28 贈り物
「聞きたいことはまだあるかもしれませんが、それは帰りの移動時にでもお願いします。護衛の仕事が疎かになったら困りますから」
ヒューバートが質問攻めにあってるぐらいで、私達のことを守れないなんてことはないと分かっている。しかし、そのままにしていると二人の話はいつまでも終わらなさそうだ。
「う……わかりました」
「……すみません」
流石に仕事の邪魔をしては駄目だと思ったのだろう。ランドルフとエヴァンは、素直に従った。私はよし、と頷く。
「次は魔道具屋さんですね。エヴァンもお店の指定がありますか?」
「あまりおみせにはくわしくなくて……。あ、でも……ハミルミーさまのおみせだと、うれしいです」
「ハミルミーの?」
私は「ありますか?」と問うようにヒューバートに目を向けた。
「ガザード商会のお店ですね。何店舗かありますが、ここからなら『ケイトのおもちゃ箱』がよろしいかと」
「エヴァンはそこで構いませんか?」
「は、はい!」
「では、そちらに向かいましょう」
同意も得られたので、ヒューバートに案内してもらう。お店の場所はそこまで遠くなくて、軽く雑談をしていたらすぐついてしまった。
外装は黒レンガで造られており、アンティークな吊り下げ看板には『ケイトのおもちゃ箱』と可愛い字で書かれている。
ドアを開けると、ちりんとドアベルが鳴った。
店内は薄暗い感じで、ぽつぽつと置かれた灯りが怪しげな雰囲気を醸し出している。あまり広いとはいえない店内に、多くの魔道具が置かれているせいだろうか。通路は大人二人が通ると肩がぶつかってしまうほどの幅しかない。
「いらっしゃい。ここは初めてだね? 狭い店だけど、商品は一級品ばかりだ。壊さないよう気をつけな」
ひっひっひっと、カウンター奥の椅子に座っていたお婆さんが笑う。笑い方も、その見た目もいかにも魔女という感じだ。
「分かりました。ここは、みんな別行動にしましょうか。まとまって動くと危なそうですし」
私の言葉に全員が頷く。それぞれ気になるものがあったのだろう。別々の方向へ散らばっていく。それを確認してから、私は後ろを振り返る。
「あの、ヒューバート」
「どうされましたか?」
私が耳を貸して、という仕草をすると、ヒューバートは少し屈んでくれた。エヴァン達に聞こえないよう、声を落として話をする。
「ヘリオスに何か贈り物をしようと思っているんですが、契約をしている訳じゃないので、勝手にあげてもいいのか確認したくて……」
「それは大丈夫ですよ。ルーナ様からの贈り物なら、きっと喜ぶでしょうね」
「そうですかね」
ヘリオスとは、あれからもたまに会って遊んでいた。ドラゴンの成長は魔族よりも早く、今では私の身長より頭一つ分大きくなっていて力も強くなっている。それなのに、小さい時の感覚でじゃれてくるからちょっと大変だ。
最近はお披露目式の準備とかが忙しくて会いに行けていなかったから、不貞腐れているんじゃないだろうか。
贈り物一つで機嫌が直るか分からないけど、折角買うなら良いものを選びたい。
といっても、ドラゴンに贈れるものなんてあるんだろうか。今でさえそれなりの大きさだし、これからもまだ成長する。
「すみません」
「何だい?」
私は店主のお婆さんに話しかける。物が物だし、自分で探すより聞いた方が早い。
「こう……体が大きくなっても、伸縮するアンクレットみたいなものってありますか?」
「あんたが使うのかい?」
「いえ、私じゃなく友達というか……。あ、でも、人ではなくて……」
容量を得ない話にイラついたのか、お婆さんは丸めた紙の束で、ぱんっとカウンターを叩いた。
「ええい、ハッキリ言いな!」
「……ドラゴンです」
「は?」
私の言葉に、お婆さんはぽかんと口を開けた。
「ドラゴン!? あんたその歳でドラゴンと契約しているのかい!?」
「し、しー! 声が大きいです!」
人差し指を口元にやり、誰かに聞かれてないかときょろきょろと辺りを見回す。どうやら近くに人はいないようだ。ほっと胸をなでおろす。
「それと、契約している訳ではなく、友達です」
「友達ぃ? また訳の分からないことを言う子だね」
お婆さんは怪訝な表情を浮かべながらも、それ以上深く聞いてくることはしなかった。
