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異世界キャンプは迷宮だった  作者: 一雲一人


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第13章 エジプトや古代ローマの秘宝

1.北緯31度のファルス・ドア


浩平は今まで指先で感じ取ってきた感触だけを頼りに、目をつむり、ゆっくりと透明な壁をなぞっていた。


すると、指先に紛れもない金属の冷たさ——ドアノブの触感が伝わった。


北緯31度の地点にあるそのドアノブを強く押してみたが、やはり扉は微動だにしない。


半ば諦めかけながらも、今度は手前に引いてみた。


すると、拍子抜けするほど滑らかに扉が開いたのだった。


開かれた扉の先に見えたのは、数段低くくなり供物が捧げられたその先は神殿の奥深くだった。


麻の白衣を纏った神官たちが整然と並び、まさに儀式を執り行っている最中だった。本来ならば開くはずのない壁の「偽扉(ファルス・ドア)」を手前に引き、顔をどころか全身で仁王立ちする浩平。


扉の向こうには、ヒエログリフが刻まれた巨大な石柱が聳え立ち、乳香や生薬の甘く重厚な香りが立ち込めている。ルクソールやカルナックを思わせる、壮大な古代神殿の光景だった。


奈良の桜が舞う回廊で響き渡ったような、あの金切り声の悲鳴を上げる者は誰一人としていなかった。


神官たちは言葉を失い、恐怖と驚愕に打たれたように、その場でただただ平伏していたのだった。


浩平は予期せぬ危うさを察し、彼らを刺激しないよう「やんわり」と扉を閉めた。


慌てて台座へ駆け寄ると、鍵を差し込んで元の場所へと引き返す。


ベースキャンプ近くの砂浜では、歩美と愛衣が波打ち際に足を浸しながら待ちくたびれていた。


「遅い遅い! 何をしてたんですか!」


三人はKサークルのベースキャンプへと戻り、浩平が目撃した北緯31度の扉の光景について話し始めた。

浩平がスマホの世界地図と照らし合わせ、「おそらくあそこはエジプトだ」と推測を口にすると、二人は自分の耳を疑った。


「エジプト!? なら、すぐに行きましょうよ!」

「そうですよ浩平さん、エジプトですよ、エジプト!」


「なんでそんなに行きたいんだよ?」


「だってあそこは、昔から宇宙人がやってきたって説があるじゃないですか! この異世界との繋がりだって、絶対にありありですよ!」


興奮気味に語る二人の声に、パチパチと爆ぜる焚き火の音と夜風に揺れる葉音が重なり、静かな語らいへと変わっていく。


浩平は広げたスマホの世界地図に視線を落としながら、静かに言葉を続けた。


なにも、北緯31度(エジプト)の周期をじっと待つ必要はないのだ。


「「……以前、利尻富士でスコップを持ち帰った場所があったろ? あそこが北緯45度あたりだ。あの緯度をそのまま西へ辿ると……ルーマニアやウクライナ南部のクリミアあたりになる。その中間地点で見てみると……古代ギリシャやローマも範囲内だな!」


「凄いですね、浩平さん!」


「行っちゃいますか!」


盛り上がる二人を見て、浩平は思わず呆れ顔を浮かべる。


「おいおい。お前たち、最初はあんなに怪訝そうな顔をしてたくせに」


「いや、それはですね……ちょっと不安と言いますかぁ」


「まーまー、焦らないで。じっくり計画を立てて行きましょう」


「とりあえずはエジプトにしましょうか。あそこは1800年代頃から財宝の略奪が頻繁になりますからね。その前に少しばかり頂いてしまおう、ということです」愛衣は生き生きとして語る。


お侍さん達の持ち込んだ財宝より簡単に手に入れやすそうですし。


でもエジプトの財宝って言えば文化財保護法が制定されたのは1980年辺りで法規制があって盗難品として返還しなければならない事になってるから、売却は無理じゃなかったか?


ただし金は溶かして金塊にしてしまえば分からないことだけは確かだけどね。


「じゃあ!金だけ探しに行きましょう!」愛衣はノリノリだ!


