第15章 新たな道
1.キャンプ場の開園間近
浩平が徐々に開いていく掌の間からは、心地よい音楽が流れ出してくる。曲は、神代レイというミュージシャンの『終着駅』という曲だった。
それを見た二人は、浩平がさらなる魔法を身につけたのだと確信した。
「すごい! 浩平さん、まだ他の魔法もお持ちだったんですね!」
「いやいや、これは二人だって練習すればできるよ」
驚く二人に対し、浩平は笑いながら種明かしをした。
何のことはない。スマホで音楽を流したまま異空間に収納し、その隙間から音だけを鳴らしただけなのだ。
やり方を説明し、「何回か練習すればできるようになると思うぞ」と告げると、二人は仕事のことなどそっちのけで、その“魔法”を習得しようと必死になって練習を始めた。
「貴重品を保管しておくのにも最適なんだ」
浩平がそう説明を加えたものだから、二人はできるようになるまでひたすら練習に没頭していた。
だが、何度やっても成功しない。
「不思議だな……俺は簡単にできたんだが?」
首をかしげる浩平に、愛衣が尋ねた。
「浩平さんが成功した時をイメージしたいんで、その時の状況を教えてもらえますか?」
「なるほど、確かに一理あるな」
浩平は当時の状況を思い返しながら語り始めた。
「あの時は、祐介に金塊を届けた報告をしてたんだが……」
話の途中で、二人はハッとしたようにす台座へ飛び乗り、Kサークルの中へと消えて行った。
しばらくして戻ってきた二人は、浩平の前で両手を合わせ、祈るようにしてゆっくりと手を開く。
すると、その両手の隙間に、薄っすらと淡く透き通るベールのようなものが現れた。
「できたんだ! 良かった、良かった」
浩平は満足そうに頷いた。
「これを数回繰り返せば、身体が覚えるから間違いなくできるようになる。そうしたらさ、足印台座の鍵をそこに入れておけば、首に掛けなくてもドアノブに触れるだけで出入りができるのさ! 無くならないし凄いだろう?」
マジですが!浩平さん。
凄いですね!便利極まりないですね〜
ビーチで注意しなきゃと、思ってましたけど、コレなら平気です。
砂浜で無くなったら最悪ですしね。
オープンには何か宣伝が必要何だが?何かいい案はあるかな?
そうですねー
「たとえば、愛衣が切りだした。『山の中に広がる楽園ビーチでバカンスを!』みたいなキャッチコピーはどうでしょう?
そこえ歩美も割り込んで、オープン限定の目玉として『先着100名様限定・アンモナイトの貝殻入りサザエの燻製』を配るとか! なかなか他にはないインパクトがあると思うんですけど、どうですか?」
お!それ頂きで!
だとしたら、あの貝殻は既に相当の数は有るから、燻製を真空パック器で処理が必要だが、手伝ってくれるか?
もちろんですよ!やりましょう。
ここで問題が発生する。
施設の名称や登記をしていない事に気が付いた。
不味い、そっちが先だった。
パック詰めを、二人に任せた。
歩美が少し心配そうに尋ねてきた。
「こういうのって登記とか許可とか、いろいろ大変そうですけど……」
すると、浩平さんが胸を張って答える。
「なに、俺の知人にその手の手続きを裏まで含めて一括で引き受けてくれる行政書士がいてな。書類と印鑑は全部そいつに丸投げだ」
「頼もしすぎるけど、大丈夫ですかそれ!?」
「前の会社でも専門でやってたやつだぜ。大丈夫に決まってんだろう」
「なら安心ですね」
ほっとした表情を見せる歩美に、浩平さんが言葉を続けた。
「ただ……サザエモドキが美味いのは分かってるが、念のため親戚や新しい従業員に配って反応を見てみてくれ」
「了解です。ところで、肝心の施設名称なんですけど……『異世界キャンプ場』なんてどうでしょう? 安直すぎますかね?」
歩美がそう提案すると、それまで黙って聞いていた愛衣がパッと目を輝かせた。
「ドストライクじゃないですか!」
「もちろん俺も大賛成だ。どうやら施設名はこれで決まりだな」
