26 いざ、ショッピング
「ほ、ほんとうにドラゴンナイトなんだ……」
「しかもたいちょう……」
ノーブルホーンが引く馬車に乗りながら、ランドルフとエヴァンは何度目か分からないつぶやきを零す。尊敬の眼差しをずっと向けられ、ヒューバートは少し戸惑い気味だ。
憧れる気持ちは分からなくもないが、これほどとは。
「二人は、ドラゴンナイトになりたいんですか?」
「あたりまえじゃないか!」
「だれもがあこがれるしょくぎょうですよ!」
何気なく聞いたら、予想以上の反応が返ってきた。大人しいエヴァンですら、声を張り上げたので少し驚く。ちらりと「本当の話なの?」と言った視線をリリーに向けると、困り顔で笑った。誰もがと言ったが、どうやら男の子が中心の話の様だ。
ここで私がドラゴンに乗ったことがある、なんて話したら大騒ぎだろうな。言わないけど……。
「折角の機会ですから、聞きたいことなどあるなら聞いてみたらどうです?」
「「えっ!」」
いい提案だと思ったのに、二人はどうしよう……といった感じで、もじもじし始めた。ここまでずっと私を介して話をしていたのは、直接話しかける勇気がなかったせいか。
その時、ごとりと音がして、馬車が止まった。どうやら街に着いたらしい。二人はまだ、どうする? 聞くなんて恐れ多い気が……と話をしている。
「はい、そこまで。着いたみたいですから、降りますよ。時間はまだありますし、質問は思いついた時にでもしてください」
入口が開けられ、半強制的に馬車を降りてもらう。今日は街を散策しに来たんだ。ここでウロウロするのは時間が勿体ない。
馬車を降りると、賑わう声と楽し気な音楽が聞こえ、高揚感に包まれた。それはみんなも一緒の様で、キラキラした目で周りを見渡していた。
「皆さんは、どこか行きたい場所とかありますか?」
「わ、わたしはざっかやにいってみたいです!」
「えっと、じかんがあれば、まほうどうぐをのぞいてみたい……です」
「おれはぶきや!」
ううん、見事にバラバラだ。
「とりあえず、行きたい場所を一つ一つ回ってみましょうか。まず一番近そうなのは……」
「ひめさま、ひめさま! あそこ! すぐそこにぶきやがありますよ!」
ランドルフがぴょんぴょんっと飛び跳ねて、老舗といった感じの武器屋を指差した。
「ランドルフ、ここで姫様はやめてください。髪色を変えている意味がありません」
「あ、すみません。えっと……じゃあなんて呼べば……」
「そうですね……」
何かの神話で、セレーネは月の女神の名前だった気がする。月繋がりで何かいいものはないだろうか。
「ルナ……いえ、この姿の時はルーナと名乗ることにしましょう。みんなも間違えて呼ばないよう気をつけてくださいね」
「「「わかりました。ルーナさま」」」
三人の声が重なる。慣れるまでは大変だろうが、これも周りに正体を知られないためだ。頑張ってもらおう。
「では、ランドルフが言った武器屋から行ってみましょう」
*****
中に入ると、いかにも武器屋といった感じの内装。けど綺麗に整頓されていて、とても見やすくなっている。体格が良く、少し強面の店主が「いらっしゃい」と快く出迎えてくれた。
「すっげぇーーーー!」
「不用意に触ると怪我をする可能性があるので、気をつけてくださいね」
「はい!」
駆けだしそうなランドルフに釘をさすと、素直に返事をして、逸る気持ちを抑えた様子で剣が中心に置いてある方へ進んでいった。
「二人も何か見たいものがあれば、見に行って構いませんよ」
「あ、じゃあ……すこしだけいってきます」
そう言ってエヴァンは、短剣などが置かれている方へ歩いて行く。
「リリーはいいんですか?」
「わたしは、ルーナさまにおつきあいします」
リリーは戦うタイプじゃなさそうだし、武器にはあまり興味がないのかもしれない。
「じゃあ、少しだけロッドの所を見てもいいですか?」
「はい」
色々な武器を横目に見ながら、ロッドが置かれている場所まで移動する。短いものや長いもの。普通の棍棒状のものや、豪華な飾りがついて杖のようにも見えるものなど、形容は様々だ。
