第14章 長範の金塊と正綱の子孫
1.通学とバカンス
『もしもし? ハッピーニューイヤー。……で、どうした?』
「浩平! ちょっと聞いてよ! あんたが言った通り宝くじ売り場で『下2桁がこの数字のやつちょうだい!』ってお願いして束で買いまくったのに、300円と3000円しか当たらないんだけど! 5億円どこ行ったの!?」
電話の向こうで、浩平が盛大なため息をつく気配がした。
『……お前らはバカか?』
「ばっ、バカって何よ!?」
『紙のジャンボ宝くじで下1桁や2桁だけ合わせたって、当たるのは5等か6等の300円か3,000円に決まってんだろ。上4桁と「組」が違ったら1等なんてかすりもしねぇよ』
「え……? じ、じゃあ浩平はどうやって5億も当てたのよ!?」
『俺が買ったのは「ロト」だっつーの! ロトならマークシートで数字を全部直接選べるんだよ。紙の宝くじで狙った番号が買えるわけねぇだろ!』
「「……ええええっ!?」」
愛衣と歩美は顔を見合わせ、受話器を挟んでパニックになった。
『はあ……まあいいや。今どこにいる? とりあえず合流すっか』
既に浩平は二十億近くの当選をしていた。
将来的にも安全な地盤沈下しにくかった、那須高原に莫大な土地と建物を建て、既に何度も異世界ビーチには行っていた。
二人を関東の寒空に迎えに行った!乗っていた車は「走るファーストクラス」レンジローバー(Range Rover)
だった。
だから、あの時スクショは大丈夫かって、念押ししたのに!全く!と、言いながら二人にこれからのまだ来ていないロトのスクショをプレゼントした。
コレで二人の両親に孝行してくれと告げて、高級レストランを後にした。
後日、浩平の買った那須高原の別荘兼施設を紹介する。
それは那須町 高久乙にあるロードサイドの大型商業施設やスーパー、高級レストラン・カフェが近く、暮らしやすさと隠れ家感が絶妙に両立している場所だった。
車庫には高級車が数台並び、電動シャッターが自動で開く。
「す、凄い……!」
敷地面積も広く、滑走路のように南から北へと幅広く伸び、85メートルはある。
200ヘクタールを超える広大な土地だった。
「向こう側から透明な壁を開くときのことを考えて、こっちの世界のどこに扉を作ればいいのか悩んでね。最初は外周をネットで囲って、その中に木枠の塀を数十箇所作って出入りしやすくしようとしたんだが……結果的にこんな土地になったんだ。だから建物の中にある扉も、小さな小部屋を3箇所設けて設置してあるのさ」
そう言いながら中を案内した。
「その完成形が、ここってわけさ」
良いだろう?
ロトでも当てて、両親と引っ越ししても良いんだぜ。
取り敢えず、ロト買っておくよ。
一緒に同じの買うなよ!
何でですか?愛衣は聞いた、歩美が口をうって割り込んだ、半分になるからでしょ!
そそ!
だから、当選金額を確認して、二人で上手く分配してやってくれ。
俺は施設の準備がまだまだあるからさ、早めに着て手伝ってくれよ!
