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21 実践訓練 魔法編

「姫様、今日の訓練は街の外に行きませんか?」

「え……」


 お披露目式を済ませてから数日。座学が終わると、ウィネットからそんな提案をされた。


「いつもは鍛錬場ですけど、自由に外に出れるようになったんです。実践での訓練を始めてはどうかと。魔物と戦えば魔力量も上がりやすくなりますしね」

「い、行きます! 行きたいです!」


 反射的に手を上げた。

 まさかこんなにすぐ外に出る機会が来るとは。きっと、今の私は目をキラキラと輝かせているに違いない。


「では、準備をしてから出発しましょう」

「はい!」


 ウィネットは外出の旨を伝えに行き、私は着替えをダリアに手伝ってもらう。


 訓練用の動きやすい服と靴。それに加え、腰の右側には五歳の誕生日で貰ったマジックバッグ。勿論中にはポーション類が入ってる。左側にはゴードルに護身用としてもらったナイフを装着する。


 魔物がいる所に行く訳だし、何があるか分からないからね。


 最後に身を隠すためのフード付きローブを着て、支度は終わりだ。

 

 ダリアに見送られながら、同じ様にローブを着たウィネットと城の裏手から出る。お忍びのため、徒歩で街を抜けて門まで行く。

 道中、間近で見るモノトーンで統一された素敵な街並みに、発狂しなかったことを褒めて欲しい。今度じっくり散策させてもらおう。


 門をくぐると、いよいよ城壁の外だ。それなりに濃い霧の中、目を凝らして辺りの様子を探る。


 うーん、似たような平地が続いてる。これ、はぐれたら一人で帰れる自信ないな。


「人目に触れない場所まで歩きますよ」

「は、はい」


 私はウィネットから離れないよう気をつけながら進む。

 

 アズヴァイドが霧で影も見えなくなった頃、ウィネットが足を止めた。


「この辺りでいいでしょう。ここの魔物は小型なものでも強いので油断しないでくださいね」


 ゲーム終盤に来る場所だもんなぁ……。


 今更ながら、大丈夫かと不安になってきた。色々戦い方は学んで来たけど、魔物を見るのも実践も初めてだ。


「一応姫様が主に扱う魔法は水と闇にすると決めましたから、そちらを中心に使ってください。普段から意識していないとボロが出ますから」

「分かりました」


 そんな会話をしていると、霧の向こう側から唸り声が聞こえてきた。


「来ますよ」


 声がした方に向き直り、戦闘態勢を取る。緊張でごくりと喉が鳴る。

 

 現れたのは、私と同じぐらいの大きさのオオカミ型の魔物。ぼたぼたと涎を垂らし、こちらを餌としか思っていない目で睨みつけてくる。


 恐怖でひゅ、と一瞬息が止まった。無意識に足が後ずさろうとする。


 引くな、引くな、引くな! 相手はこっちを殺そうとしている!


 隙を見せれば、瞬く間に襲い掛かってくる。なら、私が取るべき行動は逃げじゃない。

 ぐっと踏み留まり、敵から目を離さないまま、素早く式を浮かべ魔力を通す。


「“アイスニードル”」


 数本の氷柱を作り出し、敵に放つ。あたると思った瞬間、素早い動きで躱された。そしてその勢いのまま、私の方へぐあっと鋭い牙を向けてくる。


「くっ……“ウォータカラム”!」


 敵の足元から水を噴き出させて吹き飛ばす。大した打撃にはなっていないようで、くるりと体勢を整えて着地をされたが、距離はとれた。


 かなり瞬発力があるから、普通に攻撃をあてようとしても避けられるのが関の山だ。どうにかして動きを止めないと。


 私を簡単には仕留められないと分かったのか、敵も警戒をして様子を窺っている。


「“アイスニードル”」


 私はもう一度氷柱を作る。けど、今度は一本一本避ける先を誘導するように放つ。

 そしてその攻撃を避け切った所を狙って、別の魔法を唱える。


「“シャドウスティッチ”」


 敵の影に針が刺さり、ほんの数秒だけど動きが止まった。

 

 今だ!


