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24 忌み子

「う、わぁ……」


 賑わいがある商業地区の様子に、私は口を開けたまま、物珍しそうにきょろきょろとしてしまう。


 通り沿いには服飾店や雑貨屋、本屋なんかも見える。ファンタジーならではなのは、武器屋や魔道具を取り扱ってる店舗なんかが並んでいる所だろうか。見ているだけでわくわくする。


「集中しろ……」

「あ、すみません」


 つい周りに目がいってしまって、隣を歩いていたギルに注意されてしまった。

 そうだ。授業の一環で街に出て来ているんだった。私は着ていたローブのフードを深くかぶり直す。


 あれから訓練を積み重ね、気配の消し方、察し方は移動時も出来るようになっている。これまでは城の誰かを標的として尾行をしてみたり、探したりしていたが今日は違う。


 今回出された課題は、街に潜んでる影達を見つけること。


 前と比べて成長しているとはいえ、潜むのが専門の影を探すのは中々骨が折れそうだ。

 私は一つ深呼吸をして、辺りの気配を探る。城の中と違い行き交う人が多く、余計な気配が邪魔をする。

 それでも集中力を切らさないよう、その中を縫うように抜けていく。そうして探っていくうちに、妙な気配を感じることが出来た。


「この周辺にいるのは、あの宿屋の二階……窓際に立っている人。それと、先程すれ違ったそばかすのある少年では?」

「……正解だ」


 ちゃんと出来るか不安だったが、ギルの答えにほっと息をつく。


 自信をつけた私は、そのあとも場所を移動しては、気配を探り潜んでいる影を見つけるのを繰り返す。十数人ほど見つけた頃だっただろうか。ギルが「今ので最後だ……」と終わりを告げた。


「よく全員見つけたな……」

「後半の方は集中力が切れてきていて、見つけるのに時間がかかりましたけどね」

「それでも十分だ……。時間が余ったな……少し散策していくか?」

「いいんですか!?」


 私は反射的にぱっと目を輝かせる。その反応に少し呆れた様子だったが、ギルは頷いた。


 やったぁ! どこから周ろう!


 やっぱりまずは屋台だろうか。さっきからいい匂いがして気になっていた。サイモンが作るお城の料理も美味しいが、街の人達が普段食べているものというのは気になる。

 ギルに声をかけようと振り返ったら、先程まで穏やかだったギルから、ぴりっとした空気が伝わってきた。


 何かを感じ取ったんだろうか。気になって私も辺りの気配を探ってみる。


 すると、ひと気のない路地の方に、気配が四つあるのが分かった。きな臭い感じがして更に詳しく探ると、どうも三人が一人を囲んでいる状況のようだ。

 