「ちなみに、俺の現金はアッチの世界に既に20億はあるけどな。あと、未来で株をな!」
「何ですと! 愛衣が跳ねた! それ教えて下さいよ」
「良いぜ! アッチの世界でな! 既に眠っている株だけでも言えない金額になってるから」
「ところで大学は卒業してからなのかな? それだけ聞いておくかな! 大学出るまでぐらいなら、容姿が変わらなくても不思議じゃないだろうしな」
「あっちに行ってたら電話は無理だから、何かあったら適当にSNSでも入れといてくれ。頻繁に行き来してるからさ! 俺の施設の中だし、出入りは誰にも見られないしね」
「まぁ、人生は長い。まるで、おとぎ話の魔王と魔女みたいだな!」
数日後、二人を送り届け浩平はドアノブから向こうの異世界へと入っていった。
その後ある異変が起きた。
ビーチの施設、台座の脇からプロックで左右1キロにわたって塀を築いていた、セメントを機械で練って、組み上げてゆく。ドアノブの移動する範囲に門を作り、床にもブロックを奥行きは北緯31度の透明な壁が向こう側の陸地ギリギリまで組んで行った。
透明な壁はブロックや岩を無視する様に乗り越える不思議な壁だから、何の問題もなかった。
ある日のこと、はるか透明な壁の向こう側に誰か人の姿を見つける。
それは向こう側に居た人間も同じだった。
見るからに、杖を付いてやっとの思いで壁まで辿り着いた。
知り合いだった。
祐介は浩平を見つめ、涙を流していた。
声はまったく聞こえない。
かつて同じ会社に勤めており、浩平より少し前に失踪して行方不明になっていた、あの小笠原祐介だった。
「やはり、異世界へ来ていたんだ」と浩平は悟った。
おそらく祐介は病気か何かで体調を崩しているのだろう。やせ細って弱々しく、今にも倒れそうだった。そのまま壁にへたり込んでしまう。
祐介はこの湖畔の水が飲めることは知っているようだった。食べ物を欲する仕草を手や身振りで伝えてきたが、うまく聞き取れなかったため、浩平は築かれたブロックの上に食料を並べて渡した。
祐介は最初こそむさぼり食っていたものの、しばらくすると吐き戻してしまった。
その後、浩平は壁の上にペンとノートを置き、こちらの事情を簡単に書き記して伝えた。
壁の高さは花壇のフチと同じくらいで、壁に背をつけて座り込む祐介の姿からでも、手を伸ばせば届く高さだった。
祐介は身体をよじってノートとペンを取り、しばらくの間、何かを書き込んでいた。
その内容を覗き込んで、浩平は驚愕した。
祐介は最初から真相を知った上でここに来ていたのだ。
ノートにはこう書かれていた。
実家には家系図があり、自分は小笠原正綱の「第23代直系子孫」にあたる存在であること。かつて過去の時代へ飛ばされた際、正綱本人と出会い、首輪として身につけていた特殊な鍵を通じて自らの血縁を確信・証明したこと――。
浩平は慌てて、「俺も持っている。いや、これはまさに正綱の首輪だ」とノートに書き、透明な壁越しにそれを見せた。さらに、正綱の骸(遺体)を埋葬したことも伝える。
祐介は涙は既に枯れていたが、口元から嗚咽しているのは分かった。
しばらくの間、二人は移動する壁越しにノートを通じてやり取りを続けた。
浩平が「扉」の存在を知らせると、祐介は手をかけて扉を開けた。しかし、その瞬間に彼の姿は消え、こちら側へ現れることはなかった。こっちから扉に入っても結果は同じだろう。どこかで空間のねじれが生じているのだと浩平は感じていた。
その他にも、正綱から話を聞いて試してはみたものの、なかなか上手くいかなかったという技があった。
それは、自らの両手を合わせることでそこに異空間を生み出し、ちょっとした荷物を保管できるスペースを作るというものだ。この「鍵」を持つ者なら誰でも可能らしいのだが、祐介の手記には「何度か挑戦してみたものの、結局できなかった」と書かれていた。
正綱自身は、広げた両手の隙間に向こうの世界から持ってきた食料をいくらかしまい込んでいたらしい。
祐介の実家には「長範の金塊」の伝承が代々語り継がれており、転移台座の鍵が家宝として大切に保管されていたという。
「『長範の金塊』の場所なんだが……Kサークルのどこかにあるんじゃないのか?」
