第7章 気づきと解明
1.二十八時間の日時計
浩平は刀の茎に刻まれた『碑守』の文字を、じっと見つめ返した。
はやる気持ちを抑え、深く息を吐き出す。一刻も早く探索を再開したいのは山々だったが、現実は厳しい。三人分の食料となると、洞窟に残された備蓄だけではさすがに心許なくなっていた。
一度浜のベースキャンプまで戻り、態勢を立て直すのがどう考えても賢明な判断だ。
ここから中間地点までは、放置されていた車を使うつもりだ。
このまま放っておいてもガソリンが劣化するだけだし、何より徒歩なら三日かかる道のりをわずか数時間に短縮できるメリットは大きい。
その中間地点から先のルートはまだ道が荒れており、傾斜もあるため車での走破は無理だが、それでも三日分の行程を浮かせられる意味は絶大だ。
洞窟へまとまった量の物資を運び込める点も含め、次の本格的な探索に向けたアドバンテージは計り知れなかった。
さて、と車内に三人が乗り込む。
「出発進行ーっ!」
助手席の歩美が元気いっぱいに叫んだ。久しぶりの車にテンションが上がっているのか、かなりの大声だ。
(本当にまともに動いてくれるのか……?)
長期放置された車体に一抹の不安を覚えていたのは、運転席の浩平だけだった。
キーレスのプッシュスタートボタンを押し込む。ナビの液晶画面がプォーンと点灯した。
スルスルと滑らかなモーター音の後、聞き慣れたエンジン音が、静まり返っていた山道に響き渡った。
「走ったぞーっ!」
浩平も思わずハンドルを握ったまま歓声をあげた。
「走ったドー!」
後ろの愛衣もバンザイをしてつられる。
ひとしきり盛り上がったあと、歩美がふと思い立ったように呟いた。
「ラジオ、鳴ったりしないかな?」
「電波なんて拾えるか?」
口ではそう言いながらも、気になった浩平はオーディオのスイッチを押してみた。
自動で局を探すオートチューナーが作動する。しかし、スピーカーからは音一つ聞こえてこない。
一瞬だけ「ザザッ」と軽いノイズが掠めたが、それっきりだった。
「残念だが、さすがに無理らしい」
諦めてパネルから手を離そうとした、その瞬間だった。
――ザ、ザザッ、ザザ……!
繰り返す、規則正しいノイズ。
静寂を切り裂くように、まるでモールス信号のような断続的な雑音が車内に響き渡った。
意味を成しているのかすら分からないその不気味な音に、三人は食い入るように耳を澄ませる。
だが、それが何なのかはさっぱり理解できなかった。
万が一これが何者かの打つモールス信号だったとしても、解読できる者などここには誰もいないのだ。
車を走らせること三時間。あっけなく中間地点に到着した。
車を降り、車内に積んできた予備の食料を各自で抱えて徒歩に切り替える。
ここからは下り坂が続くこと、そして中間地点まで体力を一切消耗せずに移動できたことが功を奏したのだろう。
かつてないペースで進み、なんと二日半で浜のベースキャンプへと辿り着いてしまった。
あまりの速さに驚くと同時に、「我が家」へと帰ってきた深い安堵感が全身を包み込む。
到着するなり、旅の汚れを洗い流すために全員で海へと駆け込んで行った。
もちろん、今夜の食卓を飾る新鮮な魚介類を物色するのも忘れてはいない。
やがて火を囲んだ三人は、海水でしっかりと冷やした缶ビールを掲げ、乾杯した。浩平がベースキャンプに持ち込み、大切に保管していた秘蔵品だ。悲しいかな、これが最後の1缶だった。
(果物やベリーの類が見当たらないのも惜しいな……)
野生の山苺でも生えていれば果実酒でも作れるのだが、今の環境では高望みというものだ。
浩平はひとまずそれを頭から追い出した。
「明日からは獲った魚の干物や燻製作り、採ってきたワラビの陰干し作業で大忙しになるけど――俺は少し浜の右側まで歩いて、かたちの良い石を拾って運んでこようと思ってるんだよ」
浩平が明日の予定を口にする。
「漂着してすぐ、あの洞窟の南側に仕掛けておいた簡易的な日時計も気になっててね。この浜のベースキャンプにも、もう少ししっかりした丈夫なやつを作っておきたいんだ。」
喉を潤しながら、浩平は頭の中で組み立てていた仮説を二人に共有した。
「ここまで一度も雨が降っていないのに、湧き水や温泉が絶えず湧いているだろう? たぶん、日中に上空を過ぎる雲が、もっと南にある高い山々か高原にでもぶつかって、あっちの奥地だけで雨を降らせているんじゃないかと思うんだ。……まあ、それも実際に調査してみないと分からないけどな。とにかく、やることが山積みだな」