「欲しいのは伸縮するアンクレットだったね? ドラゴンだとすると、軟な作りじゃ壊れちまうね。ちょっと待ってな」
そう言うと、お婆さんは店の奥へ引っ込んでしまった。遠くからがたがたと物を動かす音と、あれでもない、これでもない……とぶつぶつ呟く声が聞こえてきた。
暫く待っていると、「あった、あった。これだ」と言いながらお婆さんが戻ってくる。
「ほら、これなんかどうだい?」
手渡されたのは、綺麗な彫りがされた銀のアンクレット。真ん中には緑の石があしらわれていてヘリオスにぴったりな気がする。
「いいですね」
「内側に魔法陣を描いてあるから、魔力を通すだけで自分にピッタリの大きさに変化してくれる代物だ。使うのが人間ならそれだけで魔力を吸いつくされてしまうんだが、ドラゴンなら魔力量は膨大だし、回復も早い。こんな微量の魔力通すくらい、なんともないだろう」
「……いわくつきじゃないですよね?」
内容を聞く限り、一般向けじゃない気がする。どういった目的で作ったのか、ちょっと怖い。
「研究馬鹿共が限界を求めて作っただけの品だから、そこは安心していいよ。ただ、使用条件があれだからなかなか売れなくてねぇ」
「……私、売れ残りを売りつけられようとしてます?」
「はは、まぁ有り体に言うとそうかもしれないねぇ。けど、あんたの求めている物にはピッタリだろう?」
お婆さんはからからと笑う。何だか憎めない人だ。
「まぁ、気に入りましたし買いますよ」
「まいどあり」
値段はそれなりにしたが、いい買い物だろう。支払いが終わり、商品を持って入口の方へ戻っていると、エヴァンが私に気付いて駆け寄ってきた。
「ルーナさま、なにをかわれたかきいてもいいですか……?」
視線は私の持っている袋に向けられている。
ドラゴンの友達にあげると話せば大騒ぎだ。ここは上手く誤魔化すしかない。
「ええと、これは秘密なんですけど……うちには大きなペットがいるんです」
「ペット……」
「アンクレットをあげようと思ったんですが、まだまだ大きくなる予定なので、伸縮するものはないかと探したところ薦められたのがこれです」
包装はしていないので、袋の中から出して見せた。エヴァンは右に左にと頭を動かし、隅々まで観察する。
「これはまかくせきではなく、まほうじんをつかっているんですね……。こんなちょっとのはんいに、ここまでこまかくかけるなんて……」
エヴァンは、ほう……と感嘆の息を漏らす。
「魔道具に興味があるんですか? 私のこの腕輪も気にしていましたし……」
「あ……はい。ぞくせいがひとつでも、できることはないかってさがしたときに……まどうぐづくりはぞくせいをえらばないってほんでよんで……。あ、でもドラゴンナイトになるゆめもあきらめてないですよ!」
エヴァンは慌てて両手を胸の前で振った。
「どの道に進むか考えている最中ってことですよね。将来のことですから、沢山悩んでいいと思います。どちらを選んだとしても大変な道だと思いますが、応援していますね」
「あ、ありがとうございます……」
にっこりと微笑むと、エヴァンは恥ずかしそうに頬を染め俯いてしまった。
「ぼ、ぼく、かいたいものがあったので、いってきますね!」
居たたまれなくなったのか、私の返答を待たずに立ち去る。慌てて戻ったので、商品の棚にぶつかってお婆さんに怒鳴られている声が聞こえてきた。
その様子に笑いつつ、みんなが戻ってくるのをヒューバートと話をしながら待つ。日も傾いてきたので、お出掛けはここまでだろう。
戻ってきたみんなにそう告げると、「ルーナさまはよろしかったのですか?」と心配された。そういえば、みんなの行きたい所ばかりで自分のことは後回しにしていた。
「回ったのは私も行きたいと思っていた場所でしたし、大丈夫ですよ。それに、私の一番の目的は友達と一緒にお出掛けする、ということだったので大満足です」
「わたしもルーナさまとでかけられて、とてもたのしかったです!」
「ぼ、ぼくもです!」
「……ま、まぁわるくなかったとおもいます」
うんうん、みんな満足してくれたらしい。
帰りの馬車でも会話は尽きず、これまでで一番笑った一日だったと思う。今日はぐっすり眠れそうだ。




