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異世界キャンプは迷宮だった  作者: 一雲一人


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24/29

第24話 再始動の予感

1.再出発


あれから俺たちは一度、Kサークルへ戻り、そこから現実世界でキャンプ場の経営状況を確認するため櫻井千秋と浅野拓郎に会いに行っていた。


営業は土日祝日のみだが、そこそこ客も入っており順調そのものだ。


特に問題はなさそうだと判断した俺たちは、そのまま元の世界でしばらくのんびりと過ごしていた。


そんなある日、澪が俺の家にやって来た。


理由を聞いてみると、要するに「向こうの世界(異世界)が楽しくて仕方がないから、早く次の探索に出発しよう」ということらしい。


「澪、お前……愛衣と歩美には相談したのか?」


俺が尋ねると、澪は胸を張って答えた。


「そりゃー勿論話したわよ!」


「で、二人はなんて?」


「そしたら『レンガの壁がある台座はまだ試してない』とか何とか言ってたわ!」


(そういえば……)


浩平は思い返した。確かにあの時、小窓からドワーフらしき住民の姿を確認したものの、出口がない不気味さや危険性を考慮して、足を踏み入れるのを少し躊躇していたのだった。


(だが……今のメンバーなら、澪の『ヒール』の力もある)


万が一の怪我や戦闘があっても、回復役がいるというのは精神的にもかなり大きい。


「よし……なら近いうちに、全員で集まって話し合ってみよう」


止まっていた探索の針が、再び動き出そうとしていた。


翌日、事務所のテーブルを囲んだ。


そこには櫻井千秋と浅野拓郎も座り話をきいていた。


そうして話し合った結果、転移台座から出たらすぐに攻撃・防御に移れる戦闘態勢を整えて入ることでまとまる。


その話し合いの最中、じっと耳を傾けていた千秋と拓郎が、たまらず身を乗り出してきた。


「なぁ……俺たちも一緒に行けないのか?」


拓郎が熱のこもった目で尋ねると、浩平は静かに首を振り、二人の肩をポンと叩いた。


「気持ちは嬉しいけど、まずはここの運営を頼みたいんだ。それに、向こうの安全がしっかり確保できたら、きっと二人も行けるようにする。だから……それまで待っていてくれ!」


その言葉を聞き、ただ口で説明するだけではなく、いずれ一緒に行く日を見据えて今のうちに実際の場所を見せておくべきだと浩平は思い直した。彼は愛衣とともに、二人をKサークルへと連れ出すことにしたのだった。


ビーチサイドに設置された転移台座の前へ着くと、浩平は静かに鍵を差し込んだ。台座が怪しく明滅し、青白い光が収まっていく。


「光が点滅している間に俺たちに続くように入ってくれ」


そう言い残し、浩平は一歩を踏み出す。続いて千秋と拓郎が後に愛衣もその後に続いた。


視界が一瞬ぐにゃりと歪み、浮遊感に包まれる。次の瞬間、二人の体はKサークルへと躍り出ていた。


空間を一瞬で飛び越えた圧倒的な光景を前に、拓郎の口から出た最初の言葉は、シンプルな一言だった。


「スゲ~……!!」


その興奮した様子に、浩平はニッと口元を緩める。

「まぁ、こんな感じだ。楽しみに待っていてくれ」

目の前の現実と浩平の言葉に、二人も「これなら納得だ」と言わんばかりに深く頷き、その場の興奮はひとまず収まった。


「……分かったよ。無事に帰って来てくださいよ!」


二人の了解を得て、俺たちは改めて隊列を整えた。

進む順番は、先頭に手斧を構える俺、続いて火魔法攻撃の要である愛衣、水魔法とサポートをこなす歩美、そして最後尾に全体を見渡し回復(ヒール)を担当する澪という陣形だ。


しっかりと準備を整え、「いよいよ出発だな」と意気込みながらベースキャンプの台座へ向かう。


台座上の足印は、まっすぐ正面にあるレンガ壁の方角を示して光を放っていた。


点滅する足印にゆっくりと足を合わせる。


視界が歪み、いつものように体がぐらりと揺らぐ浮遊感が襲った。


転移した先——レンガで覆われた出口のないあの部屋は、何一つ変わらず静まり返っていた。


愛衣がそっと近づき、一度窓の外を覗き込む。


この部屋の台座には、東西南北の四方向に足跡が刻まれていた。


四人は無言で顔を見合わせ、深く頷き合う。


『戻る方向(元来た方向)以外なら、どの方向が選ばれても進む』——それが事前の取り決めだった。

台座の光が明滅し、回転を止めたのは……真正面の方角だった。


ここで俺は三人に向き直り、静かに告げた。


「俺がまず一人で行って様子を確認してくる。問題がなさそうならすぐ戻ってくるから、みんなはここで少し待っていてくれ」


「「「……うん!」」」


全員が真剣な表情で頷いた。

やはり初見の場所にいきなり全員で飛び込むよりは、サバイバルの経験が一番豊富な俺が偵察する方がリスクが少ないと判断した。


俺は覚悟を決め、光る足印の上に一歩を踏み出した。


——しかし。


5分、10分、30分、1時間!