「19世紀の大航海時代や考古学ブームが始まる前のエジプトなら、手付かずの秘宝がゴロゴロ眠っているはずだ。それに……西暦0年付近なら、地下の主要な回廊はすでに完成しているのに、地上の混乱で人影は一切ないはずだからな」


浩平がスマホの地図の上に置いた指先をトントンと叩くと、二人は身を乗り出して頷いた。


「地上を掘り返すなんて重労働は要らない。僕らが狙うのは、地下空間へそのまま入れる隠されたルートだ。ライトさえあれば、歩いてそのまま宝物庫まで行ける」


浩平はそう言いながら、透明なドアノブをカチャカチャと数回開閉してみせる。これさえ使えば、時空を超えてどこかの部屋へとダイレクトに繋がる。


「掘らなくていいのは助かります! あのスコップの二の舞はゴメンですからね」


確かに二人には穴掘りを何度と無くさせたのは忍びない。


「それに浩平さん、あの神殿じゃ神様として祈られてたんですから。度胸も実績も段違いですよ! 怖いものナシです」


「煽るなよ」と苦笑しつつも、浩平の目には確かな自信が宿っていた。


数日後。彼らは万全の準備を整え、時空の歪みを超えて西暦0年のエジプトへと足を踏み入れた。


——そこは、静寂が支配する完全なる無人の世界だった。


ひんやりとした空気が漂う地下回廊。地上からの光は届かないが、浩平たちが手にした高輝度LEDライトの光線が、暗闇を真っ直ぐに引き裂く。

足元は驚くほど平坦で、障害物すらほとんどない。


「本当に……誰もいないですね」


「ああ。時代が切り替わる狭間の、奇跡みたいな空白地帯だ。行くぞ」


空にしたバックパックを背負い、浩平の合図で、彼らは石の扉や立て掛けられた棺(ひつぎ)の蓋を次々と押し開けていく。古代エジプト——ピラミッドの地下空間へと足を踏み入れた。


ギギギ……と重々しい音を立てて開いた部屋の奥には、ライトの光を受けて、黄金の棺や見たこともない眩い宝石、精緻な装飾品が薄っすらと埃を被って眠っていた。


「うわ……本物だ……!」


「声が大きいよ。さあ、手分けして金だけを運び出すぞ。俺たちの『未来の生活拠点』を作るための資金だ」


彼らは西暦1年から10年までの間、誰も訪れない地下回廊をまるで自分たちの庭のように歩き回り、着々と金をその手中に収めていった。


ベースキャンプへ戻ると、三人はすぐさま火を起こした。革袋を「ふいご」のように使って風を送り込み、熾火の温度を極限まで引き上げて金を溶かしていく。


そうして金を探している最中、思いがけない掘り出し物があった。——3つ目の足印台座の鍵である。


なぜこのような場所に鍵が紛れ込んでいたのかは謎のままだった。しかし浩平は、「あながち愛衣の言う宇宙人や、それに匹敵する異世界人が実在し、ピラミッドすら築いて通路(ポータル)として繋げたのかもしれない」と考え始めていた。


何はともあれ、これで鍵は三人の手に一つずつ行き渡ったことになる。


これからは三人それぞれが、たとえ一人になったとしても、自由に通路を出入りできるようになったのだ。








2.古代の財宝と未来の家電


そして——物語は2025年の東京へと一気に飛び火する。


以前2025年でエジプトの金を買取業者に売却して現金にした。


金の価値はもっと未来の方が上がるのは知ってはいたが身分証明が必要な為に残念だったがその年代で売ることにした。


「よし、今月分の換金はこれくらいにしておくか」

現金で500万円。


潤沢すぎる資金を得た三人が向かったのは、2035年の大型ホームセンターとプロ仕様のアウトドアショップ、そして最新家電が並ぶ量販店だ。


「浩平さん! インバーター付きの大型ポータブル電源、予定通り5台確保しました!」


「こっちのソーラーパネル、最新型で発電効率が段違いですよ。折りたたみ式だから持ち運びもラクです!」


食料や作業服を一度で運べるだけ買い込む。さらに、耐候性に優れた大型ドームテント、省エネ仕様の大型冷蔵庫、そして電動スクーターまでもを買い揃えた。


扉さえ通過できれば、搬入には何の問題もない。


この頃になると技術も進化しており、電動スクーターは一度の充電で200キロメートルを超える距離を走行できるようになっていた。


三人はこれらの物資をすべて、あの透明な壁(タイムトラベル)の扉を通して異世界へと運び込んでいったのだった。


数日後。古代のひんやりとした暗闇の中に、現代のテクノロジーが突如として現れる。


ソーラーパネルから作られた電力で、明るいLEDランタンや懐中電灯が地下回廊を照らし出す。大型ドームテントの中では、冷えた缶飲料が詰まった冷蔵庫が静かにモーター音を立てていた。


あれ以来、ソーラーパネルと交換用の発電機は湖畔の足印台座の脇に立て掛ける事になる。


木材を切り出し、手斧で括弧してパネルを太陽の方向で固定する。


ここは夜が来ない!最高の発電ポイント、冷蔵庫への電力も台座の脇で完結した。人跨ぎするだけでKサークルのベースキャンプは都合がよかった。


食料が取れないのが難点だったが!