浩平が満足そうに頷き、続いて料金の話を切り出した。
「区画の値段だが、まずはオープン価格で客の反応を見てから決めようと思うんだが。八畳から十畳の広さで一張り10,000円からスタート、ってのはどうだ?」
浩平の提案に俺と歩美、愛衣の二人も賛成し、まずは一ヶ月間この価格で様子を見ることになった。
数日後。サザエモドキの評判と、真空パックにしたアンモナイトの貝殻入り燻製サンプルを携えて、愛衣と歩美がやってきた。
「配った人たち、みんな『こんなの無料で配るんですか!?』って首を傾げてましたよ。『買うなら一袋3,000円から5,000円くらいだ』って意見が多かったです」
歩美が報告すると、浩平は笑いながら首を振った。
「いやいや、売り物にはしないよ。出回りすぎるとろくなことにならないからな。あくまで客引き用の珍味ってことさ」
「ですよね〜。マジで『異世界から持ってきました』なんて言えませんしね」
そんな会話をしているやたのと、行政書士の上林から「手続きは滞りなく完了した」と連絡が入った。
本当にいよいよなんだと、実感が湧いてくる三人。
開業に向けて、新しく雇った三人の従業員、そして愛衣と歩美も加わり、インターネットでのホームページ作りが本格的に始まっていた。
だが、実は三人はもっと大切な計画を持っていた。
三人は異世界の鍵の所持者だと言う事。
それは今後、未来で起こる全てを知っていると言う事だった。
2.異世界キャンプ場オープン
オープン当日。しかし、施設の駐車場には車が1台も停まっていなかった。
「最初はこんなもんだろう」と構える俺たちの横で、従業員の一ノ瀬が不安そうに呟く。
「こんな出だしじゃ、先行きが心配になりますね……。愛衣と歩美に誘われてここに就職しましたけど、本当に大丈夫なんですか?」
「なに、全然大丈夫なんだよ! もしキャンプ場がダメなら、土地を切り売りするだけだからさ」
浩平が笑いながら言い放つと、一ノ瀬は目を丸くした。
「そんなんで大丈夫なんですか!?」
「将来的に、この中じゃ行政書士も法律も全てが俺たちになるんだからな」
一ノ瀬は何を言われているのか、さっぱり分からないといった様子で首をかしげている。
すると、同じく従業員の櫻井千秋が話しかけてきた。
「浩平さん、それってビーチの切り売りなんですか?」
「いや、別の場所だけどね。おいおいみんなにも見せてやるよ」
浩平はそう付け加えると、ニヤリと笑った。
「実はここ、客が一人も来なくても何の問題もないんだよ」
その言葉に、愛衣と歩美も深々と頷く。歩美が一ノ瀬たちを安心させるように言った。
「心配しなくて大丈夫だよ。絶対に倒産もしないし、給料の未払いなんて100%あり得ないから!」
「……なら、本当に安心していいんだよね?」
不安そうに口を挟んだのは浅野拓郎だ。
すると、愛衣が自信満々に答える。
「もちろんだよ! じゃなかったら、あたしだって澪を誘ったりしないよ。大切な親友なんだから! そのうち理由は分かるから、それまで安心して待ってて!」
それから数週間が過ぎた頃、ついに初めてのお客さんがやってきた。
ネット経由で一泊二日、土日の予約が入ったのだ。
予約画面から察するに、年配の夫婦のようだった。
駐車場に車が停まり、二人が施設の入口へ向かって歩いてくるのが見えた。
初めてのお客さんに、出迎える俺たち全員がなぜか緊張している。
受付で名前や住所、年齢などを簡単に記入してもらうと、二人は東京からやってきた82歳の夫婦だと分かった。どこかくたびれた歩き方をしているのは、きっと年相応なのだろう。
予約されたのは、あらかじめ豪華なテントが用意されているグランピングの区画だ。そこまでの荷物運びは、千秋と拓郎が引き受けてくれた。
俺たちと話す時は日本語だったが、夫婦二人の会話に耳を傾けてみると、英語で話している。奥さんは目鼻立ちがくっきりとしていて、おそらくハーフなのだろう。
