冒険者がやってきた(前)
ある日、町に冒険者たちがやってきた。
好奇心旺盛な男の子たちは、冒険者を見に町へ出かけちゃった。
午後のお仕事をサボっちゃって、大丈夫かな? きっと先生たちに叱られて「おやつ抜き」の刑にされるんじゃないかな。
私たち女の子は、せっせとお菓子作りをしている。
5歳以下の子どもたちはお昼寝中。小さいうちは寝るのも仕事なんだって。
「本当に男の子たちは落ち着きがないわよねー」
呆れ声を出しているのはアニエスお姉ちゃん。女の子の中では一番年上の12歳。
ノアお姉ちゃんは大きくうなずいて言った。
「あの連中、戻ってきたらきっと冒険者ごっこやるわよ。棒っきれ振り回したり、魔法を撃つまねをしたり」
その様子、ありありと想像できちゃう。
私はお姉ちゃんたちの会話にうなずきながら、クッキーの生地を伸ばしている。
「おいしくな~れ。おいしくな~れ」
いつものお祈りの言葉も一緒に。
「アリアも熱心ね。続けていれば、そのうちメラニー先生みたいにキラキラーって魔法の光が出るかもね」
「そうね。でも魔法がかかってなくても、不思議においしく感じるのよね。アリアのお祈りがこもったものって」
「本当、ノアお姉ちゃん?」
期待のこもった顔で見上げる。
「本当、本当。大きくなったらお菓子屋さんとかパン屋さんとかになったらどう?」
「うーん、どっちもいいなあ。お菓子やパンが焼けるときの匂いって、すごく幸せな気分になるもの」
大きくなったら何になるか。なりたいものがたくさんあって、決められないのよね。
夕方近くになって、男の子たちがようやく戻ってきた。声が大きいから、別の部屋にいてもよく聞こえるわ。
ドアのところからひょこっと顔を出して廊下を見る。アニエスお姉ちゃん、ノアお姉ちゃん、コゼットも一緒に。
「ノアお姉ちゃん、大当たりだね」
町に行っていた男の子たち3人は、そこいらで拾ってきたらしい木の枝を振り回しながらふざけ合っている。
「悪者めー。我が剣をくらうがいいー」
「なんの。ワシの魔法の盾の前には剣など無力」
キャハハと笑いながら廊下を進んでくる。
3人の前にすっと立ちふさがったのは、シルビー先生。
「リアン、ディロン、テッツ。あなたたち午後のお仕事はどうしたのですか?」
シルビー先生の声は、とても静か。
声をかけられた3人は、石像みたいにピタッと動かなくなっちゃった。
「え、えっとー。社会勉強ー?」
「そうですそうです。冒険者って戦う人だけじゃなくて、支援する人も大事だって教えてもらいました」
「今この町に来ているのは6人のチームで、でかくてごっついおじさんばかりだった」
3人がしゃべればしゃべるほど、先生と女の子たちの視線が冷たくなっていくわ……。
「あなたたちは夕食の時間まで菜園の草むしりをやってなさい」
きっぱりと。シルビー先生が3人に仕事を割り当てる。
「えー!? だって、おやつは?」
テッツが悲鳴を上げる。クッキーの甘い匂いが廊下にも漂っているものね。外で遊んできてお腹がすいているところにこの匂いじゃあ、余計につらいよね。
「じき夕食の時間です。おやつなど食べれば食事をすべて食べられないでしょう?」
「はい……」
3人は肩を落として裏口へ向かった。
「夕食の時間までの草むしりだなんて、優しいよね」
「うん。毎日お手入れしているから、雑草なんてあんまりないし。あと30分ちょっとだもんね」
アニエスお姉ちゃんとノアお姉ちゃんがうなずき合う。
「男の子って、ほんとうにばかっぽいね」
コゼットまでが大人っぽいことを言い出しちゃった。
その翌日。
私は調薬室でメラニー先生のお手伝いをしていた。
