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16 身体強化

「“バースト”」


 鍛錬場の的に向かって魔法を放つと、小さな爆発が起き、中心の的は弾けて周りの的も衝撃で少しだけ欠ける。


 魔法は毎日欠かさず使うよう意識したお陰で、魔力量は順調に増えている。基本魔法でいうと、二回ずつは使えるようになった。


 今は初級魔法の中でも、消費魔力が多い魔法を習っている。基本魔法と違い、初級魔法はその魔法ごとに消費する魔力量が変わるらしい。ここはゲームと同じだ。

 たとえば「ヒール」だけなら、今なら四回は使える。その反面、先程使った「バースト」だと、二回が限度だろう。


「初級魔法も問題なくものにしていますね。あとは、もう少し発動スピードが上げられるといいかもしれません」

「なるほど。やってみます」


 後方で様子を窺っていたウィネットからアドバイスを貰い、私はもう一度「バースト」を唱える。先程より魔力を通す早さを意識して。


「……どう、ですか?」

「いい感じです。魔法での戦いで大事なのは威力だと思われがちですが、一番は発動の早さです。窮地に陥った場面などでは、それは大きな武器になります。これからはそれを意識して魔法を使ってみてください」

「はい」


 頷くと、頭が少しくらりとした。魔力の底が近いんだろう。ポシェットからマジックポーションを取り出し、一気に飲み干す。


「発動スピードが大事なのは分かりましたけど……。もし、接近戦になって魔法を使う暇がない場合はどうするんですか?」

「そういった時のために、私達魔法師も武器は携帯しています。攻撃というよりは、防御のために持っていて、距離や隙が出来れば魔法を……という戦い方になるでしょうが」

「何故武器で戦わないんですか?」


 持っているなら使えばいいのに。ウィネットは困ったように笑う。


「武器の扱いが苦手だからですよ。魔法師は後方支援という考えが抜けきっておらず、武器を使った戦いを学ぶ人間が少ないんです」

「ウィネットもそうなんですか?」

「私は近接でも多少は戦える魔法師ですよ。身体強化も使えますしね」

「身体強化……ですか?」


 他ゲームや小説なんかではよく聞くが、【キミが希う】ではなかった単語だ。


「はい。自身の魔力を巡らせ、能力を上げるんです。これは魔法とは違い、外に魔力を放出するのではなく、自分の魔力を強化したい箇所に集中させます。例えば……」


 ウィネットは、たっと地面を蹴って走りだし、数メートル行って戻ってくる。


「今のが私の通常のスピードです。ここで足に強化をかけると……」


 注目していると、ぶわっと魔力が足に集まったのが感じられた。先程より力強い踏み込みで同じ距離を走る。その速さは比べ物にならない。


「すごい……」

「これだけの違いが出ます。なので、身体強化が出来るか出来ないかはかなり重要です。式の構築や呪文も必要ないですし、使うのは体内にある魔力なので効率もいいです。問題は魔力を外に出さず留めることが難しいことですね。……少しだけ挑戦してみますか?」

「やってみたいです!」


 身体強化が使えれば、ゴードルとの授業の時に役に立ちそうだ。あわよくば、一泡吹かせることが出来るかもしれない。


「魔力を集めやすいのは拳なので、そちらから練習してみましょう。魔力をそちらに流しつつ、外には出ないよう意識するんです」

「はい」


 自分の中心にある魔力を右手拳に流す。その量を増やしていくと、ゆらりと魔力が外に出ていこうとした。慌てて中に戻すと、集めた魔力が中心に戻ろうとするので、また集める。


「うぅ……確かに留めるのって難しいですね」


 ウィネットがいとも簡単にやっていたから、コツを掴めばすぐに出来るようになるのでは……と思っていたが、そうでもないらしい。


「魔力の移動は上手く出来ていますから、素質はありますよ。出来ない人は魔力を一点に集めるのも駄目ですから」

「そ、そうなんですね……。う、ぐぐぐぐ……」


 留めようと意識すればするほど、もとに戻ろうとする力が働く気がする。

 

