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25 友達とお出掛けへ

 お披露目式で友達になったリリーとエヴァン。二人とは手紙のやり取りをして、お互いの近況を報告し合っていた。


 そして今日はなんと、二人と街に出掛ける約束をしている。


 前の日から洋服はどれにしようとか、持ち物はこれでいいんだろうか、と何度も確認するぐらい楽しみにしていた。

 

 ダリアから「お友達がいらっしゃいましたよ」と言われ、うっきうきで応接間に向かったのだが……。


「どうして貴方がここにいるんですか?」


 浮き立っていた気持ちは沈み、私は頭を抱えた。何故なら応接室にはリリーとエヴァンに加え、ランドルフがソファに座っていたからだ。


「エヴァンにどうしてもいっしょにきてほしいといわれたんだ」


 ちらりとエヴァンに目を向ける。彼はランドルフに気づかれないよう、小さく首を振った。どうやら無理矢理付いてきたようだ。


「そうでしたか。それほど仲が良いとは知りませんでした。お披露目式で拝見した時は、そのように見えなかったので」

「え、あ……いや、それは……」


 ランドルフは視線を泳がせ、言葉を濁す。二人の様子を見た感じ、和解をした訳ではないようだ。こんな状態のまま出掛ける気にはならない。リリーとエヴァンも気まずいだろう。