その中で、ふと目に留まるものがあった。私の背丈より少し長めで、多少の凹凸と柄がついたシンプルな鉛色のロッド。
「これ、触ってみても?」
「別に構わねぇが……。かなり重さがある武器だから、嬢ちゃんみたいな細腕で扱えるようなものじゃ……」
「ご心配なく」
店主の言葉を遮り、私は立て掛けてあったそのロッドを手に取った。ずっしりとした重さが腕にかかる。確かにこれは私が使ってるロッドより遥かに重い。
リリーに「少し離れててね」と言って、他に誰も立っていないのを確認してから、ぶんっと回してみる。うん、遠心力での負荷はかかるけど、使えない程じゃない。
でも、伸縮できるタイプではないし、持ち運びには不向きかもしれない。訓練用にはなるだろうか。
「驚いたな……。嬢ちゃん、見た目と違って随分鍛えてるんだなぁ」
「まぁ、それなりに」
「おれ! おれもこのけん! このけんがいい……っとと」
私の様子を見ていたランドルフが、少し大きめの剣を持ち上げる。しかし、重さに耐えきれず、よろよろっとふらついて倒れそうになった。
「危ないですよ」
遠巻きに見守っていたヒューバートが、危険を察知していたのかランドルフの後ろに立ち、背中と剣を持った手を支えてくれた。
「……す、すみません」
ランドルフは申し訳なさと、恥ずかしさが入り混じったのか、剣をもとの場所に戻して俯いてしまった。私は持っていたロッドを置き、ランドルフのもとまで行き、先程まで持っていた剣を見てみる。
大人が扱うようなロングソードで、柄の部分にはドラゴンのような装飾がされている。多分一番好みだったんだろうが、流石に身体強化なしでこれを扱うのは難しいだろう。
「この剣はランドルフが使うには大きすぎますね」
「……はい」
少し不満そうにしながらも、ランドルフは素直に頷いた。
「ヒューバート、良かったらランドルフに合いそうな剣を見繕ってくれませんか?」
「!」
自分の使う武器の良し悪しは分かるが、他人に合うものは良く分からない。それに、女である私にアドバイスされるより、憧れの対象であるヒューバートに選んでもらった方が不満も少ないだろう。
その考えはあながち間違いではなかったようで、ランドルフもぱっと顔を上げ、後ろにいたヒューバートに期待の目を向けた。
「私の様な者でお役に立つか分かりませんが……見てみましょう」
嫌な顔一つせず、ヒューバートは周辺の剣を見比べ、気になるものを手に持って確認する。それを数度繰り返した所で、一本の剣を選んで持ってくる。
「この剣なんかはどうですか?」
差し出したのは、ランドルフが選んだ剣より一回り小さいもの。ドラゴンの装飾も控えめながらも施されていて、見た目の面もちゃんと汲んでいる。
ランドルフは先程のことがあるからか、少し恐る恐るといった感じで受け取った。
「いかがですか?」
「おもくもなく、かるくもなく……いいかんじです」
ヒューバートの問いに、剣を構えながらランドルフは答える。
「気に入りました?」
「はい! おれ、これにします!」
目を輝かせ、良い笑顔を浮かべる。納得出来るものが見つかって良かった。
「ひめさ……いえ、ルーナさま。ありがとうございます」
「私はただ頼んだだけなので。お礼なら、ヒューバートにしてください」
「え……あ……えっと……。あ、ありがとうございます、ヒューバートさま」
武器を選んでもらった効果か、少し緊張しながらもランドルフはお礼を言うことが出来た。
「ランドルフ様が気に入る武器を選ぶことが出来たようで、良かったです」
「あ、あの。おれだけじゃわるいので……あいつにもえらんでもらえませんか?」
そう言うランドルフの視線の先には、エヴァンが羨ましそうにこちらを見ている姿があった。私達が振り向いたことに気付いて、さっと目を逸らし、何事もなかったか様な素振りをしているがバレバレだ。
「ヒューバート、行ってあげてください」
「分かりました」
その後エヴァンもヒューバートに武器を選んでもらって、二人はほくほくした顔で購入をしていた。私も見ていたロッドを買って、武器屋をあとにする。




