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32 魔道具工房

「う、わぁ……」


 工房の中へ入ると、奥の方で魔核石を動力とした機械がいくつもガコン、ガコンと音をたてている。外には音が漏れていなかったので、恐らく防音の魔道具でも置いてあるのだろう。

 他にも目をやると、魔法陣が描かれた小さな機械で細かい部品作りをしている人もいる。


「全部魔核石で動かしている訳じゃないんですね」

「そう出来ればいいんですが、魔核石の消費も馬鹿になりませんからねー。今は大きなパーツだけにしていますー」

「なるほど」


 あれだけ大きな機械だ。使っている魔核石もかなり高価なものを使っているんだろう。


「まぁ、どうやっても手作業でしないといけない肯定もありますけどねー。たとえば……」


 ハミルミーが指を刺したのは、机で先の細い彫刻刀のようなものを持って作業をしている人達。魔力を刃に込めると、淡い光を帯びる。

 そしてそれをパーツの上ですーっと動かすと、跡が残る。


「紋様は用途で形が細かく変わりますし、小さいパーツにも刻むことが多いですから、機械に頼れないんですよねー」

「下書きとかしないんですね……」


 じっと作業をしている人達を見ていると、机に置かれた紙を確認しながら手を動かしている。慣れている人は、その紙すら見ていない。


「はいー。稀ですが、下書きに使われたものの影響が出て、動作に不具合が起きたりするのでー。私が管轄している工房ではさせていません」

「それは……難しそうですね。出来るようになるまで、かなり時間がかかるんじゃないですか?」

「そうですねー。完全に任せられるとしたら、十年は見た方がいいかとー」


 職人になる道は険しい。でも紋様がうまく出来ていなければ、魔道具はちゃんと機能しない訳だから、それだけ重要な作業だと言うことだ。


「少し体験してみますかー?」

「えっ!?」


 思ってもみなかった提案に、声を上げてしまった。作業している人達の集中を乱してしまわなかっただろうか。

 ちらりと様子を窺うと、特にこちらを気にしているようには見えなかった。私はほっと息をつき、ハミルミーに向き直る。


「体験って……どういうことですか?」

「体験は体験ですよー。魔刻刀(まこくとう)……彼らが使っている道具のことですが、それを使って紋様を刻んでみないかとー。あ、もちろんパーツは廃棄用のものを使うので、心配しなくていいですよー」


 ああ、びっくりした。流石に商品になるものにさせる訳がないか。


「それなら、やってみたいです」

「では、こちらに」


 作業をしている人達とは少し離れた机に促される。ハミルミーが手の空いていた作業員に何かを伝えると、まるで前もって準備してあったように、道具が置かれたトレーを運んで来てくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を言うと、作業員は少し驚いた顔をしながらぺこりと頭を下げて戻って行った。


「私、何か変なことしました?」

「いいえー。貴族の方は下々の者に礼を言うことなど少ないですから、珍しくて驚いただけでしょー」

「え、でもさっき廊下であった人は普通でしたよ」


 あの時もお礼を言ったが、別に驚いた様子はなかった。


「商会の方で働いている者達は、顔に出さないよう訓練されていますからー。きっと裏では、下の者にも気を遣って下さるお優しいお嬢様だ、とか言われているんじゃないでしょうかー」