案内を終えた後、俺と愛衣はビーチ側の出入口にある詰め所で、リクライニングチェアーに体を預けてくつろいでいた。
二人の様子を遠目からぼんやりと眺める。
なぜだか物足りなさを感じなくもなかったが、あまり客に関わりすぎるのも良くないだろう。俺たちは静かに、ただ周りの景色を見回していた。
そして、あの透明な扉に関して分かったことがあった。
扉の仕組みとして、異世界側にある透明な扉は、現実世界側のドアの構造や状態によって仕組みが変化するということだ。
簡単に言えばこういうことになる。
浩平が施設のドアを「手前に開けたまま固定できるタイプ」にしたせいで、異世界側の扉も思いっきり向こうへ押し開けて固定できることが判明したのだった。
これなら、一度扉を開けて固定してしまえば、何度も出入りする際にいちいち「足印台座の鍵」を使わなくても済む、ということになる。
要するに、現実世界側でドアが勝手に閉まらないよう、足元に留め具やドアストッパーなどの障害物を挟んでおくだけでいいのだ。
ただし——何かの拍子に、うっかり扉が閉まってしまった時のことを考えると、少しゾッとするのだが。
さらに、扉を開け放したままにしておくと、本来は動いているはずの異世界側の「透明な壁」までもが動きを止める、ということが分かった。
つまり、扉を固定することで、空間の歪みを強制的に繋ぎ止めている状態なのだ。
これが異世界側になにか悪影響や弊害をもたらすのかどうかは、今のところまだ不明だったのだが……。
なので、普段の出入り——それほど大人数で行き来しない限りは基本的に扉を閉めておき、帰る時間になったら現実世界側から誰かに開けてもらう、というルールにした。
そしてもう一つ、驚くべき法則に気づかされた。
現実世界側の扉が開けられたその瞬間、透明な壁は、その時々の「年代」や「時間」の場所へと瞬時に移動するのだ。
——実に面白い。
仮に現実世界の違うポータルから同時にアクセスした場合、異世界の透明な壁はどう対応するのだろう?
まったくもって、不思議な世界だ!
二人の老夫婦が一泊の滞在を終えて、帰路に就いた。
「とても素敵なビーチでした! ありがとう」
浩平は彼らの荷物を車まで運ぶのを手伝い、トランクや後部座席へと丁寧に積み込んで見送った。
(良かった、何事もなく無事に楽しんでいただけたようで何よりだ)
浩平と愛衣が安堵していたその時、テントの点検をしていたスタッフの一ノ瀬と歩美が近付いてきて、一枚のアンケート用紙を浩平に手渡した。
「浩平さん、これ……アンケート用紙の隅にメモが残されていました。『A-328』と『3145』、それから電話番号……一体何なんですかね?」
用紙に書かれた数字と連絡先を見つめながら、浩平は一ノ瀬に言った。
「気になるな……その電話番号に、一度連絡を入れてみたらどうだ?」
歩美はさっきの老夫婦に電話した方がいい、そう言ってかけ始めた。
それなら頼んだぞ。
3.ホープウェルの丘
最初は浩平たちも、西の水平線に沈む太陽がそのまま東から昇ってくる現象を、デジタル世界のプログラミングによるバグか、データ処理のバグのようなものだと考えていた。しかし浩平は見つけてしまった。それが全く異なる現象であることを。
あの老夫婦が宿泊していた時のことだった。浩平はビーチチェアーに横になり、サングラス越しに沈む太陽と昇る太陽を見比べた。
老夫婦が右と左の太陽を指さしながら何かを話しているのを見て、どこかほほ笑ましく、嬉しく思っていたのだが――ふと、二人の会話が耳に飛び込んできた。
“The two suns—one in the east and one in the west. And look… there’s a satellite orbiting that one!”
“Yes… what a nostalgic sight.”