夜が更けても、焚き火の傍らで三人の会話が尽きることはなかった。
翌日、浩平は二人より早くベースキャンプを出て溶岩石のある方へと足を運んだ。
三十分歩けば、溶岩石の壁に到着する。
そこから更に壁づたいに登ること三十分、あれから一年ぶりの光景だった。
少し岩肌が緑色に染まっている様に見えた。
多分、植物の、苔や種子のせいだろう。
そこから、更に高台の方へと歩いてみた。
鬱蒼とした木々、溶岩に押し出された様に見える岩石など、沢山転がっていた。
そこで見つけたのが、今、バンガローの裏手に立っている日時計なのだが、コレを運んでくるのが一苦労で、結局三人がかりで、手斧で切り出した丸太を転がして細長い長さ八十センチ幅は三十センチといった感じの細長い黒色石だ。
いかにも日時計といった風格がある。
実際、地上に出ている高さは五十センチほどだったが、時間を調べるには十分だった。
ここでも、一日が二十八時間であることに変わりはなかった。
浩平の腕時計では、異世界に来てから一年が経過している。
一か月を三十日と仮定すれば、この世界では約十か月半が過ぎた計算になる。
それなのに、日時計の影は一年を通して、ほとんど同じ周期を繰り返しているように見えた。
季節による太陽の通り道の変化が、まったく感じられないのだ。
まるで、この世界には四季という概念そのものが存在しないかのようだった。
そのせいなのだろうか。地球ならば三畳紀あたりから海から地上へと生物の進出や進化が進むのだろうが、ここではそれが起きていないように感じる。
まあ、これからなのかもしれないのだが。
2. スコップの先の違和感
食料の加工――愛衣と歩美が、山菜と言えるかは微妙なものの、ヨモギに似た草を採取し始めたのがきっかけだった。
二人はそれを陰干ししていた。
「これ、どうするの?」と訊くと、
「お茶にならないか試してみようと思って」
と言う。
なるほど、それはいいアイデアかもしれない。
最近、浩平は二人を見て、妹達の様に感じていた。
「毒味はしてやるよ!」とは言ったものの、以前その葉をもんで口に含んだ際、かなり苦かった記憶が蘇る。だが、あの時も苦かっただけで腹を壊すことはなかったので、大丈夫だろうとは思っていた。
陰干しした葉を手でもみ込み、細かく砕く。粘りのある土で作っておいた素焼きの急須に入れ、お湯を注ぐと、確かに緑茶のような香りと色が立ち上ってきた。
これは久々のヒット作だった!
そろそろ探索再開の準備が整ってきた。
この間、拠点からの斜面の整備を行っていたのだ。
多少ではあるが登りやすくなり、急な斜面には手すりも取り付けた。
三人は歩き出した。
途中二泊し、三日目の夕方には車に辿り着いた。
足場を整備した甲斐があって、順調に移動時間を短縮できている。
結局、車を使って洞窟までも三日で到着した。
早い!
すっかり暗くなっていたが、そのまま洞窟を通り抜け、最初にこの地へ来た南側の地点へと向かった。
目印の蛍光テープを巻いた一本の木が立っている。
そこには枝で作った小さな日時計がある。
その近くでキャンプを張ることにした。
翌朝、日時計の影の変化を確かめた。
時間ごとに、数字の書いてある石へとピタリと重なっていく影。
やはり、四季がない! まったく同じ周期だ。
地球ならば地軸が斜めに傾いているが、ここは真っ直ぐ立っているということになる。
地球で言うなら赤道直下の西と東の位置付けだろうか。
そして、これからもここでは雨が降らないということも確定した。
もしかしたら、雨が降っている場所では常に降り続けているのかもしれない。
翌日、俺たちは東の【✕印】を目指して出発した。
車を降り、洞窟へ荷物を下ろしてから足早に向かう。
やがて、あの侍が眠る場所へと到着した。
他の三体の骸があった周辺を調べる。
砂に埋もれた刀らしきものも見つかった。刀身は錆びてほとんど原形をとどめていない。
残された柄を慎重に取り外すと、その内側にある茎には、かすれながらも『碑守』の文字が残っていた。
改めてその四体の位置を確認してみる。
周囲十メートルの間隔をあけ、何かを囲むように倒れていた。
そしてその中央は、まるで何かを埋めたかのように大きく盛り上がっている。
まさか、転移台座を埋めたのか?
