34 出会いイベント
どこだっただろう、と考えてじっと見つめていると、男の子は気まずそうに視線を逸らした。
おっと、失礼なことををしちゃったな。とりあえず今は考えるのを止めておこう。時間が経てば思い出すかもしれないしね。
「えっと、怪我はない?」
改めて声をかけると、その子はこくりと頷く。
「さっきの子達は友達? もう行っちゃったけど……」
私の問いかけに今度は首を振り、男の子はゆっくりと口を開いた。
「このまちには、はじめてきた……から」
「そうなの? じゃあ私と一緒だね」
「いっしょ……?」
その言葉に仲間意識が芽生えたのか、男の子は安心したようにほっと息をついた。この様子を見るに、さっきの子達は彼をいじめていたのかもしれない。
「誰とこの街に来たの?」
「おとうさんと……。しごとがおわるまで、ちかくであそんでこいっていわれて……」
その際、あの子達に声をかけられたのか。初めての街で不安になっている子を標的にするなんて……。もっと怖がらせておけば良かったかもしれない。
「だれかいるの?」
そんなことを考えていると、通りに向かう路地の先から女の子の声が聞こえきた。振り返ると、積み上げられた箱に足が生えた生き物が近づいてきていた。
「だ、誰!?」
ぎょっとしつつも、男の子を庇うようにして立つ。
「あ、ごめん。これじゃみえないか……」
そう言ったと思ったら、どすんっと重量感のある音をたてながら箱が地面に置かれた。そして、箱の向こう側からひょこりと薄い桃色の髪をした女の子が顔を出す。
「こんにちは」
「こ、こんにちは?」
変な生き物じゃなく、この子がたくさんの荷物を抱えていただけだったようだ。それにしても、あんな重そうなものをこんな少女が軽々と持ち上げていたなんて、なんて怪力……
って……
ああぁぁぁぁっ! 思い出したぁぁぁぁ!
怪力というワードで、不明瞭だった点と点が繋がった。これ、勇者と聖女が初めて出会う話だ!
ゲームは学園に入る所から始まるけど、実はそれ以前に二人は出会っていた! という伏線の話。
さっきの子供達から男の子を助けるのはこの少女で、男の子はその姿に一目惚れをするという展開だ。そして十数年後、二人は再会。
しかしその時のことは忘れていて、勇者一行として旅に出たのちこの街に来て、ようやく思い出すのだ。互いの好感度を上げていれば、フラグが立って進展していくのだが……
それを、私が邪魔しちゃったってこと……だよね? というか、勇者達がまだこんな子供だったなんて予想外なんですけど! ど、ど、ど……どうしよう……
お父様を守るために頑張ろうとは思っていたが、まさか二人の出会いイベントに割り込んでしまうとは。これが切っ掛けで、勇者が勇者の証を発現しない、なんてイレギュラーが起きたら物語が進まなくなってしまう。
「あのね……」
一人頭を悩ませていると、聖女である少女が声をかけてきた。
「ここはくらくてあぶないから、はいっちゃだめなところなの」
「そ、そうだったんだ。私もこの子も初めてこの街に来て、知らなくて……」
「どこかいきたいところでもあるの? わたし、あんないできるよ」
聖女が勇者を助け出すことは出来なかったが、まだ修正は出来るかもしれない。ここは私が責任持って軌道修正しなければ。
「行きたい所というか……この子、お父さんの仕事が終わるのを待っているみたいなの。あなたさえ良ければ、一緒に遊んであげてくれないかな?」
ゲームでも、この後の流れは聖女が勇者を遊びに誘ってくれるという展開の筈。今回は私から提案する形にはなったが、二人を一緒にいさせることが重要だ。
「このにもつをとどけてからでもだいじょうぶなら、いいよ!」
「ありがとう……! じゃあ、あとは任せても……」
お役御免だ、と二人のもとから立ち去ろうとしたら、くんっと服の裾が引っ張られる。視線を向けると、勇者である男の子が俯いたまま私の裾を掴んでいた。