浩平の言葉に、祐介は静かに視線を向けた。「小笠原家に必ず送り届ける」――そう強く誓った浩平の瞳に嘘がないと悟ると、祐介はノートに惨劇の顛末を書き綴り始めた。
正綱と共に金塊の隠し場所を思案していたその時、突如現れたドワーフに襲われ、家宝の鍵を奪われてしまったこと。その混乱の中で背中を斬りつけられたこと。相手に必死にしがみついたものの振り払われ、気がついた時にはどの台座から飛ばされたのかさえ分からない孤立無援の状態になっていたこと。
そして悲痛なことに、その刃に塗られていた毒が、刻一刻と彼の全身を蝕んでいるのだと明かされた。
祐介はノートに地図を描き始めていた。未来における地盤沈下や温暖化によって十和田湖が干上がる状態まで見越し、湖の底にある小さな横穴に、鉄枠で囲った木箱を詰め、そこに金塊を置いたのだと記していた。
2.祐介の遺言
二人はしばらくの間、お互いの背中を透明な壁にもたれかけ、静かに眠っていた。
浩平がふと目を覚ましたのは、なぜか背中の壁が柔らかく変化したように感じたからだ。
祐介は息を引き取っていた。
命が消えて物質となったせいだろうか。
祐介の身体がこちらの世界へ這い出てきたのではない。祐介はただ、その場で壁に背中を預けていただけだった。
壁のほうが祐介という存在を無視し、すり抜けさせ始めたのだった。
浩平の目から、溢れ出る涙が頬をこぼれ落ちた。
浩平は祐介の遺体をどうすべきか思案する。
——いや、よそう。
死んだなどと、口が滑っても言えない。
黙って十和田湖の地底にある「長範の金塊」を家族に届けることこそが、祐介の本望だろう。
遺体は、小笠原正綱の隣に埋めることに決めた。
浩平は以前に訪れたことがあり、知っていた。
十和田湖の底の広さを。あそこから金塊を運び出すとすれば、一人の手では到底足りないだろう。
一度拠点へ戻り、あの二人を呼んでくるべきか。
それから荷車も要るはずだ。電動スクーターの後ろに括り付けて運ぶのが確実だろうか。
冷たくなった祐介を前にしながらも、浩平の頭の中ではすでに様々な算段が巡っていた。
正綱の隣に穴を掘り、彼を埋める。墓石は正綱の次に大きいものを選んだ。
(安らかに眠ってくれ)
静かに手を合わせた浩平は、そのまま那須高原の自宅へと戻った。
以前、浩平がロトのスクショを渡したおかげで、二人が12億円を山分けし、愛衣は大学を辞めて両親と海外旅行中であること。帰国は一ヶ月後の予定だということ――すべて浩平の仕込み通りだった。
浩平は歩美に電話をかけた。
実は「長範の金塊」の在処が判明したこと、そしてそれを小笠原家の持ち物として送り届けたいから手を貸してほしい、と伝える。
歩美は現在、東京の大学に通っていた。
両親には3億円を渡し、那須高原の新居と老後資金に充ててもらうよう説明したという。将来についての詳しい話までは聞いていないが、上手く説得できたらしい。今は一人暮らしをしているとのことだった。
「もう少ししたら夏休みで時間が取れる」
彼女の言葉を受け、決行は三人揃ってからにすることに決まった。
浩平の両親と祖父母は、すでに浩平が建てた那須高原の家で老後を過ごしている。浩平が何か大きな事業をしているとは聞いていたが、実際の仕事内容までは把握していない様子だった。浩平自身は「株式投資だ」と説明している。実際、株でも相当稼いでいるのは確かだった。
愛衣が旅行から帰ってきたのは、それから一ヶ月半後のことだった。
連絡を受けた浩平は、東京にある歩美のマンションへ車を走らせた。そこにはすでに愛衣も到着していた。元々ふたりは近所に住んでいたため、行き来は容易だったようだ。
那須高原にある浩平の作業施設へ向かう道中、浩平はふたりに祐介のこと、「長範の金塊」の隠し場所、そして運び出しの手順について説明した。
施設には、事前に準備した折りたたみ式のキャリーワゴン、スクーター3台、シャベル、食料やドリンク類などが万全に揃えられていた。
施設の扉から台座を経て、地震で壊れて傾いたドアを開け、十和田湖の敷地内へと荷物を運び出す。外はうだるような暑さだった。以前、浩平がひとりで金塊を探しに来た時よりも遥かに気温が上がっている。
