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異世界キャンプは迷宮だった  作者: 一雲一人


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第16話 仲間


1.コインロッカー


一ノ瀬澪には東京駅へと向かって貰った。


櫻井千秋と浅野拓郎のコンビは店番を、その間で三人は店のポータルドアを閉めていた。


櫻井千秋と浅野拓郎はドアに鍵掛けて三人、中で何やってんだろうな?不思議な行動に疑問を持っていた。


数時間して三人はビーチから、では無いのだが千秋と拓郎にはそう見えている。


千秋が従姉妹の愛衣の耳元でコソコソと探りを入れていた。


愛衣は大きな声で!探検!!と叫んだ。


瞬間、耳元で話す千秋の言葉は浩平と歩美にも理解出来た。


確かに、ビーチは広いが見渡す限り障害物は無い!

何も持たず入ってそのまま数時間して出て来るとこ事態、変に見えているのは当然だった。


愛衣と千秋、拓郎が歩きながら向こう側で話している。


この時、浩平へ、一本の電話が掛かってきた。


相手は東京駅へと行った一ノ瀬澪からだった。


コインロッカーの暗証番号でやはり開きました。


で、中に?


浩平が、尋ねるとメモと鍵の様な物が入った便箋がありましたと!


中身を見たわけじゃないですが外から触った感じを、伝えていた。


浩平は、そっか!それならそのまま、また入れ直して戻って来てくれと話した。


一ノ瀬は良いんですか?と聞く。


浩平は何かを考えていた。


絶対に何かが変だと感じていた。


なぁ、歩美、あの老夫婦はあの時、太陽が2つに見えるとか英語で、話してただろ?

そそ、変なこと言ってましたよね。


懐かしいとかなんとか?


浩平は?聞き直した!


ん?そうな事言ってたのか?


歩美は浩平よりは語学力が勝っているようだった。

あの時浩平さんも聞いてて、そう思ってたと?違ったんですか?


浩平は、ごまかして、だよな!懐かしいなんて変だよな!。


澪が便箋に入っていた鍵の特徴を、告げた時に知ってしまった。

それはまさに足印台座の第4番目の鍵だった事を。


後日、浩平は歩美を連れて東京駅へと向かっていた。


一ノ瀬澪にはこの件を口止めした上で、浩平は運転する車の中で歩美に切り出した。


「コインロッカーにあった鍵は、間違いなく足印台座(そくいんだいざ)の鍵だ。あの時、あの老夫婦が言っていた『懐かしい』という言葉の意味は……まだメモを見ていないから何とも言えないが……」


浩平は一瞬言葉を詰まらせ、低く呟いた。


「……彼らは、俺たちに一体何をしろって言うんだ?」


助手席の歩美は前を見つめたまま、静かに問いかける。


「あの二人……一体何百年を生きて、あそこまで老いたんでしょうね」


言葉の裏にある真実をどこかで察している者同士、答えの出ない問いを自問自答するように、静かな会話が車内に流れていた。


東京駅に着き、ロッカールームから中身を回収して駐車場に停めた車へと戻った。


歩美が車内で便箋を開き、その中身を手のひらに落とす。


コロリと落ちてきたのは……2つの鍵だった。


「あぁ……なるほど、夫婦二人分だったのか」


浩平は感心混じりに漏らしたが、すぐに深い疑問が芽生える。


「でも彼らは……一体どこでこれを見つけて、いつから持っていたんだろうな?」


便箋には、英語で書かれた短い文章が残されていた。


歩美がメモの英文を静かに読み上げた。


『Do not stay. Board the ship.

Over Serpent Mound.

Two Suns await.』


「……『ここに留まるな、サーペント・マウンドの上にある船に乗って、二つの太陽へ行け』ってことか?」


浩平が要約するように呟くと、歩美は「まあ、そんな感じですね」と頷いた。


「ストレートに、そのままの意味だよな? まさかこんな土壇場でややこしい暗号ってこともないだろうし……となると、あのUFOに近づいても平気ってことか」


浩平はハンドルを握ったまま、助手席の歩美に尋ねた。


「で……歩美はどうしたい?」


歩美の答えは最初から決まっていた。


「当然、行きますよ! こんな世界まで見せられて、行かないわけがないじゃないですか」


即答した歩美だったが、ふと思いついたように首を傾げた。


「でも……今のメンバーの数に対して、鍵が一つ足りなくないですか?」


確かに鍵は今手元にある分を合わせても足りない。だが、歩美は以前の経験を思い出していた。鍵が二つしかなかった頃でも、三人で行動することはできたし、魔法だって使うことができたのだ。持っていなくて不便だったのは、ポータル扉をくぐる時くらいのものだったはずだ。


