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19 エスコート

「姫様、おはようございます」

「うぅ……ん……」


 まだ半分夢の中にいる状態で、しゃっとカーテンを開ける音が響く。


「もう、ちょっと……」

「今日はお披露目式です。準備がありますので、早く起きてください」

「むあっ!」


 ばっとダリアにシーツを剥がされてしまい、渋々体を起こして長くなった手足を伸ばす。先月五歳を迎え、私の見た目は十歳程まで成長している。


「さあ、まずは体を綺麗にしますよ」

「はーい」


 浴室へと移動すると、複数の侍女にあれよあれよと言う間に脱がされ、頭からつま先まで洗われた。もうなすがままだ。

 湯浴みが終わると、髪を乾かしている間に、パンとスープだけの軽めの朝食。


 それが済むと、今度は髪のセット。どんな髪型にするかは事前に決めていたので、手際よく髪が編み下ろしにされていく。最後に小さめの花を散らせれば出来上がりだ。


 次は化粧。肌に保湿のためのクリームを塗られ、顔に軽くパウダーを載せる。口には自然な色の紅をつけられた。


 最後はドレスを着る。青みがかった緑のオフショルダーのドレスだ。顔合わせの時は時間もなかったから、既製品のものだったが、今回はオーダーメイド。

 オフショルダー部分には刺繍と立体的な花飾り。ウエスト部分にも同様の飾りが付いており、宝石を添えてある。何層にもなったチュールスカートが、ふんわりしたドレスラインを作ってくれている。


 それらが全て終わって、鏡の前に立つ。


「姫様、とても可愛らしいですよ」

「素敵です!」

「今日お披露目式で一番輝くのは姫様に違いありません!」


 ダリアや侍女達に手放しで褒められ、少しだけ照れてしまう。


 今日城で催されるお披露目式とは、霧で命を落とすことなく五歳まで成長した子供達を集めた、魔族特有のお祝い事だ。これまでも式自体はあったけど、年齢が達していない子供は参加出来ないということで、着飾った子供達が城に来るのを眺めるだけだった。


 けど、今日は私も参加する側だ。


 侍女達と談笑をしていると、部屋の扉がノックされた。私に確認を取ったあと、侍女が訪問者を招き入れる。


「お迎えに上がりましたよ、姫様」


 入って来たのはいつもの笑顔を浮かべたヒューバート。普段の着崩した格好と違って、騎士の正装をしていて魅力が倍増している。


「今日はエスコート、よろしくお願いしますね」

「はい。お任せください」


 そう。彼がここに来たのはそのためだ。基本親兄弟がエスコート役をするけれど、私の場合は難しい。お父様……というより魔王が公式の場で子と共に入場することは、次期王候補に考えていると見なされてしまうらしい。面倒なしきたりだよね。


 それで、誰が代わりにその役をするのかと話になった。


 オルガもお父様の補佐で出来ないし、ゴードル相手じゃ失敗したらっていう緊張がすごそうだし、ギルにはエスコートなんて無理。

 一番の候補はハミルミーだったんだけど、こういう催し物の時は稼ぎ時らしく、手が離せないと言われてしまった。

 そこで、最終的に白羽の矢が立ったのがヒューバートだった。事情を説明したら、快く引き受けてくれて本当に良かった。お父様はどこか不満気だったけど。


「姫様はいつも可愛らしいですが、今日は一層素敵ですね」

「ありがとうございます。ヒューバートも、格好いいですよ」

「そう言っていただけるとは、光栄です。では、参りましょうか」


 すっと腕を差し出されたので、手を添える。身長はヒューバートの胸あたりまで伸びたので、エスコートされる姿もマシになってることだろう。


 そのまま部屋を出て会場である白竜の間へ向かう。いつもの静寂した城の雰囲気と違い、どこか慌ただしい気配が感じられる。けど、それが高揚感を高めさせ、自然と顔に笑顔が浮かんだ。