私たちが育てた薬草には、成分がぎゅっとたくさん詰まっているって先生が教えてくれたの。
そこにメラニー先生の魔法もかかって、回復薬としてはかなり上質なものになっているんだって。
「元気にな~れ、元気にな~れ」
薬草をすりつぶしながら、いつものお祈りの言葉を口にする。
「そうね。思いを込めるのは大事よ。具体的に思い描くともっと効果は上がるわね」
メラニー先生は微笑みながらコツを教えてくれる。
「えっと。お薬が苦くなりませんように~。飲んだら痛いのもお熱もさっと消えちゃいますように~」
「いい感じね。魔法が使えるようになってコツをつかんだら、念じるだけで言葉に出したのと同じことができるようになるわ」
「はい、先生」
話しながら作業をしていると、廊下のほうからメラニー先生を呼ぶ声と小さい子の泣き声が聞こえてきた。
「先生ー。メラニー先生ー」
これはアニエスお姉ちゃんの声だ。それをかき消す勢いで「びえーっ!」と泣き叫ぶ声。
「あら、あの泣き声はフィンね。どこか怪我でもしたのかしらね」
メラニー先生が立ち上がって廊下へ出たので、私も続いた。
玄関ホールまで来ると、アニエスお姉ちゃんと、泣きべそをかいているフィンと出会った。
「先生。フィンとテッツが読書室で冒険者ごっこを始めて、静かに本を読んでいる子たちに迷惑だったから、強めに叱っちゃったんです。そしたら『そら逃げろ~』って後ろも見ないで走り出して、壁におでこから激突しちゃったんです」
フィンは昨日の午後はお昼寝してたからね。今日になって冒険者ごっこを始めたのね。場所を選ばなかったのは悪いけど。
「しょうがない子ね。どこが痛いの、フィン?」
おっとりと声をかけながら、メラニー先生はフィンの隣に膝をついて座る。
「おかお。おでことおはな。いたいよ~」
またも泣き出したフィンに、メラニー先生は「ちょっと待ってね」と優しく手をかざす。
「アリアも一緒にやってくれる?」
「はい、メラニー先生」
私も先生と同じように手をかざして、お祈りの言葉を唱える。
「痛いの痛いの飛んでいって~!」
きらきらとした光がメラニー先生の手先から出て、フィンの頭の周りを包み込む。
「う。いたいのとんでった……」
泣き止んだフィンが目元をぬぐう。
「おお」
「これは素晴らしいものを見せていただきました」
と、拍手が聞こえた。
玄関の扉が開いていて、そこに見知らぬ男の人たちが立っていた。
一人はがっしりした体に優しそうな顔。
もう一人は、隣のおじさんよりは少し細めで頭が良さそうな感じ。
「失礼します。俺たち国の事業で調査に来た冒険者です。代表者の方はいらっしゃいますか?」
冒険者のおじさんは、首につけている金属のプレートを外して私たちに見せてくれた。裏側に名前、チーム名、冒険者ランクが刻んである。
がっしりしたおじさんの名前はボルツさんで、チーム名は「鋼の力団」、ランクはA。
頭が良さそうなおじさんはキリアスさん。チーム名とランクはボルツさんと一緒。
冒険者のランクはFから始まってAまで上がっていく。そこからさらにS、SSというランクがあるみたいだけど、それは伝説級の魔獣を倒すとか国を救うとか、めったに起こらない大問題を解決しないともらえないランクみたい。
だからボルツさんたちは、かなり上のランクの冒険者ということね。
メラニー先生はボルツさんたちを応接室に案内する。
「お話の内容は後で伝えるから、他の子たちにはまだ話さないでね。いつも通りに――そうね、他の先生たちと子どもたちを集めて、食堂でおやつを食べていてちょうだい」
「はーい、わかりました」
私たちは他の先生や子どもたちに声をかけながら食堂に向かった。