「新しく入ったメンバーには正直に話して、どうするか選択させようか。……この世界に残っていたって、せいぜい数十年で破綻する運命だしな」


そう語り合う二人の乗った車は、知らず知らずのうちに東北自動車道へと入っていた。


那須高原へ到着した二人は、すっかり日の暮れた自動シャッターの奥へ車を滑り込ませた。室内灯が灯ったかと思うと、スピーカーから愛衣(あい)の声が流れる。


「お帰り! お土産楽しみにしてたよ!」


いつものツッコミは相変わらずだ。


この建屋には仮眠室として(一応だが)それぞれの寝室が設けられており、愛衣はそこから応接室へやって来た。


「で、どうだったの?」


歩美(あゆみ)が応じた。


「これよ!」


テーブルの上に二つの物体を転がした。


「ワーオ! 二つかよ!」


愛衣は驚きの声をあげた。


「で、これからが本題なんだけど」


歩美は「このメモを見て」と、愛衣にそれを手渡した。

愛衣はメモに目を通す。


「これって……あのUFOのことじゃない? 凄い!!」


「で、当然行くでしょ、愛衣?」


「当然ね!」


「まぁまぁ、そこまではいいのよ。問題はここから。澪(みお)と千秋(ちあき)と拓郎(たくろう)の三人に本当のことを話して、鍵を誰に渡すかなのよ」


「なるほどね……」


愛衣は少し考え込んでから続けた。


「きっと、未来の現状を知れば決心はつくと思うけどね。でも、人それぞれ考えは違うし、生活環境も影響するじゃない?」


「いつ告げるか、だな。何か良い案はあるかい?」


浩平が二人に尋ねた。


「いや、三人は絶対行くよ! だって、足印台座をくぐった瞬間からリアル魔法使いになるんだよ? 行かない訳がない!」


愛衣の言葉に、歩美も「確かにね〜」と納得する。


「だが、魔法を使えるようになった途端、現実世界に戻って好き勝手やることも可能だろ?」


浩平の指摘に、愛衣が答える。


(でも……魔法を使えるようになって、鍵を持たずに現世へ戻ったら、流石に歳はとるよね?)


「千秋なら大丈夫だよ。昔から性格は知ってるし、そういう理不尽なことも嫌いなやつだから。


よく分からないのは拓郎だよね? 千秋の同級生だったっけ? それとも、大工の見習い時代に通っていた現場の友達だっけ? 歩美はどう思う?」


「浅野拓郎か…。今ひとつ掴めない性格なんだよね」


浩平はしんみりと呟いた。


「俺たちみたいに修羅場を乗り越えた絆みたいなのって、今更だけど……俺は二人と出会えたのは最高だったと思ってるよ」


その言葉に、二人は大きく頷いた。


「しゃー、決まりだな! 当面は三人には内緒でUFOで旅して、どこかの星でキャンプだな!」


「いやいや、一ノ瀬澪はうちらの親友だし!」


「大丈夫だって!」


「分かった。じゃあ、澪だけに内緒で話してみるんだな!」








2.新たな仲間と鍵


その後、キャンプ場へやって来る客が少しずつ増えていった。


「24時間、いつでも夏の昼間のビーチ」という凄まじいシステムは口コミで一気に広まり、場内は賑わいを見せ始めていた。


(まずい……! 忙しくなって未来のサーペント・マウンドへ行けない!)


浩平は頭を抱えた。一人で行くのもどうかと考えてはいるが、やはり三人揃っていかなければ愛衣と歩美に怒られるのは目に見えている。


そして、全く同じことを愛衣と歩美も考えていた。


「浩平さん、どうするんですか! こんなに忙しくなったら行けないじゃないですか!」


Kサークルや浜のベースキャンプあたりには、それぞれ隙を見て一人でちょくちょく向かってはいるようだった。

だが、湖面の野獣狩りや草原のバッファロー肉の調達といった大掛かりな行動には、流石に誰も手を出していないらしい。


せめて4日間……4日間あればどうだろうか?

