中だったことをリュクスは思い出す。
レイトが感じ取ったデモナの集落も、同じようなものだと納得した。
『それで、どうする。このまま進めば集落にあたるぞ。』
「…それはやめておこう。できるだけ距離を保って進めば、気づかれないかな?」
『今はまだ向こうからこちらへ近づく気配はない。』
「それじゃあ、今以上の距離を保って回り込もう。レイト、ベード、お願いしてもいい?」
リュクスのソナーエリアではデモナの気配など全く感じないうえ、集落らしき影すらまだ見えてない。
レイトの感知を頼り、ベードに回り込んでもらうしか、回避する方法はないと考えたのだ。
『仕方あるまい。ベード、己の指示に従って進め。まずはしばらく南側だ。』
『了解です!』
進行ルートからかなり外れることになるが、近づけば今までのデモナ同様、ベードの気配に気づき、聖族であるリュクスに襲い掛かってくるだろう。
リュクスとしては、そのような戦いは避けたいが故の決定だったが、滅ぼしてしまってもかまわないと、ボルコナが言っていたことを思い出す。
「…いくらなんでも、滅ぼすなんて、やりたくないよ。」
大樹を癒した後、集落のデモナが崖壁の先を目指す可能性も知ったうえで、それでもリュクスはわざわざ人との争いを起こす気は無かった。
それがたとえ、聖族憎しとするデモナであっても。