「ええぇ……。ただ当たり前のことをしただけなのに……」

「当たり前ですかー。こちらの事情も考えず、無理難題を押し付けてくる輩に聞かせてやりたいですねー」


 ふふふ、とハミルミーは黒い笑みを浮かべる。そういった貴族とのいざこざがあったんだろう。色々と苦労していそうだ。


「さて、まずは道具の使い方ですねー。魔刻刀に向かって魔力を流してみましょう。一気にではなく、少しずつですよ」

「分かりました」


 魔力を流す感覚は調合で慣れている。ただ今回は対象が小さいので、指先からじわじわとゆっくり運んでいく。

 すると、ちりちりちり……と刃の部分が光を持ち始めた。だからと言ってそこで気を抜かず、そのまま流す魔力を少しずつ増やす。


「はい、それぐらいで大丈夫ですよー」


 ハミルミーの声がかかり、流す魔力を保ったまま息をつく。


「そのままでひとまずこのパーツに線を引いてみましょうかー」


 ことりと少し歪なパーツが目の前に置かれた。私は緊張しながらも左手でパーツを支えながら、すーっと魔刻刀を上から下へと動かす。

 魔力を流しながらだからか、少し曲がってしまったが、まぁまぁ真っ直ぐな線が引けたんじゃないだろうか。


「いいですねー。では、今度は少し流す魔力を増やしてやってみてください」

「? はい」


 不思議に思いながらもハミルミーの言葉に従って、先程引いた線の隣で同じ様に魔刻刀を動かした。

 出来上がった線を見てみると、最初に引いた線より溝が深くなっているのが分かる。


「流す魔力で深さが変わるんですか……」

「その通りですー。紋様によって均一の溝が必要なもの、凹凸が必要なものと様々なのでー」

「紋様を枠内に収めるだけじゃなく、溝の深さも関わってくるんですか。思っていた以上に繊細な作業ですね」


 魔道具を自分で作れたらいいなーとか、甘く考えていた自分を殴りたい。これはそんな軽い思いで習得できるようなものじゃない。


「その大変さを是非味わってみてくださいー」


 次に差し出されたのは紋様が描かれた紙と新たなパーツ。説明書きだと溝の深さは一定でいいようだが、複雑な形をしている。パーツは手のひらで掴めるくらいの大きさで、この中に描き切らなければならない。


 一度深呼吸をしてから、改めて魔刻刀に魔力を流す。


 前の世界で模写は得意だった。私は紋様をしっかり確認してから、魔刻刀を動かす。流す魔力にも気を付けなければならないから、集中力がどんどん削られる。


 どれくらいの時間がかかったか分からないが、やっと刻み切って魔刻刀を置いた。


「どう、ですか?」

「初めてにしては上出来かとー」


 ハミルミーはパーツを持ち上げ、傾けたりしながら紋様をくまなく調べる。


「パーツ内にはなんとか収まっていますがー、逆に収めようとし過ぎて紋様が歪んでしまってますねー。それと、集中力が切れて流す魔力が乱れていますー。この辺から溝が均一じゃなくなっているのでー」

「……ですよね」


 上出来と言いながら、指摘部分はハッキリ言ってくる。だが、自分でもダメダメだと分かってはいたので、ヘタに褒められるより全然いい。


「魔道具師になる人は、どれくらいの年齢から練習を始めるんですか?」

「そうですねー。職人のもとで修行を始めるのは、早くて十二歳くらいでしょうかー」

「……ちなみに、それは人の年齢で?」


 こっそり耳打ちをするように聞くと、ハミルミーは頷いた。


「魔族なら、もう少し早くても大丈夫ですよー。本当にやる気があるなら、魔力操作の訓練は欠かさないようにした方が良いと伝えてくださいー」


 私がエヴァンのために情報収集しているのを察したのだろう。ハミルミーは小さな声でそうアドバイスをくれる。今度は私が小さく頷く。


「このパーツはどうされますー? 魔核石を嵌めても、魔道具としては機能しませんが、記念として持ち帰りますかー?」

「持ち帰ります」


 私が頑張った証でもあるし、エヴァンに見せながら大変さを説明した方が良さそうだ。私はパーツをハミルミーから受け取り、マジックバッグにしまった。


「では次は、魔道具研究所にでも行きましょうかー。そこでは、新たな魔道具を生み出すために研究員達が日々奮闘しているんですよー」

「へー」


 その時の私は、そこもすごい所なんだろうなーと、特に深く考えずついて行く。そして激しく後悔した。


 研究員というものは、人間、魔族に関わらず変わり者が多いことを失念していたのだ。


 専門用語を用いて説明され、それは何だと一つ質問すれば、答えが十返ってくる。こちらを馬鹿にしないのはいいのだが、何度もそんなことが続くのはいただけない。


 そして一番最悪だったは、研究員達が話していた新たな魔道具に、前の世界の知識で「こういった感じにしたらダメなんですか?」と口にしてしまったことだ。

 ハミルミーの研究魂にも火をつけてしまったようで、あれよあれよという間に全員から質問攻めにされ、こっちはどう思う? これは? と更に意見を求められ、客人への礼儀などどこへやら状態だった。


 我に返ったハミルミーがどうにか研究員達を抑えてくれて事なきを得たが、これを教訓に研究員の前で不用意な発言はしないと、私は心に深く誓った。

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