20 お披露目式
白竜の間は、その名の通り白を基調にしたホールで、竜の装飾が壁や天井に施されて豪勢な造りになっている。
吹き抜けの二階部分にいた私は、下を見て人の多さに圧倒された。数百人はいるんじゃないだろうか。
一階にいる演奏家達が音楽を奏でると、さっと視線がこちらに集まった。
ひいいぃぃ、見ないで~!!!
パニックになりそうになり、ぎゅっとヒューバートの腕をつかむ。
「姫様、落ち着いて。下を向かないように堂々と」
大丈夫というように、掴んだ手をとんとんと叩いてくれる。
ふっと力が抜けると、ヒューバートはその手を腕から外し、手を掴んだまま先に階段を数段下りた。こちらを向いて浮かべた笑みが安心感を与えてくれる。
本当、頼りになるお兄ちゃんだよ。
ふう、と一息ついて、前を向いたまま一段一段ゆっくりと下りていく。
「五歳とは思えない程、堂々としているわね」
「とても優雅だわ」
所々から感嘆の声が聞こえて、恥ずかしいやら嬉しいやら。浮かべた笑みがひくつきそうになるのをどうにか抑える。
一階に着くと、ホール奥の数段高くなってる椅子にお父様がいるのが見えた。その傍にはオルガが控えている。
参加者達は真ん中を空けて左右に別れて並んでいて、私は上座に一番近い場所に連れていかれた。他の人達と同じ様に並び立つと、鳴らされていた音楽がフェードアウトしていく。
からん、からん
鐘のようなものが鳴り、お父様が立ち上がった。それまでざわざわとしていた会場が、しん……と静まり返る。式の始まりだ。
「この不毛の地で、命脈を繋げた子等よ。そなた等の名を我が胸に刻み、竜の加護を授けよう」
凛とした声がホールに響き、威厳のあるその姿は女性だけでなく男性の心も惹きつける。
「エヴァン・カーナシス」
オルガが一人の名前を呼ぶ。一番離れた場所から男の子が一人、緊張した面持ちで通り道になった中央を歩いてくる。そして一段高い所まで来るとお父様に向かってお辞儀をした。
それを確認すると、お父様が手を前にかざす。すると、ふわりと魔力の光が子供に降り注いだ。
「か、かんしゃいたします」
男の子がそう言って、みんなの方を向いてお辞儀をしてから去っていく。事前に聞かされていた通りの流れだ。
次々呼ばれる子達の様子を眺めて、私は首を傾げる。
さっきの男の子は歩き方がぎこちなかったし、次の女の子は礼が上手く出来ていなかった。今の子はすごく棒読みだ……。え、これが普通な感じ?
戸惑って周りを見れば、誰もがお遊戯会の子供を温かい目で見守るような表情をしている。
あー……そうか。見た目は成長していても、みんな中身はまだ五歳だ。ヒューバートが私が出来過ぎてるって言ってたの、嘘じゃなかったのか。
「セレーネ・ロードニクス」
いつの間にか数十人の子供達の出番が終わっていて、自分の名前が呼ばれた。笑みを崩さないまま、ヒューバートから手を離してお父様の前まで歩いていく。
みんながいる手前、表情は引き締めたままだが、こちらを見つめる目には優しさが感じられる。
すっとお辞儀をすると、温かいものに包まれる感覚がした。
「感謝致します」
お礼を述べたあと、振り返ってホールに集まった人達もお辞儀をする。そして最後まで気を抜かないようにしながらヒューバートの所へ戻ると、満足そうに笑っていた。
上出来、かな。
全ての子供達の紹介が終わると、再び鐘が鳴らされた。
「堅苦しい式は終いだ。僅かだが馳走も用意した。残りの時間を楽しんでいってくれ」
お父様がそう言うと、わあっという歓声と拍手が送られる。
そして、先程まで通り道になっていた場所に料理が運ばれてきた。音楽も再び奏でられ、それぞれがと思い思いの時間を過ごし始める。
「姫様、他の子達とお話しでもされてきてはどうですか?」
「いいんですか?」
大人達が話しかけたそうにしているのが視界の端に入る。
「子供達が主役の場で、姫様に取り入ろうとする者の相手など、する必要はないですよ。存分に楽しまれてきてください」
ヒューバートは周りに聞こえるようにわざと声を張る。様子を窺っていた人達は、ばつが悪そうに散り散りになっていく。