「いったい何度あるんだろう?」
愛衣が持参した安物のデジタル温度計に目を落とす。表示された気温は42℃。地球温暖化――いや、地球沸騰化が進んでいることを実感させた。今日も周りに人の気配はない。
スクーターに荷物を積み、3人は金塊が眠る場所を目指して走り出した。およそ10分で目的地に到着する。小笠原正綱と祐介のふたりが、かつてこの横穴に金塊を隠したのだろう。
砂をかぶったふたつの木箱は、5キロのみかん箱ほどの大きさで一見するとそれほど大きく感じられなかったが、持ち上げようとすると流石に重い。三人がかりでロープを巻き付け、なんとか引きずり出した。
浩平のスクーターの後ろにキャリーワゴンを括り付け、傾いたドアまで戻る。そこからコンクリートの段差を二段上がり、中へと運び入れた。
金塊を小笠原家に返すという話を愛衣にした際、何か反論されるかと思っていたが、彼女はあっけなく承諾した。宝探しを楽しみにしていた割にあっさりしていたのは、手元の懐具合が相当温かいからだろう。それに、あとで株の手ほどきをする約束もしているからかもしれない、と浩平は思い至った。
以前、祐介を葬った際に免許証などの遺品を確認していたため、彼の実家の住所は把握していた。まだそこに家族が住んでいることも確認済みだ。浩平は二人を車に乗せ、その足で東京へと向かった。
その夜、三人は祐介の実家に連絡を入れ、「祐介に頼まれたものがある」と告げて荷物を届けた。
両親から「祐介は今どうしているのか」と尋ねられたが、本当のこと――彼がすでに亡くなっているとは言えず、「あっちのほうで元気に旅をしています」と嘘をつくしかなかった。
上手く誤魔化せたのか浩平自身は不安だったが、愛衣と歩美は「ちゃんと伝わっていたよ」となだめてくれた。両親からは浩平たちの連絡先も聞かれたが、「自分たちもこれからあちら(向こう)で暮らすので」と断りを入れた。
去り際、浩平は最後に一言だけ付け加えることにした。
それはこの先に訪れる――ほんの少し先の未来についての話だった。しかし流石は小笠原家、すでに祐介から話を聞いて知っていたようだ。
3.新たな魔法
転移台座のすぐ脇にブロック塀をこしらえ、扉が移動する範囲の床にはおしゃれな踏み石を敷き詰めた。その下にはトイレから汚水を流す配管を通し、壁から最も離れた北緯31度付近まで埋設。そこを掘り進めて肥溜めを作った。
このビーチはエジプト側ではなく日本側にあるため、人が立ち入ることもないという利点を突いた策だった。壁は1行程終えるごとに、自然と浄化されていた。
金塊を祐介の実家に届けたあと、浩平はふたりに「過去へ戻ってどの銘柄の株を買い、今の時代で売却・引き出せばいいのか」をレクチャーした。
その後、浩平は施設の中でキャンプ場の建設を楽しんでいた。
その頃、愛衣はすっかり巷で有名な株のエキスパートとして名を馳せていた。世間での通り名は「目利きの愛衣」らしい。愛衣だけに、相場への「愛」なのか、あるいは「Eye(目)」ということなのだろうか。
一方、歩美の性格は「目立たずひっそり、着実に」がモットーらしく、平穏な学生生活を満喫していた。
湖畔のキャンプ場の完成が近づいている。
歩美の卒業を待って開業し、それに伴うルール作りを始める予定だ。
その報告を兼ねて祐介の墓参りをするため、Kサークルの並んだ六つの墓廟の前に立った。
洞窟の近くに埋葬した先駆者以外の墓は、ここに並んでいる。
ドワーフと三人の侍、正綱、そして祐介。
一応ドワーフにも手を合わせ、最後に祐介へ、金塊を家族に届けたこととキャンプ場開業のことを報告した。
そういえば祐介が言っていた、手を合わせる仕草から両手に念を込め、ゆっくりと存在を確認しながら広げる……という言葉を思い出し、試してみる。
すると、両手の間に何かがあるような、目には見えないものの絹のような柔らかい膨らみが、手触りとして伝わってきた。
まさか!
右手をその中央に入れてみると、手が薄っすらと透明になるように見えた。
これか?
中をまさぐってみると、コンビニのレジ袋くらいのスペースを感じたが、中には何も入っていない。
何かしまってみるか?