だとしたら、もう一つがどこかにあるはずだ。
「少し、ここを掘ってみるか!」
三人は木で作った簡易的なスコップを手にとり、掘り進めた。
しかし、二人の掘り進める速度は、浩平と比べるとかなり遅かった。
「二人は周囲を調べてくれ。何か手掛かりがあるかもしれない」
そう言って作業を交代したものの、実際には二人に休憩を与えるためでもあった。
掘り始めて一日半が過ぎた頃だった。
ガツッ!
スコップの先が、硬い何かに当たった。
「ん……?」
浩平は手を止め、周囲の土を慎重に取り除いていく。
「おおっ! 何かあるぞ!」
三人が顔を寄せた。
そこから姿を現したのは……
優しく土を払いのける。出てきたのは……鉄の兜?
台座があると思っていた場所の上には、もう一体の骸があった。砂の中でミイラ化したその装束は、侍のそれとは全く異なっている。
まるでフビライ・ハン、あるいは神話の世界からやってきたドワーフのような出で立ちだ。鉄の兜に、両耳の後ろあたりでリボンのようにまとめられた黒髪。
赤と黒の麻布のような上着とズボンを身に着け、鎧を纏っている。
そして、その手に握られていた剣はサーベルだった。
首元を見ると、ネックレスが掛けられている。
琥珀色をした親指ほどの六角形の鉱石は、小さな鍵の様だった。
ここに迷い込み、あの侍たちと戦った末の共倒れ――そう見えた。
鉄の兜や鎧、サーベルはここでは貴重品、これから何かに使えるはず。
それと、首飾りを外して、骸を埋葬した。
四体の侍の隣に、一緒に少し大きめの石を揃えた五つ。三人で手を合わせる。
その後も三人は、発見した転移台座の周辺を丁寧に掘り起こし、泥や砂を払い落として綺麗に整備した。
現れた台座の表面には、これまで見たものと同様に『足形』の模様が刻まれている。
(今まで見つけた二箇所の台座は、それぞれお互いの台座に背を向けるようにして足跡が刻まれていた……)
だがここの台座は今までとは少し大きさが違っている。
足形が東西南北に四箇所刻まれていた。
コレでは出口の台座の場所が分からない!
洞窟の中に描かれていたあの古びた地図には、バツ印が三箇所記されていた。
しかし、それぞれの場所で何が起きたのかまでは書かれておらず、今自分たちがいる場所がどのバツ印に該当するのかすら分からない。
ましてや……あのバツ印は、埋もれた台座の位置を示しているというよりも、先ほど見つけた「死体の位置」を記していたのではないかという疑念すら浮かんでくる。
それから数ヶ月。
三人は数回にわたり東の転移台座が繋がる「出口」を探し続けたが、一向に見つかる気配はなかった。
おそらく、出口側の台座も土砂に埋もれてしまっているに違いない。自分たちの手で掘り進め、掘り続けるしかなかった。
やがて、浩平がこの異世界に迷い込んでから一年半が経とうとしていた。
半ば諦めかけていたその時——
浩平は足形が今までと違い四方向だと言う事に、もしかしたら、出入り出来るのか?
と、考えた。
それなら、出口の台座が無いのは当たり前か!
三人はなるほどと頷く。
そこで、転移台座も種類の異なる台座が有るなら名前をつけておこうと思って四方足印って考えたんだけど、どうかな?
愛衣、四方足印台座って言えばいいの?
歩美も頷く!