ここに来て贅沢は言えない。


水面の先がどこまで続いているのかは不明だが、両サイドに広がるビーチの長さはおそらく1キロほどはあるだろう。


奥行きを見れば、足印台座から波打ち際まではおよそ300メートル。さらに台座から陸地側に向かって動く壁の可動範囲は、台座の手前1メートル付近から200メートルといった塩梅だ。


つまり、最大面積なら500メートル×1000メートル。壁が最接近した最小時でも250メートル×1000メートル——実に250,000平方メートル(東京ドーム5個分以上)もの広さがある計算になる。


(結構でかい、俺のプライベートビーチだな。ここを有料のキャンプ場にしたら最高だろうな……)


浩平はそんな商魂たくましい妄想を、心の中でこっそり膨らませていた。


金貨や銀貨——ドラクマ硬貨やデナリウス銀貨を手に入れるため、三人は現代の固形石鹸を箱買いして持ち込むことにした。ターゲットに選んだのは、街の路地裏にある少し小ぢんまりとした商店だ。


この時代の貨幣が、現代においてどれほど絶大な価値を持つか浩平たちはよく知っていた。同時に、アテネやローマの職人が手掛ける指輪や首飾り、青銅製の小像や繊細なガラス製品の芸術的価値が極めて高いことも折り込み済みだった。


一番の懸念だった言葉の壁はどうしようもなかったが、話せないものは仕方がないと割り切ることにした。事前に多少のラテン語やギリシャ語を勉強してはみたものの、やはり一朝一夕で習得できるほど甘くはなかったからだ。


しかし、いざ店に入り、三人で実物を見せて身振り手振りで交渉してみると、驚くほどなんとかなってしまった。


当時の人々にとって、芳醇な香りを放ち綺麗に汚れを落とす現代の固形石鹸は、まさに「神の油脂」そのものだった。商人は目を丸くし、惜しげもなく大量の銀貨や精巧な装飾品を差し出してきたのだった。

数回にわたる交渉を経て、そこは彼らにとって馴染みの店となり、店主もまた商売をするうえで最高の友人となっていた。


思えば、たった一人この異世界で始まったサバイバルだったが、今となっては夢のような世界に身を投じ、衣食住に何一つ不自由なく過ごせる喜びに浸っていた。


「そろそろ、お侍さんの持ち込んだ『長範の金塊』を探しませんか? トレジャーハンターしましょう!」


愛衣が元気よく叫ぶ。


たしかに、最近は生活にも随分と余裕が出てきていた。


ギリシャの店との取引でも、移動時間を数秒単位でコントロールしながら交渉を重ねていた。前回より扉を開ける時間を1秒ずつ遅らせていけば、未来へ進むにつれて移動できる距離(利便性)も増すため、町外れに家を用意することもできたのだった。


快適ではあったが、それでもたまに盗賊の類いと出くわし、争いに巻き込まれることくらいはあった。


そんな折には、盗賊たちへ「神の鉄槌」をもって罰を与えなければならなかった。


違和感を覚えたときは、浩平を中心に愛衣と歩美が左右の手を握り合う。そうすることで三人の身体には常に電磁波をまとって、飛んできた矢すらも肌に触れる前に燃えて灰になってしまうのだった。


さらには火魔法と水魔法の使い手としても、この界隈では有名になりすぎてしまい、次第に街へ入りづらくなりつつあった。


しかし、あの足印台座を経由するようになってからというもの、三人は全く歳を取らなくなっていて老いるという概念すら薄れつつあり、あれから一体何年の時を過ごしたのかさえ、すでに忘れかけている始末だった。


ある日、歩美と愛衣が硬い表情でやってきた。


「浩平さん……真面目な相談があるんです」


浩平は普段の二人とは違う雰囲気を察し、真剣な眼差しで向き直った。


「どうしたんだ?」


「実は……そろそろ元の世界へ帰ろうかと思いまして」


「家にか」


「はい……」


「そうか。実は俺も、そのことについては考えていたんだ」


浩平は二人を見つめながら切り出した。


「少し未来へ行って買い物を繰り返しただろ? あの時にふと思ったんだ。この首輪をしているおかげで、現実社会に戻っても時間が経っていない(歳を取っていない)ことは分かっている。だから、スマホで宝くじの過去の当選番号をスクショしておいたんだよ」