浩平は、彼らが英語で「東と西に二つの太陽がある」といった内容を話していることだけは、なんとなく理解できた。
愛衣も変なこと言ってますね、と浩平へ促す。
今までこれほど空をじっくり観察したことがなかったのも事実だが、それを差し引いても、意識して目を凝らすと信じがたい事実が浮かび上がってきた。
片方の太陽の周りを、確かに小さな“衛星”が回っていたのだ。
(太陽はこの世界を中心にして、表と裏に二つ存在する――)
目の前の景色から、そんな奇妙で突飛な事実が突きつけられていた。
ふと浩平は、あの老夫婦が帰り際に「とても楽しいキャンプでした」と嬉しそうに微笑んでいたのを思い出した。
そういえば、あの老夫婦はチェックアウトの際、アンケート用紙の隅に電話番号と暗証番号のような謎のメモを残していったはずだ。
そのことをふと思い出した浩平は、一ノ瀬に「そういえば、あのメモの電話番号に連絡してみたか?」と尋ねてみた。
どうやら一ノ瀬もすっかり忘れていたらしい。
「あっ……一度掛けたんですけど、出なかったんですよね」
「あれからしばらく経ってるけど、もう一度掛けてみるか。もしかしたら大切なメモかもしれないしな」
浩平は自分のスマホからメモの番号へとダイヤルした。
やがて繋がった電話口から聞こえてきたのは、そこが「東京駅」であることを告げる案内係の女性の声だった。
思わず浩平は、メモに書かれていた『A-328』という記号について尋ねてみる。
するとインフォメーションの女性は、少し首を傾げるようなトーンで聞き返してきた。
『A-328……ですか? もしかして、コインロッカーの番号の件でしょうか?』
「――あ、なるほど」
言葉の意味を察した浩平は、「わかりました、ありがとうございます」と伝えて静かに通話を切った。
『A-328』はロッカーの場所で、『3145』はその暗証番号。
では、東京駅のロッカーに一体何が預けられているというのだろうか。
疑念を深めた浩平は、その後もあの老夫婦の番号へ何度か電話をかけてみたが、二度と繋がることはなかった。
それを耳にした愛衣が、「なにそれ、すごく面白そうですね!」と会話に割り込んでくる。
「お前、本当にそういう怪しい話が好きだよなー」
浩平が呆れたように言うと、隣で歩美も同意するように深く頷いた。
そんな冗談めいたやり取りを一通り終えた後、浩平は二人の顔を見つめ、「……話は変わるんだけどさ」と真剣なトーンで切り出した。
この足印台座の右はエジプト側、真正面と左って気にならないか?
エジプト側にある台座との違いは、足印台座の大きさだけだ。あちらの太陽も調べる必要がある。
それに、陸地側の右ルートと真正面へは、まだ足を踏み入れていないのだ。
「一度行って確かめるべきだ」とは思いつつも、これまで先延ばしにしてしまっていた。
だが、まだ客が来ない今なら動ける――浩平は愛衣と歩美に相談を持ちかけた。話は早かった。
「浩平が行くなら」と、二人もすぐに賛成してくれた。いや、むしろ「いつその話題になるのだろうか」と待ち望んでいた様子ですらあった。
そうと決まれば行動は早かった。三人はさっそく準備を整え、台座に鍵を差し込んだ。
やはり三人が同じ目的地を思い浮かべると、足印が左側で点滅を始めた。
「どれどれ……」
浩平を先頭に、愛衣、歩美の順で進んでいく。
降り立った先は、やはりエジプト側にあるあの小さな台座だった。
見た目には、まったく同じ場所にしか思えない。ただ一つ違っていたのは、透明な壁の下に置いておいたあの石の存在だけだった。
「よし、探そう」
三人は手分けして、目には見えない透明な壁を探し始めた。
間もなく、浩平の手の指先がそれに触れた。
「浩平さん、見つけた!」
すぐさま愛衣が歩み寄り、見えないドアノブに手をかけて静かに回した。
ギシ、とドアが開く。
「ん……? 英語で何か書いてありますよ?」
愛衣がドアの脇にあるプレートを覗き込んだ。
扉の先は、鉄製の展望塔のデッキにつながっていた。手すりのゲートに立ち、愛衣が眼下を見下ろす。
「浩平さん、何か巨大なヘビみたいな描が見えますよ!」
「なんだそれ?」
浩平と歩美も身を乗り出して下を覗き込んだ。
歩美が看板の英字を読み上げる。
「もしかしてこれ……『Observation Tower(展望塔)』って書かれています。ここ、サーペント・マウンドじゃないですか? ほら、あっちには丸と八角形の土塁も微かに見えます!」
「……ピーブラスにある、あのホープウェル文化の遺構か?」
「はい! オハイオ州ピーブラスですよ!」
「……え、アメリカに来ちゃったの!?」
愛衣と浩平は口をぐうの音も出せず、ただただ唖然とするばかりだった。
「……よし、一度帰ろう!」
「えっ!?」
「もーいい! 何が何だかさっぱり分からん!」
想定外すぎる空間移動に頭が追いつかない浩平は、半ば投げやりな気持ちで二人を促した。まずは一度引き返し、しっかり調べ直すことにしたのだった。
浩平はさっそく、サーペント・マウンドについて調べ始めた。
(もしかしたら、あの表と裏の『二つの太陽』に関する真相が、ここに隠されているんじゃないか……?)