月曜日から木曜日まで、でも他にやる事もあるし。


だが、あのUFOに乗れたとしても、操縦方法や宇宙の方角すら分からない。万が一迷子になったら……と考えれば、4日すら短すぎることに気づく。


(あー、これ無理なやつだ……)


浩平は愕然とした。


ある夜、浩平は愛衣と歩美に「澪には話したのか?」と尋ねてみた。


「落ち着いたら話そうって二人で相談してたんだけどね……まだなのよ」


「やっぱりな。澪の雰囲気を見てたらそんな気はしてたよ」


「でもね、『近々話がある』ってことだけは、この前私から伝えてあるんだよ」と愛衣が付け加えた。


とはいえ、このまま多忙な状態が続けば切り出すのも難しい——三人の意見はそこで一致した。


「ならさ、これからちょっと澪を誘って軽く晩飯でも食いに行こうよ」


浩平が提案し、すぐに電話をかけた。


「あ、澪? 今大丈夫? これから一緒に晩ご飯どう? 浩平さんのおごりだって!」


愛衣が弾んだ声で誘うと、澪からは一発OKの返事が返ってきた。


ここ数日は日帰り客が数件ほどで少し落ち着いていたこともあり、疲れが溜まっていた澪にとっても丁度いい息抜きになりそうだった。


一ノ瀬澪も施設の近くに引っ越してきていたため、連絡を入れたあとはすぐ近くの焼肉屋で落ち合うことになった。


運よく個室が空いていたため、四人はそこに通される。


まずは生ビールで乾杯した。


「最近は仕事にも慣れた? どうだい?」


浩平が切り出すと、澪も今の仕事には満足しているようだった。


「長くやっていけそうか?」


肉を焼きながら歩美が助け舟を出した。


「そういえば愛衣、『話がある』って言ってたじゃない」


「そうそう、実はね、澪……」


愛衣は「重大な話があるの」と声をひそめ、澪の耳元へ顔を近づけながら小声になっていく。


「いいもの見せてあげる。澪、私の指先見てて」


「なになに?」


何が見られるのかと、澪は興味深そうに愛衣の指先を凝視した。


愛衣が握りこぶしから、人差し指だけをスッと立てる。


次の瞬間——ボッと、ろうそくのような小さな炎が指先に灯った。


「すごい! いつの間にそんなマジック覚えたの?」


あまりにもリアルな、プロ並みの手品に澪は興奮気味声をあげた。


しかし、愛衣は真面目な顔で首を振る。


「これ、マジックじゃないんだよ」


「え……? 冗談はやめてよ」


困惑した澪は誤魔化すように、焼けた肉を箸でつまんで口に放り込んだ。


愛衣は「本当だってば」と袖を肘の上までめくって見せる。タネも仕掛けもない腕だ。


続けて歩美も指先を突き出すと、そこからぽたり、ぽたりと水滴を垂らし、焼肉プレートの下の油受けへと落としてみせた。


澪は自分の目を何度も手で擦りながら、二人の信じられない行動を交互に見つめている。


「え……なんで!? どうして!?」


思わず大声を張り上げそうになった澪を、三人は同時に口元へ人差し指を立てて「しーっ!」と制した。


「実は、この話をいつ切り出そうかと思ってたんだよね。最近忙しくて、なかなかチャンスがなかったから」


「信じられないのは分かるけど……もっと詳しく知りたいなら、食べ終わってから異世界へ連れて行ってあげる。見てみる?」


愛衣がそう持ちかけると、二人はこれまでの経緯——キャンプへ出かけた時のことや、浩平と出会った経緯を語りながら食事を進めた。


「そろそろ2時間たつし、引き上げようか」


浩平が声をかけると、澪も半信半疑ながら「知りたい」という好奇心が勝り、頷いた。


その時だった。個室の前を通りかかった酔っ払いが、トイレを待ちながら部屋の中の怪しげな会話を聞きつけてしまったらしい。


「お前たち……なんだか面白い話をしてるじゃないか」


ガラッと扉を開けるやいなや、男は「なぁ、兄さん」と浩平の肩へ手を伸ばし、ポンポンと叩いた。


浩平は「あらまー」とニコニコ顔のまま、両手で酔っ払いの手をぎゅっと握り返した。


次の瞬間——酔っ払いは白目を剥いてその場に倒れ込み、そのまま気絶して漏らしてしまった。


浩平は何事もなかったかのように「お勘定お願いします」とレジへ向かい、「トイレ待ちの酔っ払いさんが倒れて寝てますよ」と店員に告げて店を出た。


外に出るなり、愛衣が上機嫌で種明かしをする。


「見たでしょ、さっきの! 私が火魔法、歩美が水魔法、そして浩平さんは『電気ビリビリ魔』なのよ!」