「……北と南の台座の関係は、地球で言う赤道直下にある南米・エクアドル付近 と インドネシアのような位置関係にあるんだと思う。そこまでは二人も理解できるよな?」
二人が真剣な表情で頷くのを確認し、浩平は続ける。
「だとしたら……この東の転移台座は、どこに繋がっていると思う? おそらく『西』だ」
「西……? 西と言ったら、私たちのベースキャンプがある方ですよね……?」
「そうだ。だが、この星の規模で言う『西』なんだよ。つまりベースキャンプの遥か向こう側……俺の予想では、あの巨大な『海の向こう側』だと思うんだ」
浩平は一呼吸置き、二人の顔をまっすぐ見つめた。
「問題は……なぜその出口が埋もれていたかだ。考えられる可能性は二つある。一つは、万が一にも『海の底』に繋がってしまっている可能性。そしてもう一つは……敵側の陣地で、意図的に敵が来ないように土で埋め封印された可能性だ。俺は、そのどちらかじゃないかと思ってる」
「確かに……言われてみれば、どっちの可能性も怖いですね……」
歩美がゴクリと唾を呑み込む。
「なら、どうするの……? 入ってみる?」
愛衣がおそるおそる尋ねると、浩平は腕を組み、深いため息をついた。
「そこなんだよな……一番悩むところは。それに……あの『ドワーフ』が首にかけていた、この『鍵』の存在も気にならないか?」
浩平は手元にある、ドワーフの首から外した古びた鍵に視線を落とした。
転移した瞬間に身動きが取れず、土の中で窒息死なんて——そう考えただけで、浩平の背中に冷や汗が伝った。
「だから……もう少し慎重に、この先のことを考えようと思うんだ」
浩平の言葉に、愛衣と歩美は静かに頷いた。
そこへ、浩平の頭の中でバラバラだったピースが急激に繋がり始める。
(……待てよ? 仮にこの『サークル』の全てに、東西南北の【4箇所】の転移台座が存在していたとしたらどうだ……?)
浩平は地面に簡単な図を描きながら、思考を二人へと共有し始めた。
「……だとしたら、だ。俺たちが知っている洞窟の裏にある『北の台座』と、いま見つけた『東の台座』。そして、愛衣と歩美が入ってきた南側のサークルにある『南の台座』……。それぞれのサークルに、あと三箇所ずつ台座が隠されていると考えられないか?」
「えっ……! じゃあ、もしかして……」
愛衣が目を見開く。
「そうだ。それなら、俺たちのベースキャンプのすぐ近くにも『西の台座』が存在している可能性が高いはずだ」
「なるほど……! そっちなら海の底や敵陣に繋がっているリスクも低そうですよね!」
歩美もパッと表情を明るくした。
「ああ。危険な東の台座を試すのは一旦保留にして、まずは別の可能性を探ろう。……よし、ベースキャンプに戻って、まずは手っ取り早くサークルのすぐ近くの周辺を探索してみないか!」
「はいっ!」
「そうと決まれば、さっそく準備しましょう!」
二つのサークルが太陽と巨大な月の関係からして、位置は南と西なんだろう……
浩平は地面に描いた図を眺めた。
「俺が最初に迷い込んだ側を、俺の名前の頭文字からKサークル。愛衣と歩美が最初に現れた側を、二人の名前の頭文字を取ってAAサークルと呼ぶことにしよう」
「KサークルとAAサークルですね」
愛衣が確認するように繰り返した。
「ああ。これから探索を続けるなら、そのほうが分かりやすいだろう」
出口の見えない暗闇の中に、明確な道筋が見えた瞬間だった。三人は希望を胸に、住み慣れた拠点への帰路に着くのだった。
3.エビ獲りと静電気
Kサークルの西の端に、三人は立っていた。
「じゃあ! 始めるか」
大雑把ではあるが、自分たちの歩幅と目印を基準にして測量を始める。
「土に埋もれてなければ、案外見つけやすいんだがな」
形や台座の雰囲気は、すでに三人とも把握している。洞窟を右手に見ながらベースキャンプへ戻る道沿いから、左脇の林へと入り込んで探していった。かつて道だった名残があったこともあり、思いのほかあっさりとそれは見つかる。
「浩平さん!」
愛衣が突然、声を上げた。
「ありました!」
二人が駆け寄る。そこにあったのは、一人分の足印が刻まれた台座だった。
浩平が足元にかがみ込み、向きを確認する。
「方角は……」
「やっぱり東ですね」
台座が指し示している方向は東だった。
「なら、行ってみますか!」
ここから先はAAサークルの東側へつながっている――そんな予感がしていた。