浩平の言葉に、愛衣が驚いたように目を丸くし、恥ずかしそうに白状した。


「実は……私も全く同じことをしていました。歩美ちゃんにも相談していて……」


「そうだったのか。それで、二人はどうするつもりだったんだ?」


愛衣は強く頷いて言った。


「ここに来た時代に戻るなら、いまや交通費なんていくらでもあります。何事もなかった顔をして同じ車を買い直し、家族の元へ戻って……たくさんお金を渡して、全部話そうかって!」


「ここの出来事をか!?」


浩平は思わず身を乗り出した。


「待て待て、それはまだ早すぎる!」


浩平には、温めていた一つの策があった。


「実は俺も別の計画を立てていてな。すべて準備が整ってから二人に話すつもりだったんだが……いい機会だ、今ここで話すよ。よく聞いてくれ」


「実はな、このビーチを活用したいんだ。五本しかないイミテーションみたいな椰子の木に、あのどこまでも透明な水面……」


浩平は広大な砂浜を見渡しながら語り出す。


「まず、向こうの世界で土地と建物を手に入れるのさ」


「土地と建物を……? それで、どうするんですか?」


歩美と愛衣が身を乗り出す。


「そこから、このビーチへ直接繋がる『ポータル』を作るんだ! 一度ラインさえ繋げてしまえば、首輪を持っている俺たちは向こうとここを自由に行き来できる」


浩平は身を乗り出して二人に言った。







3. 未来への夢


「ここを、極上の『異世界ビーチキャンプ場』としてオープンさせるのはどうだ? お客さんは首輪がないから、台座に乗っても他の危険なエリアへ迷い込む心配もない。この広さなら何十人、何百人だって余裕で収容できる。水も飲めることが判明したし、あとは快適なトイレさえ設置すれば完璧だ。……どうだ? もし二人にもっと良いアイデアややりたいことがあるなら、もちろん全面的に協力するが」


違うんです、ここは最高なんです。


ただ、首輪(時間の停止)のおかげで自分たちは歳を取っていないけれど、「元の世界では自分たちが突然行方不明になって、家族や両親が警察に捜索願を出して泣いているかもしれない」という罪悪感が限界に達していたんです。


浩平の壮大な提案を聞き、歩美と愛衣は顔を見合わせると、パッと表情を明るくさせた。


「浩平さん、それ最高です! 私、大賛成です!」

愛衣が身を乗り出して目を輝かせる。


「でもやるなら、ただのキャンプ場じゃなくて『超豪華な異世界リゾート』にしましょうよ! 私たちの魔法を使えば、温水シャワーや本格的な石窯ピザだって焼けますし、あの透明な海に映える『異世界ドリンク』なんかもメニューに出したいです!」


続いて歩美も、ふふっと微笑みながら口を開いた。


「私も賛成です、浩平さん。私は……お客様向けの『ビーチウェア』や帽子のデザインを担当したいですね。向こうの世界で生地を仕入れて、ここでしか着られない特別なリゾートウェアを仕立てるんです。あ、でも……女性目線で言うと、清潔な更衣室と鍵付きロッカー、それからパウダールームの設置は絶対条件ですよ?」


「お前たち……仕事が早いな!」


二人の頼もしくもユニークな提案に、浩平は思わず圧倒されつつも、嬉しそうに頷いた。


「だったら決まりだな! まずは宝くじにするか。スクショの準備は完璧か?」


「足りないなら、一度未来へ行って……」と言いかけた浩平を、愛衣が元気よく遮る。


「大丈夫です! これだけあれば、数十億は堅いんですから!!」


「アハハハ、それもそうだな」


「なら、車を買い替える代金は……と」


浩平がテントの中へ潜り込んでゴソゴソと探し物をし、やがて戻ってきた。

その手にはしっかりと札束が握られている。


「これで、俺も車を買い直して家まで帰るよ。お前たちも、当座の資金はこれで足りるか?」


「バッチリですよ!」


「じゃあ——ここで、一度解散だな」


浩平は二人の顔を見渡し、少し引き締まった声で言った。


「「まあ、これから先の宝くじだから、当選するまでは少し時間もかかることだろう。せいぜい親に甘えて、のんびり幸せに暮らせよ。それと、二人はあのロードサイドにある大型商業施設のバックヤード(搬入口)に出ることになるだろうから、何気ない雰囲気を出すのを忘れるなよ。

多分、1年後くらいに二人には電話するから、拒否するなよ」


「1年後なんですか?」


「あぁ!俺にとってはな。こっちで8分、距離にして数キロから十数キロだが、俺は2022年に戻る。だから、お前達が帰るのは2023年の秋だろう。だから2024年の元日にでも『ハッピーニューイヤー』と電話するか?