どれほど時間を置いても、浩平がこの部屋に戻ってくることはなかった。







2.行方不明


光の輪を抜けた浩平が目を開けると——そこに広がっていたのは、眩しい日差しと見渡す限りの大草原だった。


「……っ!?」


浩平は即座に周囲を見回した。しかし、あるはずの転移台座がない。


振り返っても、足元にあるのは風に揺れる青草だけだった。


「……台座は? どこへ行った……?」


冷や汗が背中を伝う。


両手をかざし、磁場を作る。


あれば必ず反応する台座の反応は無かった。


浩平は周囲を一時間ほど歩き回り、丘に登り、遠くの森や地平線を必死に観察した。人影も、建造物らしき影も一切存在しない。


どれだけ探しても、元の世界やレンガの部屋へ繋がる転移台座は見つからなかった。


(……戻れない。一方通行の転移だったのか……!?)


底なしの恐怖と焦燥感が浩平の胸を締め付けた。

「これは……かなりまずいな……」


浩平が頭を抱え、最悪の事態を想定していたその時——空間が不自然に歪み、突如として愛衣が姿を現した。


続いて歩美、そして最後に澪が弾き出されるように草原へと倒れ込む。


「くっ……ふらふらする……」


「浩平さんっ! 一人で行っちゃうなんてズルいです!」


顔を見合わせ、安堵の声をあげる三人。


戻ってこない浩平を心配し、示し合わせた通り後を追ってきたのだ。


浩平は三人が無事だったことに胸を撫で下ろしたものの、その表情は重く沈んだままだった。


「……みんな、悪い」


「え……? 浩平さん、どうしたの?」


「ここには……帰るための台座がないんだ」


その一言に、愛衣、歩美、澪の三人の顔が凍りついた。


足元には帰路を示す台座も光もない。自分たちは、正真正銘この広大な異世界に閉じ込められてしまったのだ。







3.澪の気づきと


絶望的な沈黙の中、四人はとにかく手がかりを求めて周囲の草原を歩き始めた。


「……これから、どっちに進むの?」


愛衣が不安そうに尋ねた、その瞬間。

「俺の後へっ……!」


浩平は即座に前方に両手をかざし、愛衣、歩美、澪の三人を庇うようにして自分の背後に隠した。


静かに集中し、ゆっくりと体を旋回させていく。周囲の気配と、肌をなでる風の感覚に研ぎ澄まされた意識、全てを掌へ向ける。


そして——ある一定の方角で、ピタリと動きを止めた。


「……アッチだ。アッチに金属反応がある」

「え……? 金属反応……!?」

しばらく進むと、丘の向こうから複数の人影が近づいてくるのが見えた。


目を凝らすと、その人物たちは——身の丈ほどもある剣を背負った男、金属の盾を構えた騎士、弓を射る手袋をはめた狩人、そしてローブを羽織った魔法使いらしき姿だった。


絵に描いたようなファンタジー世界の装い。


それを見た澪が、急に足を止めて目を見開いた。

「……ちょっと待って」


「どうした、澪?」

「ここ……もしかして、私が昔やってたゲームにそっくり……」


「ゲーム……? 何のことだ?」


サバイバル知識はあってもゲームに疎い浩平が首をかしげると、澪は興奮と戸惑いが混ざった声で説明を始めた。


「フルダイブ型のVRゲームだよ! 意識ごと仮想世界の中に完全に入り込んで冒険する、最新のオープンワールドゲーム!……つまり」


「つまり……?」


「ここ、あのゲームの世界そのものみたいなんだよ!」


だが、本当に単なる仮想空間(ゲーム)なのか、それともゲームに酷似した現実の異世界なのか——この時点ではまだ、誰にも分からなかった。


近づいてきた数人の冒険者たちは、私服姿の浩平たちを警戒するように取り囲んだ。


「あんたたち……こんな街から離れた草原で何してるんだ? 装備も妙だし、怪しい奴らだな」


彼らとの会話の中で、浩平たちはこの世界の「常識」を立て続けに知ることになる。


人々に害をなす「魔物」の存在。


「魔法」と、「魔石」。

その後続けた、依頼を受け報酬を得る「冒険者ギルド」と、巨大な「ダンジョン」。


「……あんたたち、まさか冒険者じゃないのか?」

リーダー格の男にそう問われ、四人は素早く顔を見合わせた。


ここで「異世界から来た」と言っても狂人扱いされるか、危険人物として拘束されるのが落ちだ。


浩平は静かに腹をくくり、一歩前に出た。


「……まあ、そんなところだ。旅の途中で少し荷物を失ってな」


この時点でリュックを背負って居たのは歩美だけだった。


振り返って、はるか向こうの国からだと告げる。


即席の偽装ではあったが、こうして彼らはこの世界で「冒険者」として振る舞うことになった。


案内役の冒険者の一人が、四人の身なりや装備を物珍しそうにジロジロと検分して首を傾げる。


「それにしても、あんたたちのその装備は何だ……? 特にそのお嬢ちゃんが持ってる奇妙な弓(スリングショット)みたいな武器、見たこともないぞ。一体どんな役割のパーティーなんだ?」