「そのこ、おねえちゃんといっしょがいいみたい」
「そう、なの……?」
聖女の言葉を聞いて、私は勇者に問いかける。すると、すがるような目でこちらを見つめてきた。こんな子を突き放すなんて、私には出来ない。
「……分かった。一緒に行こう」
私がそう言うと、彼はぱあっと顔を輝かせた。ショタ勇者、マジ可愛すぎ。
「じゃあ、まずこれをとどけにいかないと……っと」
鼻血が出そうになるのを押さえていると、聖女はまるで中身なんて入っていないように、地面に置いていた箱をひょいっとまた持ち上げた。
「……少し手伝おうか? それじゃ前見づらいでしょ」
重さは苦になっていないのは分かるが、顔より上まで積まれているから、視界は悪そうだ。それに、一人にだけ持たせているという状況も居心地が悪い。
「なれてるからだいじょうぶー。それに、これかなりおもいから、おねえちゃんみたいなほそいうでじゃけがしちゃうよ」
それをあなたが言うか。
彼女の腕だって負けていない。むしろ、年齢的なこともあって私よりか弱そうに見える。なのにこの怪力。設定したとはいえ、いったいその力はどこからきているのか不思議だ。
あまり引き下がってもどうかと思い、手伝いは諦めることにする。その代わり、彼女の歩く先に危険がないか気を配っておこう。
聖女が歩き出し、私は裾を握っていた勇者の手を引いた。それに彼はびっくりした表情を浮かべる。
あ、しまった。つい、姪っ子甥っ子の感覚で掴んでしまった。荷物を届けたあと、聖女が手を引く展開があったのに……。
「ご、ごめん。何も言わず触れちゃって……」
慌てて手を離そうとすると、今度は勇者の方がぎゅっと握ってきた。
「へい気、ちょっとおどろいただけ。……にぎっててもいい?」
「う、うん」
これで駄目だと言える訳がない。
何だか、どんどん首を絞めていってる気がする。このままで大丈夫だろうか。
そんな私の不安をよそに、聖女は路地を抜け、慣れた足取りで通り沿いを進む。その道中、街の人達が声をかけてくる。
「エリー、今日もご苦労様!」
「ありがとー」
「相変わらずすごいなぁ、エリーは街一番の力持ちなんじゃないか?」
「えー、そんなことないよ」
「エリー、今度引っ越しする時、荷物運ぶの手伝ってくれないかい」
「まっかせてー」
彼女はその一つ一つに嫌な顔をせず答えていく。社交性が高い子だ。
ここで補足をしておくと、みんなからエリーと呼ばれているが、彼女の本当の名はエレノアだ。勇者が記憶を思い出した際に、愛称なのか? もしかして彼女が? と思わせるため、今日の出会いでエリーが本名を名乗ることはない。
あとは、勇者である彼が母親に呼ばれていた愛称を別れ際に伝えれば、フラグとしてはなんとか成立するだろう。
そのためには、もう少し打ち解け合って欲しいものだが……。
「……すごい人気だね」
私の願いが通じたのか、初めて勇者からエリーに声をかけた。私の手を掴んで、隠れるようにしながらだが。
「あはは。めだつからね」
「ふーん……なんで、そんな力もちなの?」
「んー、わからない。むかしからこうなの」
エリーへの興味が出てきたのか、彼は色々と質問をしだす。これはいい傾向だ。私は相槌を打つだけにして、二人の会話になるべく入らないようにする。
そうして暫く歩いていると、届け先に着いたのかエリーが「ちょっとまっててね」と言って、鍛冶場っぽいお店へ入っていた。恐らくあの中身は原料になる鉱石だったのだろう。あの重量感ある音も頷ける。
「おまたせ! じゃあ、ちかくのあそびばにいこっか!」
戻ってくると、エリーは勇者の空いている方の手を引っ張った。このままゲーム通りの展開になるか? と思ったが、勇者は私の手をしっかりと握っており、縦一列になって走ることになる。なんだこれ。