ポケットの中にあったミントチューインガムの残りを、ケースごと入れてみる。よく見ると、薄っすらと透けて見えた。
左手をほどくように下へ下ろした瞬間、それは消えた。
再び念を込めて両手を合わせ、徐々に開くと、薄っすらとまたそれが現れた。
マジか! これ使えるな。祐介に感謝だ、教えてくれてありがとう。
二度目の祈りを捧げた。
テレビ番組のなんちゃらビフォーアフターでおなじみのナレーションを思い浮かべながら、心の中でつぶやく。
「なんということでしょう。できちゃいました!」
ちょっとした小物を放置するより、絶対に失くしたくない貴重品を保管するのに最高かもしれない。
そんな考えが浮かんだのも束の間、浩平の思考は「もし本人が死んだらどうなるのだろう」という点にまで及んでいた。
これを使えるはずだった正綱は、なぜ着物の袖に入れたまま放置していたのだろうか?
……まあ、本人が死んでみなければ分からないことを今考えても仕方がないか、と雑念を振り払う。
それよりも、二人を驚かせる格好のマジックになりそうだ。浩平の心の中に、いたずら心がふつふつと芽生え始めていた。
「袋の中か……物質より!」
決めた。浩平は施設へと戻った。
浩平はさっそく二人へ連絡を入れた。
「施設の運営について少し話がしたいんだが、そろそろこっちに来られないか?」
愛衣は歩美のマンションへ勝手に転がり込んでいたようだった。卒業式も終え、まさに今、引っ越しの準備に取り掛かっているところだった。
連絡から数日後、三人は施設の事務室に集まっていた。
議題は、従業員の確保とキャンプ場の運営方法についてだ。
従業員があまりにも大人数だと施設への出入り管理が煩雑になるが、少なすぎても管理が行き届かなくなる恐れがある。
話し合いを重ねた結果、まずは以下の3人を採用することに決まった。
1人目は、大学時代に愛衣と歩美のふたりと仲が良く、まだ就職が決まっていなかった友人の一ノ瀬 澪(いちのせ みお・22歳)。
そして、愛衣の従兄(父の兄の息子)である櫻井 千秋(さくら いちあき・26歳)と、その幼馴染である浅野 拓郎(あさの たくろう・26歳)だ。
千秋と拓郎のふたりは大工をしていたらしく、体格が良い。これからの施設運営において、ふたりの力は不可欠になると確信していた。
なお、施設の出入りには「台座の鍵」が必須となる。そのため、誰かふたりが常にビーチ側と入口側に常駐しなければならず、毎日の営業は難しいのが現状だった。
だからこそ、この場所には「特別感」が必要だった。
――『沈まぬ太陽』というキャッチコピーと、他には絶対にあり得ない差別化された空間。それこそが、このキャンプ場の最大の売りだ。
営業日は土日祝日のみとし、プランも「日帰り」「長期間の宿泊」「土日を利用した一泊二日」の三択に絞ることにした。
「多分、大型の建物の中に作った豪華なキャンプ場なのだろう、と勘違いしてもらえれば良いのだが」
浩平はそう話す。
以前、浩平はビーチからカヌーを出し、沖がどこまで続いているのかを調べていた。湖底は水深1メートルほどの遠浅で、1キロほど先まで続いていた。
透明な壁はそこにも存在し、カヌーの先端がコツンと当たる。
浩平はその手前10メートルの場所に浮輪を並べて設置し、その先は進入禁止とした。
ビーチサイトには貸出用として10艇のカヌーを配置することにした。
さらに、愛衣と歩美が提案していたロッカールームや女性専用のパウダールームの設置にも着手する。
愛衣と歩美の二人も、手伝いやアイデア出しを兼ねつつ、ビーチでのんびりと過ごしていた。
この頃には、浩平のDIY技術もすっかりプロ並みの腕前に達している。
ただし、三人で共有している「魔法」や「台座の鍵」の存在は、あくまで特別な秘密として外部には伏せておく方針だった。
その約束を再確認するために集まった際、浩平は愛衣と歩美の前で両手を合わせ、まるで念を込めるようにゆっくりと手を開いて見せた。
つづく