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきますね」
私は子供達が輪になって集まっている所へ赴き、声をかける。
「私も混ぜてもらっていいですか?」
「ひ、ひめさま! も、もちろんです!」
わー、きゃーと黄色い声が上がる。少し落ち着くまで待ってから、みんなで軽い自己紹介をした。そのあとは普段どういった遊びをするのか、礼儀作法がどうだとか、などなど。話はだんだん盛り上がっていき、今度は別の話題になる。
「そういえば、おひろめしきがおわったので、まほうのれんしゅうができるようになりますね。わたし、それをすごくたのしみにしていたんです」
ピンクで可愛らしいデザインのドレスを着た女の子が顔を輝かせる。彼女はリリー。ウェーブのかかったツインテールが特徴的だ。
「ふふん、おれはゆーしゅーだから、もうまほうのれんしゅうをはじめてるぞ!」
リリーの言葉に一番に答えたのは ランドルフという少し威張った感じの男の子。
「ぼ、ぼくもしてる……よ?」
次に答えたのは、お披露目式で一番最初に呼ばれたおどおどとした男の子。確か名前はエヴァンだ。
「えー、いいなぁ!」
「じゃあ、ふたりともぞくせいをしらべたってこと?」
「ああ! おれのてきせいは、ほのおとかぜとひかりだ!」
「ええっ! さんぞくせい!? すごーい」
わあわあと周りの子が無意識にランドルフを持ち上げる。ああ、これ嫌な流れだ。
「エヴァンくんは?」
案の定、騒いでた子の一人が、純粋な好奇心で聞いた。エヴァンは少しだけ俯いて、おずおずと口を開く。
「……つちぞくせい、だけ」
「……ぷっ。あはははは、ひとつだけかよ!」
どっと笑いが起き、可哀想という言葉が投げつけられる。笑っていないのは私とリリー、そして言われている張本人のエヴァンだけだ。
あー、まだ幼いし、悪気はないのかもしれないけど……。これはちょっとなぁ……。
聞き専門になっていた私は、持っていた飲み物をそっと置く。
「私は、属性が一つでも極めればすごい魔法使いになれると考えています」
突然の発言にみんなの視線がこちらへ向き、しんと静まり返る。
反発されたのが気に入らないのか、ランドルフはむっと顔をしかめた。
「そういうってことは、ひめさまもぞくせいはひとつってことですか?」
「いえ、私は水と闇の二属性です」
全属性の魔法を学んではいるが、主に使うのはその二つにすると決めた。
そんな私の事情を知らないランドルフは、勝ったな、というようなドヤ顔をする。
「でも、属性の数で優劣が決まる訳じゃありません。素質はあっても、努力をし続けることが出来なければ意味がないですから」
「は、はあ? ゆうれつとか……そしつ? ってなんだよ! む、むずかしいこというんじゃねぇ!」
そこからか……。子供に理解させるって難しいな……
こめかみに手を当て、ふーっと息を吐いた。
「な、なんだよ! ばかにしてんのか!?」
「してません」
貴方に分かるようにどう説明しようか考えてるんだよ! とは言えない。
「どうされましたか、姫様」
騒ぎを聞きつけたのだろう。ヒューバートが駆け寄って来て、声をかけてきた。
「お、おとなをつれてくるなんてきひょうだぞ!」
「いえ、別に連れてきた訳では……」
「お、おれはわるくない! あやまらないからな!」
引き止める暇もなく、ランドルフは言い逃げをしていく。彼と一緒に笑っていた子達も、戸惑いつつその後を追って行った。
「面白いお友達ですね」
「本気で言ってます?」
じろりと睨むと、ヒューバートは心底楽しそうに笑う。
「私、友達になるならリリーやエヴァンの方がいいです」
「え……」
「ほんとうですか!?」
エヴァンは「ぼくなんかが?」と戸惑った様子だけど、嫌がってはいなさそうだ。リリーに至っては、全身から喜びが迸っていた。
「はい。仲良くしてくださいね」
おめでたい日だ。嫌なことは忘れて、あとはとことん楽しもう。
二人も賛成だったみたいで、おしゃべりや料理を堪能して、最後は有意義な時間を過ごすことが出来た。