前衛らしい鎧も持たず、軽装すぎる四人を不思議がる冒険者に対し、浩平は表情ひとつ変えずに即座に答えた。


「俺たちは全員、魔法を使う術士のパーティーなんだ。で、その珍しい武器を持ってる彼女は——チームの『ヒーラー(回復術士)』を担当している」


「ほう、全員が魔法使いで、回復役までいるのか! そいつは珍しいな……!」


浩平の堂々としたハッタリに納得した冒険者たちは、怪しむ様子を引っ込めて先頭を歩き出した。


しばらく歩いた一行は、日が傾き始めたこともあり、ひとまず食事と寝床を確保するために野営の準備に取りかかることになった。


すると、案内役の一人であり、ローブを羽織った魔法使いの女性・ローザが、興味津々の様子で近づいてきた。


「ねえ、さっき『全員魔法使い』って言ってたけど……具体的にはどんな魔法を使うの?」


「そうだな……まあ、こんな感じの魔法なんだけど」


浩平が合図を送ると、四人は静かに両手を合わせ、そっと空間を押し開くように手を広げた。すると、空間が揺らぎ、薄く透き通った空間の裂け目から、各自の個人用テントが滑り出すように現れた。


「……は、はいぃ!?」


それを見ていた冒険者たちが、目を丸くして大声をあげた。


「な、なにそれ!? 空間を切り裂いて物を出し入れするなんて……それって伝説級の上位魔法『異空間収納(ストレージ)』じゃないか!?」


驚愕する彼らをよそに、浩平たちはさらに保存食やレトルト食品、各種ドリンクを異空間から次々と取り出していく。


「まあ、せっかくだし一緒に食べよう」


そう言って振る舞われた現代のオレンジジュースや、お湯を注ぐだけの温かいコンソメスープ、レトルトの料理を口にした瞬間、冒険者たちは言葉を失った。


「う、美味い……! こんな極上の料理や飲み物、王都の貴族でも食べてないぞ!?」


あまりの美味さに夢中で舌鼓を打つ彼らから、歩美はさりげなくこの世界の重要な情報を聞き出していった。この国の通貨制度や治安ルール、街に入るための入市料、宿代、パン一斤の相場まで、事細かにメモを取る。


そして問題となったのが、街に入るための「現地通貨」を持っていなかったことだ。


だが、極上の食事とジュースに大満足した冒険者たちが、一肌脱いでくれた。


彼らは今回の豪勢な食事代と情報の対価として、四人分の入市手数料(1人10シルバー×4=40シルバー)と、冒険者ギルドの登録料兼身分証明書発行代(1人15シルバー×4=60シルバー)、合わせて100シルバー(=1ゴールド)をその場で立て替えて支払ってくれることになったのだ。


金銭と身分保障の問題という「最初のミッション」を、手持ちのキャンプ用品とレトルト食品であっさりとクリアしてしまった四人。


そうして彼らに手厚く案内されながらしばらく進むと、青空を切り取るように巨大で堅牢な石造りの城壁が姿を現した。


四人は息を呑みながら、重厚な門をくぐり、活気に満ちた未知の街へと足を踏み入れるのだった。


行き交う人々や活気ある露店を眺めながら、浩平たちは確信する。


『元の世界へ帰るためには、世界のどこかに眠る【転移台座】を探し出すしかない』と。


しかし、一素人の自分たちが広大な世界から台座の情報を手に入れるのは不可能に近い。まずは情報を集めるため、そして身分を証明するために「冒険者ギルド」へ登録することにした。


四人の役割は自然と固まっていく。


浩平: 手斧と帯電魔法の前衛・サバイバル&探索のリーダー


愛衣: 威力の高い攻撃魔法(火)を操る主力アタッカー・サバイバル


歩美: 状況の分析・水魔法による後方サポート・サバイバル


澪: 貴重な回復魔法(ヒール)と、スリングショットとスタンガンにサバイバルナイフ、そしてゲームの知恵袋


ギルドの看板を見上げながら、澪が言った。


「……ねえ浩平くん。これ、完全にゲームと同じシステムなら、絶対にギルドに登録した方がいい!」

「情報収集の為にね。冒険者ギルドの情報量はあてになるよ!」


もとより、無くしてしまったと言って再登録代を頼んであるのだから。


その後、登録を済ませる。



つづく

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