「友達だったら尚更、あの時のことでエヴァンに言わなきゃいけないことがあるんじゃないですか?」

「……え?」


 本当に分かってないのか、ランドルフは首を傾げる。


「想像してみてください。ランドルフとエヴァンが逆の立場で、同じ様な事を言われたら。どんな気持ちになりますか?」


 その時のことを思い出しているのか、ランドルフは考え込み、だんだんと、むっとしたような表情になる。


「……いやな、きもちになるな」

「エヴァンもそうだったんですよ」


 はっと、ランドルフは顔を上げてエヴァンを見る。その視線にエヴァンはびくりと体を震わせた。

 ぎゅっと口を結んで、ランドルフは覚悟を決めたように立ち上がり、エヴァンの方を向く。


「あのときはわらったりして、ごめん!」


 勢いよく頭を下げ、ランドルフは謝罪した。その行動に驚きの表情を浮かべながらも、エヴァンはゆっくり口を開く。


「いい、よ……。ランドルフくんがさんぞくせいで、ぼくがいちぞくせいなのはほんとうだから」


 エヴァンは頭を上げたランドルフの目を真っ直ぐ見据える。


「でも、まけるきはない、から。ひとつのぞくせいでも、がんばるってきめたから!」

「お、おれだって、まけないぞ!」


 そう言い合う二人の間には、自然と笑みが零れた。


 なんだ、なんだ。ランドルフ。ちゃんと話せば分かる奴じゃないか。これからは切磋琢磨して成長してくれそうだ。


 うんうん、と一人で納得して頷く。


「ひめさま」

「ふぁいっ!」


 こちらに声をかけられると思っていなくて、変な声を出してしまった。私を呼んだランドルフは、ぽかんとした顔をして……


「ぶふっ」


 吹き出した。

 ええ、もう間違えようのないほど盛大に。


「ふふ、す、すみません。ひ、ひめさまにもしつれいなことをいったので、あやまりた……くて……ふっ」


 ランドルフは肩を震わせながら笑いを堪えようとしているが、全然意味をなしていない。


「あ、謝るのか、笑うのかどっちかにしてください!」

「す、すみません。ははっ、だってあのひめさまが、ふぁいっって……あはははは!」


 ツボに嵌って我慢出来なくなったのか、ランドルフは大きく笑い出した。それにつられて、エヴァンとリリーもくすくすと笑い始める。


「もう、みんなまで……ふふふ」


 自分でも思い返して、何だかおかしくなる。みんなで笑い合っていると、部屋にノックの音が響いた。


「どうぞ」


 軽く咳払いをして、体面を整えてから許可を出すと、ダリアがドアを開け入ってくる。


「姫様、今しがたハミルミー様からお届け物が」

「届け物?」


 何か頼んでいた覚えはない。いったい何だろう。ダリアから手のひらサイズの箱を受け取り、開けてみる。

 そこには銀色の腕輪と手紙が添えられていた。まずは手紙の中身を読む。


 ――髪や瞳の色を変える魔道具です。お友達とお出掛けする際、一人だけローブを着たままでは逆に目立ってしまいますからねー。ご活用下さい。ハミルミーより。


「ひめさま、どのようなおくりものだったのですか?」

「髪や瞳の色を変える魔道具だそうです」


 リリーの問いかけに答えると、何故かエヴァンが身を乗り出してきた。


「えっ! ひ、ひめさま……つかうところをみせていただいても?」


 魔道具に興味があるんだろうか。そわそわしながら、腕輪を気にしている。


「いいですよ。出掛ける際、活用をと書かれていますしね」


 私は箱から腕輪を取り出し、左腕に嵌めてみる。すると腕輪の内側にある魔核が反応し、視界に入っていた髪がすうっと茶色へと変わっていく。


「わあ……!」

「ほんとうにいろが……」

「すっげぇ!」


 じっと見ていた三人も驚きの声を上げる。ダリアが卓上の鏡を持ってきてくれたので、覗き込む。

 髪は彩度が低めの茶色で瞳は黄色っぽくなっている。それだけでかなり印象が変わる。


「ダリア、これならこのまま外に出てもいい?」

「そうですね……。簡単に姫様だと見破られないと思うので、大丈夫だとは思いますが……。用心をして帽子くらいは被って行ってくださいませんか?」

「うーん、分かった。準備してくれる? もう出掛けるつもりだから」

「はい。では、正面玄関の方でお待ちください。直ぐに取ってまいります」


 応接室からダリアがを出ていくのを見送ったあと、リリー達に声をかけ一緒に玄関へ向かう。その間も、髪色を変えた魔道具の話で持ちきりだ。


 わいわいと話をしながら歩いていると、玄関前にヒューバートが立っているのが見えた。制服ではなく、私服姿でいつも以上にラフな感じだ。けど、しっかり帯剣はしてある。ヒューバートはこちらに気付くと、驚きの表情を浮かべた。


「すみません、ヒューバート。お待たせしてしまって……」

「……姫様、ですか?」

「はい。ハミルミーから髪と瞳の色を変える魔道具を貰って、使ってみたんです」


 私は腕輪を付けた方の手を軽く上げて見せる。


「そういうことでしたか。ハミルミー様の技術にはいつも驚かされますね……」

「私もびっくりしました。これがあれば、すぐには私だと分からなさそうですよね。ヒューバートも戸惑ってましたし」

「はい。ですが、許可なく一人で出歩く様なことはしないでくださいね」

「分かってますよ」

「あの、ひめさま……」


 ヒューバートと話をしていると、リリーが少し遠慮がちに声をかけてきた。


「そのかた、おひろめしきでひめさまをエスコートをされていたかた、ですよね……?」

「はい。今日は護衛として付いてきてくれるんです」

「ヒューバートと申します。皆様の外出が快適になるよう、しっかりと務めさせていただきます」


 ヒューバートがいつもの笑顔で挨拶をする。三人は「よろしくおねがいします」と答えていたが、大丈夫なのかという不安が見て取れる。

 朗らかな雰囲気を出すヒューバートから、強そうなイメージが湧かないためだろう。


「心配しなくても大丈夫ですよ。ヒューバートはドラゴンナイト連隊長でもありますから。強さはお墨付きです」

「えっ!?」

「ドラゴンナイト!?」


 エヴァンとランドルフがすごい速さで反応し、もう一度ヒューバートを見る。視線を向けられ、ヒューバートは少し照れくさそうに頬をかいた。


「……ひ、ひめさま。いまのはなし……」


 ごくりと喉を鳴らし、ランドルフが口を開いたが、ぱたぱたと帽子を持ったダリアが駆け寄ってきたので言葉は続かなかった。


「姫様、こちらをどうぞ」

「ありがとう」


 帽子を被せてもらい、これで準備は万端だ。


「それでは、出発しましょう」

「ちょ、ひめさま、さっきのこともっとくわしく――!」

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