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23 素材採集

「魔物寄せの粉ですかー。兵の訓練で使うことがあるとは聞いてましたけど、姫様にも使うとは容赦がないですねー」

「ですよね。ちょっと優しくなったかなーと思ったらこれですよ!」


 調合室に笑い声が響く。ハミルミーとの授業は、いつもゴードルへの愚痴から始まっている気がする。面白がって昨日はどうだったんですか? と聞いてくるし、見た目が若く見えるから話しやすんだよね。


「あ、それで思ったんですが、魔物寄せの粉があるなら、魔物を寄せ付けない粉もあるのかなって」

「ありますよー。ただ、こちらは魔物に見つかってから使っても効果はないので、逃げるために使うならベニガラシ玉が有効ですねー」

「ベニガラシ?」

「食用にも使われる赤くて辛い実です」


 それってまさか。と思っていると、ハミルミーは私が広げていた本をぱらぱらとめくり、ベニガラシ玉の作り方が載ったページを見せてくれる。案の定ベニガラシの名前の横には、唐辛子の様な絵が描かれている。


「これとシビレ花、マダラ草を魔法水で煮詰めてー、出来上がったものをゴム製の袋に入れれば完成です。あとはそれを魔物に投げつけるだけ。直接あたらなくても、相手の目や鼻に痛みを与えるので、撃退に使ったり逃げる隙を作るために使えます」


 それはすごいな。と感心していると、ハミルミーは「ただ……」と悩ましい顔をして続けた。


「問題は割れやすいことですねー。バッグに入れていて、ぶつかった拍子に割れて大変な目に合ったという話も聞きます」


 確かに。本に載ってる出来上がりの図は、まるで水風船の様だ。


「マジックバッグに入れておけば安全ですか?」

「そうですねー。取り出す時に爪を引っかけたりしなければ大丈夫かとー」


 なら、いくつか持っていても損はないかもしれない。


「材料はこの部屋に揃っていますけど、いい機会ですから自分で採取に行ってみますかー? 今の時期なら全て竜の森で採れるのでー」


 私の気持ちを察してか、ハミルミーがそう提案してきてくれる。


「採取! いいですね!」


 連日城壁外に出ることになるから疲れそうだけど、やってみたいという気持ちの方が強い。賛同すると、ハミルミーは「分かりましたー」と言って、方々に連絡をした。






 ***






 いつもの戦闘スタイルに、今日は採取のための手袋が追加されている。準備が済んで城の裏口を出ると、そこにはハミルミーと一頭の馬らしき生き物が待っていた。


「あの、その子って魔物ですよね?」


 名前は覚えていないが、ちらっと本で見た。漆黒の体は馬そのものなのだが、白い鬣と尻尾が炎のように揺らめいている。


「ええ、ノーブルホーンという魔物です。この環境化では、普通の馬は生きられないので、移動手段に彼等を用いているんですよー」

「……危険じゃないんですか?」

「基本大人しい性格で、こちらが攻撃を仕掛けなければ襲ってくることはないですよー。ただ、気に入らない相手には決して従わないので、好みが合う相手を探すのに苦労するんです」


 魔物にも色々いるようだ。まだまだ勉強不足だな。


「もしかして、この子に乗って行くんですか?」

「竜の森までちょっと距離がありますからねー。馬車だと仰々しくなってしまいますし、スピードがあまり出せませんから」

「乗せてくれるでしょうか……?」


 不安に思いながら、魔物の馬に視線を移す。すると、鼻梁でぐいぐいと体を押された。


「早く乗れ、と言ってるみたいですねー」

「ふふ、ありがとう。よろしくね」


 声をかけると、返事をするようにぶるるっと鳴いた。


「出発の前に、魔除けの粉を振りますねー。僕は戦闘の方は得意じゃないので、何かあったら困りますからー」


 ハミルミーはマジックバッグから袋を取り出し、白い粉を馬や私に振りまく。無臭で肌や服にも色がつくことはなく、すうっと溶けて消えた。不思議な光景に自分の手や腕を確認する。