浩平に続き、愛衣と歩美も台座に足を乗せる。
次の瞬間――景色がぐにゃりと歪んだ。
視界が戻ると、三人は見覚えのある場所へと移動していた。
「やっぱり……」
そこは、かつて歩美と愛衣がこの異世界へやって来た、AAサークルの東側にある台座だった。
これで、Kサークルは三か所。AAサークルは二か所。それぞれの台座を発見したことになる。
ベースキャンプから最も近い西の台座と、次に近い北の台座。この二か所を使えば、AAサークルの南と東にある台座へも自由に行き来できることが確かめられた。
その後も探索を続けた結果、KサークルとAAサークルには、それぞれ東西南北に四か所ずつ、計八か所の台座が存在することが判明する。
そして――Kサークルの東にある台座だけが、他のどれとも明らかに異質だった。
それ以外の台座は形状も仕組みもほぼ同じなのに対し、そこだけが意図的に違う目的で作られているようだった。
(いったい、何のために……)
浩平は心の中でその異質な台座を思い浮かべたが、今の段階では答えなど出そうもなかった。
探索の日々を重ねるうちに、変化は三人にも表れていた。
歩美が生み出せる水の量は以前よりも明らかに増し、愛衣の放つ火力も強くなっている。
二人の力は少しずつ、だが確実に成長していた。
そんなある日のこと。
ベースキャンプから少し離れた岩場で、三人は海に入っていた。
目的は――エビ獲りだ。
「浩平さんのエビの捕まえ方、教えてください!」
以前、浩平が海でエビを素手で捕まえたことがあった。そのコツを伝授してもらおうというのだ。
「どれどれ……こんな感じだぞ」
浩平は岩場にしゃがみ込むと、海の中へそっと手を入れ、ゆっくりと指を動かしてみせる。
だが、愛衣が真似をして手を差し入れると――
「えいっ!」
パッと跳ねたエビは、素早く岩の隙間へ逃げてしまった。
「うーん……おかしいな」
歩美も試してみるが、結果は同じ。エビは二人の手を巧みにかわし、奥へ奥へと隠れてしまう。
「なんでだろう?」
「おかしいな……俺がやる時は、あいつらそんなに逃げないんだけどな」
首をかしげる浩平は、もう一度エビを追う愛衣の様子を見ながら手を貸そうとした。
「ちょっと待て、こうやって――」
水中ですっと、浩平の手が愛衣の手へ近づいた、その瞬間だった。
「……っ!?」
愛衣の身体が跳ねた。
「痛たたっ!」
勢いよく手を引っ込める愛衣に、浩平は目を丸くする。
「どうした?」
「今……浩平さんの手が触れる瞬間、ピリピリしました!」
「ピリピリ?」
「はい! 静電気が走ったみたいな……」
自分の手を見つめていた愛衣は、ふと何かを思い出したようにバッと顔を上げた。
「これって……もしかして」
「ん?」
「浩平さんって……手から電気、出てませんか?」
「え?」
その言葉に、歩美もハッとした顔になる。
「浩平……まさか」
二人の強い視線が浩平へと集中する。
愛衣が追い打ちをかけるように言った。
「そういえば、あのお気に入りのデジタルランタン! 電池、いつまで経っても切れる気配がありませんよね?」
「……あ」
浩平の顔から余裕が消える。
「浩平さんが持ってるから、勝手に充電されてたんじゃないですか!?」
「確かに……長持ちするなぁとは思ってたけど……」
浩平は自分の両手をまじまじと見つめた。
「よく使うのに全然切れないから……そういう高性能な製品なんだと思い込んでた……」
そこまで言って、浩平はハッとして歩美を見た。
「……待てよ。そういえば前にも一度なかったか? あの台座で、俺が歩美の手を取ったとき……」
歩美も思い出したらしく、目を見開いた。
「あの時の静電気……!」
「ああ。俺はてっきり、歩美の水魔法と台座の何か反応して静電気が起きただけだと思ってたんだが……」
三人の間に、確信に満ちた沈黙が落ちた。
これまで「たまたま」だと思っていた出来事。
バッテリーが異常なほど長持ちしていたこと。
浩平が手を伸ばすと、なぜかエビが動かなくなっていたこと。
そして、水魔法を使う歩美の手をとった時に走った、あの微かなバチッという衝撃――。
バラバラだった点と点が、今、鮮やかに一本の線で繋がった。
「……俺」
浩平は自分の両手を握ったり開いたりしながら、ポツリと呟いた。
「もしかして……電気、出てるのか?」
つづく