「ギル」

「あんたは気にする必要はない……。影に任せればいい……」


 指示を出そうとするギルのローブを掴み、私は首を振る。こんなもやもやした気持ちのまま散策出来るような図太さは私にはない。

 私が引くつもりがないと感じ取ったのか、ギルは一つため息をついた。


「……無茶はするなよ」

「! はい」


 私達はローブを翻し、その気配があった路地へと向かう。





 ***






 路地へ着くと、衣服を破かれた女性が男達に囲まれているのが見えた。全員気配を察する能力はないらしく、こちらには気付いていない。


「いやぁ! やめっ……!」

「黙れって言ってんだろうが!」


 バシッと女性の頬を叩く音が響いた。


 その瞬間、ふつふつと湧いていた怒りが爆発して、ロッドを取り出して男達の方へ駆け出した。

 身体強化をして、薙ぎ払うようにロッドを振り、男達をまとめて吹き飛ばす。男達は呻き声をあげながら数メートル先の地面に転がる。


「大丈夫ですか?」


 声をかけると女性は虚ろな目をしながら、体を震わせていた。


「ギル、予備のマントなどはありませんか?」

「いや……」


 だからといって、このままの格好でいさせる訳にもいかない。少し小さいだろうが、私のローブを貸そう。

 そう思って自分のローブに手をかけたら、ギルが私の腕を掴んで首を振り、代わりにローブを脱いだ。


 そうか。私が顔を見せるのはまずいのか。


 私はギルにお礼を言ってそれを受け取り、女性に着せる。


「てぇ……いきなり何だぁ……」


 そうこうしているうちに、地面に転がった男の一人が、頭を振りながら起き上がった。力を抑えていたから威力が不十分だったのかもしれない。


「やったのはてめぇかぁ?」


 男はじろりとギルを睨みつける。どうやら攻撃したのが私だとは思っていないようだ。ギルは特に肯定も否定もせず、私達を庇うように立つ。


「ぺっ…… ん? その風貌……どっかで……」


 男は血を吐き出し、距離をとったままギルを観察する。


「くっ、はは! あははははは! 思い出したぞ、てめぇ俺の故郷を壊滅させた忌み子だろう?」


 男の言葉にギルがぴくりと反応する。普通の人じゃ気付かないほどの小さなものだったが、私には分かった。


「なんだなんだぁ? 人助けでもすれば、自分の存在が認められるとでも思ったかぁ?」


 男は見下すように笑う。聞いているこっちでさえ不快なのに、直接言葉を浴びせられているギルはもっと嫌な気持ちになっていることだろう。


「てめぇのせいで、どれだけの奴が人生を狂わされたと思う? どんな功績を残そうが、忌み子は不幸しか呼ばねぇ! 何をやってもてめぇの居場所なんてねぇんだよ!」




「うるさい」




「ごふっ!」


 聞いていられなくて、私は男に向かってロッドを投げていた。ギルにばかり目を向けていた男は私の攻撃に反応出来ず、頭に直撃を受けて倒れた。起き上がってくる様子はない。


「あんたな……」


 呆れたようにギルがこちらを振り返る。


「すみません。我慢できなくて……」


 自分のしていたことを棚にあげて、ギルを責め立てるのはおかしいだろう。男にもこうなった事情はあるのかもしれないが、それで他の人を傷つけていい理由はない。


「この人達、どうしましょう?」

「影に治安隊を連れてくるよう連絡した……」


 いつの間に……。


 ここに来る時も、この場でもそんな動きをしているようには見えなかった。やっぱりまだまだ敵わないなぁと実感する。


「じゃあ、あとは……」


 ちらりと後ろの女性に視線やる。危険は去ったのだがまだ恐怖が消えないのか、かたかたと体を震わせていた。


「もう悪い人達は退治しましたよ」


 安心させるように優しく声をかけ、手を差し伸べる。


「ひっ……!」


 何故か女性は小さく悲鳴をあげ、私の手を避け、逃げるように路地を出ていく。予想していなかった反応に、私は引き止めることも出来ず呆然とした。


「俺のせい、だな……」

「え、え? どういうことですか?」

「忌み子だと聞いて、あんたもそうだと思われたんだろう……」


 なるほど、と納得する。確かに私はローブで姿を隠したままだし、ギルと親しそうにしていたからそう思うのは仕方がないのかもしれない。


「悪い……」

「どうしてギルが謝るんですか」

「……あんたに、嫌な思いをさせた……」


 ああ、もう。どうしてこの人は自分より人のことばかり気にするんだろう。もっと自分を大事にしていいのに。


「ギル」


 ちょいちょい、と手招きをして少し屈んでもらう。私は頭にハテナマークを浮かべるギルの首元に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。


「……っ!」


 体を引こうとしたギルをぐっと押さえる。強張りから戸惑いが感じられるが、無理矢理引き離すことはしなかった。私は子をあやすように背を撫でる。




「悪いのは違いを受け入れられない、人の弱さです。あなたじゃない」




 ギルは小さく体を震わせ、ゆっくりと私の肩に顔を沈めた。私にはこんなことぐらいしか出来ないけど、少しでもギルの傷が癒えればいい。


 暫くするとギルが顔を上げたので、腕を離す。


「今後、自分を卑下するようなことを言ったら、もうミートパイを食べさせてあげませんからね!」

「……それは嫌だな」


 冗談めいた感じで言うと、ギルはくすりと笑いを零した。

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