「ビリビリ魔ってなんだよ、もう……!」と浩平が苦笑いする。


「それでね、あの『足印台座』を一度くぐると魔法が使えるようになるんだけど、どんな魔法になるかは試してみるまで分からないんだよね」


その説明を聞く頃には、澪はすっかり自分が魔法使いになったかのような気分で胸を躍らせていた。


四人は施設の中へ入ると、いつものポータルを通り抜けてビーチへ降り立った。


眩しい常夏の世界に鎮座する足印台座の前で、浩平が両手をかざす。すると空間が少し歪み、そこから一本の鍵を取り出した。澪の目には異様な光景にしか映らない。


鍵を台座の側面に差し込むと、足印が怪しく点滅を始める。


点滅が止まった位置は、やはり以前抜き取った鍵の手前だった。


「さて、行こうか。私に続いて」


浩平を先頭に、愛衣、澪が続き、最後の歩美が澪をサポートするようにポータルへ足を踏み入れた。


視界が切り替わり、浩平は愛衣の手を取り、澪の手を引き、最後に歩美を安全な場所へと降ろした。








3.歩美の説得


「ようこそ、Kサークルへ」


そこは、鬱蒼とした緑が広がる丘陵地帯だった。


「一応だけど、どんな魔法が使いたいか願いながらくぐってみるのも良いかもな。歩美も『水が飲みたい』って願ったみたいだし」


「どうする? スクーターで浜のベースキャンプまで行ってみるかい?」


浩平の問いかけに、澪もすっかり好奇心が勝り、「何でも来い!」と言わんばかりの表情で深く頷いた。


この頃には浜のベースキャンプまでの道路整備が完了しており、スクーターで直接向かえるようになっていた。それでも到着までに6時間はかかった。


「だけど……これだと少し時間が足りないな」


浩平が呟くと、愛衣が尋ねた。


「じゃあ、ドワーフの部屋にする?」


すると歩美が提案する。


「それなら一度戻って、現実世界の過去か未来……エジプトとか、あのUFOの探索をする方が良くない? だってもう澪も足印台座をくぐったわけだし! 魔法が確定してるなら、そっちの方が安全でしょ?」


「なるほど、確かにそうだな」


浩平も頷いた。


「あっちのオオカミやバッファロー……ましてやあの巨大鳥と出くわすよりは安全だ。あっちの探索は、もっと時間に余裕がある時にしよう」


「それなら、透明な壁の位置次第で『真正面』か『エジプト』か『アメリカ』かを決めましょ!」


「よし、それで行こう」


三人の意見が一致する中、澪は何が起きても楽しもうと言わんばかりに、「何でも来い!」という表情で胸を張っていた。


ビーチに戻った三人と澪はハッとした。酔って興奮した勢いで「やっちまった」ことに気がついたからだ。透明な壁が移動している。


まぁ仕方がない。数日過ごし、入ってきた時間軸を目指して戻れば何事もないことは知っていた。施設のポータルを開けっ放しにして入れば何ということもなかったのだが、透明な壁は手前へと移動している。


ドアノブの蛍光テープが指し示していた。


少しだが、過去だ――!


ほんのわずかな過去のはずなら、キャンプ場には客がいて、あのドアも開いているはずだった。なのに、なぜだ? 本当にわけが分からない。


あまりに不気味で、不思議な時間の歪みだった。まるで本をめくるたび、ページごとに全く異なる物語が広がっている――浩平はそんな錯覚さえ抱いていた。


「じゃあ、どっち?」


「こうなったらエジプトのピラミッドか、ローマ宮殿か、オハイオ州サーペント・マウンド周辺の土塁にいるUFOが頼りね」


「過去に戻っているならエジプトで、未来へ進んでいるならUFOということにしましょう」


後は真正面か、まだ行ってないけどな。


まーそれならそれでと、浩平が鍵を刺すと点滅回転が始まり、彼は鍵を抜く。足印が止まったのはエジプト側だった。


三人と澪が降り立った浜辺の透明な壁は、台座のすぐ側にあった。


「はい決まり! ピラミッドの地下ね」


ここは行き慣れた場所だ。我が物顔でドアを開ける。澪はその透明な扉のドアノブを凝視した。


「何もないのに、どうして……?」


声に出して尋ねる。


「分かれば簡単だけど、最初は何もなさそうな場所からこれを見つけるまで、相当な時間を要したのよ。それに多分だけど、澪も台座を潜ったから、この世界にいる限りは歳をとらないわ。戻れば別だけど」