ホープウェル文化の土塁群は、現代の科学をもってしても未解明な部分がまだ数多く残っている。
だが、彼らが高度な天体観測の知識を持っていたことだけは確からしかった。
しかもギザのピラミッド以上に、まるでUFOの発着陸場にぴったりな巨大土塁が、あの地域には数多く存在しているのだ。
浩平が調べた内容を伝えると、愛衣は「マジですか……!」と言わんばかりに目を見開き、興奮気味に何度も頷いている。
さらに言えば、大草原に築かれたこれらの巨大土塁は、あのナスカの地上絵よりも完成度が高いとすら言われている。
大人数がかりで膨大な土を盛り上げ、極めて精密な計算に基づいて作られているのだ。これが西暦直後(紀元前後)の技術で本当に可能なのだろうか?
そしてもう一つ、重要な事実があった。この場所もまた、海抜が180メートル以上ある。たとえ未来に行って世界的な環境変化で海面が上がったとしても、横たわるようにそのまま残っている可能性が極めて高いのだ。
(未来なら人が誰もいなくなっていて、気兼ねなく探索できるかもしれないな……!)
浩平の頭に新たな閃きが浮かんだ。
「よし……今度は『過去』と『未来』の両方を試してみようぜ!」
今度は数日してから行って、透明な扉は台座寄りに有るか陸地の奥かで過去か未来かが決まるがどっちだと思う?二人にいきてみた。
愛衣と歩美の意見は違っていた、だが浩平はこう話した。
未来へ行くんだと思うよ!
過去と言った愛衣が聞いた。
何、簡単な話俺達が、二度目に来れば透明な壁は向こうへ行ってる事が多いからさ。
へーと愛衣と歩美が!
歩美も未来とは言ったものの、その理由は無く当てずっぽうだった。
と言った浩平は以前、感じだ祐介の通り抜けた背中の感触を思い出していた。
それから一週間後、三人は再び台座から降り立ち、目には見えない透明な壁に向かって歩き出した。
足を進めながら、浩平は確信していた。以前目印として置いた石よりも、確実に奥へと進んでいる。
今までの感覚から言えば、おそらくここは折り返し地点――北緯45度付近だろう。そもそも、あの扉が今も健在であればの話だが……。
そう思いながら伸ばした手の先で、透明なポータルが静かに開いた。
「愛衣、気をつけて覗き込んでみろ」
言われた通りに顔を扉の向こう側へ差し入れた愛衣が、突然、覗き込んだ姿勢のまま微動だにしなくなった。
(何があったんだ……?)
息を呑む浩平と歩美。
愛衣は夢にまで見た「それ」を前に、言葉を失っていたのだ。広大な土塁の上に、思い描いていた通りの物体が見事に静止していた。
静かに顔をこちらへ戻した愛衣は、ドアを開けたままの状態で、興奮を抑え込むように小声で言った。
「……見ちゃいました」
思わず歩美も続いて覗き込み、戻ってくると浩平の顔を見て深々と頷いてみせた。
(だから何をだよ! 一体何を見たんだ……?)
二人から何も知らされない浩平は、心の中で一人突っ込みを入れていた。
「浩平さん、本当に凄い光景です! あんなの見たら、人生最大のイベントですよ!」
「だから、俺にも見せろって!」
待ちきれなくなった浩平も、ついに扉の向こうを覗き込んだ。だが――驚いたのは目に入った景色だけではない。そもそも、自分たちが足を踏み入れている「この扉自体」が異様だった。
壁面はシルバーの怪しい光沢を帯びており、まるで宇宙船の内部か出入口のハッチのような質感だ。
そして、その出口から見渡す光景の中――土塁の上に鎮座していたのは、銀色に輝く円盤型のUFOだった。ざっと見渡しただけで、地上に5機は確認できる。
周辺に人の気配はなく、ただ不気味なほど静かにその機体だけが停泊していた。
つづく