「嬉しそうですね」

「はい。この日を楽しみにしていましたから。……何でだと思います?」


 少しいじわるするように問いかける。ヒューバートは少し考え込み、何かを思いついたのか、ぱっと口を開く。


「オーダーメイドのドレスを着られるからですか?」

「それも嬉しいですけど、一番じゃありません」

「では、同年代の子に初めて会えること?」

「ぶー、それも楽しみの一つではありますけど、違います」

「……うーん、それ以外となると何ですかねぇ」


 その後も答えは出ず、「思いつきません。降参です」と肩をすくめた。


「ふふ、この日を楽しみにしていたのは……これから霧の濃さに関係なく外に出られるようになるからです!」


 お披露目式を迎える子供は、十分な耐性が出来たとされ、霧の濃さ関係なしに外へ出ることが許される。流石に一人で自由にとはいかないだろうが、これまで行けなかった所に行けるようになるのが楽しみでならないのだ。


「それは、姫様らしいですね」


 ヒューバートは一瞬驚いた顔をしてから、くすくすと笑いを零した。


「もしお供が必要な時は、いつでも仰ってくださいね。お付き合いしますよ」

「本当ですか? ありがとうございます。その時はオススメの場所とか教えてくださいね」

「勿論です」


 そんな話をしていると、白竜の間が近づいてきたのか人のざわめきや気配がより感じられるようになった。

 暫く進むと扉の前に侍女が立っていた。私達に気が付くと頭を下げる。彼女の前まで歩いて行くと、そのままの姿勢で侍女が口を開く。


「子供達が全て入場し終わったのち、姫様がご入場となります。それまでこちらの控え室でお待ちください」


 扉を開け、部屋に通される。控え室と言ったから小さめの部屋を想像したけれど、普通の部屋と同じくらい広い。

 中央にあるテーブルの所まで連れられ、ヒューバートが「どうぞ」と椅子を引いてくれる。ありがたく腰を下し、小さく息を吐いた。


「何だか緊張してきました」


 先程までは何ともなかったが、いざ出番が近づいて来ていると分かるとそわそわする。今回は私自身が皆の前で挨拶をする訳ではないが、魔王の娘という立場上、きっと沢山の人が注目するだろう。足を踏み外したり、スカートの裾を踏んでしまわないか心配だ。


「またしてみますか?」


 ヒューバートは自身の手のひらを広げて、親指と人差し指の分かれ目を指差した。あれは顔合わせの時に教えてもらった緊張をほぐす方法だ。


「ふふ、そういえばやりましたね」


 その時のことを思い出して、少し気が楽になる。


「ダリアに作法は叩き込まれてますよね? ここに来るまでも、とても自然に歩かれていましたし、大丈夫ですよ。寧ろ出来過ぎていて、驚かれると思います」

「そんな大袈裟な……」

「いえいえ、本当ですよ」

 

 随分ハッキリ言われるので、そうなの? と納得しかける。


 いやいや、私を和ませるために言ってくれているだけで、私以上の子は腐るほどいるよ。

 でも、ヒューバートのその気持ちはありがたく受け取っておこう。


 そんなやり取りをしていると、入ってきた方とは反対側の扉からノック音がした。


「セレーネ様。ご入場をお願い致します」


 扉の向こう側から出番の声がかけられ、私は体を硬くする。


「準備はよろしいですか、姫様?」


 ヒューバートが手を差し出してくる。


「駄目って言っても、行かなきゃいけないでしょう?」

「まぁ、そうですね」


 ぷっと互いに吹き出し、笑い合う。私は深呼吸を一つして、ヒューバートの手を取った。椅子から立ち上がると、控えていた侍女がスカートを整えてくれる。


「待たせてはいけませんから、行きましょう」

「はい。何かあってもフォローしますので、ご安心を」


 白竜の間への扉を侍女が開き、私達は部屋の中へ足を踏み入れた。

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