「でも、私達三人は現実世界でも歳を取らないのよ。さっき浩平さんが掌の間から取り出した、べっ甲模様の鍵のせいなんだけどね。私達三人はその鍵を持っているから!」


愛衣と歩美が両手を顔の前で合わせ、祈るようなポーズから手を広げ始める。その隙間に薄いベールの掛かった空間が現れ、二人は中に手を入れ、鍵を出してみせた。


「これなんだけどね」


それを見せながら、浩平はドアから中に入っていく。


中に加わった一同は、それぞれスマホのライトで周囲を照らし、装飾品の入った化粧箱やミイラの入った棺を目の当たりにした。


三時間も経っただろうか。


「これからどうする?」


浩平が三人に話しかける。


「ですよね! ドアがあの時間に戻るには、多分数日ここで過ごすことになるでしょうし……でも寝場所がないですしね。やっぱり浜のベースキャンプに行って、食事をして過ごすしかないですよね」


「だよなぁ」


その時、澪が疑問を口にした。


「こんなに価値のある装飾品を持ち出したりしなかったんですか?」


「一応、最初だけは持ち帰って溶かして金塊にして売っていたんだけどね。飽きちゃって」


「飽きた……?」


「それに結構、手間が掛かったしね。ほら、私達こんなことができるから、未来へ行ってロトの高額当選番号をスクショして戻ってくれば分かるでしょ? だからこの会社は倒産しないって言ったのよ」


澪は深く頷いた。


それと、現実世界の未来が悲惨なのよ!私達が80歳ぐらいになると、大地震と地盤沈下で世界が崩壊するというか……その先は、おそらく我々だけか、宇宙人でもいるのかってところだと思うよ。


そんな話をしながら、一同はKサークルの東側足印台座からスクーターで西側台座へと向かい、そこから車に乗り換えて浜のベースキャンプへと向かった。ここまでの道やベースキャンプ周辺も、今では浩平が持ち込んだ小型パワーショベルによって整備され、すっかり様変わりしている。

これには亜依と歩美も手を貸していた。パワーショベルも操作方法を覚えれば、二人とも今ではすっかり板に付き、当たり前のように乗りこなしている。


澪にとっては、その全ての光景が受け入れがたい事実であり、ただ呆気にとられることしかできない様子だった。すでに二階や屋根まで出来上がったバンガローが、静かにその変化を物語っていた。


「澪がここで過ごしている間、現実の向こうで千秋と拓郎が困していませんか?」


澪が俺——浩平に向かって問いかけてくる。


「そうなんだよ。どうする? いやいや、早く戻らないと!」



焦る澪に対し、亜依が「なんで?」と不思議そうに首を傾げた。すると歩美が優しくさとすように説明を始めた。


「澪、さっきも言ったけど、ここでは何度でもやり直しができちゃうんだよ。それに、今は戻れない時間軸にいるのよ」


やはり、すべてを一度に理解するには時間が必要だった。これだけのことを一気に飲み込めという方が無理なのだろうと、俺は思っていた。


小型冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出し、プルタブをプシュッと開ける。それを見て亜依も続いた。


歩美の説明——というより説得を、俺と亜依は黙って見守っていた。歩美はこういう話のまとめ役に長けている。

俺が説明し始めると余計な細かい話まで盛り込んで逆に難しくなるし、かといって亜依に任せれば適当すぎて意味が通じない。

歩美の言葉を聞きながら、俺と亜依は深く頷いていた。


「とりあえず、今夜は寝よう」


ビールを飲み終えた浩平は、二階の部屋へと階段を上がっていった。


階下に残された亜依が、しばらくして口を開く。


「とりあえず、今は二人を信じて。心配いらないって。……それより外に出ない? 澪はまだ見てないでしょ、ここの月を」


「そうね、出ましょう」


歩美も同意してドアを開け、三人は外の腰掛けに座ってバンガローの壁に背をあずけ、夜空を見上げた。


澪は目を見開き、「綺麗……」と小さく呟いた。


「あの時、本当は三人でキャンプに来るはずだったのよね」


「澪が確か何かで行けなくなって……」


「あれよ、母が転んで怪我をして大変だったのよ」


「あぁ、そうだったわね」


そんな思い出話を、三人はしばらくしていたようだった。


二階で横になった浩平は、外で話す三人の会話を子守歌代わりに、ゆっくりと眠りについた。




つづく


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