冒険者がやってきた(後)
メラニーは冒険者たちから説明を受けていた。
テーブルの上には冒険者ギルドが発行した依頼書と、エルランジェ王国の委任状がある。
依頼の内容は2つ。
ひとつは町周辺の魔獣対策。魔獣の群れができていないかの調査と、できていた場合の討伐。
もうひとつは孤児院の実態調査。
「孤児院の調査につきましては、基準を満たしていないからといって罰則があるものではありませんからご安心ください。むしろ正確な現状を報告したほうが、改善に乗り出してもらえるでしょう。これは貧困対策の一環なのだそうです。子どもたちを心身ともに健やかに育て、教育を施し、職に就かせることで、犯罪に利用されることを防ぐのだそうです」
ボルツは一度言葉を区切り、申し訳なさそうに眉を寄せる。
「そして気分を害されるでしょうが、子どもの虐待や人身売買を行っている施設を摘発する目的もあります。だから事前の連絡なしに訪問させてもらいました。さっき見かけた子たちを見れば、ここに後ろ暗いものはないと確信しましたけどね」
微笑みかけるボルツに、メラニーは自信をもってうなずく。
そして口頭でできる説明を行った後、施設内を案内し、最後に食堂に向かった。
***
皆でおやつを食べていると、メラニー先生が冒険者の2人を連れて入ってきた。
「あー! 昨日のおじさんたちだ」
昨日見学に行った男の子たちが声を上げる。
ボルツさんたちは「おう。また会ったな」と笑いながら手を挙げる。
「皆さん、こちらのお2人は国の依頼を受けてこられた冒険者の方たちです。孤児院で暮らしている子どもたちが元気でいるか、困っていないか調べるために、1人ずつお話を聞かせてほしいそうです」
メラニー先生がそう説明すると、周りからは「へー」とか「はーい」とかの声が上がる。
ボルツさんが質問をして、キリアスさんが書き留める役みたい。
右前の席に座っている子から順番に始めることになった。
「まずは名前と年齢を教えてもらおうかな」
「俺の名前はリアン。14歳です」
椅子から立ち上がってリアンお兄ちゃんが元気よく答える。
ボルツさんがちょっと微笑んでから「座っておやつ食べながらでいいよ」と言うと、安心した顔でリアンお兄ちゃんは座る。
「じゃあ次は、ここの生活で困ったことや不便に感じたことがあれば教えてくれるかな?」
「え? うーん、……そうですねぇ」
リアンお兄ちゃんは首をひねって上を見たり下を見たりする。
同じことを私たちも聞かれるのかも。と思うと、皆も考え始めたみたい。
「そうだ。肉! 俺、肉を腹いっぱい食べたいです。野菜はここで育てているから困ってないけど、肉は買わないと手に入らないんです」
苦笑する先生たち。「俺も肉食べたい」と言い出す子たち。(男の子ってバカっぽい……)という目を向ける女の子たち。
ボルツさんは笑ったりせず、にこやかにうなずいている。
「子どもの頃は特に腹が減るからな。貴重な意見をありがとう。この調査は王国中で行っているから、声が多ければ動いてもらえるかもしれないぞ」
それからは皆も肩の力が抜けたみたいで、するすると答えていく。
剣の使い方や魔法を習いたい。
新しい絵本がほしい。
大きな町に出たい。
夜は廊下の灯りが暗いからおトイレに行くのが怖い。
などなど。
そうして、私の順番がやってきた。
「君はさっきの小さな聖女さまだね。じゃあまず名前と年を教えてくれるかな?」
「はい。名前はアリアです。年は7歳です」
「ここでの生活は楽しいかい?」
「はい! お母さんもお兄ちゃんもお姉ちゃんも弟も妹もたくさんいて、うれしいです」
ボルツさんは目を細めて笑った。
「そうか。仲良しなんだね。困ったこととか不便に感じたこととかはないかな?」
ずっと考えていたのだけれど、思い浮かばなかったのよね。
先生たちは優しいし、読み書きや計算、お裁縫やお料理、礼儀作法、色々教えてくれる。
食べるものにも困っていない。
服は古着やお姉ちゃんたちのお下がりがほとんどだけど、お誕生日の月に先生手作りの服をプレゼントしてもらえるの。
いろいろな薬草を育ててお薬を作っているし、メラニー先生の魔法があるから、病気やけがをしても大丈夫。
建物は古くて灯りが暗かったり冬はすき間風で寒かったりするけど、それは他の子が言っちゃったし。
「えっとね。ここがすてきな場所すぎて、大人になったら出ていかないといけないのが寂しいです」
私がそう答えたら、先生の何人かは「まあ!」と目を見開き口の前に手を重ねた。ちょっと目が潤んでいるみたい。
他の子どもたちも「わたしもここ好きー」と手を挙げる。
ボルツさんとキリアスさんは、うんうんとうなずいている。
「いい話だねえ。これからも皆で協力して仲良くな」
ボルツさんの言葉に、「はーい!」と元気な声が返された。
*
ボルツさんたちはこの後、10日ほど町にいた。
周辺の調査をして、魔獣退治をしてくれたらしい。
町にいる間に、「これ本当によく効くねえ」と、何回か回復薬を買いに来てくれた。
その時にちょっとお話をしたの。
「ボルツさんは、どうして冒険者になったんですか?」
「うーん。俺は平民で頭もいいほうじゃなかったからねえ。剣の腕で生きていこうと考えたんだ」
「剣はどこで習ったんですか?」
「町の大人たちに教えてもらったんだよ。騎士団などがない田舎町だったから、魔獣が出たら男たちがどうにかしないといけなかったからな。あとは冒険者ギルドで開いている講習を受けたりな」
冒険者ギルドではそういうことも教えてくれるのね。
「冒険者のお仕事をしていてよかったな、って思うのはどんな時ですか?」
ボルツさんは「そうだなあ」とちょっと考えて、
「仲間たちと協力して大変な依頼を達成した時や、見たこともない景色を目にした時、それに素敵な出会いがあった時。たくさんあるよ」
その笑顔はすごく輝いていた。
「それと、冒険者は国に縛られない存在だ。ルールを守って仕事をきちんとやりとげるなら、活動する場所は自分で選べるのが利点だ。もしこの国を窮屈に感じるようになったら、冒険者になるのも悪くないぞ?」
と、いたずらっぽい顔でボルツさんは付け加えた。
いろいろなところへ行けて、いろいろな人の役に立てるのね。
冒険者って素敵なお仕事ね。
あら? なりたいものがまた1つ増えたような気がするわ……。