「“ウォーターカッター”」


 強度を上げた中級魔法を放つ。高圧で繰り出された水は鋭い刃となって、敵の胴体をズバッと深く切りつけた。


「ギャッ!」


 血が迸り、がくりと体勢を崩す。けど、目の闘争心は失われていない。


 もう一度! え――?


 魔力を式に流そうとしたが、何故か魔力が通せない。はっと足元に視線を落とすと、敵の流れ出た血が、糸の様になって私の足を捕らえていた。


 魔法が出せないのはこれの影響!? 何だかヤバイ感じがする!


 腰のナイフを引き抜き、血の糸を切りつける。でも、何度やっても元の形状に戻ってしまい意味がなかった。

 なら、本体をやるしかない。私は持っていたナイフを敵に向かって投げた。相手も手負いだ。これまでのような素早い動きが出来るとは思えない。



 キィン――!



 金属音が空しく響く。いつの間にか魔物の前には血で盾が作られていた。


「うそ……」


 為す術がなくなって、さあっと血の気が引く。


「ここまでですね。“ヘルファイア”」


 背後でそう声が漏らされ、魔物は一瞬で炎に包まれた。もがき苦しむ声と、ごうごうと燃えさかる音が数秒間続き、ふっと火が消えるとそこには灰すら残っていなかった。

 私を捕らえていた血も力を失ったのか、地面へと流れ落ちていく。


「すみません……」

「あら、何故謝るのですか?」

「え、何故って……一人で倒しきることが出来ず、手を借りてしまったので……」

「私は倒さなければ駄目とは、一言もいってませんよ。寧ろ、一人でこの魔物をここまで追い込むことが出来たのは、すごいことです」


 そういえば使う属性は限定されたが、倒せとは言われていない。何だか一気に力が抜けて座り込んだ。


「そういえば、さっきあの魔物が最後に使ったのは何だったんですか?」

「瀕死の状態で使える固有の力ですね。血で拘束された者は魔法や身体強化が使えなくなり、最終的に血の池に呑まれ、魔物と心中することになります」


 こわっ!


 そんな危険な力を使う魔物だったとは。本当に恐ろしい場所だ、ここは。


「それって、一人で捕まったら為す術がないってことですか?」

「いえ、そうでもありません。血の拘束は動きを抑えますが、完全じゃありません。純粋に強い筋力があれば無理矢理動くことが可能です。血の盾も同様に壊すことが出来ます」


 脳筋なら突破出来るということか……


 私には無理な方法だな。身体強化が使えれば違っただろうけど、十歳の女の子の体の筋力なんてたかが知れてる。


 ああ、でも確か女主人公である聖女は、馬鹿力の持ち主って設定だった。彼女だったら出来そうな気がする。


 外に出れるようになったから、人の街に行くことも出来るのかな? 勇者一行がどうなっているのか気になる所だ。

 そんなまだ見ぬ相手に思いを馳せていると、ウィネットが咳払いをした。


 おっと、別のことに意識を持って行き過ぎた。


「ええと、そういう対処が出来ない人はどうするんですか?」

「複数で行動する様にするか、倒す時に確実に息の根を止めるかですね」

「なるほど」


 攻撃が甘かったから、危険な状況に陥ったのか。事前にその情報を知っていれば、もっと違った戦い方が出来たかもしれない。


「ウィネット、ここ周辺にいる魔物の情報が書かれた本ってありますか?」


 私がそう聞くと、ウィネットは満足そうに笑った。


「はい、ありますよ。城の書庫に保管されていた筈です」


 魔物の設定をしたのも自分だけど、ボスならまだしも、通常で出てくる魔物の詳細なんて覚えてない。それに、ゲーム上とリアルじゃ違う部分も出てくるだろう。帰ったら早速読んでみよう。

 そう意気込んでいると、ウィネットが補足をしてくる。


「しかし、本に書かれている情報が全てとは限りません。未知の力を使ってくる可能性もゼロではないです。なので、周りに気を配るのを怠らないようにしてくださいね」

「! ……分かりました」


 私は素早く立ち上がり、霧の向こうへ視線を向ける。


 次はどんな魔物だろうか。残りの魔力量でどれだけのことが出来るか。不安は少しあるけど、最初程の恐怖はもうなかった。

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