 どれくらいの時間そうやっていたのか分からないけど、流石に集中力が切れた。力を抜いて拳に集めていた魔力を解放する。


「はぁ……はぁ……。やっぱりそう簡単じゃないですね……」

「ですが、見ていた感じですと、一瞬だけなら強化は出来ています。練習を積み重ねれば、自ずと出来るようになると思います。焦らず頑張りましょう」

「……はい」


 ゆっくり深呼吸をして、呼吸を落ち着かせる。魔力を動かすのに、こんなにエネルギーを使うとは思っていなかった。


 でも、一瞬だけなら出来てるのか……


 私は一人ほくそ笑んだ。






 ***






 次の日の午後。鍛錬場でゴードルと走り込みをして、いつもの様に手合わせが始まる。


 感覚を掴んでから、だいぶ形になるようになってきた。相変わらず攻撃は見切られていて当たることはなく、傷を負っていくのは私だけだが。


 いつまでもやられっぱなしは癪なんだよね。


 昨日授業が終わったあとや、夜なんかに少しだけ身体強化の練習をした。そして攻撃を繰り出すその一瞬に強化を乗せれるようになった。

 実践で上手くいくか分からないけど、試してみたい。


 この打ち込む瞬間に――!


 攻防をしている中、いつもの攻撃に見せかけて、当たる瞬間ぐあっと魔力を拳に集めた。


「!」


 ぱあんっと強い音が響いて、受け止めようとしたゴードルの手が少しだけ後ろに弾かれる。


 やった! 成功した!


 喜んだのも束の間、足払いで体勢を崩され、ぐるんと視界が回った。


「うわっ……!」


 どさりと床に倒され、ゴードルに見下ろされる。


「良い戦法でしたが、その後が頂けません。相手を崩したなら、すかさず次の攻撃にうつるべきです。でないと、このように反撃されます」

「はい……」


 つい上手くいったことに意識がいってしまった。まだまだ甘いということだろう。体を起こして、服についた汚れを掃う。


「身体強化はウィネットから?」

「昨日教えてもらいました。さっきのように一瞬しか出来ませんが」


 本当なら数秒持たせたかったけど、昨日の今日じゃそこまでは無理だった。タイミングを合わせるだけで精一杯だ。


「逆にそれは不意をつくことになるので、良いのではないですか? 流石に同じ相手に何度もは通じないでしょうが……」

「え……」


 まさかの言葉に呆然とする。ゴードルのことだから「一瞬しか出来ないとは情けないですね」とか言われるだろうと覚悟していたのに。


「何ですか?」

「あ、いえ……肯定されるとは思っていなかったので……」

「自身がそこまでしか出来ないことを分かっていて、その中でどうすれば有効に活用出来るかと考えた末、繰り出した攻撃なのでしょう? それを吐き捨てるほど、冷徹ではないつもりですが」


 少しだけ認められた気がして、ぶわっと嬉しさが込み上げてくる。


 うわ、何だこれ……


 見返したいっていう思いばかりだったから、してやったりな気分になれると思っていたのに、何だか気恥ずかしい。

 顔が熱くなり、両手で頬を覆う。


「身体強化は攻撃だけでなく、防御面でも有効です。次からもっと使うよう意識してください。強化の練習にもなるでしょうから」

「わ、分かりました」


 戸惑う私を他所に、ゴードルは通常運転だ。気持ちを切り替えるために、私は赤くなった頬を叩いた。


「お願いします!」


 その後の手合わせは、これまで以上に充実していた気がする。身体強化は一瞬しか出来ないままだったが、腕に使って防御をしたり、足に使って速さを上げたり。色々な使い方が出来て、攻撃の幅が広がって楽しかった。


 ゴードルも「身体強化をそのように使う者はいないので、斬新で面白いですね」と呟いて、心底楽しそうに笑っていたのは秘密だ。

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