あっちに着いたら直ぐ俺に連絡しても構わないけどな! その頃には、俺は既に大金持ちになってると思うよ!

それと間違っても、交通事故とかには十分気をつけること。あと……安心して調子に乗って、いきなり普段のノリで魔法を使うのは厳禁だぞー」


「とりあえず、あの施設のバックヤードまで新車を買いに付き合っても良いし、十和田湖の駐車場まで車を取りに行ってもいいぞ!」


「あ! そっかー、その方が良いのかもな。車の鍵を貸してくれ、持って来てやるよ」


二人は何を言われているのか分からないまま、浩平に車の鍵を渡した。


「時間だ、じゃーな!」


ドアから二人を見送った。


8分後、浩平は深夜の隧道(トンネル)を歩いていた。


外へ出た。「……どこだ、ここは?」


出たのは羽州街道、旧道沿いにある古い神社の境内だった。


少し歩くと、国道13号線に出た。


JR東日本の奥羽本線の線路を、車両が走っていく。


シルバーボディに赤と緑の帯、E721系の電車たった。


だとしたら、ここは近くの……。


「街のタクシーでも呼ぶか!」


スマホのナビで現在地を確認した。


「お客さん、まさかずっと歩いてきたんですか?」


「いやいや、少しこの先に用事があってね。タクシーを待たせるのも悪いから、一度返したんですよ」


浩平が信濃町へキャンプに向かう二日前に戻っていた。


「さて、どうしたものか。とりあえず、会社には退職届を書いて……」


会社には最低一ヶ月は通わなきゃな。


後宝くじだな。


スクショで未来の番号を撮ったロトの画面をだした。


翌日、ホテルから宝くじ売り場へ向かう。


浩平は肩掛けバックの中の札束から一万円札を1枚取り出す。


お願いします。


当然の様に当たる!翌日、関東の銀行へ居た。



高額当選で初めてなんですが、浩平は周囲の目を気にしながら、一般窓口の行員に当選くじを差し出す。


行員が裏で機械に通すと、画面に「高額当選」「本店照会」などの表示が出る。行員の顔つきが一瞬で変わり、声のトーンを下げて「……少々お待ちいただけますか」と奥へ消える。


奥の応接室へと行員に誘導され案内係や副支店長クラスの人物がすぐに現れた。


やり取りを終えて、その後十日ほどで五億が転がり込んだ。


浩平は両親に仕事を辞める旨を打ち明ける。


実は、五億円当たったんだよ!


だから少し旅に出るつもりなんだ。


とおさんと母さんには一億づつ、置いて行くから老後に使って欲しい。


着々と準備を進める、当然ロトはコレだけでは終わらなかった。


2023年、十和田湖キャンプ場の駐車場。浩平は「おそらくあれだろう」と思われる車の前でキーのボタンを押した。


車幅灯が2回点滅する。


「ヤッパリな!」


乗り込んだ浩平は、愛染と歩美が出てくるドアの側に一日早く到着していた。そこに歩美の車を停めてシボレーコルベットに取り替えると、那須高原へと走らせた。


二人が大型ショッピング施設のバックヤードから出ると歩美の車が停まっていた。


スマホにメールが届く。


鍵は運転席の下!と書いてあった。


(3ヶ月後・2024年元日)

「ねえ愛衣、本当にこれであってるのかな……?」


歩美は机の上にずらりと並べたジャンボ宝くじの山を見つめた。


「大丈夫だって! 浩平が言ってた通り、売り場のおばちゃんに頼み込んで下1桁と下2桁の数字を指定して買いあさったんだから! これで200枚か全て当たるはず……!」


しかし、番号を照合してみても、当たっているのは末尾の300円や3,000円ばかり。沢山買ったのに、合計しても高額当選には程遠い結果だった。


「……全然ダメじゃん!!」


「ちょっと、約束の1年後だし、浩平に電話してみようよ!」


プルルル……と数回のコール音のあと、浩平が電話に出た。





つづく

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