「これって効果はどれくらい続くんですか?」

「六鐘分くらいですかねー。行って採取をして帰ってくるまで、十分持ちますよー」


 疑問に答えながら、ハミルミーは馬の左横に立ち私を手招いた。そこで乗馬の説明をされ、足元に用意された踏み台を使って挑戦してみる。

 ゴードルとの訓練のお陰か、基本の身体能力はかなり上がっている。だから拍子抜けする程すんなりと馬に跨れた。


「流石、姫様ですねー」


 そう言って、ハミルミーも私の後ろへ乗り込む。いよいよ竜の森へと出発だ。






 ***






 感覚的には一鐘分ぐらいだろうか。鬱蒼とする森の入口までやってくる。ドラゴンと違って、走った時の反動で少しお尻が痛くなった。上手く乗るのにはまだ練習が必要そうだ。


「では、素材採集に行きましょー」


 馬を降りてハミルミーの後をついて行く。

 森の中に入るのかと思ったら、何故か森に沿って歩き出した。話を聞くと、ベニガラシは森の外周付近に生えているらしい。

 暫くすると、私の背丈ぐらいの木に赤い実がなっているのが見えてくる。


「綺麗に赤く染まってる実を、このように採ってくださいね」


 ハミルミーは見本のように、ハサミでヘタの部分からベニガラシを採って見せる。私は頷き、同じ様にぱちん、ぱちんとベニガラシを採っていく。

 ある程度の量になったら、次の素材のため森の中へ。


 探すのはシビレ花。岩陰などに生育するらしく、岩を見付け次第生えていないか確認をする。それを数回繰り返した所で、淡く光った黄色い花を発見する。

 ハミルミーの説明によると、素手で触ると麻痺症状を引き起こす花らしい。実際、生えているシビレ花は、じっと目を凝らすと、ぱちっ、ぱちっと静電気の様なものを発生させている。採取に手袋は必須だと実感した。


 その近くに泉があったので、そこできれいな水を汲んでから、最後の材料であるマダラ草を探すことに。

 赤とピンクの斑模様の草なので、森の中ではそれなりに目立つ。それらしい草を発見して、声をかける。


「ハミルミー、マダラ草ってこれで合ってますか?」

「どれですか? あー、これはトゲマダラ草ですねー。葉に毛がありますよねー? マダラ草はこっちです」


 ハミルミーは私の隣にしゃがみ、別の方を指刺した。そこには、ぱっと見は同じに見える斑模様の草。言われてじっと両方の草を見比べる。


「本当だ。こっちには毛が生えていませんね」

「素材によっては、このように似たものがあったりするんですよー。なので、特徴をしっかり把握するのが大切です」

「なるほど。このトゲマダラ草は何か別の調合に使えたりはしないんですか?」

「素材としてはあまり価値はないですが、食用として利用されることはありますよー」

「食べられるんですか!?」

「少し辛みがあって、美味しいそうです。反対に、マダラ草は食べたら痙攣や呼吸麻痺などを引き起こすので、間違えて食べないよう気をつけてくださいねー」


 それは怖い。しっかりと頭に刻んでおこう。


 材料を全部揃えたら、森を出てまた馬に乗って城へと戻る。

 

 その足で調合室へ向かい、いざベニガラシ玉制作だ。

 刺激物を作るので、今回はゴーグルとマスク。調合用の手袋もして作業に入る。


 まず下準備としては、魔法水を作る事と、マダラ草を魔法で乾燥させて粉末状にする事。

 それが終わったら釜に魔法水を入れて熱し、粉末状にしたマダラ草とベニガラシを入れてかき混ぜながらぐつぐつと煮込む。


 どんどん赤色に染まっていく釜の中。ゴーグルをしているのに、辛そう、痛そうという想像だけで目が沁みる。


 いい感じに煮詰まったら、シビレ花を投入。そのままぐるぐると混ぜていると、バリバリッ! と釜の中で稲妻が走った。どうやらこれが出来上がりの合図らしい。

 液体冷ましてから、ゴム製の袋に入れてベニガラシ玉の完成だ。


 後日試し打ちだと魔物に投げた際、液体が自分の方にも飛んできて悶えることになろうとは、この時の私は知る由もない。

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